もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】 作:沙希斗
「ゲンゾー! お帰りなさい」
パルミアに帰還した源蔵は、エリステアに飛び切りの笑顔で迎えられた。
謁見の間に呼ばれて王妃からも盛大な祝福を受けたが、特別な称号を与えるだのこれからもパルミアの名の下に働けだのというようなものは辞退した。
彼にとっては成り行きで、巻き込まれたようなものだったからである。
《常闇の眼》については神がかったオーラを持つ謎の青年から聞いた話を基にエリステアと相談し、王妃にお伺いを立てた結果、充分に研究した後宝物庫の奥の隠し部屋に保管される事となった。
そこは使用を禁止された魔術についての魔法書や、悪影響を及ぼす魔道具、《*解呪*の巻物》を祝福して読んでも呪いが解けなかったような、強力な呪いがかかった呪物などが保管されているらしい。
『らしい』というのはエリステアさえその場所を知らず、ただ「そういう物を保管している隠し部屋がある」という事だけを聞かされていたに過ぎなかったからである。
もし知ったとしても入る仕掛けが分からないと罠に掛って死んでしまうとの事だったので、彼女及び源蔵も知らない方が良いと結論付けた。
「あなたがいない間、世界も変わったんですよぉ」
彼女はこう切り出して、源蔵がレシマスを攻略している間に起こった天変地異とも言える出来事を彼に聞かせた。
曰く「サイモア、つまりザナンが各大国と同盟を結び、エーテル病を引き起こす元凶であるエーテルの風を阻止するべく、その発生源である『異形の森』と呼ばれている【ヴィンデールの森】を、そこに住むエレアごと焼き払った」との事。
その際イェルスだけは参加を拒否したらしいが、どちらにせよ森の奥で人目を忍んで暮らしているエレアに武装手段は無く、一方的に追い詰められ、森から逃げ出した者でさえも手に掛けて蹂躙していったらしい。
命の恩人がエレアの女だっただけに、源蔵は心が痛んだ。
異形の森の民であるエレアを迫害さえしていたイルヴァの人々は口々にザナンの皇子を称えたが、やがて原因不明の病が流行し始めた。
更に作物は枯れ行き、各地で乾いた風が吹き荒れた。
そんな中、サイモアの側近『ヴァリウス』が、戦禍を生き延びたエレアの女を議会の証言台に立たせた。
そうして女は真実の話としてこう述べた。
「異形の森と呼ばれたヴィンデールの森がイルヴァの自然の均衡を保ち、メシェーラの力を抑えていました。その森が失われた今、世界は長い時をかけて人の住めない生態系に変わりつつあるのです」
メシェーラというのは言わば細菌のようなもので、これが原因でエーテル病が起こるらしい。
ヴィンデールの森はその抗体であるエーテルを発生させ、エーテルの風として各地に吹き荒れる事で逆にメシェーラを抑える役割を担っていたのだという。
エーテル病を治す唯一の薬であるエーテル抗体のポーションも、その森の木々から取れるエキスを基に作っていたらしいのだ。
「その証言に困惑したり悲観に暮れたり過ちを悔いたり、あるいは傍観者の態度を取ったりと、人々は様々な反応を見せました。暗い時代が訪れたと言っても過言ではないでしょう」
エリステアはそう言って顔を伏せたが、「ですが、希望はあります」と続けた。
「ヴァリウスはこう告げました。『皇子が研究のために造り出した、第二の異形の森が存在している』と」
当の本人はヴィンデール攻撃を先導した後行方知れずになっており、その生死も定かではないとの事。
ザナンは今ヴァリウスが主権を務めているらしいが、分裂し、もう国の役割を果たしていないとか。
その代わりというのか彼の主導で【ロスリア】という共同体が誕生し、森を育み、国家を超え、星への従事と平和を謳うという信念の下に活動しているそうな。
現に森へ巡行する者は病から解放されているらしい。
「まさに、理想郷って感じですよね」
「う~ん、そんなに上手く行くもんかねぇ」
任務を解かれた源蔵は、長年行ってなかったヴェルニースに帰ろうと思った。
もうこの世界での古郷のような感じだったので、近付くにつれて懐かしさを抑えられずに駈け出してしまい――。
「犯罪者め! 覚悟しろ」
街に入ろうとした途端、何故かガードに追い回された。
訳も分からずに逃げるも捕まり、牢獄に入れられる。
「俺は無実なんだよ!」
「出してくれ!」
他の犯罪者の叫び声を聞きつつそこまでカルマが下がるような事をしたんだろうかと考えあぐねる。
牢屋には、悪臭を放つトイレと簡素なベッドだけしか置かれてなかった。
そしてこれ見よがしに頑丈そうなロープが置かれてある。
まさかこれを使って脱獄しろとかいう訳じゃねぇだろうな?
