もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】 作:沙希斗
ですが超鬱展開になるので覚悟して下さい。
エボン騒動が治まって落ち着きを取り戻し始めたノイエルで、源蔵はこんな少女と出会った。
『パエル』と名乗ったその少女は、母が酷い病気で看病しているのだそうな。
「お医者さんはエーテル病だから手におえないって……」
泣きそうな顔でそう言う彼女を不憫に思って家まで見舞いに行くと、『リリィ』と名乗った母は身体に赤い染みが広がったり一部が異形に変わったりしていた。
一応付いて来ていたマールは、彼女を見るや否や耳を伏せ、逃げて行ってしまった。
「あら……こんな姿でごめんなさいね」
具合が悪そうに時折咳込みながら、リリィはこんな話をした。
「パエルの父親は、パエルが5歳の時にプチに食べられてしまったの……」
彼が「あぶくちゃん」と呼んでいる(彼にとっては)可愛らしいプチでも、一般人にとっては脅威の何物でもない。
それを分かっているつもりの源蔵であったが、いざ現実を知らされると気の毒に思えてしまう。
「そのせいで、あの子は家にこもりがち、いつも、他の子供が外で遊ぶのを眩しそうに眺めているわ。きっと、外の世界と自分との間に、見えない線を引いてしまっているのね。小さな胸の奥には、とても、とても優しい心を持った子なのに」
源蔵に遠慮してか外で待っていたパエルが、話をしている内に我慢出来なくなったのか入って来て、母に抱き付いた。
「ちょっとだけ甘えん坊さんだけどね、うふふ」
そう言って優しく笑いながら彼女の頭を撫でるリリィ。
父が亡くなった上に母が病気になった事で、恐らく不安で仕方が無いのだろう。「ひとりにしないでよ」などと言っている。
エーテル病ならばエーテル抗体のポーションが効くはずなのだが……。
そこで、試しにポーションを飲ませて様子を見る事にした。
リリィにその旨を話し、パエルに渡すと「え……」と始め驚きと困惑の入り混じった表情で受け取ったが、すぐに「あ、ありがと~!!」と顔を輝かせた。
「おかあさん……薬だよ。これでよくなるよね?」
感謝の言葉と共に飲んだ母だったが、かといってすぐに良くなる訳でもなさそうだったので、これはもしかしたら長丁場になるのかもなと彼は思った。
しばらく彼女の元に通う事を聞いたマールは、いつもはいくら邪険にしてもべったりとくっ付いているのにその日だけは一緒に行くのを嫌がり、街で待機する事を選んだ。
余程怖い姿に見えるようだ。
その後は容体を見ながらポーションを渡していったのだが、どうも一進一退を繰り返して芳しくない。
もしやエーテル病ではなく他の病気で、なのでそのための抗体は効かないのではと思い始めた頃、パエルが心底嬉しそうにこう言った。
「おかあさん、最近すごく調子がいいの! お医者さんも、もう大丈夫だろうって」
いつも一人でいるからか「ひとりぼっちのパエル」などと揶揄やれていた彼女にも友達が出来たそうで、時々見舞いに来たり一緒に遊んだりしているらしい。
「ゲンゾウさん、いらっしゃい」
「今日は一段と嬉しそうっすね。何か良い事でもあったんですか?」
そう聞くと彼女は「うふふ」と笑いながら、「この前ね……」と話し始めた。
どうも聞いて欲しくて仕方が無かったらしい。
「パエルが家の外に大きな雪だるまを作ってくれたのよ。『お友達と一緒に作ったの』って、あんな嬉しそうな顔は、あの子の父親が死んでしまって以来見ていないわ。あのパエルの作った雪だるまを窓から見てるとね、とても幸せな気分になるのよ」
外を見ると成程丁度ベッドから見える位置に、大きな雪だるまがあった。
ノイエルは1年を通して寒い所なので、この雪だるまが溶ける事は早々ないだろう。
リリィの様子を見るにもうほぼ異変は無くなっているようだし、このままもう少し抗体を渡して行けば完治するだろうと源蔵も安心した。
が、そうはならなかった。
「ゲンゾウさん……おかあさんが……! おかあさんが……急に具合が悪くなって……身体がおかしくなって……あぁ……神様……」
ある日様子を見に来た源蔵を迎え出たパエルは、泣きながらそう訴えた。
慌てて中に入るとリリィは苦し気に喘ぎ、咳込み、呻きながら「気分が……悪いの……」とそれだけの言葉をようやく絞り出した。
身体には再び赤い染みが広がっており、異形化も進んでいる。
だがどうする事も出来ない。
医者を呼んでも現状維持をするのがやっとなのだと言う。
やはり抗体は逆効果になるのではと思ったが、それでもリリィは抗体を求めた。
そうして次に会った時、パエルは心痛な面持ちで「おかあさんが……ゲンゾウさんにお話があるって……」と小さく溢した。
入って行くとリリィは、もはや完全な異形になったと言っても過言ではない姿に変わり果てていた。
