無限の世界と交錯する世界   作:黒矢

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少しだけ続くんじゃ

あ、ノベルアッププラスでデンドロコンテスト用作品を投稿中です。
もし良かったらそちらも見ていってくれると嬉しいです!


1-1´=……?

□■O5-1の提言

 

 

 ――確保(Secure)収容(Contain)保護(Protect)

 

 

 世界には、人々には知られずにいながら、数多の不思議に満ちている。

 星を破壊し尽くす程の火力を持つ篝火、意思を持ち他者に殺意を抱く無機物、無限にピザを生み出す箱、エトセトラ、エトセトラ……

 

 どれもこれも、人智の及ばぬ尋常ではない代物(オブジェクト)ばかりであり――見ての通り、使い様によっては容易にこの世を破壊できるモノも少なくない。

 仮にそうではなくとも、その殆どが只人ではどうにもできぬ程の異常特性を有する傑物、怪物の祭典であるのだ。

 それはおそらく時代が違えば“神”や“悪魔”と畏れられ、崇められ、祈りや贄を以て漸く人々が生存域を確保していた化外のモノ達だったのだろう。

 

 

 

 ――ならば、人々は測れぬ程の怪異を前に、恐れに震え、無事を祈願し、化物の気紛れに慄き許しを乞う他生きる術はないのか?

 

 

 

 ――――否。断じて否である。

 

 時は流れた。

 人類は最早嘗ての様に暗闇の洞窟に囚われた哀れな盲人ではなく、この世の多くを開拓し解明し開発し、そして多くの力を得た。

 その版図は世界中に広がり、森羅万象を読み解き敵を駆逐し、それらの多くの法則を理として呑み下してきた。

 

 しかし。

 しかし、それでもこの世には多くの、実に多くの不可思議が――異常存在が溢れている。

 不可能と不条理を形にしたかのような異常極まる特性を有するそれらを前にして――だが、今だからこそ。

 世に人々が溢れ力を得た今だからこそ――決して人間は恐怖という檻に囚われ、嘗ての轍をなぞってはいけないのだ。

 臆してはいけない。立ち向かわなければならない。

 人々が培ってきたこの世の理を、この世の未来を守る為に――

 

 

 だからこそもう一度言おう――()()()()()()、と。

 人々は力を得た。叡智を得た。数の理を得た――

 

 ならば、できる筈だ。

 異常存在が他の者の手に落ちる前に確保し、その異常特性によって甚大な被害を齎さぬ様収容し続け、そして異常存在のその理を、絡繰りを理解し解明するその時まで保護し続けるのだ――

 

 容易い事ではない。簡単な事でも、単純な事でもないし――誰にでもできる事ではない。

 だが、優秀なる財団職員である君達ならば。

 

 それが為せると、信じさせて貰おう――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□■“無限の系統樹”

 

 

 

 ――2043年7月15日。

 これは、その世界の、その日時……後に世界的に流行する、時代を先取りし過ぎたVRMMORPG、<Infinite Dendrogram>が発表されて事で始まる物語。

 

 そう。 

 発表と発売、同時に起こったそれが全く察知されていなかった事に加え――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 後にSCP-10106-JPとされるゲームを巡っての物語――――

 

 

「これは、一体――っ!?」

 

「私はシヴァ。<エンブリオ>、TYPE:アポストルwithアームズの【破戒剣 シヴァ】――我が主(マスター)の心と肉と魂から生み出されたモノ」

 

 

「私は我が主の剣となり、力となり……我が主の願うままに、全ての障害を破壊し尽くそう――今度とも、どうかよろしくお願いしよう、我が主よ」

 

  

 

 

『<Infinite Dendrogram>は、新世界とあなただけの――』

 

「はい。こちらエージェント・雛倉。新たな異常存在を発見しました!」

 

「機動部隊ミュー-4と機動部隊き-5の出撃要請を! ロー-9の支援も忘れるな!」

 

『申請に基づき、異常存在収容とカバーストーリー流布の為――管理AI20体が活動開始します。確保、収容、保護――――』

 

 

 

