無限の世界と交錯する世界   作:黒矢

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前回のあらすじ:2040年代のああいう事情考えるだけで楽しかったと言うのはあるしあの子のあれはどう考えても氷山の一角未満


来栖恋也の場合/燃え上がる様な――・FBIMの場合/大焦熱地獄

 

 

 ――つまらない日常は嫌いだ。

 

 ――ありきたりな物は要らない。

 

 ――冷めた様な当然に価値はなく。

 

 ――ありふれた普通にも興味が持てない。

 

 

 ――もっと、もっともっと刺激が欲しいんだ。

 

 ――熱く熱く、燃え上がる様な、鮮烈なるソレを――――

 

 

 ――――この遊戯(・・)でなら、或いは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□■2044年1月1日  <ノズ森林>

 

 眼前に大型の狼のモンスター――【ティールウルフ】が迫る。

 八匹纏まった群れが、勝利を確信しその顎を大きく開き、同時に狙っていた青年に襲い掛かる――

 

「――《神宝反射鏡》。はっ! 効くかそんなもん! てやあぁぁッ!!」

「油断しないでね、来栖君。《クイック・スロー》!」

 

 しかし、モンスターとしては珍しい群れの連携攻撃、死角からも狙ったその攻撃は――青年の周囲に薄く張り巡らされていた障壁に罅を入れる事すら叶わず反射され、牙が砕かれ衝撃で顎まで破れ。

 更には返す刃の大剣による薙ぎ払いと、後ろに控えていた【斥候】の女性が投擲した短剣により、群れの数は次々と減っていく事となり――

 

 ……この<ノズ森林>に巣食っていた中でも、そこそこ大型の【ティールウルフ】の群れは、そうやって新人<マスター>二人の手で容易く壊滅させられたのであった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2044年、1月1日。

 

 ――謹賀新年!!

 お正月、三箇日、新年――その目出度い、多くの人の休日である祝日を、当然の様にイベントを企画する人間達は見逃す訳がない。

 それは現実でのイベントだってそうだし、商店でも多くの店が福袋等と言い張り昨年の余り物を詰め込み売り出したりしたりしなかったりするものだが――ネットゲームにおいても、それは変わらない。

 多くのネットゲームが、その媒体によらず正月、新年イベントと題して非常にお得なイベントやキャンペーンを催して、既存客を更に深みに嵌らせたり新規客を呼び込んだりするのであった。

 所謂、“季節イベント”としても、周年イベントに並ぶ大規模な物となりがちなこの“新年イベント”であるが――当然ながら、昨年の7月に始まったばかりの新進気鋭の大型VRMMORPGのタイトルである<Infinite Dendrogram>でさえも例外ではない!

 

 サービスが開始してからの、初めての新年イベント――流石にこの時ばかりはおよそ月に1回か2回あるかないか程度しか公式イベントを行ってこなかった管理AI(運営)と言えど奮起する物。

 つい先日行ったばかりのクリスマスイベントの後処理と並行し、新年イベント用の景品やイベントモンスターの作成と湧出(ポップ)の設定、イベントのアナウンスに――他の懸念事項の有無の確認も終え。

 

 そうして行われた<Infinite Dendrogram>の正月イベントであるが……奇を衒った趣向ではなく、単純に非常に効率が良いイベントモンスターが多数湧出する様になっていた事もあり既存の<マスター>達には概ね好評に受け止められ――

 ――今までのゲーム運営の成果、多数の<マスター>達の口コミや評判もあり、正月という冬季の大型休暇に多くの新規顧客(新人<マスター>)の獲得に成功したのだ!

 

 七大国の初期スタート地点には新人<マスター>達と将来有望そうな若人を勧誘せんとするクラン達でごった返す事となり、更には各国の初心者狩場も<Infinite Dendrogram>サービス開始暫く以来の賑わいぶりを見せる事になっていた――

 

 

 

 

 (順調順調。<Infinite Dendrogram>サマサマだな!)