最初に見舞った時に身体にあった赤い染みが全身に広がって、そのまま怪物になったかのように見える。
体は辛うじて人の姿を留めている。
が、頭部は爬虫類を思わせる形に変わってしまっていた。
思わず身構えてしまった彼を見て、リリィは悲し気に言った。
「ゲンゾウさん……こんな姿でごめんなさい……どうか、怖がらないで……逃げないで……。私の病気は、もう手遅れだったようです。この醜い身体が元に戻る事は……もうないでしょう」
しかし彼女は、こう続けた。
「病気は治りませんでしたが、あなたがして下さった全ての事に感謝します。ええ、無駄ではなかったの」
自分を心配して片時も離れず、家にこもったまま一人遊びで過ごして来たせいで友達が出来なかった我が子。
その子にあんなに良い友達が沢山出来た事が嬉しくて仕方が無いのだという。
リリィは報酬として★幸運のリンゴという運気の上がるリンゴ。金貨20000枚、プラチナ硬貨4枚を渡して来た。
それから、意を決した面持ちで源蔵をしっかりと見、こう言った。
「ゲンゾウさん、最後のお願いがあります。この短剣で、私の胸を貫いて下さい」
動揺した源蔵に、彼女は寂し気に笑いながらこう続けた。
「だって、この姿がばれてしまったら、せっかくできたパエルの友達が逃げてしまうじゃない。あの子が幸せになるなら、私は……」
「そ、そんな事……」
「こんなこと、あなたにだから頼めるのよ。どうか、この苦しみを終わらせてください……」
短剣を渡そうとするリリィを遮り、「まだ希望はある!」と声を掛ける。
だが彼女は「あ、あなたは、私にこんな姿で生き続けろというの?」と詰った。
「世の中には、希望なんて便利な言葉で片付けられないほどの苦しみがたくさんあることを、あなたはわかっているのかしら」
自分に絶望していてきつい言い方になっているのに気が付いたのか、「ごめんなさい、きついことをいって」と彼女は一応謝った。
いたたまれずにサイドテーブルにエーテル抗体を置いて去ろうとする彼。
彼女はその背中にこんな言葉を掛けた。
「あなたの考えが変わるのをまっているわ」
「お話、おわったの?」
外へ出ると今度ばかりは大人しく外で待っていたパエルに、そう聞かれた。
「どうして、おかあさんはあんなに悲しそうなの? 顔はかわっても、あたしのおかあさんだよ」
不安気に見上げる彼女に曖昧な返事をすると、何を頼まれたのかを察したように、声に力を込めた。
「お友達もきっとわかってくれる……わかってくれないんなら……お友達なんていらない! あたしはおかあさんとずっと一緒にいるんだもん」
そんなパエルの頭を撫でて、ノイエルから出て行こうとすると見世物屋の主人モイアーに呼び止められた。
「よぉゲンゾー、そこの家にいる母親は怪物らしいな」
「…………」
「俺に売ってくれりゃ人気者となって彼女の金稼ぎにもなる。5万でどうだ?」
「ふざけるな。てか、あんな良い女を手放すかよ」
「………良い女、だと?」
「そうとも。赤い鱗にぃ、艶めかしい皮膚にぃ、蛇に似た頭にぃ……♪」
「わ、分かった。もう良いから好きにしろ」
悍ましくなった姿を嫌悪するどころかにやけ顔でよだれを垂らさんばかりに特徴を並べ立てようとする彼を見て、逆にこちらの方を避けた方が良いのではと思い始めたモイアーであった。
「Elona史上最悪展開の鬱クエ」と言われるサブクエスト、「エーテル病を治せ(推奨レベル20)」。
ノイエルで受けられますが、別に受けなかったからといってシナリオに支障が出る事はありません。
それに「我が家」で雇った魔法店か雑貨店、もしくは「我が家」に近い街のそれらに莫大な金を投資でもしない限りは滅多に店先に並ばないほど超貴重な上に馬鹿高い「エーテル抗体」を何本も渡さねばならないこのクエは、容体の変化を待ちつつ渡す事も相まって、非常に日にちがかかります。
(低レベルのモンスターを支配、もしくはヨウィンで安く買える駄馬やダルフィで売っている奴隷を購入して結婚する、という結婚詐欺を繰り返してその御祝儀に貰える抗体を集める、という手もありますが)
ただし受けないとリリィさんは具合の悪いまま放置される事になるし、受けたら受けたで最悪な結末になるため、心優しい冒険者ほど悩み、立ち直れなくなるかもしれません。
怪物と化した彼女の行く末はプレイヤーに委ねられ、彼女の望み通りに死なせてやるのが良いのか、このまま抗体を渡し続けてありもしない希望を抱かせるのか、それともモイアーに売り飛ばして見世物にするという鬼畜行為をするのか、という選択を迫られます。
どうしても手を下せなくて放置を選ぶと、抗体を渡す度にカルマが+20されます。
これを利用して極端に-になったカルマを+にしてもらう、という事も出来ます。
大抵の冒険者はこれを目当てに「生かしている」方が多いのではないでしょうか。