無限の世界と交錯する世界   作:黒矢

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前回のあらすじ:AIがとても丁度良い所にのこのこやってきた主候補をロックオンした様です


ザ・キングの場合/とある異邦人の物語・序章:前編

□<商業都市コルタナ> 【戦士(ファイター)】ザ・キング

 

 2043年7月17日。

 “夢の様なゲーム”と各所の専門筋の間で言われるVRMMORPG、<Infinite Dendrogram>が発表、発売されてから早二日が経過していた。

 情報の入手に遅れた古今東西のゲーマー、VRMMO愛好家、学生達が挙って品薄のそれを買い求めようと動き回り、手に入れた幸運な者達は一早くゲームを楽しんでいる……そんな最中。

 

 

 <マスター>の初期選択国家の一つ、都市国家群カルディナ。

 その初期スタート地点である<商業都市コルタナ>…………の、人影少ない寂れた武具屋の前に、一人の【戦士】が立っていた。

 

 使い込まれたかの様にボロボロな貫録を醸し出している大型の丸盾(ラウンドシールド)と、頭全体を覆う鉄兜(アイアンヘルム)を装備し。

 更に【戦士】として重要な自身の身体を上半身、下半身共に誂えたかのようにピッタリな金属鎧で包み込み鉄壁の守りと化し、腰に差すのは華美という華美を省いた、実用性の塊とでも言うべき武骨な長剣。

 

 その姿は正に――

 

「――歴戦の【戦士】ザ・キング此処にあり! 俺の物語(サーガ)はここから始まるのだッッ!!!」

 

 長剣を抜き、無駄にキレが良すぎる格好良いポーズをキメて、渋い声でそう宣言するこの俺――つい数十分前にこの世界にやってきたばかりの新人<マスター>であるザ・キングの姿が其処にあった!!

 

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「お母さーん。あの変な人何やってるの?」

「こら、言ったでしょ。<マスター>の人に関わるんじゃありませんっ!」

「はーい」

 

 

 スタスタスタスタ

 

 

 …………

 

「……ふぅ。良し、雰囲気に浸るのはこれくらいにして、装備も整えたし俺もちゃんと始めるとするかぁ!」

 

 そう独り言を呟き、剣を納めて足早でその場を離れる事にした。

 ……決して、決してNPC、いやティアン(この世界の住人)の悪気ない一言に一発(ワンパン)でノックアウトされたからという理由ではない。

 ないったらないのだ。

 ……多分。

 

 

 

 

 

 

「まぁあれだな。流石に“歴戦の~”はちょっと吹かし過ぎたなうん。反省反省」

 

 全財産を使い果たした武具屋を離れ、コルタナの新人<マスター>が集まる場……冒険者ギルドに向かいながらも……俺はこの世界に降り立った自分自身の事を考えていた。

 

 ……現実(リアル)よりも若い、三十代の頃の身体と顔。体力や身体能力などは最盛期の物に程近く、もう五十代となった現実の身体とは比べ物にならなそうだ。

 それでいて身体のキレは三十代相当なのだ。びっくり過ぎるアンチエイジングに若干引く程だ。

 そしてそんな身体で、目で辺りを見渡せば、目に映るのは砂漠の中に建てられた街並みに溢れる生命力を感じさせる人々。

 深呼吸をすれば、若干ながらも砂が混じった空気が胸一杯に吸い込めるのを――実にリアルに感じられる。

 

「すぅ――はぁ――。いや、これ物理演算本当どうなってるんだろうな……?」

 

 仮想現実もついにここまで来たか、いやいやまさかまさかの異世界説も夢があって大好物なんだが、と詮無き事を考える。

 結局自分はここで……この少年時代から夢見ていた“夢の様なゲーム”で思う存分遊べるのならばそれで十分に満足できるのだから。

 

 ……いや、それにしても本当にリアル過ぎるとは思うのだがな!

 この世界の住人一人一人、砂粒一つに風の流れに音の響き、森羅万象全てを、正しく世界一つを演算して作り出しているっていうのはどうにも――っと。

 

「いかんいかん。流石にちょっと思考がファンタジーに寄り過ぎた」

 

 自戒しつつ一旦思考を打ち消す事にしよう。まぁ、どの道真実がどうであろうと何が出来ると言う訳でもなし。

 今の自分にあるのはここが素晴らしい“夢の様なゲーム”であるという客観的、そして主観的でもある真実、ただその一点のみなのだから!

 

 ……まぁもっとも? 今の自分はこの世界に来たばっかりであるからして?

 

 ……つまりはピッチピチの新米(ニュービー)という事でもある。

 それを踏まえて――改めて今の自分の装いを、見ていこう!

 

 使い込まれたかの様にボロボロな貫録を醸し出している大型の丸盾!

 別に使い込まれているという訳ですらなく、粗悪品でもまともに使えそうな代物を値切りに値切って5000リルで買った物だ!

 ……まぁ、粗悪品とは言え防御性能は十分だな?

 

 戦士の風格を醸し出す誂えたかのようにピッタリな兜を含む全身鎧! ついでに長剣(ロングソード)

 

 ……キャラクターメイク時に管理AI(マッドハッター)に言って選んだ武器防具なのだからピッタリなのは当然の仕事だッ!

 いやこう、こういう戦士風の剣に鎧に兜って……格好良いだろう?

 新品の様にピッカピカ? うんまぁ新品だしな?

 

 そして最後に……俺、自分自身!

 …………【戦士】のジョブをこそ取ったものの、まだジョブレベルも合計レベルも1のまま。

 ついでに言えば武術どころか喧嘩の経験すら殆どないずぶの素人だし、全身鎧を着た経験だってないからぶっちゃけ未だにまだこの鎧に慣れていない!