 

 そして、ここ、奇しくもデンドロ内でも冬季の季節がやってきておりやや肌寒いこの<ノズ森林>で現在絶賛活躍中の、内心はしゃぎっ放しの青年、来栖恋也もそんな新人<マスター>の一人だ。

 ゲームを遊戯(ゲーム)として純粋に不純に楽しみに来た彼は、ぱっと見では非常に順調なスタートダッシュを切れた新人<マスター>の一人だった。

 

 ……この世界にやってきた直後こそこの世界のリアルさにたじろいだりした物の、それを吞み下し【騎士(ナイト)】のジョブに就き、早速初心者狩場に狩りに出る前には自身の<エンブリオ>、【災禍反鏡 マフツノカガミ】も孵化させるに至る。

 更に、自身の<エンブリオ>である【マフツノカガミ】が持つ強力な固有スキル――《神宝反射鏡》。

 MPを継続消費して自身に対する全攻撃を反射するという“まさにチート!”とも言うべき性能に興奮するなというのは無理があるだろう。

 それは、まだジョブに就きたてのひよっこである彼ですら、油断も慢心もしていて尚<ノズ森林>の中でも大きい方のモンスター(非人間範疇生物)の群れに出くわしても全くの無傷で返り討ちにできた事からも察せられる物だ。

 

 そして――もう一つ。

 彼がこの世界(ゲーム)に求めていた物も――

 

 

「――来栖君? 君の<エンブリオ>が有用なのは判っているけども、消費もあるんだからあまり突出しちゃダメよ?」

「わ、分かってますとも! このゲームでは何が起こるか分からないから街に戻るかログアウトするまで油断するな、ですよね!」

「よろしいっ。まぁ、こんな場所に〈UBM〉とかが出てくる事はそんなにはないと思うけど、一応ね」

「はい!!!」

 

 

 そう、この世界(ゲーム)で知り合った女性の新人<マスター>、【斥候】のイリスと組む事が出来たのが、一番の収穫だった――!

 ……別にそこまで隠す事でもないだろうが。

 率直に言って、彼は直結厨 (軽度)だった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直結厨。

 それは、俗に言ってネットゲームにおいてゲームの内容よりも異性との出会いを求めるネットゲーマーを揶揄したネットスラングだ。

 その起源はそれこそネットゲームという物が世に生まれた40年以上前にも遡る事ができ、むしろその時代ではネットゲームにおける交流の一環として割とありふれた存在であった。

 一時期はネットゲームで知り合った男女が現実(リアル)でも付き合い始め、そして結婚に至るケースも相応数見受けられ、更に技術が、インターネットが普及してからはそういったネット婚に関しても世間の寛容さも増してきてはいる。

 

 しかし、ゲーム内の評判においては必ずしもそうとは限らない。

 端的に言って、ゲーム内での効率よりも交流や出会いを求める彼ら“直結厨”と、ゲームの攻略と効率化を最優先としたい“効率厨”は互いに絶対に相容れぬ犬猿の仲なのだ……!

 その争いの歴史は非常に血濡れで根深い物となっているが、今回の話には特に関係ないため割愛させていただく。

 

 今回の話、そして来栖氏にとって重要な事は――<Infinite Dendrogram>は非常に直結厨から見ても理想的な環境である、という事だ。

 

 まず一つ目に、<Infinite Dendrogram>はリアルでも女性のプレイヤー(<マスター>)の比率が非常に多いのだ。

 少なくとも、他のネットゲームと比べたら格段と。

 それだけでも十分に素晴らしい事に加えて――この遊戯(ゲーム)には、ネカマ(・・・)が殆ど居ない、という事実を抜かす事はできない。

 VRMMOとしての特性なのか、技術力的な問題かは彼らには分からないが、現実の自分の異性の身体(アバター)を作り、動かすというのはえも言われぬ違和感に襲われ、多くの人がそれだけで引退(リタイア)しまう程のマイナス要因になってしまうのだ。

 ……本来は、アバター作成の自由度がそれだけ低い、と言う事でマイナス要因になるそれはしかし、即ち女性<マスター>を見つけたならそれは十中八九現実でも女性であるという証左となるのだ!

