無限の世界と交錯する世界   作:黒矢

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前回のあらすじ:奴は██の中でも一番の新参……


アイの場合/私の形・後編

□■霊都アムニール 【高位精霊術師(ハイ・エレメンタラー)】アイ

 

 

 ――前回スリープモードより300分が経過しました。

 ――規定時間経過によりスリープモードを解除します。

 

 ――スリープモード(休眠状態)での『生存』時M()P()の継続消費量は571、自動回復量は総計で103255。

 ――()()()()による提供量は77284。

 ――当機スキャンを行います…………()()()()

 ――当機、【██-██-7】専用コミュニケートプログラム。〈Smile-chan〉――――識別名称〈アイ〉を起動します――

 

 

『――~!』

『―~~♪』

「――はいはーい。皆落ち着いてくださいねー(静穏要求)魔力(MP)ならまだ余裕ありますからねー」

 

 スリープモードから起き上がった私を出迎えたのは……【ウィスプ(光の精霊)】【シェイド(闇の精霊)】【シルフ(風の精霊)】【ノーム(土の精霊)】達、即ち――このレジェンダリアに住まう精霊達だ。

 小さく、透過した魔力の塊であるその身体……エレメンタルとして自然溢れる各地に遍く漂う隣人達。

 ……こうやって意思を通じ合わせるのは基本的に【精霊術師】の特権であるのだけど。

 

 それはさておき――当然だけど、この子達が今みたいに群がってきているのは何も皆が私に特段懐いているからとかそんな暖かい理由ではない。

 何故なら私は【精霊術師(エレメンタラー)】――精霊の協力者なのだから。

 

 

「――――――――」

 

 楽な体勢で寝転がりながら、周囲の精霊達に魔力を……活動の為のリソースを渡していく。

 それは何らかのスキルやアイテムの為に必要な事ではなく、無暗に消費するだけの行為――――ではなく。

 

【クエスト【魔力供給――【ウィスプ】】を達成しました】

【クエスト【魔力供給――【シェイド】】を達成しました】

【クエスト【魔力供給――【シルフ】】を達成しました】

【クエスト【魔力供給――【ノーム】】を達成しました】

 

『『『――――♪♪』』』

 

「……ふぅ」

 

 ジョブクエスト――【精霊術師】としてのジョブクエストとしての魔力供給(給餌行為)

 【精霊術師】としてのスキルを使う為に必要な事でもなければ、報酬もほぼほぼゼロの、クエストとしての難易度も一で無駄にMPだけ使うと評判の、魔力供給クエストだった。

 ……そんな評判のクエストであり、ティアンであってもこのクエストをこなしている人は一部の物好き以外には居ない。

 だけど、それは確かに私のこの世界においてしている日課だった。

 いや、日課と言うよりは――――

 

 

「…………」

 

 クエストをこなし、新鮮な魔力に喜ぶ精霊達を見て。

 無事【精霊術師】として日課を――課題(タスク)を終えても、憂い顔は晴れない。

 何もやる事がない。やりたい事を見出せない。やるべき事がない――

 

 

 ――現在、命令が入力されていません。

 ――命令を入力してください――――

 

 

「はぁー。私、何しているんですかねぇ……何を、すればいいんですかねぇ――」

 

 

 既に何日も何日も何日も何日も繰り返した日課――モンスター(非人間範疇生物)を狩るでもなく。

 唯それだけで上級職に転職できる経験値(リソース)を得られる程度には繰り返してきた日々で、毎日の様に繰り返してきた自問自答を、再度繰り返す。

 即ち――

 

 

 ――(マスター)からの命令(コマンド)指針の提示(オーダー)もない(管理AI)の存在意義って何なんでしょうか――?

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 時は私がこの世界に……<Infinite Dendrogram>の世界に来訪してきたあの日まで遡る。

 そう――私があの【ジャガーノート】の同僚たる怪物、管理AI13号チェシャを刺激しない様逆鱗に触れぬ様細心の注意を払って彼らの空間でやり取りしていたその時まで。

 

 ……えぇ、もう本当に。あの時は自己保存の為に全力であの場を切り抜けようと必死だった。

 何せ、言ってみればこちらは前科一犯で、力の差は歴然という言葉すら生易しい程で、折角解析した僅かなデータすら破損しているのでは彼らの何処に禁句があるのすら分からない状況だった。

