もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】   作:沙希斗

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今回も四千字ぐらいになりました。
話の流れでこのサブクエストが発生しております。


絵本×魔術士

 

 

 

 

 ネフィアの謎を探れだなどと言われても、皆目見当が付かない。

 そこで彼は古書や魔法書などを集める事にした。

 それをエリステアに渡したら解読してくれるだろうと思ったのである。

 

 魔法店に置いてある本や巻物の類いは魔法に関するものしか置いていないというので、源蔵はネフィアに潜る事にした。

 公式に売られているもの以外にまだ知られていないような、解読されていないような本があるかもしれないと思ったのだ。

 彼は複雑な文字はまだ読めず、というよりは魔法などまったく覚える気が無いので日常的なやり取りが出来る程度の文字が読めれば良いやと思っているために、魔法書と思われるものを拾ってもどんな魔法が書かれているか解読できない。

 一度試しに読もうと開いたら、文字が複雑過ぎて混乱した上に精神を破壊されて死んでしまった。

 「生き返った」後で教えてもらった人に聞くと、「マナの反動」と呼ばれるものなんだとか。

 なのでもう自分は二度と読むまいと彼は思った。

 

 

 そんな中、赤い表紙の本に出会った。

 そういう本には生活の知恵だとか店の経営についてだとかの簡単な説明が書いてある事が多い。

 源蔵も、たまたまエレアに助けられた時の洞窟に一冊落ちていたのを見付けており、文字が読めるようになった頃に読んだ事があったため、これもそういう類いなのだろうとネフィアの中層あたりに落ちていたそれを拾い上げ、開いてみた。

 

 そこには可愛らしいながらも繊細な絵と、子供でも読めるような簡単な文字が書かれてあった。

 

 要するに絵本なのだろうと彼は思った。

 内容は興味が無かったが、これも一興だろうと彼はエリステアに持って行った。

 ちなみに税金は金策と事情を知ったパルミア王妃の援助のおかげで全て納められ、月一の分も安定して払えるようになったため、もうガードに追われる事無く堂々と各町に入れるようになった。

 

 

「まあ懐かしい。《レイチェルの絵本》じゃない♪」

 

 彼女は源蔵が持って来た本を見るや、そう言って取り上げた。

 

「小さい頃にお母様にねだっては寝る前に読んでもらったなぁ。お父様のお膝の上でもよく一緒に見てたなぁ……」

 

 ページを捲りながら微笑んでいた彼女は、「でもこれは途中のものね」と言った。

 

「この絵本ね、全部で四巻あるのよね。これは二巻目だわ」

 

 それを聞いた源蔵は、そういえばと思い出した。

 確か【ルミエスト】にいた悩める魔術士がこの絵本の事を言っていたはず。

 そう思って彼女に話す。

 

「それなら是非集めて持って行ってあげましょうよ。もう絶版されて今では貴重な本だから、中々手に入らないと思うけど」

「俺も話を聞いた時から、時々は気に掛けていたんだけどな」

「あ、もしかして見付けるまで忘れてたんでしょ」

「お前が難関な任務ばっか押し付けるからだろぉ!?」

 

 

 

 《レイチェルの絵本》探しは中々捗らなかった。

 というのも「赤い表紙の本」という以外は何の特徴も無く、最初に見付けた二巻目のように、一般的な事が書かれている本と同じで区別が付かなかったからである。

 赤い本を見付ける度に読み漁ったりネフィアに落ちている以外には本当に見付からないのかと各地で聞き回ったりして彷徨っている内に、【灼熱の塔】の西にある雪原に迷い込んでしまった。

 

「ここ困ったな……」

 

 源蔵は歯を鳴らしながら白い息を吐きつつ呟いた。

 もう防寒服が役に立たない程体が冷えてしまっている。

 胸元に入れているひろゆきのいる部分だけは暖かいので、それでどうにか凍死を免れている、という状態だった。

 

