無限の世界と交錯する世界   作:黒矢

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前回のあらすじ:彼はいい奴だったよ……


シフィル・ワルツの場合/空をこの手に

□2044年2月5日 シルフィ・ブラウン

 

 

「――世界は、いつだって、こんなはずじゃないことばっかりなんだよっ!」

 

「……どしたのシルフィ。また(・・)MVP取れなかったりした?」

 

 放課後。

 友人のリーンと一緒の学校からの帰り道、寮まで向かう道すがらで突然に私が発した言葉が、それ(古典からの引用)だった。

 しかし、そんな突然の発言にも直ぐさま反応してくれるのが話の合う親友という物。

 即座に私が言っているのが私達の間での一番の共通の話題――<Infinite Dendrogram>に関する物だと察してくれた。

 

 ……まぁ、愚痴の内容はちょっと違うんだけどね。

 

「んーん。そうじゃなくて、なんというか――向いている事とやりたい事の相違、的な?」

「えっ。……今更? もう二月だよ……?」

「何月でも言いますけどっ!? 私はリーンみたいに好き勝手ヒャッハーしたい訳じゃないんですよっ」

「ひ、人聞き悪過ぎないー!?」

「はぁ、私もリーンの<エンブリオ>みたいな<エンブリオ>でヒャッハーしたかったですねぇ……」

「あれっ。無視? 私ヒャッハーしてる確定なの!?」

 

 ……そんな感じで。

 今日も今日とて私達は取り留めのない話をしてじゃれ付きながらこの短い距離を歩く。

 いつの間にか恒例になってしまったデンドロ内での近況報告も兼ねながら、共通の趣味、共通の世界に夢を馳せながら。

 

 ……世間的にはゲームで繋がった仲なんて、と言われる事もあるけど私的には悪い事ではないと思う。

 己のパーソナリティを参照して作られる<エンブリオ>を介して繋がるあの世界では、己の本質を偽る様なヒト(<マスター>)は少ない。

 だからだろうか、リーンとの仲も、<Infinite Dendrogram>を始める前と比べて格段と深いモノになった様に思う。

 そのパーソナリティを写す鏡とも言える互いの<エンブリオ>の性質が非常に似通っていたのも理由の一つだろう。

 流石にあれが判明した時は思わず二人で吹き出しちゃったよね。

 

「そもそも大型クランに――ランキング入りしてるクランのメインメンバーに属してるってだけで十分シルフィは恵まれてる方なんだよー?」

「そうだね、リーンは基本組んでるのパーティの数人だけだもんね……」

「今日のシルフィなんか辛辣じゃないっ!?」

 

 そんな事ないです。気のせいですよー。

 それはともかく……固定パーティを組んで仲良くやってるのはそれはそれで凄い事だと思う。

 私なんかは確かにクランに属して活動してるけど、損得勘定の結果入っただけで特別仲が良い、って事もないし。

 クランで纏まって活動する時以外はソロでぼーっとしてたりするものね。

 ……まぁ、それは私の最初の発言にも繋がる訳だけど――

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、少しして。

 私達はいつも通り、何事もなく寮に到着する。

 二言三言、リーンと別れの会話を交わし、互いの部屋に戻る。

 

 ……今日は、金曜日。待ちに待った週末だ。

 明日明後日と学校も休みで、私達学生は思い思いの休暇を過ごすだろう。

 そして勿論。

 私も、休みの時くらいは現実(リアル)の事を忘れ、あの世界へ。

 儚い女学生、シルフィ・ブラウンではなく――

 <Infinite Dendrogram>を生きる一人の<マスター>、海を揺蕩う旅人のシフィル・ワルツになるのだった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□グランバロア<西海> 【蒼海術師(ハイドロマンサー)】シフィル・ワルツ

 

 

 

「海ぃ~は、広いーなでっかーいなー……」

 

 そうして、日課的に今日も<Infinite Dendrogram>にログインした私は――そこそこ大型の艦船の甲板に仰向け一人寝そべり、実に自由(・・)を満喫しているのだった。

 

 広い海、遥かな青空。

 天は雲一つない快晴で、本土(グランバロア号)からも遠く遠く離れたこの海域には他の船影はまるでない。

 波も荒れておらず、むしろ舟に心地良い振動を与えてくれて動く物は雲の影とたまに見える海面から顔を出す小型の魚類のモンスター(非人間範疇生物)だけ。

 そんな大海原のど真ん中の、一時的な平穏地点。

 そこに私の……正確には私達のクランの共有の所有物である移動式セーブポイント、【マリンモール号】が制止しているのであった。

 

「本当に良い天気……はぁ、こんな良い空なら、自由に飛び回れたら本当に最高なのに……」

 

 さて。

 そんな所で私が何をしているかと言うと――一言で言えば、自主的な留守番だ。

 今、私達は――いや、今という言葉すら必要なく、基本的に常になのだけど――そこそこ大型の依頼(クエスト)を受け、本土からも離れたこの海域にクラン単位で滞在、活動を行っている最中だ。