 それは、財団職員達の新たな戦いの始まり。

 あり得ざる異常なゲーム。容易く開かれる、あり得ざる異世界への扉。

 確保、収容、保護。確保、収容、保護――――だが、その扉を閉じる力は、財団にはなかった。

 

 

 

 

『O5-13がロストしました。まぁアレはO5の中でも一番の新参……()()()オブジェクトに接触するとは、不用意な奴でした』

 

『ふん、我等としては珍しい事でもあるまい。つい最近もO5が何人かロストしていたからな』

 

『だが、お陰で素晴らしい利用価値の知見を得られた。これならば、久方ぶりに――』

 

『――故に。研究は秘密裏に、そして迅速に行われなければならない』

 

『頼めるな? ――O5-11、“郵便屋(ザ・メールマン)”――』

 

 

 

 動き出す陰謀。巨影。

 財団に潜む化外の人類(O5評議会)が、己の渇望(エンブリオ)を表出させてまで願うその真意は――

 

 だが、しかし。

 

 

 

 

 

糞がっ(Fuck)!! またか、また<マスター>なのかっ!」

 

「馬鹿、やめろ! その山は私たちが一か月かけて植生から生態系から何から何まで漸く全て調べ尽くしたんだ! だから――迷惑行為をやめろ止めろいい加減にしろや雑魚があぁぁぁあ《私が記した理想像》!」

 

「はーん? お前さん、まさかMMOとかやった事ないタチぃ? ――――マジになんなよ。これは遊戯(ゲーム)なんだぜぇ! 天焼く魔弾(インフェルノ)ォォ!!!」

 

「ひゃっはー! 兄貴の【インフェルノ】は流石だぜ! おら、燃やせ燃やせ、もっと薪をくべろぉ。経験値と戦利品の踊り食いだぁ――!!」

 

「「「やめろぉぉぉおお!?」」」

 

 

 

 

 

 

 ――この遊戯(ゲーム)は収容する事能わず。即ち、そこにいるのは財団職員だけではない。

 いや、むしろ財団職員やその関係者が、圧倒的少数……職員達は自分勝手に動く<マスター>達を相手に仕事を完遂できるのか!?

 

 それとも――己のエンブリオの導きのままに、己が願いを果たすのか!?

 

 

 

 

 

 

「ふっ、まさかこの様な所で樹廻流の使い手に見えるとはな――それもその闘気。いくら隠そうと正体も知れるという物よ」

 

『……マジクマ、マジクマ? ちょっと、リアルバレは流石に勘弁して欲しいんだクマけど。おい、聞いてる?』

 

「無論よ。為れば――此処はその手を以て我が言の葉を防いでみるが良い。我は財団神拳継承者が一人、テンロウ! いざ尋常に――!!!」

 

『聞いてねーじゃねーかここは天地じゃねーぞクマー! ぶっ飛ばすぞてめー、だクマー!!!!』

 

 

 

 

 

 

 戦い、争い、闘い――

 そう、この世はVRMMORPG。他者と競い合い、ぶつかり合い、高め合う遊戯(ゲーム)であるならば――戦闘になるのは最早必定の運命。

 汝己が望む物の為に勝利を得よ――!

 その先にこそ、望む物(進化)は得られるのだろうから。

 

 だが――しかし、時には仲間同士で相争い合う事もあるのが、この7つの大国に分たれた世界の定めか――

 

 

 

 

 

 

 

あのすっとこどっこい(ブライト博士)がまたログインしてきやがったぞ、どうなってやがる!?」

 

「あのSCP-963の詳細は貴方も知っているでしょう!? あれは脳機能まで完全に同一の物に変じさせるの、だから――」

 

「どのブライト博士からでだって変わらずログインできる……あれがどれだけ居ると思ってんだ。防げる訳ねぇ!」

 

「かくなる上は――殺せ! 殺せ(デスペナれ)ばこの世界から強制的に排除できる! 主任に連絡しろ。レジェンダリアの全担当職員に告ぐ――」

 

 

[――ブライト博士をデスペナさせる事に成功した暁には報酬として1億リルを支払おう。皆奮って参加せよ。やり過ぎても一向に構わない]