 

 勿論、容姿の美醜はキャラクターメイクで大幅に改善出来る為、リアルの容姿のアタリ(・・・)を保証できる物ではないが――

 来栖氏程度のライトな直結厨(清らかオタク)であれば、むしろリアルで直接会う勇気はなくともリアルで女性だと確信できる美麗な身体の人と仲良くできると言うだけで十分最高なのであった。

 

 第二の理由としては――<Infinite Dendrogram>の目玉でもある、<エンブリオ>の存在だ。

 何を置いておいても、“特別な”、“自分だけの”――力、というのは良い。直結厨である彼らをしてもその存在は非常に都合が良い。

 ……元来、人に限らず、動物と言うのは優れている異性に惹かれるモノだ。

 容姿、財力、学力、将来性――そして、単純に能力や、自分に持っていない何か、などだ。

 

 ……ゲームで異性にアピールする様な人間が何を言う、と思われるかもしれないが、彼ら(直結厨)は彼らなりに真面目にゲームをやっているのだ。

 そのゲーム内で己の能力(・・)を異性にアピールする為に、自分に注目して貰いたいが為に、或いは推しの“姫”に貢ぐアイテムを手に入れる為に(姫プレイについては長くなる為省略するとする)。

 だが、悲しいかな。やはり彼らは直結厨なのだ。

 それらは目的(直結)の為の手段の一つであって――それを一番の至上目的とする効率厨には一手も二手も上手を取られてしまう。

 

 しかし――<エンブリオ>があれば、話は違ってくる。

 己のパーソナリティを元にして生まれる、自分だけの固有スキルを持った無二の相棒。

 それがあれば、<エンブリオ>の特性によって相性で、限定条件下等で――ただ<エンブリオ>の<マスター>であるというそれだけで、並み居る効率厨以上の戦果や結果を手に入れる事も夢ではない。

 それほどに、<エンブリオ>とその固有スキルというのは強力なのだから!

 

 

 そして――三つ目。

 …………これは、直結厨としても激しく意見が分かれる事案ではあるが――一言で言えばティアン(NPC)の存在だ。

 ティアンと<マスター>の結婚すらもあり得るあの世界において、直結厨が果たしてどう行動するのか――それは、また別の話になるだろう…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて。

 そんな直結厨 (ライト)の来栖氏であるが、彼は直結厨としても好調なスタートダッシュを切る事が出来ていた。

 初期スタート地点や転職用のクリスタルがあった騎士団、そして冒険者ギルドでも目敏く自分を同じ様な新人女性<マスター>が居ないか探して――早速、こうして見事に組む事が出来たのだから。

 初々しい初心者時代の、女性とのペア狩り――同じ直結厨から見れば羨ましがられる様なその境遇にありつける事ができたのだから。

 

 尤も、イリス氏はそんな魂胆も見抜いて、むしろやんちゃな弟でも見るかの様な目線で接しているのだが――彼にとってはそれだって十分なご褒美なのであった。

 一応モンスターの警戒しながらではあっても、彼の固有スキルの強力さもあり十分談話しながら行える範疇だというのも良い。

 素晴らしき我が<エンブリオ>也! 等と自画自賛したくなる程には。

 

 狩りも順調、コミュニケーションも順調、とルンルン気分で<ノズ森林>を行く彼らの前に敵う者が居る訳ないのだから。

 

 (警戒、って言ってもイリスさんのお陰で殆ど必要ないしなっ。これは本当に当たりだぞぅ!)

 

 ――その一因は、またもや<エンブリオ>だ。

 幸運にも、イリス氏の<エンブリオ>、【グライアイ】と呼ばれていた機械の小鳥は索敵特化の固有スキルを所持しているのだから。

 周囲数百メテル+αの範囲内において彼女が見逃す者は何もなく。

 

 この<ノズ森林>において無敵の反射能力と索敵能力があれば、どの様な不測の事態が起きようと何とかなる筈――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――だったと、過信していたのだ。

 

 忘れてはいけない。

 この<Infinite Dendrogram>において、不測の事態、所謂理不尽とは即ち、他の<マスター>や〈UBM〉の乱入。

 

 

 ――つまり、未だ第一形態である彼らを遥かに凌駕する固有スキルを持つ化物達による行いだという事を――――! 