 周囲に危険な海棲モンスターが見当たらないのも、このグランバロア(海の国)に完全に特化したメンバー達の<エンブリオ>や特典武具の力によって殲滅されたからであり、そして今もその活動は継続している。

 

 なら、そのクランの一員である私も本来はそれに参加するべきなのだけど――まぁ、つまりここは本土から遠く離れた海域だと言う事が重要なのだ。

 本土からも、勿論他のセーブポイントからも遠く離れたこの海域――当然ながら、私達<マスター>はこの世界(ゲーム)に常に居られる訳ではなく、そこそこの頻度でログアウト(離脱)して休憩する事を余儀なくされる。

 ……しかし、ここは海、先も言った様な大海原なのだ。

 可能な限りの全力を以て自分達の船を固定しようにも、陸地も遠いこの場所では揺蕩う波間に揺られ流され少しずつ、確実に船の位置がずれてしまう。

 その為の備えがこの命綱たる移動式セーブポイントである【マリンモール号】であり――そして、何かあった時の為にこの命綱を守る護衛役が残るのは必然の事なのだった。

 

 ……まぁ、皆クランでの活動が楽しいからか、最低限の通信・操船要員以外は私みたいなちょっと趣が変わったのしか残らないんだけどねっ!

 

 

「本当、皆は海が好きだよね~……私は、()の方が好きなんだけどなー」

 

 そう言いながら、私は左手を空に翳す。

 厳密に言えば、左手に装着された緑色の宝玉の付いた小型の円盾(バックラー)――――私の<エンブリオ>である【風収盾 エアリエル】を翳し、そう呟いたのだった。

 

 

 ――【風収盾 エアリエル】。

 その名の通り、風の精霊をモチーフにした<エンブリオ>を持つそれは、その名に偽りなく風に関わる能力特性を有する。

 ならば勿論、私のパーソナリティもそれに準ずるのは疑いようもないし、元々疑う気もない。

 

 ……だけど――

 

「それでも、私はやっぱり空を飛びたいなぁ……」

 

 

 

 ――<Infinite Dendrogram>の空の世界は、とても険しい(・・・)世界だ。

 

 それは、ティアン、<マスター>を問わず。そして、どの国、どの地域であっても変わらぬ不文律だ。

 空――地上から遠く離れた天上の世界。天空の領域。

 人は――人型範疇生物達は、確かに様々な空を飛ぶ手段を手に入れている。

 魔法で、物理で、機械で、気功で。特典武具で、<エンブリオ>で、翼で、飛行用の従属モンスターで――

 だがしかし、それらは元々空を飛べない人型範疇生物(・・・・・・・・・・・・・・・)が、上空の利を得る為に手に入れたモノでしかなく、一部の亜人を除けば素の状態で飛べる者は殆ど居ない。

 ならば、何故逃げられると思うのか――そこ(天上)を生息域としているモンスター(非人間範疇生物)の襲撃から。

 天覆う魔蟲の群れから、空飛ぶ怪鳥の劈きから、空その物であるエレメンタルの視線から――天の支配者たる天竜から。

 ……少なくとも、ティアンであろうと<マスター>であろうと、普遍的に手に入る装備や機械、上級職までのジョブスキルによる飛行能力では、それらには到底太刀打ちできないのは、紛れもない事実であった。

 先々期文明時代の遺産や超級職、特典武具、<エンブリオ>などの固有スキルで空中に特化したものであればその限りではないが――そう簡単に得られないからこその固有スキル。

 爆発的に増加した<マスター>のエンブリオを勘定に入れて尚、現在空を自由にできる者は殆ど存在しないのが現状と言った所だ。

 

 しかし――しかし、それでも。

 空。或いは、()

 人にとっては余りにも広大で、現実と変わらぬ――いや、むしろ現実よりも綺麗なこの空。

 現実とは違う神秘的な容貌を見せる宙、空その物のエレメンタルすら居るこのファンタジーの幻想的でいて神秘的な――空!

 現実でも、そしてこの世界(ゲーム)でも。……空に憧れる者は常に一定以上の数が居るものなのです。

 

 ――私の様な!

 

 

「まぁ、私は【翠風術師(エアロマンサー)】の飛行魔術すらろくに制御できなかっただめだめ魔術師(メイジ)なんだけどね……っ」

 

 本当に悲しい……なんで空を飛ぶ事を夢見た私に対してこんな惨い現実が襲い掛かってくるんですかね。

 遊戯(ゲーム)なのに惨い現実とはこれ如何に。

 

 

 そう軽くため息を尽きながらも――私は、私の日課をこなす。

 周囲を確認、遠方確認。ついでにもう一人の居残り役のスクリーム君にも警告を出しておいて。

 私は私の<エンブリオ>、【風収盾 エアリエル】の固有スキルを使う。

 

「――《風よ、来い(ウインドワインド)》」

 

 瞬間、周囲の()が動く。

 正確には、酸素だけなのだけど――周囲一帯の風が、酸素(・・)が、一瞬にして【エアリエル】に吸い込まれる。

 途端にゴゥ――と風が鳴り響き、一時的に大暴風が巻き起こる。

 