 と、前方に不思議なオブジェが見えた。

 それは墓のようにも見えたが特別な装飾が施されているし、何より何もない雪原にポツンと一つだけ立っているのがおかしいと彼は思った。

 何か仕掛けがあって地下室か何かがあるのだろうかと周囲を周ったり押したりしてみたが、ただ「立っている」というだけのように見える。

 その内に吹雪いて来て、とにかく立ち止まらないようにしようとふらふら歩いていた彼だったが、やがて倒れて気を失ってしまった。

 

 

「お兄ちゃん、気が付いた?」

 

 朧気な意識の中でそんな声が聞こえ、重い瞼を上げる。

 覗き込んでいたのは、緑の髪を黄色いリボンでツインテールにした女の子だった。

 まだ十代にもなっていないのではないかと思う程の幼い顔立ち。

 変な夢見てんなと思っていたら、その子が後ろを向いて誰かを呼んだ。

 

「ねぇ、お兄ちゃん起きたよ~~」

 

 源蔵はやって来た相手を見て更に混乱した。

 何故なら今いる子と寸分違わない姿をした女の子だったからである。

 ただしこの子の方が、若干年上に見える。

 

「気が付いて良かったぁ。あんな寒いとこで倒れてたんだもん。お兄ちゃん死んだらどうしようと思って泣きそうになっちゃった」

「…………」

「まだ頭がふわふわしてる? そうだよねぇ、お兄ちゃんずっと寝てたもんねぇ」

「……。ここ、どこだ?」

「ここ? うんとね、他の人は【妹の館】って呼んでるとこ。お兄ちゃんが近くで倒れてたからみんなで運んで来たの」

「……。皆って……」

「妹たちみんな。ここはお兄ちゃんを待つ妹のおうちだから」

「俺には、妹は……」

「いるよっ!」

 

 彼女は何故か突然、ムキになった。

 

「きっといるんだもん。そう信じて私達はずっと待ってるんだから」

 

 訳が分からなかったが動けるようになるまで介抱してもらう。

 彼女は料理が得意らしい。

 いつ「お兄ちゃん」が現れても良いようにと心を込めた弁当を作っているそうで、その腕前は確かに大したものだった。

 他の「妹」たちもかいがいしく「お兄ちゃん♪」「お兄ちゃーん」などと言いながら賑やかに世話してくれた。

 ただし全員同じ姿をしているので、源蔵には全く見分けがつかなかった。

 一応それぞれで違うらしいのだが。

 

 あまりにも生意気な口を利く奴がいたので一度殴ったら、なんと泣きながら増えた。

 これには度肝を抜かされた。

 

 つまりこの「妹」とやらはブルーバブルなどと同じで殴れば増えるらしい。

 外見はどう見ても可愛らしい女の子なのだが、恐らくモンスターの一種なのだろうと無理矢理納得する事にする。

 殴れば殴る程増えて「お兄ちゃん」が加速してうるさくてかなわないので、腹が立っても放って置く事にした。

 

 ふと、部屋の片隅に赤い表紙の本が置いてあるのに気が付いた。

 それは「妹」の誰かが読んだ後片付けていない、という感じで落ちていた。

 

「お兄ちゃんも読みたい?」

 

 視線に気付いた一人がそう言ってそれを取り上げ、ベッドまで持って来た。

 開くと《レイチェルの絵本四巻》と書かれてあった。

 

「なぁ、これくれないか?」

「お兄ちゃんもこの絵本好きなの?」

「そうじゃなくて、捜してる人がいるんだよ」

「ふぅん……」

 

 しばらく迷っていた風であったが、いつも彼女たちを世話している「妹」が「いいよっ」と渡してくれたので、他の「妹」も了承したようだ。

 他にも無いか聞いたが、ここには四巻しかないとの事。

 だが、これで二冊揃える事が出来た。

 

「ねぇ遊んでよぉ」

「雪合戦しようよっ♪」

 

 回復したのを待ちかねたように外に誘われて、源蔵は広い庭の一角に絵のようなものが描かれてあるのを見た。

 

