もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】 作:沙希斗
バルザックに貰った報酬は、レシマスに潜るにはバックパックに入れるにも荷車に積むにも重い上に邪魔だった。
なので一旦【わが家】に帰って置いてから、必要最小限のものだけ吟味してレシマスへ。
エリステアに地下三層まで潜った報告をしていたのでそこからの調査再開となる。
その付近の階層で出て来るものはケモノならばネズミ、ウサギ、鶏、リスなどの彼がここに来る前の世界でも見慣れた動物が多かった。
(大きさは段違いだったが)
後は彼が「あぶくちゃん」と呼んでいるプチの仲間、勝手に王として崇められたイークの仲間、巨大毒蜘蛛や「フローティングアイ」と呼ばれている浮かんでいる目玉など。
様々なモンスターがいたにはいたが、浮いていたり羽が生えていたりという違いはあってもそれ程元いた世界とは変わらないように思える。
これは今までのネフィアでも変わらなかったので、こんなもんだと思いながら潜って行く。
十層あたりから【ヴェルニース】で溶かされた事でトラウマになっているスライムが出て来るようになったので、通路を塞ぐなど余程進行に支障の無いもの以外は無視しながら進む。
この辺りから手強いモンスターが出はじm「うわぁ、グリズリーだぁ。おっきなもふもふが一杯いるぅ♪」
手強いモンスt「あはぁ、赤いハウンド犬がいるぅ♪ ……あちちち! いや熱くない。このブレスはお前たちの愛だねぇ♪」
てg「でっかい蜂! 赤いからレッドワスプってやつだねぇ。……おぉこっちにはでっかいコブラがいるぅ♪」
…………。
――と、ケモノ要素のあるもの(人型以外)を見付けては大はしゃぎしていた。
もちろん人型のもの(「洗礼者」と呼ばれている魔法使いの類いや「ブレイド」と呼ばれている肩から手先までが刃になっている機械とか)も沢山出て来るのだが、そんなものは無視してケモノだけを愛撫しながら進む。
一応調査の面目で来ているのと、あまり長く潜り過ぎると食糧が尽きたりもするので、時々【パルミア】に帰ってエリステアに報告したり食糧を確保したりする必要はあった。
ネフィアと変わらないモンスターが出るのを利用して、戦士ギルドのノルマも達成させられるので、一石二鳥だなと彼は思った。
レシマスは戦士ギルドのある【ポートカプール】に行くにも割と近かったので、ノルマ対象のものを見付ける度に周辺を探し、指定された数をクリアしては【脱出の巻物】で入り口まで飛んで報告に行ったりした。
捜索対象の《カラム》が十六階層あたりにいたはずだとエリステアに言われていたのだが、やはり更に深い階層を調べているはずと言われた通り、この階層を隅から隅まで探してみてもそれらしき人物はいなかった。
なのでもう一層地下に下りてみる。
と、階段近くの遺跡の壁に背を持たせ、そのままずり落ちたような格好で座っている人物がいた。
源蔵は近付くにつれてハッとなった。
体中に傷があるのは言うに及ばず、足が食い千切られていたからである。
どうやら、這いずるようにしてここまでどうにか辿り着いたが階段を上る後一歩、という所で力尽きたらしい。
「……貴公は?」
駆け寄る足音に気が付いたのか顔を上げた人物は、話を聞いて「……そうか、エリステアが私を探すために……」と納得したように呟いた。
「カラムで間違いないな?」
「そうだ。……だが見ての通り私は傷を負い、もう動くことすらできぬ。しかし、貴公のおかげで、今まで生きながらえたことに意味を見出せるようだ」
嬉しそうに口の端を持ち上げた彼は、「貴公にお願いする。エリステアに、私の言葉を伝えてもらいたい」と言い、こう続けた。
「信じがたいことだが、レシマスの奥深くに眠る秘宝を守護しているのは、今は亡きザシム王の従弟ゼームだ。秘宝の、いやレシマスの魔に操られているのだろうか。もはや生身の人間ではあるまい。それだけではない。ザナンのサイモアが秘宝を狙っていることは知っておろう。しかし、その理由は?」
源蔵は「ゼーム」という名前を聞いて目を見開いた。
エリステアが嬉々として話していた中で聞いた名だと覚えていたからである。
ザシム王とゼームの兄弟の出来事は、パルミアの歴史と深い関係があるという事だった。
その後報告がてら何度か話していた中で、ゼームが封印されたのが五百年程前とか言ってたような気がするぞ。
そんな悠久の時を経て、まだ「生きている」と!?
