もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】 作:沙希斗
【パルミア】に帰ると、王都は悲しみに沈んでいた。
全体がそんな雰囲気で覆われた中、いつにも増して検問が厳しくなっており、冒険者や他所から来る者だけでなく、商人たちをも長い間足止めされた。
しかし、理由を知ると誰も文句を言う者はいなくなった。
源蔵は王の目通りを許された者として顔を知られていたので、他の者よりは早く街門を通された。
誰もが嘆き、喪に服し、店を閉める者さえも出たりした。
ジャビ王が暗殺された――。
その事実は、少なからず彼の心も悲しませた。
エリステアに報告に行くと時折声を掛けて下さり、最後にはよくこう仰られてたっけ。
「うむうむ。精進せよ」
そのにこやかな顔を思い浮かべ、あの誰もが慕うような王様が……。と信じられないような気持ちだった。
「なんでも、異形の森の魔女がヴィンデールへの支援を断った王を、会談の席で邪悪な術を使って殺したらしいぞ!」
そんな噂が飛び交っている。
貼られている人相書きの顔と名前に覚えがあり、自分を介抱してくれたエレアの女じゃないのか? とも思ったが、まさかとその考えを打ち消した。
「ゲンゾー、あなたの帰還を待っていました」
図書室に行くとそう言って迎えてくれたエリステアの顔は、むくんでいた。
恐らく何日も泣き腫らし、寝てもいないのだろう。
それでも気丈に報告を聞こうとして「カラムは無事に……」と言い掛け、源蔵の顔を見て察したのか、「私達の救助は遅すぎたのですね……」と更に沈んだ顔になった。
「……カラムの言葉、確かに受け取りました」
遺言を伝えるとそう言い、こう続けた。
「《常闇の眼》という古宝の伝承は、私も本で読んだことがあります。それは、イルヴァの大地の上に築かれた全ての歴史の真相を網羅していると伝えられています。もしカラムが危惧していたように、ザナンのサイモアが自らの説の誤りを葬らんとするためレシマスの秘宝を狙っているとしたら、私達はそれを阻止しなければなりません」
黙って聞いていると、溢れる涙を堪えるようにこう言った。
「……王の悲報はもう耳にしているでしょう。都の土は涙で濡れていようとも、今の私達に喪に服している時間はありません。カラムと、そして王の意思を継ぐためにも」
その様子は、逆に痛々しいと彼は思った。
「あなたの次の任務は、三つの魔石の入手です」
彼女は、まだ話を続けている。
「魔石には、レシマスの秘密を解く何らかの力が秘められていると伝えられています。魔石の所在は判明していますが、どこも危険な場所ばかり。まずは、各地を探索し、経験を積んでから臨んだほうがいいでしょう」
そして「探索に必要な情報がある時は、いつでも私に話しかけてくださいね」といつものように言った上で「帰還したばかりなのに酷ですが、あなたに期待しています」と結んだ。
御悔やみを伝えようとスターシャ王妃に話を通してもらい、謁見の間で申し上げると、彼女は「王の悲報にパルミアは衝撃を受けています」と言いながら自分が座っている物よりも大きな隣の玉座を見詰め、こう呟いた。
「あの方のいない王座は、なんと冷たく感じられることでしょう……」
さめざめと泣く様子は、見るに耐えない程悲愴な雰囲気だった。
この話には出て来ませんので誤解をされないように書いておくと、ゲームシナリオによく絡んで来る重要人物の一人であるエレアの女(ラーネイレ)が、「異形の森の魔女」としてサイモアの陰謀でジャビ王を暗殺した、という濡れ衣を着せられております。