 

 

「「「『ヒャッハー! 鼠狩りの時間だぁ! 捕らえて殺せー!!』」」」

 

 

 

 

 

 

 

 だが、それも必要な犠牲だ。

 そう、全ては確保、収容、保護――

 

 これは、財団職員達による、この世界(ゲーム)での奮闘の物語なのだか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――()()()()

 

 

 その物語の裏で、あるいは奥底で。

 表の物語(カバーストーリー)とは違う、財団の戦いこそが、この物語の主軸だ。

 

 それは、きっと多くの財団職員ですらも知らされない物語。

 財団の深淵に座する者達によって紡がれる物語。

 倫理に悖る、認められざる物語。

 

 だが、それでも彼らはそれを希求せずにはいられない。

 それこそが、これこそが、この世界(遊戯)こそが、彼らが求める頼みの綱(Thaumiel)の一つなのだから―――― 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――それでは、此れより実験10106E-106を開始します」

 

 

『対象選定――完了。Y-909、及びクラスF記憶処理薬の精製――このオブジェクトの使用を行う場合、レベル4クリアランス使用許可を提示して下さい』

 

 

『――――承認されました。これより、注入を開始します』

 

 

 

 

「――――――――――――――……」

 

「よし、此処までは予定通りですね。それでは、仮想世界没入デバイスを――」

 

「ああ。意識が覚醒する前に行程を終えなければ意味がない。“あちら”に行く前にパーソナリティが目覚められたら実験の意味がない」

 

「……この実験にそれほどに注意を払う価値があるのですか? 私からすれば、上の方の道楽にしか思えませんが」

 

「……さてな。意味があるかもしれないし、ないかもしれないな。――だが」

 

 

「俺は上の意思に限らず、意味が在る物だろうと思うぞ。――()()()()に行った事のある俺からすれば、だがな――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――?」

 

「あちゃー。財団の人達。こんな事もやってるのかー。……どうすればいいのかなー、これって」

 

 

「―――――……」

 

「あ、うん。ごめんねー。言葉は分かる……かな? ……そうだね。僕は君を案内するのが仕事なんだ。僕はチェシャ、よろしくね!」

 

 

「――――――っ!?」

 

「うん。そうだね。何も分からないだろうね……でも、大丈夫。君は<マスター>――一番自由な人達なんだから」

 

 

「――――??」

 

「そう! 君は何にだってなれるし、何だってできるし、何だってしても良いんだよ。それが自由って事なんだ」

 

 

 

 

 

「――――――♪」

 

「――うん。良かった。一時はどうなるかと思ったよー。それじゃ、始めようか。――君の可能性(物語)を!」

 

 

 

 

「それじゃ、まずは――――君の名前(プレイヤーネーム)を聞いてもいいかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□■商業都市コルタナ 

 

 

 

 

 商業都市コルタナ。

 そこは、カルディナでも有数の大都市にして――カルディナにおける、<マスター>達のスタート地点。

 その特権を活かし、<マスター>の増加後は更にその繁栄を盤石の物にしていた、砂上の都市のひとつである。

 

 商業都市の名の如く、様々な物が店に露店にと売りに出されるその都市で――しかし、そこは砂漠である以上仕方がないと言うべきか、冷を取れる物は非常に高額になるのは当然であった。

 氷菓や冷水、氷魔法の【ジェム】に空調を整えるマジックアイテムに――しかし、このコルタナの中央にある巨大オアシスだけはその例外に当て嵌まるのだった。

 

 ……基本は市長の物であるそれだが、一般にも開放しないと文字通り市民からの強い反乱を招く為に()()()()は格安で飲用水として開放されている。

 その為、手軽で冷を取りたければオアシスに行くと言うのは<マスター>もティアンも変わらずオアシスに行くと言うのが鉄則だ。

 

 

 ――そして、ここにもオアシスへ()を進める<マスター>が二人。

 少女と女性、若干年が違えど共に整った(<マスター>としてはやや平凡とも言えるが)顔立ちをした二人が連れ立ってオアシスに向かっていた。

 ……黒紫色の不定形の霞に乗って、という異様な出で立ちだが、まぁそれは<マスター>であれば特筆するような事でもないだろう。

 