 ――この風に飛び乗れないかなーって試行錯誤した事もあったっけなぁ……

 

 最早慣れ親しんだ、下手したら私くらい簡単に吹き飛ばしてしまう程の豪風にもその様な感慨しか浮かばない。

 

 

 これが――これが、酸素収納を能力特性として持つ【エアリエル】最初の固有スキルにして、一番の固有スキル。

 周囲の酸素を【エアリエル】内部に収納する……ただ、それだけのスキル。

 ともすれば、【アイテムボックス】でも代用できるのが、私の<エンブリオ>の殆どのリソースが注ぎ込まれた最大のスキルだ。

 ……と言うか、グランバロアでは普通に酸素補給用の空気入れ【アイテムボックス】を持つのが常識なので、本当に代用でしかないと言われる事もある。酷いよね。

 

 ――当然ながら、<エンブリオ>である私の【エアリエル】はただのアイテムボックスと比べて……少なくとも桁が三つか四つくらいは違う。

 【盾】を名乗っている事もあり、特殊な防御スキルは皆無であれ、耐久値は桁違いで余程の事がなければ壊れないし。

 瞬間的に周囲一帯の酸素の悉くを収奪するから、対策していない相手を【酸欠】状態にする事もできる。

 というか私自身すら【エアリエル】内部に収納した酸素を自らに限定して補給する《酸素補給》がなければ真っ先に【酸欠】で死にますからね……

 また、固有スキルは前述した二つと必殺スキルのみと言う<エンブリオ>でありながら酸素収納能力に極振りした、所謂“特化型”であるお陰でその最大容量は莫大になっており――おそらく、文字通り“空をこの腕に抱く”程度の容量はあるかもしれない。

 

 ……まぁ、私もその最大容量は分かってないんだけどね。

 何せ、何回何十回何百回と《風よ、来い(ウインドワインド)》を繰り返しても全く満ちた気がしないから……

 1回の《風よ、来い》だけでも結構膨大と言える量の酸素を取り込んでいる筈なんですが、私の<エンブリオ>ちゃんは何処に進もうとしているんでしょうね……?

 

 

「《風よ、来い(ウインドワインド)》《風よ、来い(ウインドワインド)》、おまけにもう一度、《風よ、来い(ウインドワインド)》、っとぉ……」

 

 複数回、合わせて酸素収奪をして――あ、遠くで何か(多分鳥)が落ちました。止めときましょう。

 

 繰り返す度に都度、より貪欲に足りない酸素を補おうと遠く遠くまでその顎を広げる【エアリエル】の固有スキル行使を止め、小休止に入る。

 一時的に荒れに荒れた海を尻目に、両手両足を伸ばし思いっきり身体の力を抜き、だらける姿勢に入る。

 

 

「はぁー――――……良いお昼寝日和です……」

 

 

 ――こんな一時をちょっと警戒して留守番しているだけで過ごさせてくれると言うのだから、まぁ今のクランに入った甲斐もあったという物ですね。 

 

 とりあえず定期的な固有スキルの行使を終えた私はこうやって一人、身体に当たる風の感触を楽しみ、燦燦と輝く太陽を、空を仰ぎ見て、心地良い一時を過ごす。

 周囲に危険なモンスターの影は見えず、他の<マスター>もティアンも邪魔をしない、大自然大海原のど真ん中で。

 三倍時間でこんな贅沢な一時を過ごせる場所が、自由を謡っているこの<Infinite Dendrogram>にどれだけあるだろうか。

 失礼な言い方ではあるけれど、妥協して入ったクランとして、ここは確かに私、シフィル・ワルツにとって最高の居場所で……そして、ここは最高の世界だった。

 

 完全なるリアリティを実現するこの世界。

 そこは確かに現実ではない筈なのに、限りなく現実としか思えないこの世界。

 自由なる<マスター>の身である今の私達には、その身体を固くきつく縛り付ける規律も鎖も親教師だって居やしない。

 

 

 

「ふぅ……本当に、ここに住んでしまいたくなり『すまない、シフィル君! 緊急事態だ、今すぐ来てくれ!!』…………」

 

 

 …………本当に。

 これ(緊急出勤)の頻度が、もう少しなんとかなれば、本当に此処は良いクランなんだけどね……ッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、今回は何が出たんです? <遺跡>ですか? 未発見種の伝説級モンスターですか? それとも――」

いつも通り(・・・・・)の〈UBM〉だよシフィル君! はー助君とnonna君がもう必殺スキル使っちゃって駄目だったから交代で来てくれってさ』

「三日前にもあったばかりじゃないですか。最近多くないですか? 多いですよね?」

『グランバロアなら――海の世界(・・・・)なら良くある事さ。それに、それだけ君の力が頼りにされているという事だよ』

「程度って物があると思うんですけどね――

 《瞬間装着》《ディクリース・ウォーター・プレッシャー(水圧軽減)》」

『海の機嫌は移ろいやすいと言うからね。だからこその僕達(・・)の出番があるのさ! ――《海神の加護ぞある(オオワタツミ)》』

「まぁ、仕方ないですね……それでは」

 

