□■2043年9月7日 如月アキラ
“――こんな世界滅んでしまえばいい。滅べ、滅べ、疾く滅べよ――”
――はて、そんな事を言っていたのは誰だったか。
薄ぼんやりとした頭の中で、機械的に食事を胃の中に詰め込む作業をしながら、そんな思考をついしてしまう。
人は余計な事を何も考えたくない様な時には、そんな取り留めのない事を考えて暇を潰したくなる物だ。
確か、そんな物騒な事を言っていたのは、インターネット上で知り合った某氏だったか、それとも某氏だったか。
……まぁ、色々と限界な人達だ。複数が似た様な事を言っていたし――冗句でそんな事を言うくらいにはそんな思考が常態化している人達でもある。
肉体的に、精神的に、社会的に、或いは、金銭的にも――
2043年。21世紀も半ばとなり、未だ文明の進歩著しいこの時代においても……人間は過去に夢見ていた様な
それでも、まぁ、勿論授業で習う様な過去よりは確かに生活は改善してきているし、向上しているのだろう。技術が進歩しているのにしてなくても困るが。
……その文明の光も、遍く総ての人を照らすという訳にはいかないが。
勿論、様々な要因による極限地域においては――等という屁理屈や、光が強ければ強い程その影はより濃くなる――という屁理屈ではなく。
“弱者”は“強者”に搾取される。
そんな当然の仕組みを、世界の摂理を呪うのは――“弱者”に置かれる者であれば、それもまた
類は友を呼ぶ、とも言うべきか。
インターネットは広い。
――それ故に、誰かが何らかの目的で交流しようとするならば、自然と同じ様な人が集まるという物だ。
自分で見たい物が見れるし、見たくない物は見ない様にできる。関わりたい物とだけ関わって、関わりたくない物はシャットアウトできる――まさにインターネット万歳!
だからこそ、時と場合によっては、自ずとか偶然にかはともかくとして、最終的に関わっていく人達は嗜好や好悪、そして思考も似通って来る。
…………ならば。
そんな人達と仲良く談話しちゃったりしている僕は、勿論“弱者”である訳で――――
◇
◆
トイレから出て、教室に戻り、席に着く。
教室に戻るまでの間には誰も話しかけてくる者は居ない。
――まぁ、僕に気軽に話しかけて来る様な間柄の人は殆ど居ないんだから当然だけど。
……容貌としても、社会的な風評、所謂スクールカースト的に圧倒的下位に位置する僕に話しかけて来る様な無駄をする人間はこの学校には居ないだろうから。
取り柄は授業のテストの成績のみ――だなんて、我ながらなんて典型的ながり勉オタクだと呆れ果てる。
自らそういう位置を占めたくて
……ただ、自然に、そう、高校に入学してからの3ヵ月、夏休みが始まる前までの、他者に言わせれば高校生活の明暗を分けるその時期に、僕自身の気質からと、僕自身の状況からそれを面倒がって他の
そして、運悪くも僕のクラスには、僕と同じ様なぼっち友達が組める様な相手も居らずに――
「――あっれーっ? アキラ戻ってきてんじゃーん」
「おっせーよ。何やってたんだよっ」
「くすくすくすくす……」
――……こんな相手に集られる羽目になってしまったのだ。
◆
2043年――日毎に技術が進歩していくこの21世紀も半ばにおいて、当然ながらそれに連れて法が、規則が、慣習が、そして常識が少しずつ、少しずつだが段々と移り変わっていくこの時代。
……かつて、学校という教育の場における、“いじめ”というのは非常に大きな社会問題として挙げられていた。
あらゆる面においての“強者”から“弱者”に対する搾取の典型。
暴力、権力、学力といった物だけではなく、精神的に行われたり集団で行われたりする事で被害者の心に致命的な
子供の悪知恵で大人に隠れて行われていたり、時にはその大人までいじめに加担したりしていた事もあり、それ程の大事であっても予防は難しい物と思われていた。
