もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】 作:沙希斗
十二月に入った頃、各町の人々がウキウキソワソワし始めた。
針葉樹の木を持ち帰って飾り付けをする人もいるようで、さながら前の世界でよくやっていたクリスマスのようだなと源蔵は思った。
「ねぇお兄ちゃん、ノイエルに連れてってにゃ」
そんな中、妹猫のマールがそう言った。
【ノイエル】というのはノースティリスのずっと東の方の、雪原地帯にある鄙びた村の事である。
なんでも、十二月になるとそこで癒しの女神ジュア信仰者による盛大な聖夜祭が開かれるのだそうな。
地図を見て遠いし特に用事もないと思っていた彼は行った事が無かったので、良い機会だし訪れてみようと思った。
しかし雪原地帯を歩き続けるのは深雪に足を取られて非常に歩きにくかった。
マールは軽やかに進んでいるので体重の違いかと思ったら、「オーロラリング」なる指輪をはめているのだという。
これをはめるとその魔法で雪原地帯が歩きやすくなるらしい。
それどころか雷雨でも問題無く進めるとか。
便利だが多分使わないだろうなと源蔵は思った。
進む時間が長くなるにつれて食料が乏しくなる。
料理したものでも肉や野菜は腐るので、やはりパンが中心になる。
それでも足りなければアピの実を料理してクッキーやらまんじゅうやらを作っては食べた。
途中、道に迷ったのか丸木小屋が連なる場所に来た。
キンカンと金属音が響いているので覗いてみると、どうやら工房のようだった。
そこには気難しい顔をした丘の民が、ぶつぶつ言いながら金槌で叩いたり何かを炉に入れたりしていた。
「ミラルの奴め、何の役にも立たないものばかり作りおって」
「すんません、ちょっとお尋ねしたいんですが……」
「なんじゃ、ワシは忙しいんじゃ」
取り付く島もない、という雰囲気だったので諦め、もう一つの小さな小屋を覗いてみる。
そこには先程の丘の民とそっくりな者がいた。
「猫 イズ フリ~ダ~ム♪ 猫 イズ フリ~ダ~ム♪」
「すんませーん」
「おお、客人かな?」
彼は先程の者と違い、フレンドリーな性格のようだ。
「ほほう、客人とはこれまた珍しい。暖かい飯でも御馳走してさしあげたいが、あいにくと今日の飯番はガロクでの。あやつの作る料理は自らの作品に似て、なんとも無骨で味気ない。とても客人に楽しんでもらえる代物じゃないのう」
どうやら気難しい方の名前は『ガロク』というらしい。
「まぁ、せっかくこの辺境の地にまで、やって来なさったんだ。何か要件があれば、話だけは聞こうじゃないか」
彼は『ミラル』と名乗った。
「ノイエルってとこは、ここからまだ長いんですか?」
「ノイエルはもうすぐじゃよ。ここから氷った湖沿いに北へ行けば見えて来る」
「分かったにゃ。おじさんありがとにゃ」
「何かお礼をしたいのですが、生憎交換出来るような価値のある物を持ち合わせてなくて……」
「ほっほっ、そんな物はいらんよ」
笑ったミラルはふと思い付いたような顔でこう言った。
「小さなメダルを持ってはいないか? ワシはそれを集めるのが趣味なんじゃ」
「これの事か?」
源蔵が今まで見付けて集めていた小さなメダルを見せると、「おぉそれじゃそれじゃ!」と喜んだ。
いつかヴェルニースかどこかで「小さなメダルを集めている者がいる」と聞いた事があったので、この爺さんの事かと彼は思った。
「枚数に応じて好きな物と交換して良いぞ」
そう言われて交換品を見てみる。
今持っている56枚で交換出来る最大の物は★《賢者の兜》。
これは透明視と混乱耐性の付いたミスリル製の兜で、他にも僅かだが魔法耐性や幻惑耐性があるとの事。
武具を揃える気など全く無い彼だったが、見えない悪戯者(パンプキンなど)に混乱させられたりして癪だったので、これに交換してもらう。
お礼を言いつつ出発し、【ノイエル】と思しき村に着いたのは夜だった。
