もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】 作:沙希斗
魔石のありかをエリステアに尋ねた源蔵は、まず《愚者の魔石》があるという【死者の洞窟】を目指す事にした。
【レシマス】から【パルミア】に通う度に街道から見えており、いつも気になっていたから、というのが理由の一つなのだが……。
「死者の洞窟は、最も危険な場所です。多くの名のある冒険者が命を落とし、不死者となりこの洞窟の中をさ迷っています」
「……。名前から想像は出来るけどぉ、不死者ならケモノはいなさそうだなぁ」
実は彼が真っ先に行こうと思った理由はこういう事でもあった。
つまり、自身のやる気が起きなくなる事を最初に済ませたかったのだ。
「魔石はこの洞窟を支配する《闇の奇形イスシズル》が身に着けているはずです。死霊術使い達に崇められ、その名は大陸中で畏怖されていますが、《イスシズル》の姿や力は、全くの謎に包まれています……」
姿が謎、というのには、ちょっとだけワクワクした。
「危険度はレシマスの25階相当です。万全に準備を整えていく必要があるでしょう」
「に、25階相当……!」
これには思わずつばを飲み込んだ。
今レシマスで到達している階層は17なので、それより深くはどんなモンスターが出るかをまだ経験していなかったからである。
だが、ミノタウロスや塊の怪物が出て来るモンスターレベルなんだろうと見当を付け、それぐらいの気構えで行けばいいやと思った。
洞窟と呼ばれていたが、入り口の外観は崩れかけた神殿のように見える。
入るとやはりゾンビやらマミーやらが出迎えてくれ、さながら「彼ら」が崇めるイスシズルを祀る信者のように思えた。
その中には街で見かけた冒険者もいたりしたので自分も不死者の一員になるのかもと思うと恐怖がまったく無い訳では無かったが、それよりも人型ばかりでテンションがガタ落ちになっている彼は適当にあしらいながら進んだ。
あまりにしつこいとプロレス技で投げ飛ばしたが、どちらにしても死んでいるので意識が無いため、気絶しない。
何事も無く起き上がって向かって来るのだが、動きが緩慢なので邪魔なのを投げ飛ばしては通路を確保した。
行き止まりになっているのに下りる階段が無かったりして戸惑ったが、壁の向こうで呻き声がするなど気配を感じるのを利用して壁を壊し、地下へ地下へと下りて行く。
と、六層でいきなり視界が開けた場所があった。
今までの、いかにもダンジョンらしい入り組んだ通路や地形ではなく、だだっ広い空間が広がっている。
大部屋、と言うにも広過ぎる程のその場所で、「彼」は手下と共に待ち構えていた。
(彼と言っても男女の区別は付かなかったが)
見様によっては、神もしくは天使に見えなくも無かった。
というのも、背中に六枚の翼が生えていたからである。
だが体には何本もの触手が蠢き、翼よりもまずそちらに目がいくので「悍ましい」と思う方が先だと感じる。
しかも生贄を捧げるためなのか近くに祭壇があり、見付けた源蔵はその用途を想像してゾッとなった。
どうやら魔法使いタイプらしく、手には宝石を埋め込んだ大振りな杖を持っている。
魔法を使われたらまずい。
そう思った源蔵は、手下共と闘う素振りをしながら「彼」の視界になるべく入らないように近付いた。
隙を見つつ捕まえようとしたが、ショートテレポートで逃げられた。
直後に魔法が飛んで来る。直線状に飛んで来た、恐らく〈魔法の矢〉と思われるものを躱し、今度は詠唱中の隙を狙ってドロップキック。
相手は壁に激突した勢いで杖を手放した。
杖を奪うとそれで観念したのか大人しくなった。
「愚者の魔石を出してもらおうか」
そう言うと抵抗する素振りを見せたが、「でないとこうだっ!」とジャーマン・スープレックスで落とす。
「わ、分かった。もう抵抗しない……」
涙目で魔石を差し出したので、「分かれば良しっ」と受け取り、「彼」にとっては命の次に大事なのであろう杖を返してやった。
源蔵さんは今の所街道からあまり離れて移動していなく、ネフィア探索でもその近辺のものしか行っていないのでまずここに目が行くだろうという事もあって、一番難易度が高いはずの「死者の洞窟」が最初になりました。
冒険者が知らずに入って文字通り地獄を見るこの洞窟ですが、源蔵さんなのでレベルがガン無視になってます。
「イスシズル」の魔法はかなり強力なので本来ならば近付く前に魔法で瞬殺させられるくらい超強いんですが、反面体力自体は低いらしくて魔法さえ使わせなければ割と倒すのは楽です。
「彼」の持つアーティーファクト★狂気の杖は、まさに「彼」のためにあるかのような魔法使いに相応しいエンチャントが付いています。