――――そこに、技術の革新により十数年前に普及し始めた“セキュリティシステム”が無ければ、あるいはこの進歩した時代でも人々は変わらず弱者を苛め抜いていたかもしれない程に。
詳しくは割愛するが、主に公の場に優先的に配置される様になったこのセキュリティシステム――当然であるが従来の監視カメラ等と違い死角等とは無縁であり、暴力やその他犯罪的志向の行動を察知すれば即座に映像付きで関連会社に通報までされるスーパーマシンだ。
……僕としてはもう少しデザインを格好良い物にしてほしいと個人的には思っているのだけど。何処かで見た事あるようなデザインだしね。
古典的な漫画等に見られる“校舎裏”的な死角はなくなったし、単純な暴力は勿論、恐喝や恫喝等も警告と共に学校側へ通報される。
勿論、私物の盗難や嫌がらせ等もその影響で殆ど無くなり――
なるほど、ろくな人的コストも支払わず理想的な教育現場にできたものだと――
……そう思うのは、まともに生徒と向き合っていない様な教師だけだろう。
確かにいじめの問題は減った。激減した。
だがしかし、それはいじめがゼロになった訳でも被害者がゼロになった訳でもない。むしろそのやり方が更に陰湿になっただけだ。
更衣室や個室など、先生は勿論セキュリティシステムすらも入り込めない“プライベートエリア”は未だに残っているし、セキュリティシステムは声音さえ気を付ければ生徒同士の、友達同士のおふざけのじゃれ合いと巧妙な強請りの判断もまるでつかなければ当然、友達なのだからと密着して行われる
折角あんな高性能な機械が開発されて十数年も経っているのだから、今後は陰湿な“イジリ”や“ツッコミ”もちゃんと警告対象に入れて欲しい物だと思っているのはきっと僕だけではないだろう。
……尤も、そんな僕だって恐らくはまだマシな部類なのだろう。
僕がされているのはそれらの他には、強制的に宿題等の写しをさせられる程度。
自宅等の完全な密室に、自分だけのプライベートエリアに上がり込まれて恐喝されたり、学校側が完全にグルになって追い込まれたりしている訳ではないのだから。
…………そう。
だから、僕はまだマシなのだ。
元より、学校生活に大して期待なんてしていなかったから。
底辺でだって別に構わない、救済を願っている訳でもない。
このまま華の高校生活が過ぎていくであろう事に暗い想いを抱かない訳でもないけども――――もう、仕方のない事なのだ。
――……だから、むしろ今僕がこの短い高校生活史上、最高に苦痛に思っているのは全くの別問題だった。
或いは、いじめなんてない爽やかなクラスであっても変わらなかったであろう事で――
――「でさぁ、バザーでめっちゃ良いの見つけたんだよっ! 行こうぜー!」
――「マジか。どんくらい値切れそうかな? うっしっしー!」
――「うん。それじゃジョブチェンしたら中央オアシスに集合……」
――――嗚呼。
人は、この感情を――嫉妬、と言うのだろう――――
◆
不幸自慢なんて無益な事をしたくはないけども、有り体に言って僕は苦学生だった。
家庭環境は……さておき、自分の自由に出来る金銭なんて殆どなく、参考書を買ったり毎日の食事をささやかな範囲で豪華にしたり――そして、自分の趣味を叶えたりしたければ、自らバイト等で金を稼がなければならなかった。
……小中学校の頃は辛うじて居た数少ない友人に引き摺り込まれたゲーマーとしてのサガを発散したり、インターネットで遊べないというのは個人的には死活問題だった為、高校に入って速攻で高校生でもできるバイトを探したっけなぁ。
そして、アルバイトと勉学と、更に学校生活を全部円満に出来る程僕は器用ではなくて――それ自体は、別に構わなかった。
何が嫌だったのかと言うと、至極単純――――
私の勘にびびっと来たあのゲーム。実際にMMORPGの歴史を塗り替える程の能力を持つ――<Infinite Dendrogram>。
――――それを、自他共に認めるオタクでゲーマーな僕が初動に乗り遅れて、今までゲームなんて殆どした事ない様な
そりゃぁね?