煌びやかに飾り付けをしてある針葉樹があちこちにあり、村全体が非常に華やいだ雰囲気になっている。
有名な催しらしく、観光客がわんさかと押し寄せていた。
ジュアを称える吟遊詩人も多く来ており、各自でその歌を競っている。
どういう訳だか源蔵がいた世界で言う「唐獅子」の恰好をした者達もいた。
コスプレかと思ったら「聖獣」と呼ばれていたのでモンスターの一種なのだろう。
「彼ら」は聖夜祭の時だけノイエルに出現するのだそうだ。
「今なら神罰無しで改神出来るよ! しかもおまけ付きだよ!」
露店なども出ていてマールの求めるままに見ていたら、そんな事を言いながら客引きをしているものがいた。
一瞬獣人かと期待して近付いた源蔵は、熊の着ぐるみを着たバイトだと分かり興味を無くす。
傍には飾り付けをしたジュア神像と祭壇があった。
更には狂信者がエヘカトルやマニを信仰している者を異教者としてサンドバッグに吊るし、リンチにしていた。
流石にこれは見るに見かねて解放してやった。
「すごいにゃ、綺麗にゃ!」
歓声の声を上げて見回しながらキラキラした目で歩いているマール。
しかし彼はその場に相応しくない存在を見付けてそこに目を奪われた。
それは、見上げる程の巨人だった。
そして火を連想させるような、赤い肌をしていた。
見世物屋として経営しているらしい主人モイアーによると、「炎の巨人『エボン』」という魔物なのだという。
かつてはノイエルはじめ周囲の地を恐怖のどん底に陥れる程の凶悪な魔物だったらしいのだが、今はその力を無くして束縛され、こうして一般市民に見世物にされる程にまで成り下がっているらしい。
「お触りOKだよ!」
そう言われて筋肉の塊で出来ているかのような体に触ってみる。
火を扱う巨人という事なので熱いのかと思ったが、そうでもなかった。
マールははじめ耳を伏せ、恐る恐る触っていたようだったのだが、何もしないと分かると調子に乗り、「お前なんか怖くないにゃ!」などと言いながらあちこち触り始めた。
そして悪戯心が芽生えたか、なんと足枷を外してしまった。
「馬鹿やろう!」
慌てたモイアーが叱りつつ元に戻そうとしたが、もう遅い。
自由になった炎の巨人は今までの腹いせのように、口から炎を吐き出しながら辺りを歩き始めた。
たちまち「彼」の周りに炎獄が出来ていく。
大勢来ていた観光客、聖獣、吟遊詩人、そしてノイエルに住む住民などが次々に炎に巻き込まれていく。
「……。これのどこが力を無くしている状態だよ」
もはや悲鳴と燃える音しか聞こえなくなった中で、源蔵はそう呟いた。
「ごめんなさいにゃ、こうなるとは思わなかったのにゃ」
マールは完全に耳を寝かせたまま、震える声を出した。
しかし、しかしである。
こうなる事には慣れている、とでも言うように、なんと市民が力を合わせてエボンに立ち向かい始めたのだ。
これには源蔵は驚いた。
しかも連絡が届いたのか、パルミアから増援部隊が駆け付け、一緒に戦い始めた。
程なくしてエボンが倒され、「エボンと共に暮すというのはこういう事なのだ」とでも言うかのように燃え尽くされた露店や教会などの復旧を始めた人々を見て、そのしたたかさに呆れた源蔵であった。
「賢者の兜」は私が小さなメダルで交換する最優先の物の一つです。
もう少し集めれば「ボルボロス」という強力な剣と交換出来るのですが、透明視のある防具は非常に便利ですし、メダルさえ集まれば確実に手に入るため、剣よりこちらを優先しています。
ノイエルでは冒険者の悪戯(笑)でエボン解放に慣れ過ぎているせいか、住民も含め至る所を焼き尽くされて炎獄になるこの現象をも日常的に捉えているフシがあります。
もちろんプレイヤー自身にかなりの火耐性が無いと自分も焼け死にます。
ブレスの範囲内から逃れて適当に逃げ回っている内に(住民などによって)エボンが倒される事を利用して、楽してエボンの剥製、カードと料理次第では結構な値段になる重い肉を手に入れる事も可能です。