もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】   作:沙希斗

30 / 50
火耐性の無い冒険者及びレベルの合わない者は文字通り焼け死ぬか消し炭にされるかしかないこの場所ですが、彼にとっては天国だったようです。


賢者の魔石×灼熱の塔

 

 

 

「パルミアを出て北の未開の地を越えていくと、真紅に燃え盛る灼熱の塔が見えます。この塔の守護者、《赤き義眼のクルイツゥア》と呼ばれる魔女が、《賢者の魔石》を所持しているはずです」

 

 エリステアにそう言われて、源蔵は「北の未開の地……」と言いながら地図を広げた。

 確かに【パルミア】から見るとやや西寄りの北、そこから先は山脈と雪原が広がっている辺りに【灼熱の塔】と書かれた塔がある。

 だが随分遠いなと思った。

 

「《クルイツゥア》の強力な魔法だけでなく、彼女の僕であり夫である《鋼鉄竜コルゴン》の力も恐るべきものです」

「鋼鉄竜という事は、それはドラゴンなのか?」

「そうです。名前の通り鋼鉄のような硬い甲殻を持ち、力も生命力も大変高いと言われています。ブレスを吐くかどうかは分かりませんが、近接戦では恐らく消耗戦になるでしょうね」

「そうかぁ、ドラゴンなのかぁ♪」

「話聞いてます?」

 

 エリステアはもう慣れてはいたが、彼のにやけ顔を見て呆れた。

 

「言うまでもないですが、この塔を探索するには、何らかの手段で火への耐性を得る必要があるでしょう。もし体力を失っていくようであれば、耐性を高めてから挑戦したほうが無難です。危険度はレシマスの15階相当です」

 

 構わずに話を続けた彼女の、15階相当という部分だけは耳に入った源蔵であった。

 

 

 

「やっと着いた……」

 

 未開の地という言葉通り、森を抜け、時折そこに棲息する魔物などに遭遇しながら何日もかけて、源蔵は【灼熱の塔】と思われる場所に辿り着いた。

 途中で道に迷ったのか、【神々の休戦地】と呼ばれているこの世界の神全てを祀った神殿に来た事もあった。

 そこはとても神聖な雰囲気を持つ静かな場所で、「ツインテール」と呼ばれている2つの尾を持つ銀色の狼のような動物がいた。

 「彼ら」は人語を解し、どうやらその場所を護っているようだった。

 それぞれの神を祀っている祭壇が並べられ、真ん中には4つの泉があった。

 訪れた冒険者や民間人が、それぞれが信仰している神に祈りを捧げている。

 ここは人里から遠く離れた場所であるにもかかわらず、頻繁に出入りしている。

 話を聞くと、新たに信仰する神を選ぶ儀式もここで行うとの事。【神々の休戦地】という名前も彼らに教えてもらった。 

 だが源蔵は信仰などには興味がないので心行くまでツインテールたちを撫で回し、思う存分堪能してから「また来るねぇ」と名残惜しそうにその場を去った。

 

 さて塔の中に入ってみると、雪原に近い凍えるような場所に有るにもかかわらず、塔の名に相応しい灼熱の熱さが待っていた。

 どうやら至る所から炎が噴き出しているようで、なるほど火耐性が無い者はたちどころに焼け死ぬだろうなと思った。

 出て来るモンスターは火に関するものばかり。

 すなわち「ファイヤードレイク」「ファイヤーハウンド」「火蟹」「火炎樹」「火炎ムカデ」などである。やはり火を操ったり熱い所を好む「彼ら」にとっても居心地が良いのだろう。

 当然赤い毛や体色のものが多いのだが、中には自分が赤ならば何でも良いのだろうと勘違いをしたらしい「ベスプチ」なども交じっていたりして、それが物凄く可愛いと彼は思った。

 【死者の洞窟】と違ってここにはケモノが沢山いたので、そこで無くしたテンションを大いに盛り返して愛撫しまくった。

 この暑さが無ければここにずっといてもいいとすら思った。

 ここでも行き止まりになったのに下りる階段が見付からなかったりしたため、壁を壊して進む。

 

 そうして地下4層へ向かう階段を下りた途端、視界が一気に広がった。

 やはりここにも【死者の洞窟】と同じように、だだっ広い大広間があったようである。

 ただしここでは入り組んだ通路から大広間に向かうという形ではなく、下りた所がもうその場所になっていた。

 

 そこにいたのは「メイス」という武器を構えた女。恐らく彼女が《クルイツゥア》なのだろう。

 その棘付きの先端には既に血が滲んでいる。

 髪を振り乱し、鬼の形相で見下ろしていたのは先に来ていたであろう冒険者。

 彼らは無残に叩き潰され、頭の形を留めていない者さえいた。

 見ただけで、もう全員生きていないだろうと思った。

 

「お前も魔石を取りに来たのかあぁ!!!」

 