いくらあのハードにしては格安だとは言っても、ろくに自分の金を持てないただの高校生活三か月目である僕に出せる金額でもなかったのは仕方のない事。
夏休み直前、発売と同時に情報が来ると言う超サプライズな初陣で世界中の度肝を抜いたあれを手に入れる為に夏休み中をアルバイト漬けにして、転売厨に常の百倍の殺意を燃やしながら漸く今日からプレイできると言うのに――
彼奴等と来たら親のコネかリア充同士の繋がりかは分からないが、初日に近い時期から始められていたと言うのだから憤懣やる方ないとはこの事だ。
それも、買って遊ぶのは当然としても、彼奴等はそこまで真剣にプレイするでもない所謂“エンジョイ勢”だという始末――!
……分かっている。これは欠片も正当性のないただの理不尽な八つ当たりの嫉妬なのだと。
だが、それでも若輩ながらゲーマーとして物申したい気持ちが溢れんばかりに湧いてくるのだ。
僕は、時間的な都合もあってMMORPGに本格的に手を出した事はない。
しかし、触り程度であればVRMMOも含めて有名タイトルにはいくつか手を出していたし、むしろああいう広大な世界を舞台にしたオフラインゲームが一番の好みでもあった為、偶にソロで活動くらいはしていた事もあった。
さて、MMORPG――マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲームにおいて、サービス開始直後の初動と言うのは非常に、非常に大きな意味を持つ。
まだ誰にも開拓されてないそのゲームのあらゆる総て、イベントにダンジョンにアイテムにボスモンスターに――それらに挑戦して得られる報酬のみならず、ノウハウのない状況で失敗して得られる経験だって後続には得難い貴重な物だ。
MMOのタイトルによってはその“はじめて”を踏破してみせたプレイヤーに少なくない報酬を与える事も珍しくない。
その点、<Infinite Dendrogram>は――調べる限り、確かに初動だけでは決まらない。
だが――間違いなく、初動が非常に重要なMMORPGでもあったのだ。
圧倒的リアリティを誇る世界と、NPCであるティアンの存在もあって確かに未踏破のダンジョンやボスモンスターを攻略するカタルシス、という方面の線はない。
だが、<Infinite Dendrogram>にはそれ以上に重要な
ボスを倒してMVPに選ばれればほぼ戦利品や生産装備の同部位の装備の価値が無くなるほどに超強力な特典武具。
非常に難しい条件を達成した――それぞれ
……この二つだけで絶望的に埋め難い程にプレイ時間の重みの差があるというのに、時間加速と<エンブリオ>と言う、<Infinite Dendrogram>が広告に挙げた二大要素が更にその差を広げていく。
既にサービスが開始してから一ヵ月半――だが、実際は一ヵ月半ではないのだ。
そう、時間加速で三倍速にまで加速された内部時間は既にサービス開始から五ヵ月近くもの時間が過ぎている。
五ヵ月……MMORPGで五ヵ月遅れの新参とか、ゲームの内容次第では既に絶望的な事になるだろう。
更に、<エンブリオ>という下級と上級の差が非常に激しいそれが全
試算して夏休み明けまで全く手が出せそうにないと分かった時の僕の絶望具合と、この嫉妬も仕方のない事だ。
そう自分を慰めなければまたネガティブの連鎖に陥りそうだ。
だから。
――そっちも早くゲームしたいんだろう。だから今日くらいは平穏に終わって僕を家に帰してくれ…………!