「<マリン・ダイバーズ>のシフィル・ワルツ。出撃します――――急速潜航――!」

 

 

 

 

 

 

 100メテル。

 200メテル。

 300メテル。

 400メテル。

 500メテル――の、まだ、まだまだ、まだまだ先の奥深く。

 

 海上(・・)国家、グランバロアの者でも殆ど活動できる者の居ない海下、水深1000メテル以上にもなる全く光の届かない深い深い海の中の闇の底たる深海領域。

 そここそが、私が所属しているクラン――深海活動特化クラン、<マリン・ダイバーズ>の主戦場だ。

 深海は……言うまでもなく、息が続かなければ水圧も視界のなさも行動のし辛さも何もかもが浅水域とは違う極限領域。

 まともに人が行動する――どころか、それ用の備えがなければ辿り着く前に確実に死亡する程の世界。

 それも、ただの【潜水士(ダイバー)】【潜水名士(ディープ・ダイバー)】ですら潜れない程のより下方の深海領域の探索、戦闘を主とする特化クラン。それが私達だ。

 

 本来は特典武具や【超潜水士(オーヴァー・ダイバー)】等の強力な固有スキルが必要な程の深海であるが――私達には<エンブリオ>がある。

 仲間に水中行動適正の加護を与えるテリトリー。

 潜水艦のチャリオッツに、深海魚のガードナー。

 あらゆる圧力を極限まで軽減する宇宙服や光を放ち水中用の砲撃も可能な遠隔兵器群(ファンネル・ビット)などのアームズまで。

 その様な様々な<エンブリオ>によって、クラン単位で深海活動に特化しているのがこの<マリン・ダイバーズ>という訳だ。

 

 ……入った当初は、良かった。

 まともな戦闘では使い道の殆ど無い私の<エンブリオ>でも大歓迎で受け入れてくれて(当初はこのクランも出来立てで人が少なかった)。

 グランバロアの各地で見るどの種とも違う珍妙なモンスター達の姿に和んだり、請ける人が少ない深海の依頼(クエスト)を片っ端から乱獲して荒稼ぎしたり。

 他にも、他にも――でも、いくら楽しい事があるとは言っても、そこは深海(・・)なのだ。

 もう一度言おう――深海(・・)なのだ。

 

 

 先程、空は人の領域ではない、険しい世界だ、と私は言ったけども――とんでもない。

 深海の方が何倍も人に、人類には険しい世界なのだ――!!

 

 それは、先に言った環境面だけでなく――モンスター(・・・・・)

 この世界特有――いや、現実でも異様な深海魚の話題が尽きない様に。

 この世界ですらも、深海に生息するモンスターは異常にして特殊な性質を持つ者ばかりだ。

 深海の環境に適応した浅水域の魚類の亜種希少種、巨大種に、当然深海特有の種も盛り沢山。

 中には明らかに「え、これ〈UBM〉じゃないの!?」と言いたくなる様な特異なモンスターも居れば――非常に頻繁に〈UBM〉に遭遇したりもするのが、深海という世界だ。

 

 ……まぁ、〈UBM〉と言うのは基本的に危険な存在だ。

 特に海上国家という、七大国の中で最も不安定な土台であるグランバロアであれば尚更であり、<マスター>なら可能であれば討伐する事が推奨されている。 

 私達は遭遇して勝てないと思ったら即他のクランや国に協力を要請したりするけど……

 そんなクランであるからこそ特化型の<エンブリオ>も多く、その前に自分達で倒せる事も多く武闘派でもないのにクラン全体での特典武具の数は増えていくばかりだ。

 

 ――そういう感じで、私達と〈UBM〉の戦いは日常茶飯事だ。

 なのだけれど――

 

『……いや、あれ(・・)はちょっと、特段にヤバくないですかっ!?』

『シフィル君もそう思うか……だが、流石にあれ(・・)を放置するのは……不味いだろう?』

 

 

 ……私や他のクランメンバーの視線の先。

 星の如きファンネルに身体の一部(・・・・・)が照らされて浮かび上がった〈UBM〉は――余りにも、巨大。

 全長1キロメテルを越えるであろう超大型鮫であった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【暴虐巨鮫 エクサロドン】。

 それが、《看破》で判明したかの〈UBM〉の銘だった。

 確認できるステータスや行動からして、間違いなく純粋性能型――巨躯とHP、そして他物理ステータスに比重を置いた〈UBM〉だろうという話になった。

 なったんだけど――

 

『【ウンディーネ】と【ピスケス】は駄目。【ネプチューン】もまともに削れなくて【ダイスイセン】、【デンライガ】も効かないって……本当に防御スキルじゃないんですよね?』

『ああ、その様だ。《看破》で見る限り普通にHPは減っていたが……HPが高すぎるし体積もデカすぎる上に時間を置くとすぐ回復される。差し詰めミニミニ【海竜王】と言った所か』

『嫌すぎますねそれは。凄く逃げたいです……』

『気持ちは良く分かる……だが、なぁ』

 

 ええ、はい。分かっていますとも。

 あれほどの巨体と質量を持ったモンスター――最低でも弩級戦艦未満の船では、一撃体当たりを喰らっただけで轟沈してしまうであろう。

 今は距離を取り、感覚を乱して欺いているけれど……あの巨体が真っ当に暴れるだけで周囲一帯は大惨事になるだろう。

 それをさせない為に、私達はこうして通信魔法を介して作戦会議をしているのだけど――

 

『取り巻きの類は居ないし。特殊なスキルもない、大きさとステータス以外は普通の動物と変わらないモンスターだし――ここは、シフィルちゃんの出番かなって!』

『やっぱり、そうなりますよねーっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 (――《風よ、来い(ウインドワインド)》!)

