もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】 作:沙希斗
前回の話で抗体ポーションを飲んで治しておりますし、個人的にどういう反応をするのか知りたくて書いてみただけなので、いわば番外編のようなものです。
話の内容はまったく同じでエーテル病の症状と彼の反応だけが違います。
冒頭から宿屋に泊まったあたりまではまったく文が同じなので、それまでは読み飛ばして下さっても結構です。
ネフィアに潜る事が多くなったある日、【脱出の巻物】で外へ出て来た源蔵は、やたらと風が強くなっているのを知った。
ちなみにこの世界の文字が読めるようになった彼は、ネフィア内で偶然見付けて読んだ際、その効果が便利だという事を学習して以来、【脱出の巻物】【帰還の巻物】という魔法の呪文が書かれてある巻物は利用する事にしていた。
「エーテルの風だ……」
恐ろし気な様子で現れた【ノルン】の説明を聞きながら、とにかく近くの街に避難しようと急ぐ。
あまりにも強い風なためなのか、背中を押されていつもよりも早く歩が進むのは面白いなと思った。
この風が吹くと魔物たちも狂暴になるのか、暗黙の了解のように街道付近には殆ど現れなかった「彼ら」が積極的に襲って来るようになった。
しかも『ユニーク』と呼ばれている、同じ種類だが通常よりも強い個体が多くなっている気がする。
それらをケモノであれば片っ端から愛撫し、そうでなければ無視するかあまりにしつこければプロレス技で気絶させながら進む。
幸いにと言うのか街からそれ程離れていないネフィアだったのもあったからなのか、自身には何の異常も感じずにポートカプールに着く事が出来た。
急いで帰ったせいか眠くなった彼は、宿屋でシェルターに入る事をすすめられたのを無視し、安物ベッドに体ごと投げ出すと、そのまま寝た。
ノルンに「屋内に非難しろ」と言われていたのもあって、室内ならば安全だろうと思ったのだ。
目が覚めた源蔵は、いつものように腹の上で寝ていたよしゆきに「おはよぉ♪」と挨拶してから「彼」を抱きながらベッドから下りた。
するとカツカツという硬い音が床からした。
せっかく『アインク』に貰ったのだからと【ダル=イ=サリオン】を履いていた彼だったのだが、この靴は【軽やかな靴】と称される程軽い革靴なので、そんな硬い音はしない。
不思議に思った源蔵は「んん?」と言いながら視線を落とし――!?
「ぎょええぇ~~!!!」
「どど、どうしたんですか!?」
素っ頓狂な悲鳴を聞き付けた支配人が慌てて駆け付けて来たので、「こ、ここ、これ……」と震える指で自分の足を指差す。
が、彼は驚きもせずに源蔵に向き直り、言った。
「あぁ、エーテル病で足が蹄に変化したんですね」
「どど、どうすりゃ良いんすかこれぇ!」
「そう慌てなさんな。エーテル病はすぐ死ぬような病気ではありません。ただし少しずつ進行して最後には死に至る病気ではありますがね。ですがそんなふうに姿が変わる事もありますので、それが嫌ならエーテル抗体のポーションを飲む事ですな。それが唯一の方法です」
いつもある事だというような感じで笑って去って行った支配人の背中を見送った源蔵は、少し落ち着きを取り戻して改めて自分の足を見た。
どう見ても蹄になっている。
そのせいで今まで履いていた【ダル=イ=サリオン】が履けなくなってしまった。
それどころか、恐らくこの症状を治さない限りはこの先ずっと履物を身に着けられないのではないかと思われた。
「……。ぐひ、ぐひひ……」
だが彼は、自分の足を上げてみたり足の裏を見たりと色々観察しながらほくそ笑み始めた。
「あはぁ、あははぁ……!」
それから徐々に嬉しくてたまらないといったような笑い方に変わっていく。
「やったあぁ! 俺もケモノになれたぁっ!!」
その場でジャンプし、スキップし、カツカツという蹄の響きを楽しむ源蔵。
自身の変容に流石に最初は驚愕し、困惑して思わず取り乱してしまった彼だったのだが、自分にケモノ要素が加わった事を、ことのほか喜んだ。
履けなくなった【ダル=イ=サリオン】をバックパックに仕舞いつつ、一応こんな時のために買うのをやめてくれたんだなと、エーテル抗体ポーションを手元に残してくれたあの時の店員に感謝しはしたが、このまま自身に苦痛などが現れなければポーションは飲まないでおこうと思った。
そのまま宿屋を出ようとすると、彼のウキウキした様子に呆れつつ、支配人はこう注意した。
「エーテル病は風が吹いた時だけじゃなく、病気を促すモンスターの攻撃、【エーテル】という素材で出来た武具、それと、少しずつ蓄積していくエーテル物質によっても発症しますので、いつ何時発症してもおかしくないように抗体ポーションは常に持って置いた方が良いですよ」
「分かった。心に留めておくよ」
今回はたまたまケモノ要素が加わる形に変容した事が嬉しくて治すのをやめたものの、恐らくこの先再びエーテル病になった時に苦痛が伴ったり違う姿に変わってしまったりという事が起きるのだろうと思った源蔵は、抗体を手に入れたらもし金に困っていても売らないで置こうと硬く心に誓ったのであった。
源蔵さんの話としてはこっちの方を本編に組み込むべきでしたね。
最初の話を思い付いて投稿した後でこの話を思い付いてしまったので、番外編の形になってしまいました。
ちなみにヴァリアント(ゲーム派生)の一つである「ElonaPlus」には「獣の耳が生える」というエーテル病があるのですが、この話の世界はあくまでも「原作のElona」が舞台ですのでヴァリアントの設定は採用しておりません。
(実際にプレイしているものも「Elona1.22」です)
原作にこの症状があったら大歓喜してたでしょうけどね(笑)