 

 

 

 故に。

 彼らに出来た事は、それ(・・)に、そしてその前兆に気付く事だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――いけない、来栖君!」

「へ、はいっ!?」

 

 順調に。

 順調に進んでいる時、ふと横を歩いていたイリス氏から切羽詰まった声でそう言われる。

 すわ奇襲か不意打ちか――と、(来栖)も即座に《神宝反射鏡》を展開する。

 割と狩りではガチ勢のイリス氏の影響を受け直ぐに反応する事が出来たのはこの短期間の狩りの成果か。

 

 

 しかし。

 

 

 

 

 

 ――――天焼く魔弾(インフェルノ)

 

 

 

 

 

 遥か――遥か遠方の、森林の中に切り立った崖の上。

 そこに居た一人の(<マスター>)と彼が銃身を向けながら呟いた言葉に、イリス等を含む索敵系の能力を持った僅かな人員は気付く事が出来たが――意味はない。

 仮に気付けたとしても、<ノズ森林>に居る様な新人<マスター>には、それを防ぐ術も、避ける術もないのだから。

 

 

 

 直後。

 直径にして、百メテル(・・・・・)もの巨大な火球が<ノズ森林>を貫き通し。

 ノズ森林の一角、およそ1割近くもの広域が――灼熱の業火によって焦滅された――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■【銃砲狂(トリガーハッピー)】FBIM

 

 

 

「あはははっはあぁっ! 良ーい景色だなぁ!」

 

 燃える、燃える、燃える――

 つい先程までは薄着では過ごし辛い程の寒気を孕んでいたこの<ノズ森林>が――猛火に包まれ凄まじい程の熱気に晒される。

 木々に炎が燃え移り、モンスターや、新人<マスター>達が火炎に巻かれながら逃げ惑う様を、こうやって上から眺めているだけで胸がすく様な感じすら覚えさせる!

 中には、運悪く俺の<エンブリオ>、【煉獄魔炎 インフェルノ】の必殺スキルで作られた火炎の弾丸(・・・・・)が直撃しデスペナルティになった新入り<マスター>も多数居た様だが……

 

「くっくっく。可哀想になぁ。デスペナが明ける頃にはもうイベント終わっちまうぜぇ!」

 

 

 

 俺の名前はFBIM。

 ――PK(プレイヤー・キラー)だ。

 

 

 

 

 PK――即ち、同じプレイヤーである<マスター>を殺す事を生業とする者だ。

 PKの恩恵も、理由も多岐に渡るが――おそらく、俺みたいなのがその中でも多数派だろう。

 

 ――ただ(・・)面白いから(・・・・・)やっている。

 

 だってそうだろう?

 信じられない者を見るかの様な顔で消えていく奴。

 抵抗する手段を持たず、恐怖と絶望で彩られた顔をして消えていく奴。

 ああ、必死で従魔を【ジュエル】に戻そうとしたりする奴も居たっけな――PKなんて初撃でほぼ決まるんだからもう遅いのになぁ!

 

 俺としては、決死の覚悟をして向かってくる癖に――対人に慣れ切った俺ら(PK)に手も足も出ずに死んでいく馬鹿な奴が一番最高だったが、まぁそれはPK個々人の好みって奴だ。

 他人の好みを否定しちゃいけねぇし、当然俺の好みも否定させねぇ。

 ……まぁ、一番嫌な手合い、というのは凡そ一致するのはちょっとした笑い所だが。

 

 だが、やっぱり一番にビンビンに俺達に刺激を与えてくれるのは――ここがVR、現実(・・)と同じリアリティを与えてくれる遊戯であるって事だ。

 当たり前だが、ここは他のMMORPGなんかとは何もかもが違う――特に現実準拠の描写でなら。

 

 肌で溶ける雪の冷たさ、顔を舐める炎の熱、両の手に抱える鉄の重み。

 相手を殺す感触、悲壮感に絶望の表情、刺さる程に鋭い敵意と殺意に自分が流す血の味も――――!