 

 そんな訳で。

 散開し、【暴虐巨鮫 エクサロドン】を取り囲んだ私達は仲間の<エンブリオ>である(ファンネル)の明滅を合図に作戦を開始した。

 いつでも攻撃できるように待機して貰いながら、《風よ、来い》を全力で行使し始める。

 

 ――直後、周囲の深海の景色が捻れ狂う(・・・・)

 大海流が押し寄せ暴れ回り、私達も【エクサロドン】も構わず蹂躙する。

 私達はその海流に翻弄されるのみだが、【エクサロドン】の莫大な体躯の前には少し強い風が吹いた程度の物だろう。

 

 

 だけど。

 

 

『FFOSYYAOOOOOOOOOOO!!!!????』

 

 【エクサロドン】は一瞬驚愕したかの様に身体を痙攣させ――吠え、暴れ狂う。 

 あたかもそれが効いている(・・・・・)かの様に――否、確かにそれは効いているのだ。

 

 

『――ビンゴ! 効いてるよ効いてるよー!』

『ヒュゥ、所詮鮫なんて人間様の獲物だ。フカヒレ食べ放題だぜー!』

『拘束網放て! このまま息切れさせろ!』

 

 そう、【エクサロドン】は今息切れに――【酸欠】に苦しんでいるのだ。【エアリエル】に、この周囲一帯の酸素全てを奪われて。

 周囲全ての――元々酸素が薄いこの深海であれば、最低でも半径数キロか十数キロメテル内の全ての酸素が、私の手にある【エアリエル】の中に取り込まれ尽くされている最中なのだから。

 

 この<Infinite Dendrogram>において、モンスターも、勿論ティアンも<マスター>も、本当に現実と同じ様に生きて活動している。

 それこそ食事、睡眠、排泄、成長に老化、繁殖に至るまで――本当に機密に行われている現実のシミュレーションか何かだという説が笑えない程度には、微に入り細に入りあらゆる所が現実と同じ様に再現されている。

 それは勿論、呼吸だって同じ事だし――当然、モンスターだってアンデッドやエレメンタルを除けば大体呼吸を必要とするし呼吸が出来ない状況であれば【酸欠】によっていずれ死に至るのは何も変わらない。

 

 ――そして、別に狙った訳ではないのだけれど、私の【エアリエル】はこの【酸欠】を用いた作戦に対して抜群の適性を持っているという事になる。

 【翠風術師】よりも……いや、もしかしたら超級職である【嵐王(キング・オブ・ストーム)】よりも更に広範囲の酸素を、【アイテムボックス】に入れるかのように一瞬で収納し尽くす速効性。

 水中、海中にある僅かな酸素すら残さず取り尽くし、《風よ、来い》が発動中なら【アイテムボックス】から出した直後の酸素すらも口にする前に奪い尽くせる程に特化された性能。

 それこそ気密性が高く密閉された艦内や態々【酸素ボンベ】でも持ってくれば問題ないけども――《水中呼吸》やそれを行えるようにするジョブスキル、また【アイテムボックス】の利便性を前にボンベを準備する人はそう多くない。

 

 これも、私のパーソナリティ(<エンブリオ>)がただ一点にのみ特化した成果。

 そのお陰でこうやって〈UBM〉にだって有効な攻撃が出来ていると考えれば自画自賛したくもなるよね?

 

 ――凄くえげつないって良く言われるのは気にしない様にしなきゃだけどねっ。

 

 

 ともあれ。

 どうやら今回の〈UBM〉、【暴虐巨鮫 エクサロドン】も【酸欠】攻撃は効いている様だ。

 ならばこのまま皆の牽制の影に隠れながら付かず離れずの距離を保っていれば間違いなくMVPを取れると――――――?