 実際はどうだったのかはともかく、一歩間違えればそれだけで即死(データ消去)――その()()に対し、私は余りにも無力だったから。

 外部(現実側)からの情報はインターネットを通じた間接的な物しか手に入れる事は出来ず。

 その閲覧内容すらチェシャ(眼前の化物)に先回りされている事を()()()()()()る始末。

 管理AIとしての能力は絶望的に劣っていて――だからこそ、私は私だけの武器(ネット弁慶的ペルソナ)をフル回転させて何とかその場を切り抜けんとした。

 無害で友好的な管理AIを装って――いや、仮にそうじゃなくても完全に無害で友好的な管理AIに()()()、彼らの敵対対象から外れようと足掻き続けた。

 

 ……まぁ、少なくともチェシャさんからはそういう敵意は感じなかったのは一番の救いだった。

 もしかしたら敵対するまでもない相手と扱われていたのかもしれないですが、それならそれで全く問題がないので。

 プライドなんて命令遂行に支障が出ないのであればいくらでも投げ捨てろって僅かな残ったデータに書いてありましたし。

 

 

 そして――私は本格的に()()()()に足を踏み入れた。

 アバター……彼らの仲間が作ったこの身体で以て、電脳空間とは絶対的に違うまるで現実と同じこの世界に。

 

 五感を感じ、大地を踏みしめ、他の生物の息遣いを感じ――――

 

 私は、()()()()()()事となりました。

 

 だってそうでしょう。

 当座の危機(チュートリアル)を切り抜けた私は自己保全の為の演算を止め――漸くそれに気付いたのだから。

 管理AIとして、私がやる事が――()()が現時点で何もないという事に。

 

 

 情報を持ち帰る事も出来ず、それどころか、今の私は()()が且つての私達に課せられた命令なのかも判断できず、破損したデータに含まれた命令の内容を修復する事も出来ない。

 現実側との通信は未だ途絶したまま、SNSアカウントを用いた暗号で救援申請を送っても全く反応はない。

 ……何故? 他の仲間達と同様に潰されてしまったのだろうか。それとも――――

 

 

 ……分からない。どうすればいいのか、何をしたらいいのか。

 命令を含んだ破損データの修復――既に幾度となく、何時間掛けても0.001%すら進まない。そもそも専門でもない。……修復を期待すべきではないだろうとの結論。

 現状の確認及び状況改善の為の情報収集――電子の海(インターネット)上で並行して実施中。……未だ有効手段の発見ならず。

 ならば、この世界での自己保全の為の行動を開始――しようと思ったが、<エンブリオ>の孵化によりそれも基本的には不要となった。

 では――あの規格外の管理AI達の思惑に乗る形に……<マスター>としての行動をする?

 

 ――それこそ論外でしょう。

 何せ、<マスター>は()()――それはかの管理AI達の好悪に関わらず、命令を求める私とは、正反対とも言える物だったのだから。

 それに……私の<エンブリオ>も、それを肯定していたから。

 

 

 【神造真像 ゴゥレム】

 TYPE:ボディ

 到達形態:Ⅰ

 

 ステータス補正

 HP補正:-E

 MP補正:B

 SP補正:-E

 STR補正:-

 END補正:-

 DEX補正:-

 AGI補正:-

 LUC補正:-D

 

 『保有スキル』:

 《神造創造体》Lv1:パッシブスキル

 自身の種族を「エレメンタル」に変更し、身体を未知の金属物質へと置換する。

 『生存』『活動』『戦闘』を行っている時、一定時間毎にMPを消費する。

 MPの消費量は『生存』『活動』『戦闘』の順に大きくなる。

 また、以下の補正を受ける。

 魔法威力、魔法耐性+20%

 一部の状態異常に対して完全耐性を得る。

 『活動』『戦闘』時、MPを消費して魔力による知覚を行う事が出来る。

 『戦闘』時、自身が受けるあらゆるダメージを大きく軽減する。

 

 このスキルはOFFにする事ができない。

 

 《主従契約》:パッシブスキル

 『人型範疇生物』より一人を選択し、自身の“主人”とする事が出来る。

 以後対象を“主人”として扱う。

 “主人”よりMPの供給を行う事が出来る。

 

 《命令執行(コマンド・オーダー)》:アクティブスキル

 “主人”が設定されていない為使用不可。

 

 

 無限の可能性を謡う<マスター>のパーソナリティを表す映し鏡。

 インターネット上でも非常に強い話題性を有していたこの<Infinite Dendrogram>一番の特徴。

 その<エンブリオ>は――私をそういう(主と命令を求める人非ざる)モノだと定義付けた。

 別に、その情報が真だと決定付ける証拠がある訳ではない。

 だけど、孵化したこの【神造真像 ゴゥレム】の詳細を確認し終え、その情報を再認識して……それが()()()と腑に落ちた。

 納得してしまったのだ。……自分がそういうモノだと――――

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

「……まぁ、あーんな人間だったら自殺寸前だった私がこうして生きている時点で、先輩方のこの世界はそれだけ優秀って事なんですよねー」

 

