もしも、ケモナ―マスクがelonaの世界に転送されたら【完結】 作:沙希斗
なんですが、源蔵さんはケモノ以外は見向きもしない人なので、こんな形にしました。
プチたちは手懐けたのでミシェスにはもう悪さをさせないようにすると約束したし、「使わなくなった坑道なので好きにして良い」と町民にも言われたので、源蔵は【わが家】に置いていた三匹のプチも連れて来て、その坑道跡はさながらプチとバブルの飼育場のようになった。
地下に下りてはプチとバブルに囲まれて幸せな時間を過ごす度に、彼はあぁこの幸せを早く他の人にも味わわせたいとペットショップの構想を色々と練るのだった。
そんなある日、酒場の近くを通り掛かった源蔵は、そこの看板娘『シーナ』に「ちょっとお時間いいですか?」と呼び止められた。
「バーの酒樽が度々盗まれて、店長困ってるんです。もし手が空いていたら、助けて下さいな」
「えー、面倒臭い」
「そんな事を言わずに。盗みを働いている輩の目星はついています。きっと、ヴェルニースを拠点に活動している、こそ泥の集団です!」
「だって相手ヒトじゃん。他の冒険者に頼めばぁ?」
「こういう時はそこそこ腕の立つ者の方が良いんですっ!」
「えー、だって俺ペットたちの世話で忙しいしぃ、この後よしゆきの散歩もしなくちゃだしぃ……」
そんな事を言って躱そうとしていたら、自分がいない間によしゆきの世話を頼んでいた者が血相を変えて駆け込んで来た。
「よよよしゆきが奪われた!」
「なんだとおぉっ!?」
怒り形相で胸ぐらを掴んだ彼は、死にそうな声で必死に説明する者の話で事の顛末を知る。
どうやら源蔵があまりにもよしゆきを可愛がっているのを見て、どう見ても雑種犬だがもしかしたら高く売れる犬種なのかもしれないと思われたらしい。
そして盗んだ相手が今まさにシーナが相談していたこそ泥集団だと知るや、彼はシーナの肩を乱暴に掴んで「拠点はどこだっ!」と聞いた。
「た、確か墓の方にあったはず……」
今までとのギャップの大違いに恐怖心すら覚えておずおずと答えた彼女を突き飛ばし、その方向に駈け出す源蔵。
世話係の者も「気を付けて下さいねぇ!」と呼び掛けるのが精一杯だった。
街の一角、家々から離れた静かな場所に墓がある。
『死んでも生き返る』世界でこんな墓をつくるのに何の意味があるのだろうと思うのだが、どうやら『生き返らない』ケースもあるらしい。
何故そうなるのかは知らないが、とにかくその墓の一つをずらすと隠し階段になっており、そこがこそ泥集団の拠点になっていた。
階段を下りるとその先の扉には鍵がかかっていたが、構わずに蹴破る。
「お、カモが来たな」
そんな声が聞こえて物陰からこそ泥の一味が襲い掛かって来て――。
「ラリアットおぉっ!!!」
源蔵による怒りのラリアットが炸裂した。
「ぐへえぇっ!?」
まともに食らって吹っ飛んだ一人は、その先にいた三人を巻き添えにしてひっくり返った。
「こ、こいつ強い……!」
驚愕の表情で固まっている一人に歩み寄り、「ひろゆきはどこだあぁっ!」と聞く。
「……そ、そんな事言える訳――」
「そうか。ならば処刑だあぁっ!!!」
そう言うや否や、彼はジャイアントスイングで壁際に投げ飛ばした。
「ふうぅ……! 次はお前だあぁ」
「ひいぃっ!」
怒りオーラで目まで赤く光っているのかと錯覚する程の雰囲気に気圧され、一人は腰を抜かしながら「お、教えますっ! だから殺さないでっ!」と情けない声で懇願した。
「おお奥の部屋に入れてありますっ!」
「無事なんだろうなぁ?」
「は、はひいぃっ! きき傷付かないようにしてなな仲間が世話を……」
奥の部屋では仲間の一人がひろゆきの可愛らしさにメロメロになっていた。
そこに乗り込んで「ひろゆきを返してもらおう!」と言うと、そいつは残念そうな顔をした。
「どうしても返さなきゃダメ?」
「ダメだ!」
「みんなで世話しちゃダメ?」
「ダメっつったらダメっ! ひろゆきは俺の相棒だからな」
渡してもらう時に心底寂しそうな顔になった相手を見て、ほんの少しだけ心が痛んだ源蔵であった。
「ひろゆき」はアニメでも貴重な存在らしく、よく盗難の憂き目に遭ってました。
それとは別の話で源蔵さんの「処刑」とは、実際に殺す訳では無くて「プロレス技をかけたり投げ飛ばして気絶させたりする事」を指すようです。