 何もかも。

 何もかもが――現実(リアル)にしか感じられない程のクオリティだ。

 既に万回も言われているであろうが、神ゲーとは正にこの事。

 

 そして、そんなリアルなこの遊戯の世界であるからこそ――

 

「――相手を蹂躙した時の快楽も、また格別なんだよなぁ」

 

 パチパチ、パチパチパチ……と、拍手の様に炎が爆ぜる音が僅かに鳴り響く。

 この広い広い<ノズ森林>のほんの一画ではあるが、辺り一面には灼熱の炎が回りきっており、経験値も入らなくなってきた事から察する。

 相応の火炎耐性を有する自分も、僅かではあるがHPが減ってきており、このまま滞在すれば【火傷】や更に重度の状態異常になる事は間違いない。

 

 また、そういったHP的な事情がなかったとしても――PKとして、仕事(・・)に、それも今回程の大仕事に励んだ後に一ヵ所に留まっているというのもあまり良い事ではない。

 森林の僅かな区画を燃やした程度では、他の<マスター>だって範囲攻撃等で森林破壊してる事を突けばそう指名手配される事もないが、このまま延焼が続けばどうなるかは分からない。

 ならば有耶無耶である今の内にログアウトして暫く時をおいてセーブポイントへ戻るのが――

 

 

 

 

 

【他者接触状態につき、ログアウトできません】

 

「――チィッ! 《篝火の装(クイックロー)―」

 

「させへんで? ――《薄明》」

  

 

 ――一瞬の内に、朝の陽ざしは()の薄闇にとって変わられ、高速発射の固有スキルを発動しようとした瞬間、自分の銃が、【インフェルノ】が、内側から爆発した(・・・・・・・・)

 熱を喰らい、熱を生み、熱を溜め込み熱を吐き出す、俺の無二の相棒が、無様にその上半身を焼き焦がしひしゃげた姿になり果てていた。

 そして、その余波で――相応の火炎耐性を持つ俺の身体は全身に【火傷】を負う。

 

 

「ぐぅぃ、がはぁッ!?」

 

「おー、よぉ喚くなぁ? PKなんやから自分もやり返されるかも――なんて、想像はしとったんと違うん?」

 

 

 ……炎の中から端整な顔立ちをした女性が――十数人の配下を伴って現れる。

 一様にして同じ聖印をその身に纏う、このアルター王国のトップクラン――<月夜の会>。

 その頭首(クランオーナー)――【女教皇】扶桑月夜!

 

 

 ……不味いな、まさかこんなに早くトップクラン様が手勢を連れてやってくるというのは流石に予想外だった。

 恐らく、何処かであそこの信者をPKしてたのが何かの逆鱗に触れて目を付けられていたとかその当たりか?

 これだからカルト宗教は関わりたくないんだ……!

 

 

「――はっ。トップクランのオーナー様がPK一人に随分な事だな。<月世の会>は何時からPKKを始めたんだ? 今度遊びに行ってやるから教えろよ」

 

「……本当に口が減らんねぇ。ま、常日頃からPKしてる層なんてそんなもんやね。勝ち目がないからって舌戦に切り替えようとするのはプライドがないんやろうか?」

 

 浅い挑発だ。

 ……準<超級>である扶桑月夜とその手下達の戦力であれば、ここで一も二も言わせず俺を殺すのが最善だと思っていた。

 だが、そうはして来ない。もしや、何か他に目的があるのか?

 

 背後の手下達は……ダメだな。流石に見覚えはねぇ。

 どんな<エンブリオ>を持っているかも分からねぇ。こうなりゃ死ぬ気で一発かましてやるか――

 

「――不思議そうやね? それじゃ、早速だけど要件を果たさせて貰うわー」

「あぁ? 言っておくが俺は高ぇぜ?」

 

「ああ、別に、売ってくれなくてもええで(・・・・・・・・・・・・)? ――<武器屋・ブロンズ><宿屋・末明>に<デュッセル>のホーム――あれら、放火(・・)したん、あんさんやろ?」

 

「――――」

 

 

 

 

 

 まさか。

 まさか、そんな事(・・・・)の確認の為だけに来ていたのか?