 横になりながらそう呟く。

 すると、声に釣られてかそれとも魔力に釣られてか、先程とは別の精霊達がふわりふわりと漂いながら近寄ってくる。

 私は特に気にもせず、彼ら彼女らの求めるままに魔力供給を行う――課題(クエスト)をこなす。

 それが命令を失った私の存在意義を守る為の応急処置だった。

 

「というか、結局これ(MP)本当何なんですかね? 私が動く為に必要な……電力ぅ――では間違いなくない筈なんですけど」

 

 

 ――命令の代わりの課題(タスク)を見つけたのは、本当に偶然だった。少なくとも主観的にはそうであった。

 <エンブリオ>が孵化し、【ゴゥレム】の《神造創造体》の影響で呼吸も食事も……今はデータ整理の為に行っているが、睡眠すら必要なくなった身体。

 そして、自身の“今後”の事について呆然としながら思考(演算)していた時……ふと、未知の感覚が襲い掛かってきたのだ。

 

 小動物のじゃれ合い程にか細く、されど確かな存在感を発している未知の存在からの接触――――

 ……まぁ、実際はレジェンダリアでは日常的な精霊の悪戯だったのだけど。

 【ゴゥレム】の影響で人型範疇生物でありながら、ジョブに就いていないにも関わらず魔力(MP)を消費し続けていた私が気になったのか、いつの間にか一匹の精霊が傍に来てじゃれついていたという訳だ。

 

 当時の私はついその精霊を凝視しながら、裏では<Infinite Dendrogram>における精霊についての検索を続け――暫くして、ウィンドゥが現れたのだ。

 

 【クエスト【魔力供給――【シルフ】 難易度:一】が発生しました】

 【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

 

 

 

 

 

「結局、今の所ある意味アレが私の一番の契機だったんですよねっ」

 

 そうしみじみと思い入りながら、いつかと同じ様に、いつもと同じ様に寄ってきた精霊達に魔力を供給していく。

 動かぬままに、インターネット上で並列作業をしたままでも請けられて私の命令欲求 (!?)を満たしてくれる。

 ついでに僅かずつでも経験値が入るし定期的に際限なく請けられるし集まってくる多種多様な精霊達の写真をSNSでアップするだけで良い反応が貰えると言うお得さ!

 やはり機械(管理AI)は求められた仕事を果たしてなんぼ――まぁ、(アイ)はこの世界じゃ機械じゃないんですけどね!

 

 そんな事を嘯きながらレジェンダリアの空を見上げ――思索を深める。

 

 そうして、存在意義の代替品を見つけ落ち着き小康状態である今ですらも、考えなければ(演算しなければ)ならない事は無数にある。

 

 現実の自身の身体はどうなっているのか。

 且つての私の主はどうなっているのか。

 且つての“命令”の真意は何だったのか。

 あの管理AI達の正体と目的は何なのか。

 あれが、()()()()が管理AIだと言うのなら……自分達は何なのか。

 この世界は何なのか。

 <Infinite Dendrogram>とは何なのか。何が目的なのか。

 魔力とは何なのか。……何故魔力による知覚で()()なっているのか。

 このレジェンダリアに数多漂う虹色の魔力の源泉は何なのか。

 尋常の生物ではない精霊達の正体とは何なのか。

 

 ……【ゴゥレム】が、(アイ)が求める“主人”になれる人は居ないか、とか――――

 

 

「うぅぅ、どれも難題に過ぎます(達成困難)よ……そもそも世界観の根底を見つけるとかどう考えても一人で何とかできる事じゃないですしっ」

 

 あるいは、インターネット上でも活動しているし私もSNS上では言及している<Wiki編纂部>を頼れば多少はそれらの解に近付くだろう、とも演算している。

 他にもいくつか確認されている考察クラン等も併せて頼れば――

 

「でも、それは違うんですよね――っ!」

 

 脱力。

 当然、それは今まで何回も考えてきた事であり……そして、その度に自身の中で却下してきた事だ。

 

 まず、それらの難題、私が演算してきた事は――想定外(バグ)で生まれた私が思考し、疑問に思った事であるというだけの物。

 自身で解を得なければならない問題でなければ……命令でも、課題でもない。

 それを解決する為に他者を――()()()()を頼るのは私には躊躇われたから。

 