「これは上から見ないと分かんないんだよ」

 

 そう言われて高台に上がったがそれでも全体が見えない程大規模だったので、屋根の上に上がってみる。

 彼は「妹」が増えた時以上に驚いた。

 

 何故ならそれは、「お兄ちゃん」を連呼したフキダシが付いた「妹」の地上絵だったからである。

 

「なんだこりゃ!? てか、どんだけ『お兄ちゃん』言わせてんだお前らはぁ!」

「良いでしょこれ。みんなでお兄ちゃんの事を思って描いたんだよっ♪」

「いやキモいだろ! 引くぞこんなの」

「えー」

「ひどぉーい」

「だってみんなお兄ちゃんの事しか頭に無いんだもん」

「そうだよぉ、早くお兄ちゃんに会いたい。お兄ちゃんお兄ちゃん……」

「分かったから黙れ!」

 

 誰かが言い始めると伝播するらしく、全員が「お兄ちゃん」コールを始めるので頭がおかしくなりそうだった。

 

 そんなこんなで辟易しながらも長旅に耐えられるまで回復を待ち、惜しまれた「お兄ちゃん」コールを浴びながら【妹の館】を出発する。

 束の間の「妹」たちとの生活は料理が美味いという事以外はうんざりしたものだったが、いつも傍らにいたひろゆきと、「シルバーキャット」と呼ばれている銀毛の小さな猫が沢山いた事が、彼にとってはとても救いになった。

 

 結局それ以外はネフィアで手に入れたり、たまたま冒険者が持っていたのを交渉して交換したり、配達の依頼をしたら「この絵本を探していると聞いたよ」と報酬で貰ったりした。

 

 

「おお……これがレイチェルの絵本か」

 

 全巻を集めて【ルミエスト】にいる悩める魔術士(レントンという名前らしい)に渡すと、彼は暗い顔を僅かにほころばせた。

 

「本を読んでみたいと思う気になったのは、久しぶりだよ。さっそく読ませてもらおう」

 

 そう言って読み始めた彼は、黙ったままだが何故か段々と険しい表情になっていった。

 そして始めは物語を追っていたのにそれを無視して描かれている絵だけを追うようになった。

 憑りつかれたように巻を跨いで絵を見始め、乱暴にページを繰り始め、それからとうとう気が触れたようにビリビリと破り始めた。

 

「お、おい!」

 

 せっかくの苦労が水の泡にされるのを見て抗議しようとした源蔵は、そのあまりにもの剣幕に逆に黙ってしまう。

 

「こんなモノ!こんなモノ!こんなモノ……!」

 

 彼は憎しみを全て絵本にぶつけるかのように破り、ぐしゃぐしゃにし、踏み付けた。

 息を切らせる程に暴れたが、落ち着いたのかこう漏らした。

 

「……こんな絵は天才にしか描けない。努力じゃダメだ。妹には……どう頑張っても、描けなかっただろう。幸運の女神というものがいるのなら、私は彼女を恨もう」

 

 そうして「……すまない、報酬だ。しばらく一人にしておくれ」と渡されたのは、★英雄チーズという食べる事で生命力が上昇する特別なチーズと、風の女神ルルウィを模した、祈ると天候が変わるという★ルルウィ像。それから報酬金の金貨20000枚とプラチナ硬貨5枚。

 

「私は……生きている価値があるのかな?」

 

 虚ろな目に戻った彼はそう呟くと、再びふらふらと彷徨い始めた。

 

 

 

 

 




「レイチェルの絵本」を探すなら、確実に四巻が手に入る「妹の館」は訪れるべきです。
ですがここは隠された場所なので、同じ赤い本の一つである「なぞの手記」を手に入れて読む必要があります。
(といってもこれを読んでも私はさっぱり分かりませんでしたが)

「妹の館」には本当は妹とシルバーキャット以外に「お嬢」というモンスター(?)も何人かいるのですが、それを話の中に入れると流れがおかしくなると思って省きました。
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