そんな事を考えている間にも、カラムは話を続けていた。
「ゼームが持つ秘宝の名は《常闇の眼》。世界の真実を映すといわれている。レム・イドの終焉とシエラ・テールの始まりを説き、自身の説に莫大な支持を得ているサイモアが、今更秘宝を求めるのは何故だ? サイモアの後押しにより、エレアとの戦が始まろうとしている。異形の森がレム・イドの災厄《メシェーラ》であるというのは、果たして確かなのだろうか。そして、もしサイモアの説が偽りであるとすれば、かの者の本当の目的は? ……私には悪い予感がする」
サイモアというのはよく分からなかったが、「ザナンのサイモア」という事だったので、多分【ヴェルニース】に游説に来ていた白子の皇子の事なんだろうと思った。
カラムは話し終えると目を閉じ、疲れたような長い溜息を吐いて「私の役目はこれまでだ」と言った。
「この傷ではどうせ地上まで辿りつけまい。この報せを早く都に……」
そしてそう言いながら、短刀を首元に持って行った。
「待て! 俺が抱えて――」
「貴公に運命の神の加護のあらんことを!」
源蔵の制止は間に合わず、彼は自ら頸動脈を掻き切った。
途端に吹き上がる大量の血を慌てて押さえ付けようとしたが時すでに遅く、カラムはどたりと石の床に転がった。
「カラム……っ! ちきしょおぉ!!!」
完全に心臓が止まっているのを確認し、源蔵は歯軋りした。
間に合わなかった。
スランに続き、カラムまで死なせてしまった。
彼は【脱出の巻物】で出てスランの隣にカラムを埋めてやりながら、後悔の念に苛まれた。
もう少し、準備を早く済ませれば良かった。
ミノタウロス退治や下水道になど行かず、そんな頼みは断ってサッサとレシマスに潜れば良かった。
行った事が無かったからといって、近場の【ヨウィン】で済ませずに【ルミエスト】になど足を延ばすんじゃなかった。
ギルドのノルマをついでに達成出来るやなどと気軽に考えて、いちいち【ポートカプール】に報告に行っている場合じゃ無かった。
カラムが屈指の冒険者だという事だったから、どうせ連絡してないだけで大した事になってはいないんだろうと安易に考えるべきじゃ無かった。
しかし、いくら後悔しようがカラムはもう戻っては来ないので、スランにした時と同じように瞑目してその場を去った。
スランの時よりも、更に後ろ髪を引かれる思いだった。
うーん、「Elona」のシナリオがこうなっているとはいえ、「スラン」の時以上に「真面目な話」になってしまったなぁ。
あ、「カラムの足が食い千切られていた」というのは私のオリジナルです。
実際は傷だらけにはなっていますしもう長くない程の傷を負っているという表現はありますが、足が千切れているかというのは分かりません。
「彼が屈指の冒険者である(単独でレシマス深層に潜れる程強い)→Elonaは死んでも生き返る世界である→余程の事が無いと自殺する程にはならないだろう」と考えたらこうなりました。
ついでに言うと自殺の仕方もオリジナルです。シナリオには「自ら命を絶った」としか書かれてません。
「秘宝を守護する者の正体を見た」という事は最深部にまで到達したという事であり、尚且つ秘宝の名前や謂れを語っている事からその秘宝を「見た」可能性もある訳ですよ。
ですが恐らく彼では太刀打ち出来ずに命からがら逃げて、十七階層までどうにかこうにか辿り着いた所で力尽きたんだと思うんです。それにそれまでのモンスターとも遣り合っているはずですので、かなりの傷を負っていたと思うんです。
なのでプレイヤー(この場合源蔵さん)が間に合わなかったというのは仕方が無いのかもしれません。
てか、シナリオそっちのけでElonaの世界を満喫している冒険者の方々(多分大部分がそうだと思われる)には永遠に放っとかれるので、ゼーム共々更に可哀想な事になっている、という方が現実では多いような気がします。
そもそもレシマスを無視している冒険者の多くは「スラン」さえも救わないですからね。もっと可哀想な事になってます(笑)