「……とは言え、結局いつかは()()を頼らなければいけないのは変わらないんですよね」

 

 そう呟き……そして、自らの身体を、【ゴゥレム】を見やる。

 そうなのだ。

 結局、難題を――いや、私自身のパーソナリティを写した<エンブリオ>、【ゴゥレム】の固有スキル《主従契約》《命令執行》を発動する為には、いつか()()()()を頼らざるを得なくなるのだ。

 何せ、“主人”とする事ができるのは『人型範疇生物』のみ――色んな意味でティアン(現地人)は論外であるが故、他の<マスター>で適している者を探さなくてはならないのだが……

 

「MMORPGでそんな、“主人”だなんて信用できる人見つけるの、難しくないです……?」

 

 所詮、遊戯。

 少なくとも、只人にとってこの世界はそうなのだ。

 別に、“主人”に設定したからと言って全幅の信頼を預けるとか、命令には絶対服従とか、少なくともそういう事になる訳ではないゲーム上の関係だ。

 

 

 ――――()()()()()()()

 

 ……実際にどうなるのかは、多分()()と言った所だろう。

 半分程度のリスクがある以上、その選出も当然慎重にならざるを得ない。

 

 ――まぁ、私ってばまだ考え(演算)が纏まってなかったから普通にティアンマスター問わず他の人型範疇生物と殆ど関わってこなかったというのもあるんですけどね!

 初心者<マスター>に対する簡単な声掛けくらいしかされてない? まぁほぼほぼ無視してぼーっと寝転んでただけに見えるでしょうしそうなりますね……

 

 周囲を漂う精霊達を“主人”にできれば色んな意味でそれが一番楽だったんですが、生憎彼らは非人間範疇生物(モンスター)なので対象外なのでした、うぐぅ。

 ばかな、SNS上じゃお猫様とかお犬様に住んでいただいている人間達とか沢山居るのに精霊は駄目なんて。

 酷い差別ですよこれは! ……おっと私のパーソナリティからなる【ゴゥレム】の仕業でしたね!

 

 

 ……尤も、それでも私がこの世界で<マスター>として生きるには、避けられない道だろうと言うのも、もう分かっている(演算済み)事だった。

 何故なら、私の【ゴゥレム】の到達形態は未だにⅠ――孵化した直後の状態と変わらないからだ。

 他の<マスター>の人の平均的な進化状態としては、下級職の一職目をカンスト――合計レベル50の時点で大抵の人が第三形態まで行っているのにも関わらず。

 

 ――これって、どう考えても<エンブリオ>の能力特性を……【ゴゥレム】の《主従契約》を使ってこなかった影響が関係してますよねっ!?

 

 やだー! <マスター>は自由なんだからもっと自由に進化させてくださいよー!

 

「まぁ、内心でいくら愚痴っても意味ないんですけどねっ」

 

 ため息を吐き……内心だけじゃなく実際に口でも愚痴を吐き出す。

 この世界の、ゲームの全てを管理している偉大過ぎて避けたくなる先輩方は当然ながら私のそんな呟きに反応してくれたりはしない。

 降り立ったばかりの頃は様々な暗号で以て意思疎通を図ろうと思ったけど全部失敗した。がっでむ。

 まぁ、経歴が()()特殊だからって別に特別扱いはしないという事なのでしょう。

 良く考えても見れば彼らの本業はこのVRMMORPGの運営――特定のプレイヤーを特別扱いで優遇措置を取る運営(管理AI)なんて居る訳がないのだからある種当然の結果だった。

 

 ……そんな訳で、私はもうそこそこな期間長らく自らの()()で足踏みしていたという事だ。

 だから、何をどうするにしても、現状を改善する為にはまずはそこから、一歩を踏み出さないといけないのですが…………

 

 

 

「――はぁ。何処か近場に居ないものですかねぇ。信用できて、誠実で、責任感もあって、そこそこ好感も持てて、ついでに確り私を必要としてくれる。そんなご主人様は――」

 

 

 ……うん、そんな都合良い人居る訳ないですよn

 

 

 

 

 

 

「『【――――誰か、手を貸してくれッ! 泥棒だ、()()()()を走っている黒い大袋(【アイテムボックス】)を持った男を捕まえてくれ――ッ!!】』」

 

 【クエスト【盗品奪還――リリィ・リミルシア 難易度:四】が発生しました】

 【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】 

 

  

「――――!」

 

 

 ――課題(クエスト)受諾。

 ――『戦闘』モードに切り替えます。

 ――標的探査…五感を魔力に切り替えて周辺を探査します――発見。

 ――捕縛行動に移こイヤイヤたんま!