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そして、途中神を呪いたくなる様な顛末を無視し漸く辿り着いたのは<Infinite Dendrogram>のスタート地点。
即ち、キャラクターメイクの場である管理AI達の居場所のこの若干ながら特色の出る不思議空間。
僕は担当の管理AIであるハンプティダンティさん(卵状の膜に覆われたすっごい美少女さん)の気怠げな視線に出迎えられながらも順調にキャラクターメイクを進めていく事ができた。
キャラクターネームは他のネットゲームでも使っていた物を、装備もありきたりな長剣と布鎧にして。
容姿は――若干急かされたのを無視して、時間を掛けて気合を入れて現実の僕とは似つかない程の美少女の
やっぱりゲーム内で見るなら美少女アバターだよねという事で――そして、視界はそれもあり、更にとある目的の為に現実準拠の物を選ぶ。
……後半と言うか、序盤以降殆どぼーっとしながらやる気なしで対応されてたっぽいけどね。
流石にそろそろ不幸を自認しても良いかもしれない、と思いながらも――最後の最後にお待ちかねの<エンブリオ>を移植されて無事キャラクターメイクを全て完了する事が出来た。
……キャラクターメイクを完了するだけなのに無事って付ける所からしてもうおかしいのは気にしてはいけない。
この<Infinite Dendrogram>におけるキャラクターメイクは複数居る管理AIが持ち回りで行っていて、どの管理AIが担当するのかはプレイヤー側は全く選べないからだ。
そして、なんと驚く事に管理AIの中にはプレイヤーに対する対応を適当に済ますとんでもない管理AIまで居るのだとか――
……と言うか、
僕ってばこんな所でまでリアルラックの低さを醸し出していくのか……
「それじゃ、これでキャラクターメイクは全て完了よ。質問はないわよね? 早速<Infinite Dendrogram>の――」
「わあぁっ!? ち、ちょっと待って。ある、ありますよ質問!」
――つい考え事している間に勝手に進められそうになっていたので慌てて制止する。
危ない。管理AIとは言えAIなんだし、返事をする前に飛ばすなんて事は流石に……ないと思いたいけど、なんとなくこの少女ならやらかしそうだと思ってしまう……
……と、数瞬沈黙しているとハンプティさんに半眼で睨まれてしまった。
目は口ほどに物を言う……とはいえ、ここまで目線と表情だけで“早く質問を言え。無いなら進めさせろ”とハッキリと分かるのは凄いよね。
――慌てて止めたけど、確かに質問は、あるのだ。
…………僅かに言い辛い質問だけど、待たせると圧が凄いのでなるはやで言ってしまおう。
本来なら、ゲームの運営を行っているAIに聞く様な事ではないと判っていながら――
「――はい。管理AIの貴女から見て僕には何の才能がありますかっ!?」
◇
◆
□■商業都市コルタナ アルファ
そして、<Infinite Dendrogram>内の初期国家の一つ、カルディナのコルタナと言う都市に降り立った僕は。
……絶賛先程の質問を悔やんで、初期地点の直ぐ近くの建物の影で羞恥に悶えながら蹲っていた。
(いや、我ながらあの質問はやっぱり変だったよね……自重しろ僕!)