 彼女は源蔵を見付けるや否や、そう叫んでメイスを掲げ、殴りかかって来た。

 躱して擦れ違い様に抱え、投げる。

 が、壁にぶつかるかと思いきや消えた。

 少し離れた背後に現れた彼女は、短い詠唱と共に魔法の矢を放って来た。

 魔法戦士タイプかと見極め、辛うじて避けて近付く。

 捕まえようとする度にショートテレポートで逃げるので、現れた所に落ちていた石くずを投げ、怯んだ所をドロップキック。

 今度こそ吹っ飛んで壁に激突した。

 

「おのれぇ……!」

 

 起き上がれずに悔し気に睨む彼女に「もう観念しろ」と近付くと、こう叫んだ。

 

「出でよ我が夫、我が下僕、コルゴン!」 

 

 直後に重々しい咆哮と地響きがし、暗灰色のドラゴンが出て来た。

 

「うっわぁ、ホントにドラゴンだぁ♪」

 

 源蔵は目を輝かせた。

 

「さあぐちゃぐちゃに引き千切って食べておしまい!」

 

 クルイツゥアの命令の元、「彼」はのしのしと近付いて来る。

 開けている巨大な(あぎと)の中は暗い体色とは正反対の、燃え盛る火のよう。

 しかしブレスが来るかと思いきや、腕を振りかざして直接叩き潰そうとした。

 

「すっげぇ! かっけえぇっ!!」

 

 普通ならばもう助からないと絶望に陥るようなその状況で、しかし源蔵は興奮の言葉を漏らした。

 そうして振り下ろされる腕を躱しつつ、なんと体の上によじ登った。

 

「うわあぁ、硬い。おっきいぃ♪」

 

 そう言いながら跨った背中ではしゃいでいる。

 戸惑った「彼」は振り落とそうと暴れたが、彼はますます大はしゃぎしている。

 

「おいクルイツゥア! お前の旦那は素晴らしいな♪」

 

 呆気に取られているクルイツゥアは、そう言われて「そ、そぉ?」と返事した。

 

「そうともっ♪ この大きさ、姿、色合い。そしてこの乗り心地。なぁこのまま連れて帰っても良いか?」

 

 これには「だめぇっ!」と叫んだ。

 分かっていた源蔵ではあったが、「そうだよなぁ」と残念そうに言った。

 

 

「なぁ時々遊びに来ても良い?」

 

 堪能した源蔵は、彼女にそう持ち掛けた。

 「彼」は彼がツボを弁えて撫で回してくれたのがかなり気に入ったらしく、すっかり大人しくなって彼に擦り寄っている。

 そんな提案に彼女は面食らった。

 今まで恐れられはしたが、こんなに親しみを込めた態度をされた事は一度も無かったからである。

 

 この様子を見るに、恐らく夫が目的だというのは見え見えなのだが……。

 

 そう考えた彼女だが、了承した。

 この分では断れば、意地でも連れて帰ると言い張るか了承するまで帰りそうにないと思ったからである。

 

「マジで!? ありがとおぉっ!」

 

 大喜びする彼に、「友情の証だ」と《賢者の魔石》を渡す。

 これも、そうしないと帰らないと思ったからなのだが、それを見たコルゴンが真似をして、指輪を差し出した。

 それはミスリルで出来た《鋼鉄竜の指輪》というもので、重量挙げ、魔法耐性、電撃耐性、麻痺無効、恐怖無効の効果が付き、腐ったものが食べられるという効能があった。

 ただし、それを身に着けると極端に速度が落ちる、という難点があった。

 

「ありがとおぉ♪」

 

 夫に抱き付いてお互いにすりすりする様子を見ながら、クルイツゥアは自分以外には決して心を許さなかった「彼」がここまで懐くのは、少し嫉妬するが悪い気はしないなと思った。

 

 

 

 

 




源蔵さんにとっては、これで初めて街道から大きく離れた場所に行く事になったため、迷ってその手前にある「パルミア」からはほぼ真北にあたる「神々の休戦地」にも行ってしまったようです。
「信仰」を行う者はここでそれぞれの神を選ぶ儀式をするのですが、源蔵さんは「神」よりも断然「ツインテール」の方に興味があったようです。

「灼熱の塔」の主「クルイツゥア」は「死者の洞窟」の主「イスシズル」と同じような魔法を使って来ます。
ですが完全な魔術士タイプである「イスシズル」と違い、魔法力はそれほど強くないようです。
(あくまでもイスシズルと比べて、の話ですが)
ゲーム進行に必要な「賢者の魔石」を持っているのは彼女の方で、その夫の「コルゴン」はいわばおまけみたいなものでわざわざ倒す必要はないのですが、「彼」の持つ指輪が欲しいのならば手に掛ける必要があるでしょう。

クルイツゥアの持つ武器★ブラッドムーンは、鑑定前には「血の滲むメイス」と呼ばれていますのでこんな風に書きました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。