 この炎の海の中を? 公式イベントをやっているこの時期に?

 

 

 答える前に、一瞬で周囲を見回す。【観測手】のスキルまで使って、念入りに確認するが……やはり、来ているのは<月世の会>の手下達だけだ。

 

 こいつらは馬鹿なのか?

 

 仮に(・・)、俺がその犯人だと仮定していたとして(まぁ真実だが)、俺がここでそれを答えてやる意味は全くないという事も分からないのか?

 それこそ、そういった役割のNPC(ティアン)に詰問されたりその様な場に召喚されたりした場合はこの様な質問に黙秘した場合、それだけで有罪判定が下せる、という法律にはなっている。

 《真偽判定》様様だ。そして《真偽判定》の恩恵はNPCであろうと<マスター>であろうと変わらない。

 だから、仮に俺がここで答えるなら、奴らが《真偽判定》でそれを真と確定し、それを国に持ち込めば俺は犯罪者に成り得るが――

 

 ……《真偽判定》と、法律の存在を知って、そういったNPCも連れてない奴らにまともに答えてやる義理なんてひとっ欠片もある訳ねぇよなぁ!?

 

 まぁ、こんな炎の海の中を連れてきていたら炎に巻かれて死んじまってるだろうがな。

 

 

 

「おいおい、まさかこんな時に俺みたいな色男を追ってそんな事聞く為に来たのかよ? まさかお前さんそれ、NPCに依頼されたりしてるタチぃ? NPCに言われるがまま使いっ走りとかダサいって思わねぇの?」

 

「…………」

 

 だんまりか。

 表情は……読めねぇ。

 ……ま、煽りまくってもデータ的には別に俺に損も得もないだろ。

 どう答えるにしろ、相手は俺を逃がすつもりはないだろうし――俺も逃げるつもりはないからだ。

 

 ――《真偽判定》は完璧な様で、欠陥だらけのスキルだ、とは良く聞く。

 嘘ではない言葉には何も反応しないし――相手の答えを強制する効果だって持っていない。

 なら、答える必要が無いならいくらだってはぐらかし放題、ちょっと返答に気を付ければ、そしてそういった状況(・・)にさえ立たされない様に気を付ければ何の問題もないスキルだ。

 

 ……さて、周囲の温度が冷えていくのを感じながら、俺は思う。

 ――なら、思ってる事を思いっきりぶつけるのがやっぱり一番だよなぁ!

 

「マジかよお前ら。マジで本気(マジ)になってるのかよ――これは遊戯(ゲーム)なんだぜ? お前らも、あぁ確か教義でそう言っているんだよな? 『自分のやりたいようにやりましょう』――ってな! お前らNPCの奴隷やりたかったのか、ひっくわー――」

「――ああ、もうええでー?」

 

 

 ぞ わ り

 

 

 ……一瞬で、空気が変わる。

 その一瞬で、<月世の会>の信者共に戦意が満ち、各々の武器と<エンブリオ>を展開し――俺を仕留めんとその瞳を輝かせる。

 

 ……地雷だったか?

 だが、まぁ良い。それならそれで一花咲かせてやるとするか――!

  

 

 

 

天焼(イン)――ぐあああああぁぁぁッ!!!」

 

 必殺スキルの弾丸を――煉獄の巨弾を放とうとした瞬間。またもや【インフェルノ】から、先程とは比べ物にならない程の炎が吹き上がる。

 

「ああ、気にしとったね。よぉ効くやろ、これでも見様見真似やから、上手くいって良かったわー――自分の武器(火炎)への耐性を奪われるのは厳しいやろ」

 

 必殺スキルを、しかし放てずに蹲った俺に対して、扶桑月夜はそう言う。

 ……《月面除算結界》は知っていたが、こんな事も出来たのかよ! 

