もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】 作:沙希斗
気に入ったケモノがいると長期滞在しつつも、地下へ地下へと源蔵は進んで行った。
その頃になるとドラゴンの類いが増えて来て、お馴染みの火炎ブレスだけでなく電気ブレスや氷ブレス、はたまた地獄ブレスなどと色々と楽しませてくれた。
もちろん彼にとっては恐ろしいモンスターどころかやたら大きなトカゲのようなものだったため、ブレスを避けつつ背中によじ登っては大はしゃぎしていた。
いつかペットショップを開いたら全種類集めて看板ペットにしようかな、などと考えながら、相変わらず人型は無視してどんどん進む。
あまりにも階層が深くてどこまで潜れば良いんだと辟易しそうになった頃、地下44階層辺りのある部屋の一角に、いかにも「封印されてます」というような扉を見付けた。
これはもしかしたらいよいよか?
彼はそう思った。何故なら他とは明らかに外見が違う重厚な造りになっていたし、呪文が書き連ねてあったからである。
そこに三つの穴があり、どうやらここに魔石を嵌め込むようになっているらしい。
そこで適当に嵌めてみた彼だったが、扉が開く気配は無い。
やはり組み合わせや順番があるのだろうと試行錯誤したが、長い時間をかけてやってもそれでも動かない。
「クソッタレぇ!」
苛立ち紛れに蹴り付けたら、アッサリ崩れた。
たまたま組み合わせなどが合っていたのか、それともただ朽ちていて彼の筋力で破壊出来たのかは分からないが、深く考えない彼は「ラッキー♪」とそのまま階段を下りて行った。
そこは他の階層とは明らかに違い、神殿もしくは宝物庫のような雰囲気の部屋になっていた。
そしてその中央奥に、祭壇あるいは特別大事な物を置くようになっているのだろうと思わせるような造りの台座があった。
いかにも「秘宝を置いてます」というように分かりやすかったため、ゆっくりと近付く。
と、その近くに人影があった。
それは厳かな雰囲気すらただようその部屋には相応しくないような、ボロボロに朽ちた赤い布を頭から纏っていた。
源蔵が身構えると「ここまで辿り着くとはな……」と忌々し気に呟いた人物はゆっくりと振り返り、酷くしゃがれた声でこう言った。
「どうやら《混沌》は、自ら創りしネフィアの安定さえも望まぬらしい。しかし、私とてここで死ぬつもりなどないのだ」
フードから覗いた土気色の顔には呪文のような模様が入れ墨されてある。
辛うじてローブだと分かる物から出ているのは、痩せこけ、老いさらばえた枯れ木のような手足。それはとても生きている人物とは思えないような、血の気の無い肌の色をしていた。
恐らく「彼」が《ゼーム》なのだろう。
「待て爺さん、俺はあんたを殺す気は――」
「黙れ小童! 秘宝が欲しくば我が屍を越えてみよ!」
「彼」は叫ぶなり杖をかかげた。
口元が動いたと見るや宝石の付いたそれが光り、〈魔法の矢〉と思われる光が幾筋も飛んで来た。
名うての魔術師と謳われるだけあって、今までの魔法使いより数が多い。
慌てて躱したら「おのれ小癪なぁ!」と、今度は〈混沌の渦〉を発動。
思ったよりも範囲が広く、源蔵は混乱した。
だが闇雲に暴れた事でゼームに当たったらしく、「彼」は悲鳴と共に吹っ飛んだ。
「ぐ、このおぉ……!」
すぐに立ち上がれなかった様子の「彼」は、今度は召喚の魔法を唱えたらしい。様々な高レベルのモンスターを召喚して来た。
「おぉライオンちゃんだぁ♪ ハウンド系もいるぅ♪♪」
ケモノが多かったので大喜びして撫で回す源蔵。
たちまち大人しくなったり敵である相手に擦り寄ったりし始めたのに業を煮やしたゼームは、「この役立たず共めがぁ!」とその内の一頭を杖で殴り飛ばした。
「おいジジイ!」
それに怒ったのは源蔵である。
「てめぇ、よくもケモノをぉ……!」
「なんだ小童。使役しているこやつらを生かそうが殺そうが私の勝手――」
そう言い掛けたゼームは彼が背後に回った事で戦慄した。
だが身動ぎするより早く、「彼」は胴を抱えられて背後に落とされた。
轟音と共に大理石のように磨かれた床が陥没し、「彼」は後頭部を思い切りぶつけてそのまま動かなくなった。
「お前がここに辿り着くことは」
直後に台座から声が聞こえた気がして、源蔵はその辺りをきょろきょろと見回した。