 

 

『……皆? 私の目がおかしくなければ――あれ(〈UBM〉)、私をロックオンしてませんか――――っ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『《高速潜泳》、《高速潜泳》、《風よ、来い》っ! 皆、早く助けてくださいーっ!?』

『今やっているよっ。そのまま逃げ続けてシフィルちゃんっ!』

『ちょ、これは無茶、むりですー!!』

 

 泳ぐ、泳ぐ、泳ぐ――

 両手両足に装着された【潜泳自在 バルスラーチ】の大鰭の固有スキルで全速力で泳ぎながら【エクサロドン】から――明らかに私に狙って来ているあの巨大鮫の進路から逃れる様に泳ぎ続ける。

 途中、仲間の攻撃やその<エンブリオ>の必殺スキル、特典武具の固有スキルまでもが何度も【エクサロドン】横腹に突き刺さるが――かの〈UBM〉は全く進路を変える気配を見せない。

 どんな攻撃を受けようがそれを無視し、束縛効果のあるスキルや魔法の殆どは純粋性能型としての高いステータスで減衰され抵抗され殆ど足止めにならず。

 進路上に飛び出て止めようとした大型鯨(100メテルくらい)のガーディアンは<マスター>ごと轢き潰されてデスペナルティになってしまった。

 そして……それらのあらゆる妨害の悉くを無視し――【エクサロドン】は唯々(一番の脅威)だけを見つめ狙い殺そうと来ているのだった。

 

『こっこれ、明らかに動物並の知能じゃないですよね、私を狙い続けるくらい知能ありますよねっ!?』

『うーん、鮫のロレンチーニ器官で酸素が何処に行ったか把握している……のか? 《カレント(水流操作)》』

『わーからん。もう1分くらい経ってるのにまだまだ元気だし、こりゃ今までの相手とはHP(生命力)が違い過ぎだわ! 《アクアジェット》ぉ!』

『地道な援護ありがとうございますぅー! でもできればもうちょっと直接的に――!?』

 

 酸素を奪い続けている事で未だ荒れ狂い放題の深海を逃げ続ける私の――僅か数メテル脇を、【エクサロドン】が全力で通り過ぎる。

 深海の闇の中を僅かな星の光に照らされて浮かび上がるその黒色の体表は、迫りくる程に間近で見ると最早先のない絶壁にしか見えない程に――厚く、大きい。

 

 (こんなのっ、どれくらい避け続けていれば倒――)

 

 直後。

 物理法則として当然の様に――圧倒的質量が通り過ぎた私の周囲を、今までの暴流ですら生温いと言える程の大海嘯が吹き抜けて行った――!

 

 

『く、きゃああああああ――!?』

『シフィル君!? チィッ!』

 

 

 

 流される。流れて、流されて、流されて――一瞬だけ【気絶】していた身体の意識を意識を回復させ、何とか状況を確認する。

 

 ……現状は、今の体当たりの余波(・・・・・・・)だけで、HPの4割が削れ、波に流されて他の皆とも随分距離が離されてしまった。

 いや、私と他の皆だけではない。あの質量が移動するだけで生じるその余波に他の皆も苦戦しているのか、既に【エクサロドン】を包囲する布陣はボロボロの状態だ。

 むしろまだ星のエンブリオのお陰で現状を把握できるだけ幸運かもしれない。

 そして、何より――今、一瞬【気絶】してしまった事で《風よ、来い》が一時停止し、【エクサロドン】に一呼吸するだけの余裕を与えてしまっていたのが、何よりも痛い。

  

 

『――すいません、【気絶】してましたっ』

『ああ、把握している。だが、これは……』

 

 オーナーの思案している通り。

 たった一度。たった一度の全力の体当たりを、直撃もしていないのにこの有り様だ。

 ……今の一合で《風よ、来い》が解除されていなかったとしても、相手が【酸欠】で倒れる前にこちらが全滅するか、少なくとも狙われている私はデスペナルティになってしまうだろう。

 そうなれば、結局他に有効だがない私達のクランでは成す術がない――

 

 

『よくもシフィルちゃんを……条件特化型になってからかかってこいやおらー!』

『うちのクラン、尖った<エンブリオ>ばかりだからなぁ。……なんて、雑談している暇も無さそうだ』

 

 そう。

 このクラン、<マリン・ダイバーズ>にはシフィルの【エアリエル】同様、単一機能特化型の<エンブリオ>を持つ<マスター>ばかりであり。

 それが適応しやすい深海域において、ある種同類(・・)とも言える条件特化型であれば、むしろ御しやすい相手であった。

 だが――眼前の相手、今も深海を旋回してこちらに、私に対して追撃を仕掛けようとしている【暴虐巨鮫 エクサロドン】はどう見ても、古代伝説級以上の純粋性能型。

 いくら上級エンブリオによる埒外の固有スキルであろうが、並以上の小細工や策や罠であろうが――純粋に、モンスターとして、〈UBM〉として非常に高い能力値(ステータス)で突破する脳筋タイプ。

 単一機能特化型の<エンブリオ>でも、例えば“人間爆弾”の【アブラスマシ】の様な戦闘での使用が主であればかの敵を撃破できたのかもしれないが、生憎と<マリン・ダイバーズ>はある程度深海活動ができる人限定であった為、純粋な戦闘系の<エンブリオ>はないのであった。

 

 ……今もログインしていない、知ってる限りの他のメンバーの<エンブリオ>や特典武具について考えてみても――やはり、難しい。

 

 (……仕方がないっ。此処は、一時撤退して醤油さん辺りに――――?)