 熱に――炎の熱に身体中の感覚を支配される。

 身動きせず、できずに――今攻撃してくれるなよと祈りながら時が過ぎるのを待つしか――――

 

 

 

「あ、そうそう、はぐらかされたって別にうちらは全然問題ないんやで? うち等はあんさんとは違って、世界派やから――別に(・・)言葉にされなくても質問の答えが聞ける(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)っちゅー<エンブリオ>も居るんやで」

 

「……!?」

 

 そう言われ、咄嗟に信者共を見て――見つけた。

 

 俺を真っすぐに見つめる人面の四足獣――ガードナーの<エンブリオ>とその<マスター>が、俺を鋭い瞳で睨んできている事を。

 

 

 ……あーらら。これはもう、バレちまってるみたいだぜ。

 やっべぇなぁ。一応他国にもセーブポイントはあるが、王国が一番やり易かったんだがなぁ。

 <マスター>(殺しても死なない奴)じゃなくて、ティアン(殺したら死ぬ奴)を焼き殺すあのスリル(刺激)――もっと味わいたかったんだがなぁ。

 

 

「あんさんの<エンブリオ>も、こうやって対策済み。必殺スキルのクールタイムだってもう明けさせへん――神妙に、お縄につきぃや」

 

 

 

 ……あー。

 こいつはダメだな。

 

 やっぱり何度考えてもこの状況を打破できる手段はないな。まぁないだろうな。

 こうなったからには、仕方がない。

 そう腹を括って覚悟を決める。なぁに、他の国でなら多少やりづらくっても遊べるさ。

 

 ――――だが(・・)

 

 

「…………どうやら、こいつも自分の運命を悟ったみたいですな」

「当然でしょう。最早抵抗の目はありません。〈自害〉でもして手間を省いてくれれば良いのですが――」

 

「――待て、熱い(・・)? スキルで守られているのに――ッ!?」

 

「――あかん、今すぐ仕留めるんやッ!」

 

 〈自害〉? する訳がない。

 張り合い甲斐がなく、征服し甲斐もない――むしろ、このひりつく様な刺激を台無しにするあんな機能即刻廃止して貰いたいくらいだ。

 だってそうだろう?

 お前ら、この世界(・・)で生きてるんだろうが。遊んでいるんだろうが。

 なら、どちらであっても――足掻けよ。最後まで――最期まで。

 そうじゃないと楽しくないだろ? ――俺達(PK)がな!

 

 だから――俺も。最後に。そう、最後の足掻きに。

 この王国での特大の最後の花火を上げさせてもらうぜ!

 

「《炎王の充填(フレイムロード)》――――【天焼く魔弾(・・・・・)】×6」

 

 奴らが勘違いしていた事は二つ。

 一つ。当然だが俺が蹲っていたのは絶望していた訳でも痛みで動けなくなっていた訳でもない。

 顔を、自分の表情を隠して、ただこの準備(・・)を悟られないようにしていただけだ。

 

 そして二つ目。俺の【煉獄魔炎 インフェルノ】はTYPE:ウェポンではなく――TYPE:フォートレス・ウェポン。

 火炎の魔弾を撃ち出す<エンブリオ>ではなく、火炎の魔弾を造り出す(・・・・)<エンブリオ>だ。

 

 周囲の熱を、自分の熱を、HPを、MPを、SPを――遍く総ての()を奪い、溜め込み、集束し、弾丸として生み出す製造型の<エンブリオ>。

 銃としての性能になんて殆どリソースは割かれてねぇ。

 だから、その必殺スキルはあいつらが想像した様なそんな短期間で明けるクールタイムでもない。

 ――一週間。大量のコストと膨大な消費とその長いクールタイムによって作られる、超一級品の特大の獄炎の弾丸。

 それが必殺スキル《顕現せよ大焦熱地獄(インフェルノ)》で作られし【天焼く魔弾(インフェルノ)】だ。

 

 一発で森の一画を焼き尽くす、分類としては広域殲滅に値するほどの超広範囲攻撃。

 流石の俺も二発以上同時に撃った事はない。

 

 だが――(最期)ばかりはそんな事気にしている場合じゃねぇ!