「決まっていたことなのだ……遅かれ早かれな」
そうしてそんな声と共に部屋の空気が突然緊張し、目の前に端麗な青年が現れた。
何も無い空間からいきなり表れた「彼」に困惑していると、青年は「我々からすれば、複雑性の一面に過ぎないが、人間は運命とでも呼ぶのだろう?」と言った。
源蔵は懸命に脚の震えを抑えようとしたが、難しかった。
華奢に見える幼顔の男の影(纏っているオーラ)は、人のものではないと思った。
あどけない瞳の奥に、彼は底知れない力と闇を感じた。
「ネフィアの永遠の盟約に基づき」
そう言いながら青年は台座の横で尻を天にした情けない恰好で気絶しているゼームを指し、皮肉な微笑を送った。
「この哀れな老人が守っていたものは、今からお前のものだ」
そう言われた源蔵は、台座の上に置かれている絢爛な装飾の本を、いぶかしげに眺めた。
そんな様子に呆れたように、「彼」は言う。
「ああ、聡明なるレシマスの常闇の眼よ! 新しい主は、どうやらお前の本当の価値を知らないようだぞ」
そうしてこんな風に、本に語り掛けた。
「……だが、心配しなくてもいい。この源蔵は、そこで伸びている老人のように、たまに本を開いては下界の嘘に満ちた歴史を嘲笑い、自己満足にふける以外の使い方を、きっと見つけてくれるだろう」
青年は見下したような笑い声をあげ、源蔵に向き直った。
「さあ、これ以上愚かな詮索の表情を続けて私を落胆させないでくれ。お前が眺めている本には、真実の歴史を刻み、過去の文明の歩みを記録する魔力が秘められていると知ったのなら」
それを聞いて顔色を変えたのを見て、青年はこう続けた。
「そう。この本に書かれていることは、全て偽りなき歴史。シエラ・テールの、そして過去の偉大なる文明の栄光と衰退の軌跡が記されている。その価値を、わざわざ説明する必要もあるまい?」
そして「ひとつ警告しよう」と言い、こう続けた。
「台座から離れた時、それは魔力を失い、変哲の無い一冊の本と化すのだ。新たな歴史が刻まれることはなく、正当性を証明するすべもなくなるだろう」
少し間を置き、更に続ける。
「本を所有する者はまた、偽りの歴史を動かす勢力から、自らの命を守る必要にも迫られるだろう。このアーティファクトには、それだけの価値があるということだ。そしてお前には……エレアの風を聴く者と出会い、言葉を交じあわせたお前には……、それがどれほどの意味を持つことか、理解していなくてもだ……。そうだな、少なくとも我々を楽しませてくれるような使い方を期待しているよ」
青年は嘲笑うように口元を持ち上げ、こう結んだ。
「もちろん、本を下界に持ち出すかどうかはお前次第だ……。少なくとも、選択という行為に、私が予期できない偶然がある可能性を、お前が信じるのなら」
青年は悪戯っぽくニヤリと笑い、壁に寄りかかった。
どれくらい時間がたっただろう。氷の瞳の男は、いつの間にか姿を消していた。
源蔵は長い長い逡巡の後、不安を振り払い、ゆっくりと本に手を伸ばした……。
ゲームのメインシナリオ自体はこれで終わりですけど、話はもう少し続けるつもりです。
というか、シナリオをガン無視して他の事をやっている冒険者の方が多い(むしろ殆どがそうだと思われる)ので、逆にメインシナリオを追ったこの話の方が珍しかったかも。
「ゼームの顔に呪文が入れ墨されてある」というのはバリアントの一つ「ElonaPlus」のグラフィックから採用しています。
大元のグラフィックでは顔が見えないため、こちらの方がリアリティーがあるかと思いまして。
あ、「封印された扉に穴があって魔石を嵌め込むようになっている」というのは私のオリジナルです。
実際はただ魔石が無いと入れない扉があるだけで、そんな仕掛けはありません。
ちなみにゼームさんを倒すと出て来る青年(オルフェ)は、歴戦の冒険者に成長した(そうしないとゼームに瞬殺されるし、回復しながら闘う彼相手に長期戦及び消耗戦を強いられる)プレイヤーでさえビビっていた程のオーラを醸し出していたにもかかわらず、いざ闘おうとすると意外にもアッサリ死んで拍子抜けする事があります。
「彼」には戦意が一切無いのですが、★モーンブレイドという強力な剣を持っているので「オルフェを倒すまでがメインクエスト」とまで言われている程です(笑)