そんな冗談を自分で嘲笑していると、向かい側の牢屋に入っていた犯罪者が、出られない自分を悲観したのか牢屋の出っ張りにそのロープを結び、首を吊って死んでしまった。
おいおい、これは自殺用のロープかよ!?
図らずも用途を知らされて愕然とする。
そんな中、見回りに来たガードの一人がこう言った。
「お前はもうパルミア王妃の管理下では無くなったからな。一般的な扱いを受けてもらう」
「犯罪になるような事をした覚えは無いんだが……」
「税金滞納だよ」
「税金?」
「そうだ。ここに住む者は皆、税金を納める決まりになっている。冒険者はレベル6まではその義務が無いが、6になった時点でその名声に応じた税金が課せられる。お前の場合、今までは王妃の意向で免除になっていたに過ぎん」
「という事は、俺のレベルは6以上だと?」
「それどころかとっくに超えて16になってるよ」
ガードは呆れた口調で言った。
そもそもレベルというのは名声やネフィア攻略の功績を鑑みてお役所連中が勝手に決めているに過ぎない。
だが冒険者の場合は一所に留まらないので一般市民のような税金取り立てが出来ないのと、ネフィア階層に応じたレベルを設けないと無駄に命を散らしてしまうため、こんなやり方で納めさせているのだろう。
「【わが家】に備え付けられてある給料箱に毎月の請求書が送られているはずだ。出たら見てみな」
罪を許されるまで滞在させられた源蔵は、出所後に《帰還の巻物》で帰って給料箱を覗き込み、溜まっていた請求書の量を見て絶句した。
とても一度に払えるような金額ではなかったからである。
「こりゃあ、当分の間ヴェルニースには帰れねぇな……」
なんだか今までの疲れが一気に押し寄せた気分になった源蔵であった。
初心者の頃野外で「頑丈なロープ」を見付け、知らずに使って自殺したのは良い思い出(笑)
シナリオではプレイヤーが最後まで携えている《常闇の眼》ですが、「持っている限り命を狙われ続ける」という仕様なので彼には負担が大き過ぎる(というか、性格上任務が解かれたら手放すだろう)と思ったのでこういう話にしました。
実は前回の話を「そのままにして置く」という展開で終わらせようとも思ったんですよ。
オルフェに「下界に持ち出さない選択肢もある」と言われているので。
ですが「サイモアの陰謀を阻止するために彼より先に持ち帰れ」という任務だったのでそのままには出来ないだろうと思い、結局シナリオ通りの展開になりました。
税金については本来ならレシマスに潜ってようが何をしていようが一切関係なくレベル6になり次第払わなければなりません。
ですが今までその話を出す機会が無かったのもあって、こんな今更のような形になってしまいました。
あ、源蔵さんのレベルが16だというのは私が実際にレシマス制覇した時点でのレベルです。
ただし遺産相続で強力な武具を使えたり、公式裏技とも言える超強い武器を序盤から手に入れる方法を使ったり、チートペットと言われている「ゴールドベル、シルバーベル」をペットにして無双したりしておりましたので、真面目に制覇したと言えないかもしれません。
(それでも呪い酒戦法は使いませんでしたが)