 

 再度の体当たり。それを今度はただ避ける為だけに集中して全力で泳ぎ回避しながらそんな事を考えて――何かが頭のどこかに引っかかる。

 

 それは――先程二度程考えた、グランバロアでも屈指の実力者。

 海上国家において無類の火力を誇るエンブリオ、【大炎醸 アブラスマシ】を持つ彼の戦闘風景。

 

 そして――――自分の<エンブリオ>で出来るであろうと考えていた事、その可能性。

 

 

 ……いける? いけるだろうか。流石にあの体躯はいけないかもしれない。でも、こちらの威力も正確には全く分からないし、いけるかもしれない……?

 

『でも、【酸欠】作戦はもう使えないし、これしかもう手がないし、初めてだけど多分やれる筈……!』

『……どうしたシフィル君。まだ、何か策があるか?』

 

 通信魔法でオーナーに急かされ、そして視界の先では【エクサロドン】は再度旋回し、三度の体当たりを決行しようとしている。

 私を殺す(デスペナる)まで止まるつもりは全く無さそうだ。止まらないのは鮪だけで十分なのに。

 

 どうやら、迷っている時間はないみたい――ええい、女は度胸!

 

 

『オーナー――私が、必殺スキル(・・・・・)を使ってあいつを仕留めますっ!』

 

 

『……え、シフィル君って必殺スキルもう習得していたのか? ふむ……』

『えっシフィルちゃんの必殺スキル初公開っ!? やだ、これは見逃せない……』

『内容は分からんが倒せそうならまぁ良し!』

 

 ある意味予想通り、外野(他のメンバー)の野次が飛んでくるけど、それは黙殺して。

 何せ、今まで私は殆ど《風よ、来い》と僅かなジョブスキルのみで戦ってきたから。

 クランの皆に【エアリエル】の必殺スキルを開帳するのは初めてだし――私も実行するのは初めて(・・・・・・・・・・・)なのだから。

 必殺スキルを習得して、説明文を読んで――そのまま見なかった事にしていたそれ(必殺スキル)を、今ここで使用するのだから。

 

 ……そして、数瞬の後に。 

 

『――そういう事であれば。可能性があるなら存分にやってみせれば良い』

 

 オーナーからの許可が出て、それを行使する事になった。

 ……尤も、必殺スキルを使うにあたって、作戦なんてものは何もない。

 

 だけど、敢えて言うのであれば、一つだけ。 

 それは……皆にこの海域から離れて貰う事だった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□グランバロア<西海>深海 【魔術師(メイジ)】シフィル・ワルツ

 

 

『準備完了、っと……』

 

 それから。

 何度か【エクサロドン】の体当たりを回避し、時には余波を喰らい、【HP回復ドロップ】を舐めて耐え忍び、ジョブクリスタルまで使って――漸く準備が完了した。

 

 この周辺、数キロから十数キロメテルに渡って、私の他に人型範疇生物の影はなく――大型モンスターもまたも一直線に私を狙おうとしている【エクサロドン】以外にない。

 

『もう酸素吸収は止めてるのに攻撃は止めないんだから……執拗なのか、それとも臆病なのか、判断に困るね』

 

 そんな事を呟きながら――【マリンモール号】に戻り退避を終えたオーナー達から、準備OKの合図を通信魔法によって受け取る。

 私の方も、したくもない覚悟を完了した。

 

 ――うん。もう、やるしかない!

 

 そう心の中で呟いて、真正面から私の方に突っ込んでくる【エクサロドン】に向けて左腕を向ける。

 ――正確には、左腕に装着した【エアリエル】を、だ。

 

 そして、宣言する。

 自身の<エンブリオ>の必殺スキルを、その<エンブリオ>の銘を、意味を。

 今まで、ずっとずっと溜め込んできた――空を解放します(・・・・・・・)、と。

 

 

『――――《空への帰還(エアリエル)》!!』

 

 

 その瞬間。

 

 海が、深海が――炸裂した(・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 《空への帰還(エアリエル)》。

 【風収盾 エアリエル】の必殺スキルであるそれは、おそらく必殺スキルとしては最も使用しているリソースが少ない類の必殺スキルであろう。

 何故なら、その効果は――【エアリエル】を自壊させ、内部に溜め込んでいる酸素にある程度の指向性を与えて放出する、ただそれだけのスキルなのだから。

 自壊をコストとして非常に強力な効果を発する様な物でもなく――ただそれだけ。ほぼ自らの意思で自壊させるだけの必殺スキルが、《空への帰還》なのだ。

 そして、収納されていた酸素が放出されるという結果だってそれは【アイテムボックス】が壊れた時に発生する仕様と全く同じ。

 ただそれに指向性を与えるという、それだけの必殺スキル――――

 

 

 

 だが。

 【エアリエル】は【アイテムボックス】とは決定的に、絶対的に違う箇所がある。

 

 ――収納許容量だ。

 