 だが、その目的はオアシスの水ではない。一応は。

 それは――

  

 

 

「暑い、暑い、暑い、暑い――なんで待ち合わせ場所が屋内じゃなくて(屋外)なんでしょうか……?」

 

「仕方ないでしょう。オリジンさん(現場責任者)エアーバードさん(研究主任)からの頼みなのですから。……むしろ、これは命令なのですから、私には従う他ないですが?」

 

「はぁ……本当に上の人は人使いが荒いですね。何せ――」

 

 

「私達に、新入りの“世話係”を頼むなんて。……別に、私達は最前線組でもないんですけどね?」

 

 

 

 ――そう。

 彼女達は今から“財団”の上の方の命令により――<Infinite Dendrogram>……このSCP-10106-JPの新たな担当職員の先達として、指導と世話を頼まれてしまっていたのだ。

 その理由についてはともかく、これも正式に彼女達の上の方から――そう、財団の上層部から正式に頼まれた“任務”なのだ。

 

 ……この()()の開拓や情報収集ばかりでほぼ自由行動だった今までと比べ、何らかの意図がある任務であれば、財団職員としてもエリートである彼女達にとって否はない。

 むしろ、数か月掛けて漸く何らかの動きがあるのかと思うくらいの動きの無さだったので、何らかの任務がある事自体は歓迎する事だったのだ。

 

 だから、この遣り取りも女二人のちょっとしたじゃれ合いの様な物。

 暑い事は暑いが――彼女達にとって、()()()()の苦境であれば数日どころか数か月程度余裕で耐えられる程のエージェントや研究員であるが故に――

 

 

 

「あっ――あの子ですかね?」

 

「特徴も、名前も一致しますね。その様です。目深なフードに、マントに――――」

 

 

 

「――フードの中に、()()()のガードナーなんてのは、そうは居ないでしょうし」

 

 

 

 

 …………まさか、自分達の仕事である“()()()”が、真実()()()の世話をさせられる事になるなどとは――財団一筋でまともに男とも付き合った事のない彼女達には知る由もないのであった。

 

 

 

 

 

 

「――貴女達がフォルトさんに、ラストさんですか?」

 

「……はい。これからお世話になります。私の名前はマスター――『マスター』です。よろしくお願いしますね」

 

 

 

「そして、この子が私のエンブリオである――――」

 

 

 

 

 

 ――そう、これは何処かと何処かとが交錯した物語。

 表と裏が、正が理が合が答が同じ世界で紡がれる物語の、その一端。

 

 名も、己も、我も――何もかもを喪失していた<()()()()>と、そのエンブリオの物語。

 

 

「――――【夢忘空獣 アナンタシェーシャ】です。……あの、もう少し水を買って貰ってくれませんか?」

 

 

 

 

 To Be Continued…………

 




追記:資料10106-JP-ε

 担当職員名:D-100106
 <マスター>名:マスター
 創出結果魔物(ガードナー)型のSCP-10106-JP-C、【夢忘空獣 アナンタシェーシャ】
 特性:忘却
 備考:表皮と体液に触れた相手の記憶を喪失させる能力を持った小型のウツボの姿をしたSCP-10106-JP-Cです。
 <マスター>が相手である場合は【忘我】と言う、【放心】に似た精神系状態異常を与える効果になります。
 状態異常としての強度は極めて高く、おそらくは状態異常耐性に特化した能力でなければ防ぐのは不可能な程でした。
 強力な能力の様に感じられますが、水棲のウツボであるという欠点がある為か、陸上での活動は著しく制限され、体液を吐き出す射程も水量も射速も低い為戦闘能力は高くないと言えるでしょう。
 基礎的な能力値(ステータス)こそ低くない物の、それを活かせる環境が極めて限られているのは残念ですね。
 少なくとも、カルディナでの活動には全く適さないでしょう。

 メモ:エージェント・雛倉が代筆させて頂きました。███研究主任に送付させて頂きます。 




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