もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】 作:沙希斗
(といっても平均千字ちょいが四千字ちょいになっただけですが)
これで「金策×興行」の話は終わりになります。
『ブモオォ~~~!!!』
「よぉ、元気そうだな」
地割れが起きるかと思う程の咆哮が響き渡り、巨大な戦斧を振り上げて襲って来た大柄な朱色のミノタウロスに、源蔵は避けようともせずに声を掛けた。
『……モ?』
途中で気が付いたらしい相手は斬り付ける寸前でピタリと動きを止め、嬉しそうに笑いながらそれを下ろした。
「約束を果たして貰いに来たぜ!」
『ゥモ?』
「ほら前に来た時言ったろ、『タッグマッチしようぜ』ってな」
キョトンとしてから上を見てしばらく考えていた「彼」は、思い出したのかパッと顔を明るくした。
「今度な、【ポート・カプール】のアリーナでタッグマッチの試合をする事になったんだよ。……で、組む相手を探しに来たっつうわけ。どうだウンガガ、プロレスやってみねぇか?」
「彼」すなわちウンガガは、目を輝かせて頷いた。
恐らくプロレスというものがどういうものかは分かっていないのだろうが、源蔵と組むなら面白そうだと思ったのだろう。
『ブモ』
『モモ』
その様子を見て自分もやってみたいと思ったのか、周りの手下も前に出た。
ウンガガと比べると若干劣るものの、いずれも見事な筋肉の持ち主である。
というよりはミノタウロスという種族自体がガタイの良い体躯持ちばかりなので、どの個体を捕まえても戦闘に置いては負ける要素が見当たらないとまで思えてしまう。
「よぉーし、じゃあ俺が審査してやる。ただし闘いを見て俺がレスラー向きだと思った奴しか選ばないからそう思え」
それを聞いたウンガガは、前に源蔵とタイマン勝負をした時みたいに再び愛斧を振り回し、通路を壊して広場を作ってくれた。
「そうだなぁ、まずは適当に闘ってみろ」
そう言われて武器同士で闘うもの、タイマンでも殴り合いしかしないもの、魔術士などは相手に呪いをかけて弱らせようとするもの、はたまた飲み比べで勝負をしようとするもの、など色々出て来た。
「ダメだダメだ! ただ闘えば良いってもんじゃない。プロレス形式にのっとって、エンターテイメントにする必要があるんだ」
そう言ってプロレスの定義について熱く語り始める源蔵。
だがモンスターの一種であるミノタウロス達にそれが分かるはずもなく、ただ唖然として聞いている。
それに業を煮やした彼は、「もういい、今から俺の言うとおりにやってみろ」と教え始めた。
数週間後、疲れ果てた顔をした源蔵が、アリーナにやって来た。
ミノタウロスだけでは芸が無いと思った彼があてを訪ね、何種類かのケモノに誘いをかけたりプロレス技を教えたりしていたからである。
マネージャーを引き受けてくれた若者が色々と手回ししてくれ、試合用のリングもその手の技術者(家具屋など)に頼んで作ってもらっていた。
試合の日にちが決まってからは宣伝したり出店を頼んだりもしてくれていたため、アリーナの会場は大盛り上がりになっている。
「……。これ、バレないか?」
ガードも大勢来ているのを見て源蔵は呟いた。
「だいじょーぶ! 例えバレたとしても試合中に引き摺り出すような野暮はしないって」
「そんなもんかねぇ……」
「いやだってそんな事したらここまで集まってる観客に袋叩きだぜ。見てみろこのエキサイトぶり」
マネージャーが示す通り、もう乱入しそうな程の勢いになっている。
待ち切れずに「早くしろぉ!」「いつまで待たせんだコラァ!」などと叫んでいる者もおり、もうこれ以上待たせると収拾がつかなくなりそうだったため、まだ試合時間には少し早かったが始める事にした。
「さぁ始まりましたぁっ! 前代未聞の闘技大会ぃっ! その名も『タッグマッチ』っっっ!! なんでも二対二で闘う交代式のものなんだとかぁっ! 果たしてどんな闘いになるのでしょうっ!? ひっじょお~~~に楽しみですっ!!!」
そんなアナウンスがされ、会場には割れんばかりの歓声が沸き上がった。
「解説のルードルボさん、よろしくお願いします」
『ハイ』
どうやら解説はイークの首領、ルードルボが担当するようだ。
実はこれには訳がある。
源蔵が面白そうな事を始めるという噂を聞いて【イークの洞窟】に招き入れ、自分達にもやらせてくれと懇願したのだが、「お前らみたいな非力な奴らに屈強揃いのレスラーを任せられるか!」と言われたのだ。
