もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】 作:沙希斗
各魔石を手に入れる前にレシマスで到達していた階層は17層だったので、そこからの調査再開となった。
その辺りの階層では魔石を取りに行った所にいたものが出て来たので、逆に新鮮味が無いと思った程だった。
どちらにしてもケモノが多いのは彼にとってはとても嬉しい事なので、人型は無視して愛撫しながら階段を探してどんどん進む。
気に入ったケモノがいればそれだけ留まる時間が長くなったが、急ぐ必要も無かったので食糧との兼ね合いを考えながら深層を目指す。
それは確か、22階層辺りだったと思う。
広い部屋になっていた場所の奥に、ある女性の姿があった。
彼即ち源蔵は、一目見るや魅かれた。
「彼女」は彼から見て、非常に魅力的に見えた。
まず一番先に目に付いたのは髪だった。
その艶やかな一本一本がそれぞれに蠢き、艶めかしく肩にかかったり首に纏わりついたりしていた。
まだ顔は一部しか見えていなかったが、近付くにつれて横顔になったりしたそれには、鮮血をそのままルージュにして引いたような小振りな唇と、ツンと立った鼻があった。
そして長いまつげのある愁いを帯びたような、もしくは常に媚びているかのような、そそる目をしていた。
大きく開いた首元と背中、ノースリーブから出ている腕には鱗が生え、それを隠そうともせずにゆっくりと歩いている。
「もし、そこのお嬢さん」
源蔵は惚けた顔を慌てて引き締め、なるべくキリッとした表情になるようにして声を掛けた。
「彼女」の名は知っていたが、いきなり名前で呼ぶのは失礼だと思った。
髪の毛がまず反応して一斉に鎌首をもたげ、「彼女」はキッと睨みながら振り向いた。
「失礼、驚かせてしまったかな?」
わざとキザったらしい物言いをしている彼を余所に、「彼女」は意外そうに言った。
「あら珍しい、石にならないなんて私が恐ろしくないの?」
「恐ろしいものか、貴女はとても魅力的だ。特にこの髪の毛。一本ごとに蠢き、チロチロと舌を出している。こんな蛇の髪をしている者は貴女しかいないのだろう? メデューサ」
そう、「彼女」はギリシャ神話に登場する《ゴルゴン三姉妹》の三女、メデューサだったのだ。
そして源蔵にそう言われた「彼女」即ちメデューサは、悲し気な溜息を付いた。
「そうね。髪を自慢さえしなければ……。アテナ様よりも綺麗だなんて言わなければ、こんな髪にはならなかったわ」
「俺には、そこらの女よりもずっとずっと魅力的な髪に見えるぜ」
「ありがとう。お世辞だとしても嬉しいわ」
「触っても、良いかな?」
「噛まれて死んでもいいのならね」
「こんな魅力的な髪に噛まれて死ぬなら本望だ……!」
源蔵は、そこでもう我慢がならなくなった。
「わはぁ、くねくね絡み付いて来るぅ♪ ねぇ顔埋めてもていーい? おぉ蛇の群れに顔
「こら顔を押し付けるな気持ち悪い」
「だってぇこんな感覚滅多に……って引き剥がさないでくれよぉ」
「もぉいいでしょっ、本気で石にされたい?」
「いや俺はならないと思うよ。だって怖くないしぃ」
「ホントに変な人ねぇ……」
呆れている「彼女」に、源蔵はこう言った。
「ねぇ今暇? 付き合ってくんない?」
「ダメダメ、こう見えて私忙しいの。また今度ね」
「つれないなぁ……。んじゃさ、アリーナでプロレスやる時に見に来てくれよ。知らせるからさ」
「人間のやる事なんか興味ないわ」
「良いじゃん、一度だけでも、な?」
「しつこいっ! 石にならないのなら咬ませるわよ!?」
「彼女」の怒りに呼応するかのように逆立ち、うねうねと動き始めた蛇髪を見て、流石にたじろいだ源蔵であった。
「彼女」がこの姿にされた話は諸説あり、この話のように「自身の美貌、特に髪の毛がアテナより綺麗だと自慢したがためにアテナの怒りを買った」という説の他に、「ポセイドンに迫られて夜の営みをしたのがアテナ神殿だったがために、アテナの怒りを買った」という説もあるそうです。
いずれにしても「アテナが怒って化け物に変えた」という事になってます。
「見た者を石に変える」という有名な能力については始めは「見た者があまりにも恐ろしくて石のように硬直する」というだけ(実際に石になる訳では無い)だったのが、「本当に石に変えてしまう」という能力に変わっていったらしいです。