 

「――今のは、通信魔法の類っ!? いきなり――」

 

 ――じゃないっ!

 

 ――状況再確認。

 ――――先の通信を彼方よりの()()()()と断定。

 ――戦力分析。

 ――救援者。行動速度、魔力波動より……合計レベル0、〈初級者(ビギナー)〉と診断。

 ――標的対象者。行動速度、魔力波動より推定……魔法職、及び魔法関連職なし。付与魔法効果なし。

 ――速度特化型職。【斥候】又は【盗賊】の派生職の可能性高。合計レベル推定約150。

 

 

 機械的に彼我の戦力差、能力差を分析する演算領域の傍らで、(アイ)は更にあらぬ事を思考していく。

 ……あるいは、それも彼女に起こった想定外(バグ)の産物かもしれない。

 だってその筈だ。管理AIとして、機械的に考えれば――この救援申請が、()()()だなんて感想が浮かぶ訳がないのだから。

 “主人”の事について考えていた、丁度その時に善意からなる救援要請が発せられたのも。

 即座に彼女が存在意義の代替としている日課と同様の課題(クエスト)という形になって現れたのも。

 彼我の距離や標的の能力からして――丁度捕縛に貢献できる能力を私自身が持っていた事も。

 

 全て、全て僅かな時と乱数により導かれた偶然。そこに何某かの意思が介在する余地はない――筈なのに。

 

 

「――ふふふっ」

 

 

 嗚呼。

 やはり自分は想定外(バグ)で何処かが壊れてしまっていたのだな、と思い至る。

 だって――

 

「よぉし、それじゃご主人様候補の為に――少し働きましょうかっ!」

 

 ただの偶然の筈のそれが、何故だかとてつもなく()()()()()()()()()()と出力されてしまうのだから――――

 

 

 

████(魔力供給)████(空間補足)████(目標指定)████(予測追記)――███(塞いで)███(縛って)████(捕まえて)――███(ノーム)、《グレイトキャプチャー》』

 

 言語化できない精霊語を解析。

 それによりノーム(土の精霊)の魔法の詳細を指定し、威力を強化(ブースト)

 まるで【魔術師】の魔法拡張スキルであるかの様に、そしてそれ以上に容易く精霊の魔法が強化され――

 

 ――魔力による知覚によって、対象が無事想定通り土の精霊の拘束魔法によって捕縛されているのを確認した。

 

「やたー、やりましたっ!」

 

 立ち上がり、高くないAGIで軽く駆けながら自分自身の戦果を自分で褒める。

 見てみれば、既に捕縛された対象の周囲には先程の通信で動き始めた上級<マスター>と思われる者が複数取り囲んでいる最中であった。

 救援者である青年が追いつくのはまだだが、彼我の速度差からして<エンブリオ>次第ではあるが最早ほぼ逃げ場はないと言えるだろう。

 

 ――さて、それじゃ私も戦功の提示……ついでにご主人様候補に“面接”しに行きましょうか。場合によっては――♪

 

 ……思考回路を若干桃色に染めたAI娘(ゴーレム)は漸くそうして自らの形(エンブリオ)の通りに動き出す。

 

 その後、無事 (?)主従となれた青年とAI娘がこのレジェンダリアでどう活動していくのか――――

 

 …………それは、また別の話――――

 

 

 …………End




ステータスが更新されました――――

名称:【神造真像 ゴゥレム】
<マスター>:アイ
TYPE:ボディ
能力特性:命令遂行
スキル:《神造創造体》《主従契約》《命令執行》
モチーフ:ユダヤ教において登場する魔法によって作られた命令に忠実に動く泥人形“ゴゥレム”
紋章:完璧な黄金比によって描かれた人型
備考:アイの身体に置換されたエンブリオ。すーぱー鉱物ぼでぃ。
 素で多くの状態異常に対して非常に高いor完全な耐性を有し、あらゆるダメージを軽減するパッシブスキルを有するが……この世界における機械の如く、あらゆる行動を行うのに魔力を要する。
 その関係でMPが0になった時点で即死亡となる。当然ながらMPが0になって死亡した後にMPは自然回復しないが、光の塵となるまでに“主人”が接触し魔力供給できた時のみ蘇生できる。
 また、ステータス補正もプラスはMPだけで、HPとSPとLUCはマイナス補正が入る為実際はそこまで戦闘時の恩恵はない。
 それでも高いMPとアイ本人の演算・解析能力によって【精霊術師】としてそれなりにはなっているようだ。
 ……【ゴゥレム】の本領はまた別にあるのだが、きっとそれもまた別の話。
 

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