なので何でも良いから役に立たせてくれと彼に付いて勉強し、その中で一番優秀だったルードルボが解説を行う事になったのである。
「さて最初の組み合わせはぁ、ゴブリンの戦士とロックスロアーでしょうかぁ?」
『ろっくすろあー、石ナゲル。デモ今回ソレシナイ』
「なるほどぉ、普段やる攻撃を封じた『彼』に、果たして肉弾戦が出来るのでしょうかぁ!?」
『石ナゲル筋肉アル』
「なるほどぉ、では筋力はあるという事ですねぇ!?」
ルードルボは源蔵との会話の中で、前よりは滑らかに人間語を喋れるようになって来ているようである。
「さて相手は……骸骨戦士とゾンビ! これは死者同士の組み合わせですね」
『ゲンゾウ、タブン死者ノ洞窟行ッタ』
「なるほどぉ、そこでスカウトして来た訳でしょうかぁ!?」
試合開始のゴングが鳴り、骸骨戦士とロックスロアーが残った。
最初はこの組み合わせで闘うらしい。
二匹は最初、牽制しながらお互いにじりじりと回っていた。
が、ロックスロアーの足に力がこもったと思った瞬間お互いに一気に体を押し出し、ぶつかり合った。
抱き合ったような形から仕掛けたのは骸骨戦士。突き放しつつ相手の脇に肩までを入れ、逆の手は股に刺し込んで肩で押し上げつつ持ち上げた。
慌てたような相手はひっくり返って背中から落とされた。
「なななんですかあの技は……」
『ぼでぃーすらむ。ぷろれす技ノ基本』
「そそ、そうなんですか……」
反撃しようと思ったらしいロックスロアーは立ち上がれず、結局セコンドがカウントに入って負けた。
タッグ制なのでゾンビ対ゴブリンの戦士も一応闘ったが、こちらは腐肉を触るのを嫌がったゴブリンの戦士が一方的に攻められ、殆ど勝負にならなかった。
そんな感じで組み合わせと抽選による勝負が決まって行く。
「お次はついにラストかぁっ!?」
『ハイ』
確認した実況者は、声を張り上げた。
「さぁ満を持しての登場ですっ! もう皆さん御分りですねぇ!?」
ボルテージが最高潮に達した時、源蔵はリングに上がった。
「ここ【ポート・カプール】でのアリーナ、ペットアリーナでお馴染みのぉっ! ケモナーマスクっっっ!! ここしばらく姿を見せなかった彼が、再び帰って来てくれましたっ!」
大歓声の中「組んだ相手はぁ……」と言い掛け、続いてリングに入ったものを見て彼は度肝を抜いた。
「……な、なななんとミノタウロスっ! それもその王であるウンガガですっっ!!」
応えるように雄叫びを上げた「彼」にパニックを起こす観客もいたが、「おお、落ち着いて下さいっ! 『彼』は襲いに来た訳ではありませんっ!」と(震える声ながらも)言われ、ケモナーマスクががっしりと握手して肩を抱き合ったのを見て落ち着きを取り戻した。
「対する相手は特別だそうなんですが……」
紹介しようとして、彼は今度こそ腰を抜かしそうになった。
重厚そうな足音と共にリングに上がったのは、なんと暗灰色のドラゴンだったからである。
「こ、こここれは【灼熱の塔】の主コルゴン!?」
「失礼ねっ、主は私よ!」
声だけ聞こえてよくよく見れば、その肩に女性が腰掛けていた。
どうやらクルイツゥアも来ていて、夫婦で組んで闘うつもりらしい。
咆哮を聞いてウンガガの時以上に観客の悲鳴が上がったが、ウンガガ同様襲いに来た訳では無い事がもう分かっているので少し経てばざわめきが治まった。
「……。これは、世紀の闘いになりそうですねルードルボさんっ!」
『ハイ。私モ先ガ見エマセン』
ゴングが鳴る。
「よっしゃあっ! 嫁の方は任せたぜウンガガ!」
『ブモォ!』
タッチしてリングの外へ出る源蔵。
クルイツゥアは「何で私が牛となのよっ!」と言いつつ残った。
体格の差は歴然、しかも武器も魔法も使えない状態である。
しかし「彼女」はそれを利用して目まぐるしく動き回り、追えない「彼」に技を仕掛けた。
走る勢いのまま回転し、腹を蹴る。
思わず前のめりになった相手に合わせ、思い切り振り上げた腕を背中に叩き付けた。
片膝を付いたのを見て一旦離れ、走り込みつつその膝を踏み台にして側頭部に腿を叩き付ける。
堪らずにひっくり返るウンガガ。
『そばっと、すれっじはんまー、しゃいにんぐうぃざーど』
「色々な技があるんですねぇ!」
だがウンガガは立ち上がった。