流石に恥ずかしいので口には出さずそう自答するしかない。
ゲーム進行用の管理AIに人生相談とか、多分何処で聞いても正気を問われる様な爆弾行動をしてしまったのだからそれも仕方ないと思う。
お前はゲームに何を求めているのかと、もっと現実を見ろと――
だけども、自分の事ながら弁護しておきたい。
確かにこのゲーム、<Infinite Dendrogram>にはそれが聞けるだろうと思える程のスペックがあるのだから――
従来のAIとは一線を画す演算能力や情報処理能力の他、圧倒的にして様々な能力を持つ管理AI。それが13体も配置されており――
<エンブリオ>という、明らかに
……ゲームを始める前の僕の予想では、かのヘルメット型のゲームハードが怪しいと踏んでいた。
あのゲームハードで何らかの方法によりプレイヤーの脳内情報から何から全てを読み取って、複数の管理AIの演算能力を結集させて相応しい<エンブリオ>を
そして、それはこうしてゲームを始めた今。発言を若干後悔していながらも――殆ど確信に変わっていた。
それこそ、あの質問をする前から。いや、確信をしていたからあの質問をしたのだけども。
ハンプティダンティさんは確かに気だるげにキャラクターメイクに付き合ってくれていた。だがそれは全く説明をしないという事でもなかったし、質問には一応答えてくれるだけの対応をしてくれていたのだ。
そして、その一応答えてくれたというだけの僅かな答えでも十分だった。
あのゲームハードを通して脳波データの登録や、被っているのはヘルメットだけであるというのにアバターを作る際に現実の全身の姿を即座にモデリングできるという、それらだけでも僕のしていたただの妄想がある程度核心を突いていたのだと分かったから。
……実際に、技術力とかどうやって実現しているのかなんて全く分からないけど、それでも、ゲーム側がそうやってプレイヤーのパーソナリティを測定していると言うなら、当然気になるんじゃないだろうか。
正しくプレイヤーの全てを反映していると言うのなら――己の向き不向きを、才能すらも測定する事ができるんじゃないかって。
そして――こんなクソッタレな人生を歩んでいる僕でも何か為せる事があるんじゃないかって。それを知れるんじゃないかと――
……そう期待して質問したのだけど
「――えぇ? そうねぇ……あなたはそんなに特筆する様な才能無さそう、かしらね?」
「――……あら、ごめんなさい。でも、本当に何も才能がない人なんてそんなには居ないから安心していいんじゃないかしら」
「――どうしても気になるなら……えぇ、あなた自身の<エンブリオ>に託してみるのも良いんじゃない? 期待しているわ――――」
才能、そんなにないらしい。そっかぁ……ないのかぁ……
黙秘や詭弁を弄されなかった事を喜ぶべきか、それとも返答の内容に落ち込むべきか少し悩んじゃうよね……
結局最後にはゲームをプレイしてからのお楽しみ! っていうありきたりな構文だったし、深く信じない方が良い類なのかもしれない。
けれど、やっぱり結構決心して質問したつもりでもあるので羞恥も合わさって心の傷が疼く……!
「……ま、後は<エンブリオ>を楽しみにするしかない、かぁ……」
そう呟いて、壁に背を預けて表通りを――商業都市コルタナの雑踏を見やる。
大きな、とても大きなこの都市の大通りには多くの露店が立ち並び、道行く人々は活気と活力に溢れている。
そこかしこで客引きや値引き交渉の、あるいは感嘆に満ちた笑い声が響く。
……遠くから見ても、紋章の有無で<マスター>もティアンも変わらず相当数居る事が窺い知れる。
誰も彼もが生き生きと、己の全力で生き足掻いている姿だ、と僕はそう思った。
「…………」
反面――僕は何をやっているのだろう。
インターネットで話す知り合いだって、その中には<Infinite Dendrogram>をプレイしていると公言していた知り合いだっていた。
ネット上では友達と言い合う間柄の人だって、他のMMORPGで良く組んでいた人達だっていた。
なのにそういった人にも知らせず、独りでこうやって一生懸命な人達を遠くから見てるばかり。
ただ独り、誰にも知らせずこの世界に来たのだ。
学校でだって――他人が楽しんでいる所を見て、無意味に嫉妬し、賢しらに己の才能を――
そして、それが得られなかったからってこうして不貞腐れた
「……はぁ、度し難いよねぇ……」
心の底から、そう思う。
自己分析しながら、自己嫌悪して、自己陶酔する……本当に度し難い。
そりゃぁ、こんな何処でもうだつの上がらない自分に才能があるか、なんて聞かれてハンプティさんも困りものだろう。
そんな僕に、何が出来ると言うのだ?