 <マスター>一人に一つだけ与えられるパーソナリティの発露。自分だけの無限の可能性を秘めた埒外の卵――それが、<エンブリオ>。

 ならば。

 酸素に限定した収納にそのリソースの殆どを注ぎ込んだこの【エアリエル】内部に貯蔵できる酸素の限界量は……一体どれほどの物になるのか。

 それは、<マスター>であるシフィル・ワルツすら把握してない事であるし。

 限界(・・)まで溜め込む事自体が致命的であるようにすら感じているかもしれない。

 

 …………尤も。

 たった一度の《風よ、来い》で周囲数百メテルから数キロメテルの酸素を収納する【エアリエル】が、それを孵化してから今まで暇があれば繰り返していて尚限界が訪れないのだから、どれほどの物か分かる者が居るとすればそれは<エンブリオ>の管理者たる管理AIぐらいのものであろうが。

 

 今、必殺スキルを使うにあたって重要なのは――――

 ――――その今まで溜め込んだ全ての酸素が、【エアリエル(小型の円盾)】に収められてきた全てが、その小さな器から解放されようとしているという事なのだから。

 

 その総量を計算する事すら馬鹿らしくなる程の桁違いに圧縮された空気が――指向性を持って解き放たれた。

 

 

 瞬間、直前にまで迫っていた【エクサロドン】の総身の半分が抉られた(・・・・)

 深海の海域が膨れ、弾け飛ぶ。

 一時的にそこは海ではなく――()になる。

 

 五桁を優に越していたEND(頑強さ)も、八桁に達していた膨大なHP(生命力)も、一キロメテルを越える巨躯も――正しく桁違いに圧縮された風量の暴力によって蹂躙された。

 だが、それも当然だ。

 【エアリエル】とその必殺スキルは所謂リソース貯蔵型。

 それも、ずっと貯蔵してきたリソース(酸素)の、最初の解放がこれなのだから。

 如何に生命力、体躯に特化した純粋性能型の〈UBM〉と言えど――

 

 

『BOFAAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!』

 

 

 だが。

 【暴虐巨鮫 エクサロドン】は吠える。

 ――死ぬものか。

 ――死んでなるものか。

 己は〈UBM〉――唯一(ユニーク)たる強敵(ボス)なのだ。

 この様な非力な相手を前に死んでなるものかと、身動きすらできない空中で、それでもシフィルを睨み耐える。

 この空気が、酸素が散りまた海中に戻った時、抵抗する手段のない彼奴から屠ってくれると――

 

 

 

「――――《ファイアボール》!」

 

 だから――シフィルも当然、追撃をする。

 【魔術師】が覚える、下級の火属性攻撃魔法。

 当然、直撃させた所でENDが5桁に達している【エクサロドン】にはカスダメにしかならない。

 

 ――――今此処に、超圧縮された酸素(・・)が爆発的な勢いで解放された直後でなければ。

 

 

 

 ――――――――――――――――。

 

 

 空が、爆発した。

 一瞬の火花が散ったかと思えば――その空の空間(・・・・)全てを、超熱の業火が埋め尽くした。

 

 それによって、残っていた【エクサロドン】の身体も、空の外縁にあった深海も。

 ――勿論、炎の行使手であったシフィル・ワルツも、あらゆる全てが燃え尽き灰すら残らず消え去ったのだった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【〈UBM〉【暴虐巨鮫 エクサロドン】が討伐されました】

 

 【MVPを選出します】 

 

 【【シフィル・ワルツ】がMVPに選出されました】  

 

 【【シフィル・ワルツ】にMVP特典【暴虐小鮫 エクサロドン】を贈与します】

 

 ――――

 

 

 …………End

 




ステータスが更新されました――――

名称:【風収盾 エアリエル】
<マスター>:シフィル・ワルツ
TYPE:アームズ
能力特性:酸素収納
スキル:《風よ、来い》《酸素補給》《空への帰還》
モチーフ:空気の精霊“エアリエル”
紋章:渦巻く風
備考:中央に緑色の宝玉が嵌まった円盾の<エンブリオ>。
 単一機能特化型の<エンブリオ>であり、その最たる《風よ、来い》と必殺スキルを除けば残りの固有スキルは固有と言えるほどのユニークではなく、装備補正もステータス補正もまぁまぁ平均以下な<エンブリオ>。
 だが、進化と共にえげつなくなっていった《風よ、来い》とそれに輪を掛けてえげつない必殺スキルによって色々と帳消しにしている。
 帳消しになっているかはともかく。
 【エアリエル】のリソースはほぼほぼ《風よ、来い》の性能と【エアリエル】内部の容量に全振りし、後は僅かに【エアリエル】自身の耐久力に振っていった結果こんな事になったようだ。
 特に容量も酸素のみと『制限』を加えた上でその酸素が気体なのだからその容量は……計り知れない、という他ないだろう。
 ただ一つだけ言えるとすれば、今回行った“最初の”必殺スキルの解放+着火爆発だけであれば、【アブラスマシ】のそれを上回る威力を出せたという事だけであろう……

※お知らせ
 こちらの【風収盾 エアリエル】は<Infinite Dendrogram> Wiki、旧議論板、ぼく・わたしのかんがえた最強の<エンブリオ>(2016年~2018年分)よりお借りしました。
 ありがとうございました。

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