そしてすかさず股の間に頭を入れて腰を持って持ち上げた。
後ろ向きの肩車状態になった「彼女」の顔が恐怖で引き攣る。
直後、なす術も無くそのまま高速で落とされた。
高低差がある上に後頭部をぶつけたため、そのまま気絶。カウントダウンが始まっても動けなかった。
『ぱわーぼむ』
「なんとも豪快な技ですね!」
泡を吹いて運ばれている「彼女」を見て、源蔵はやり過ぎだろと思った。
怒りを覚えたのか吠えながら入って来たコルゴンに、ウンガガは場外に投げ捨てられた。
そのまま場外乱闘にもつれ込みそうになったのを止め、ウンガガとタッチ。
コルゴンをリングに戻しつつ、ロープにぶつけた反動を利用してラリアット。勢い良く吹っ飛びながら仰向けで落ちたのに合わせてコーナーポストに駆け上がり、体を回転させつつボディープレス。
それでもふら付きながら立ち上がって来た「彼」の背後に回り込み、お得意のジャーマンスープレックスで落とす。
相手はとうとう立ち上がれなくなった。
「お見事っ! ケモナ―マスク組の勝利ですっっ!」
興行は大成功に終わった。
後日、ファイトマネーや出店の売り上げなどが計算され、マネージャーが持って来た。
「おおぉ! こんなに儲かったのか!?」
差し出されたゴールドの数に目を輝かせる源蔵。
が――。
「屋台代と敷地代、後は場外に投げ出されて施設を壊した分を引いたらこうなる」
「税金の分まったく足りないじゃんかよぉ……。てか、壊したの俺じゃないしぃ」
「責任者はゲンゾーさんでしょ」
「うぅ……」
そんな事を言っていると、誰かが訪ねて来た。
「よぉ、ぬし、こんなとこにおったか!」
「オッサン!? よくここが分かったな」
「げえぇ!? たた大佐……」
それは田舎町【ヨウィン】に駐在しているジューア解放軍の大佐、ギルバートであった。
「実は話があってな」
「話とは?」
「お、おお俺、お邪魔だろうから……」
「まぁ待て、ぬしにも関係がある事なのだ」
「えぇ!?」
半ば逃げるように出て行こうとしたマネージャーは、肩を掴まれて引き戻され、硬直した。
「ほれ先日【ポート・カプール】でぬしらが面白い事をしてただろう。それについてなんだがな」
「ごごごめんなさい二度とやりません許してくださいっ!」
「落ち着け、中止の申し立てをしに来たのではない」
「んじゃ何だよ? まさか自分も参加してぇとか言いたいんじゃねぇだろな?」
「そのまさかだよ」
「ええぇっ!?」
今度は二人で素っ頓狂な声を上げた。
「私が非番の時にだな、その……。タッグマッチとやらをだな……」
「おいおいオッサン、歳を考えろ」
「馬鹿にするな! 今でも筋肉は衰えておらんっ!」
「確かに、並の筋肉してませんもんね……」
「あのなぁオッサン、戦で剣ばっか振ってんのとレスラーやんのとは筋肉の構造や体幹が違うんだよ。何より柔軟性が無いと話にならん」
「戦場では常に相手の攻撃を躱したりしておる。体は柔らかいはずだぞ」
「ほぉ、んじゃこれ出来るかやってみろ」
そう言うや源蔵は、正座のままで背を反らし、ぺったり床に背中をつけて見せた。
「……そ、それくらい……」
「おい無理すんな!」
ムキになってやり始めたギルバート大佐を見て彼は慌てた。わざと難しいポーズをしたら諦めてくれるだろうと思ったのに。
そして案の定半分も反らせない内にぐきりという音がし、腰のあたりを抑えながら悶絶し始めたのを見て「言わんこっちゃない」と呆れた。
「まだ頑張る気か?」
「分かった諦めるっ! すす、すまんが送ってくれ……」
「ヤダよ。自業自得だろぉ?」
「俺が送りますよ、大佐」
「すまんなぁだだだ! もも、もう少しゆっくり立ち上がらせてくれっ!」
大騒ぎしながら出て行った二人の背中を、彼は苦笑いしながら見送った。
どうにかこうにか【ヨウィン】まで帰った大佐は、部下にも呆れられたという。
私はプロレスには興味が無いので技名を調べたり動画を見て書き方を工夫したりするのに苦労しました。
注意点として、アニメではパワーボムとジャーマンスープレックス以外は話に出て来た他の技は登場してません。
せっかくミノタウロスの何匹かが名乗りを上げたのに、実際にはウンガガしか参加させてあげられませんでした。
ウンガガ前に参加させれば良かったんですが、ミノタウロス自体が危険なモンスターなので「彼」以外を登場させると大パニックになるだろうと思ってやめたんです。