 

 火炎耐性が低下した自身が、そして<エンブリオ>が、全身から火を噴き【火傷】は一部【炭化】となって動きも鈍くなってきた。

 痛みと状態異常と火炎の熱の息苦しさとでパフォーマンスは極限まで低下している。

 ――そんな状況でも、たった一発引き金を引く程度であれば容易いというのは、流石に自身のジョブとステータスによって鍛え上げられた身体に感謝するべきだろう。

 

 さぁ。

 最高の火遊び(お祭り騒ぎ)にしてやろうぜ!

 

「――――《全門砲火(フルファイア)》!」

 

 

 直後。

 

 <ノズ森林>の大半が――一人のPKだった光の塵を火葬するかの様に、灼熱の業火に包まれ燃え上がった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、アルター王国での快楽PK犯の罪状は暴かれ、指名手配され王国から去る事となる。

 そのPKの最後の足掻きにより、<ノズ森林>の植生や生態系にも多大なるダメージを受けたが……むしろそれだけで済んだのは王国騎士団の騎士達や<月世の会>の信者を始めとする<マスター>の有志達の力により迅速な消火がなされた結果だった事は疑いようがない。

 

 

 <マスター>がこの世界に増え始めてから、一年強。

 各国がこの様な上級<エンブリオ>の力を手にした犯罪者<マスター>の対処に苦慮しだした時期でもあり――そして、これからも増え続ける事件によって、そう遠くない内に<ノズ森林>の再生と共に風化するであろう事件の一つだ。

 その中でも被害の範囲が広かった物ではあるものの……それを唯一の特徴としてしか記憶されない様な些細な事件の一つ。

 

 だが……今は、一人の凶悪犯罪者を追放した事を喜ぶ事にしよう。

 ――後にアルター王国を襲う多くの悲劇から比べれば、この程度は嵐の前の静けさですらないのだから――――

 

 

 …………End

 




ステータスが更新されました――――

名称:【災禍反鏡 マフツノカガミ】
<マスター>:来栖恋也
TYPE:テリトリー
能力特性:反射
スキル:《神宝反射鏡》
モチーフ:八咫鏡の別名。内面の真実を映すとも言う“真経津鏡”
紋章:台座に置かれた宝鏡
備考:MPを消費して展開し、反射障壁を形成するTYPE:テリトリーの<エンブリオ>。
 鏡と言うが、壁の様な感じではなく自身の全周を覆い展開される為全攻撃を反射できる。最強だな!
 ……とは、残念ながらならない。
 なんと、第一形態の現時点では最大でもダメージにして500以下の攻撃までしか反射できない上にその限界を僅かでも上回った攻撃を喰らった場合即座に障壁が――【マフツノカガミ】が割れて壊れる。
 つまり<エンブリオ>が修復されるまで再使用できない。テリトリーの癖にこんなに壊れやすいのは正直きつい。
 更に、ダメージを伴わない攻撃に関しては現時点では素通りしてしまう為、搦め手にも滅法弱い。というか消費MPも相応に高い為持久戦されるだけで厳しい。
 ……尤も、そんな複数の欠点を抱えた上で尚、孵化したての第一形態では亜竜級未満のモンスター相手ならいくらでも無双できるので普通に強いには強いのはご愛敬。

名称:【煉獄魔炎 インフェルノ】
<マスター>:FBIM
TYPE:フォートレス・ウェポン
能力特性:火炎貯蔵
スキル:《篝火の装填》《炎王の充填》《顕現せよ大焦熱地獄》他
モチーフ:地獄、あるいは地獄の様な業火を指す“インフェルノ”
紋章:鉄を喰らい燻る火種
備考:銃型のTYPE:フォートレス・ウェポンの<エンブリオ>。
 超凄いホッカイロ。時間経過でも熱を貯蔵していき周囲から自身の<マスター>から熱を奪い貯蔵しHPMPSPを喰らって熱に変換し貯蔵する。
 そして貯蔵された熱を弾丸に精製し銃として発射する、ぶっちゃけ銃の方はオマケの見掛け倒し。
 自分で燃やした物から熱を奪って還元する事もできるエコ<エンブリオ>。何もしてなくても普通に暖かいので冬季には大人気だろう。
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