この<Infinite Dendrogram>だって、実質五ヵ月弱も出遅れている、調べた程度の情報しか持っていない僕に。
「本当に度し難い…………」
本当に、呆れ果てる。
あのハンプティさんが言った様に――己のパーソナリティを反映している生まれる<エンブリオ>であれば、何かしてくれるんじゃないか、と。
この広大にして、まるでもう一つの現実であるかの如くリアリティを持つ世界で。
未だに期待を捨てきれないのだ。きっと、
◆
そして。
その期待は――確かに叶えられる。
それは、確かにその<マスター>だけの真似できない力であり。
それは、確かにその<マスター>と常にこの世界で共に在り。
それは、確かにその<マスター>のパーソナリティにより生み出されたオンリーワンの“力”だった。
尤も。
<マスター>のパーソナリティを参照して生まれる<エンブリオ>の総てが尋常の物であるという訳ではないのだが――――
◆
「…………あは、あははは」
そうして。
僕の<エンブリオ>はそれから直ぐに、無事に孵化した。
酷く清々しい気分だ。笑いたくなるのも無理はないといった所だ。
そうと意識するだけで、僕のエンブリオ――【廃滅神話 イシュチェル】が展開され、そして広がっていく。
TYPE:テリトリー――その中でもそこそこの範囲を持つらしい僕の<エンブリオ>が薄く周囲にその手を広げる。
当然ながら――ここは商業都市、コルタナ。
七大国家、カルディナにおける<マスター>のスタート地点である此処では、<エンブリオ>を孵化させたばかりの<マスター>がTYPE:テリトリーの<エンブリオ>を無造作に広げるのに慣れ切っていたのだろう。
道行く<マスター>の幾人かがこれを察知してか僕の方に視線をやる――が、即座に視線を元に戻す事となった。
「……まぁ、そうだよね」
……当然、そうなるだろう。
まだジョブにも就いていない、明らかに<エンブリオ>を孵化させたばかりの独りでいる新米<マスター>に絡んでいく様な物好きはそんなに居ない。
……或いは、とても勘の効く<マスター>がこの中に居れば、止めてきたのかもしれないが――
「――よし! 少し遅れちゃったけど、僕も頑張ろう! まずは――」
そう、まずは――――あのハンプティさんの言った通り、全力で自分の<エンブリオ>にそれを託してみようと思う。
…………あはは。
――それでも。
それでも――僕の<エンブリオ>は、
だから……周囲にいた<マスター>の皆さんは、ご愁傷様――――
「――――《
【致死ダメージ】
【パーティ全滅】
【蘇生可能時間経過】
【デスペナルティ:ログイン制限24h】
◆
◆
……そんな訳で。
僕の<Infinite Dendrogram>歴はここから始まったのでした、と。
聊か冒涜的な<エンブリオ>が孵化しちゃったけども――さて、あれが僕の才能なのか願望なのか、はたまた全く違う何かなのか。
それはまだ分からない――けれど。
……それも、僕が知りたかった事も、きっとこの
そう思うんだ――――
…………End
ステータスが更新されました――――
名称:【廃滅神話 イシュチェル】
<マスター>:アルファ
TYPE:テリトリー
能力特性:崩壊
スキル:《世界が終わる日》
モチーフ:洪水や虹を司る女神でありながら人間に対しての破壊神でもあるマヤ神話の女神“イシュチェル”
紋章:罅が入った花弁
備考:凄く無差別なTYPE:テリトリーのエンブリオ。
固有スキルは範囲内にある全ての“エンブリオとその生成物”に対して即座に特攻ダメージを与える超攻撃型。
特定対象のみを『条件』とし、更に自分も、自分の主すらも『無制御』に効果を与え、更に結果としてそうなるのかはともかく、自壊と言う『制限』に加え、HP・SP・MPの割合消費や長いクールタイム(デスペナった為あまり意味はない)という非常に厳しい制約を持つ。
それ故かそのダメージは防御無視、軽減不可の固定ダメージとして範囲内の全対象に即座に与えられ、ダメージ量も第一形態の現時点で約10000と破格の大ダメージを与える事ができる。
尤も、どれだけ効率的にダメージを出せたとしても対象外の相手には全くダメージを与えられないのだが。
多分第二形態とかでそこそこ使いやすく自壊せずに接触限定でダメージを出す固有スキルとか覚えるタイプ。
それも“エンブリオとその生成物”という条件は変わらないだろうが――