もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】 作:沙希斗
【パルミア】から東へ東へと街道を進んで行くと、街道からは少し外れるが雪原地帯が広がっている場所がある。
そこを避けるように海岸地帯を回り込んで、島へと橋が繋がっているその島が、今回の目的【ルミエスト】の街になっていた。
そこは「芸術の街」と称されていた。
というのも島ならではなのか船で行き来する人が多く、その利点を生かしてか水の都のように水路が多く設けられているため、水に映えるような美しい街並みが他の街とは違った印象を受けるためである。
その島独特の風景も相まって芸術の感性が刺激されるのか、画家、吟遊詩人などの芸術家が多く集う。
そして感性が鋭いと魔法を操る技術も長けるのか、魔術士の素質を持つ者も集まるというのでここには【魔術士ギルド】があった。
さてそんな華やかな街を散策しつつ店を覗く。
釣り具屋や魚を扱っている店が多いのは、やはり島ならではと言えるのかもしれない。
ギルドの関係か魔法店の規模が他より大きい。
だが、源蔵は魔法なんぞには興味がないので、立派な建物を見上げつつも素通りしようとした。
と、その通りをまるで夢遊病者のように、虚ろな目でふらふらと彷徨うように歩いている男がいた。
ぼろいローブを纏っている事からして、恐らく魔術士ではあるのだろう。
彼が誰ともなしにこう言っているのが源蔵にも聞こえた。
「身体はまだ動くよ、油の切れた機械のように。だが心は……。私は、生きている価値があるのかな?」
少し気になって聞き耳を立てていると、こんな風に言い始めた。
「才能のある者の努力とない者の努力は、果たして同じなのだろうか? 私の妹は、このルミエストの都で絵描きを目指していた。彼女は美しいものを愛したが、画家としての才能には恵まれてなかった。自分の限界に気付いた彼女は精神を病み、周りの者に当たり散らかした。罵られ、蔑まれ、誰からも理解されないまま、冬のある日、湖に身を投げて死んでしまった」
誰かに聞いてもらおうというのでもなく、ただ独り語りに彼の言葉は続く。
「私は知っていたよ……身体を壊すほどに、妹が絵の勉強に励んでいたこと。常人離れした情熱と、名声への憧れ。だが、妹が死んで間も無く、一人の天才がこの都にやって来て、何の努力もなしに彼女が望んでいた全てを手に入れてしまった。名声、幸福、富……」
彼は気だるげな溜息を吐いて、続けた。
「恵まれたもの、恵まれないもの、全ては運命の偶然に過ぎない……何がいいたいかよくわからない? そうだな、私自身、この感情をうまく説明できないんだ。ただ、私には人生の意味が分からなくなった……ただそれだけだ」
そうして、最後にこう言った。
「……レイチェルという童話作家が描いた絵本を、妹は愛読していた。もうすでに遺品は処理してしまったが、一度読んでみたいものだ。今ならば、あいつの気持ちを、少しはわかってやれそうな気がするよ」
疲れたような溜息をついた彼は、「意味なんてものはないさ」とか「もう死んでもいいかな?」などと陰気なセリフを吐きながら、再びふらふらと彷徨い歩き始めた。
一応念のためにその辺の店に入り、「レイチェルっていう人が書いた絵本は売ってるか?」と聞いてみる。
が、「その絵本は随分昔に流行ったもので今は絶版になっており、扱っている店は無い」との事。
ただし、魔物が人間への興味か本や魔法書などを持ち歩いている事があり、ネフィアで見付けた冒険者がいるという噂があるのだとか。
そういやネフィアに巻物や本の類いが落ちているのをよく見掛けたなと思い出した源蔵は、「確か赤い表紙の本でしたよ」と言われて、ならば赤い本を見付けたら注意してみようと思った。
彼の愁傷を慮って滅多に見付からない「レイチェルの絵本(全四巻)」を苦労して集めて持って来ても、更に鬱が加速するのでこのサブクエストはクリア出来ても良い気分にはなれません。
ですが報酬はかなり良い物ですので、気分が沈んでいない時に受ける事をおすすめします。