 現実準拠の身体だったら普通に歩くだけで疲労困憊になっていただろう……

 

 【戦士】のジョブに就いて《戦技》Lv1を習得したら結構楽になったが……正直に言ってこの状態で白兵戦をする自信は全くないな!

 “歴戦の戦士”なんてとんでもない。“成り立て戦士”とか“新米戦士”、あるいは“見習い戦士”が精々と言った所だろう。

 

「あっはっは! 全く本当に酷い有り様だぜ! これでも割と真っ当なゲーマーだと思ってたんだけどなあ!」

 

 誰がどう見ても明らかなビルドミス。接近戦をやる技量もないのに鎧と兜と剣を選び、更に初期資金の全てを使って金属盾まで買って【戦士】になるなんて、正気の沙汰ではない。

 生産職、あるいは後衛職の中でもこの世界特有の魔法職等に就くのが……正しいだろう。正解なのだろう。

 

 しかし。しかし、だ。

 VRMMOだぞ? この世界は、正しく――()()V()R()M()M()O()なんだ!

 SA〇や〇hack、□グ・ホライズンで御馴染みだった――あのVRMMOなんだぞ!?

 俺がまだ十代の頃から慣れ親しんできた、青春のバイブル。ずっとずっと創作の代物として扱われてきた……何十年も待った“夢のゲーム”だ!

 それも何かしらの不具合がある様な物でもない。……()()の、だ!

 

 ならば当然、俺はこの道(前衛職)を選ぶとも。

 創作物として扱われてきた時の主人公達と同じ様に、()()()()()、この世界を己の総身で味わいたいのだから。

 その為ならばこの程度の苦労が如何程の物か!

 創意工夫を凝らして、戦闘技術のない俺でもなんとか前衛をこなせる様にすぐさまジョブに就いたし、初期資金をすべてを装備(丸盾)に回したりしたんだ。

 多少の不向きはそれ以外で補えるし、補う。

 その覚悟を決めて俺はこの夢のゲームに――<Infinite Dendrogram>にログインしに来たのだ。

 

「――そして、この俺の廃人級ログイン時間があればこの程度のハンデは無いも同然ッ!!」

 

 ……………………

 

 ……………………

 

「やっぱりボケても誰にも突っ込まれないのは凄く虚しい……」

 

 うん、俺自身昔からこういうゲーム好きだし廃人みたいに残りの人生をこの<Infinite Dendrogram>に捧げてもいいかなーと思っていたりはしたが。

 少年時代にやってたMMORPGなんかは一人でも気にならなかったものだが、そこは流石にVRMMOと言うべきか。

 剣と魔法のこの世界。広大に過ぎるこの世界は、一人で遊ぶには、人はちっぽけに過ぎるのかもしれない。……なんてな。

 

 だが、やはりそう考えてみるとこの、初期にしては防御力を重視した装備というのは自分的には大正解だったのかもしれない。

 軽く調べた限りでもタンク(防御型)の<マスター>は結構数が少ないらしいし、パーティでの役割は持てるだろう。

 それに――個人的な感想だが、()()()というのにも中々に魅力を感じても居るのだ。

 

 ――彼ら、創作の中で活躍する主人公達の様な……誰かを守る姿、という物に。

 

 それを自覚するのは多少気恥ずかしいが、なぁに、だからと言って躊躇う程もう青くはない。

 良い物は良いと何時でも言っていきたい物だ。

 

 

 そんな訳で。

 

「さーて、それじゃぁ憧れの主人公達を目指して――早速臨公パーティに行ってみようかあ!」

 

 つまり、そういう事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 臨公パーティ。

 臨時公平パーティ、あるいは簡単に野良、野良パーティとも言う。

 それは古くは40年近くも前のMMORPGから今に至るまで継承されてきたオンラインゲームの遊び方の一つ。

 知り合いでも待ち合わせをするのでもなく、ゲーム内に接続しその場に居る者達で即興でパーティを組んで遊ぶ方法だ。

 ゲームシステム次第ではパーティではなく対戦相手となったり、経験値等の要素を公平分配できる閾値に合った者達で組んだり、不遇キャラが敢え無くパーティを蹴られたりする光景が見られたりするのは何時の時代も同じだっただろう。

 その目的はゲームシステム……どころか、各々のパーティ如何で全く異なっている事にも殊更注目したい。

 単純にゲームの目的に沿って遊ぶだけではなく、臨公パーティで効率を追求する者達も居れば、同じ趣味を持った人を探す者も居る。

 一期一会の出会いの場にする者も居るし、固定パーティを組める相手が居ない者の最後の砦でもあり、この臨公パーティから新たな固定パーティが発足する事も……珍しい物ではない。

 

 さて、それではこの<Infinite Dendrogram>における臨公パーティとは、という話になるのだが、夢のゲームと言われ画期的なシステムを有するこのゲームであってもそれは大して変わらない。

 一番多いのは当然、実力、つまり合計レベルが近い者同士が集まってレベル上げや戦利品(ドロップアイテム)稼ぎのモンスター狩りに行く、という他のゲームでもよく見るスタンダードな物。

 次に多いのは突発クエスト、ギルドクエスト、ジョブクエストを問わないクエスト達成を目的としたパーティ募集だ。

 クエスト次第では様々な理由で一人で達成する事が困難なクエストも少なくないし、それでなくても人が増えれば出来る事の量も種類も増える。報酬分配の問題もあるが非常に有意義なパーティの組み方とも言えるだろう。

 珍しい所では生産系のジョブを取った人達による駄弁りながら生産系のスキルをまったり使い続けるもうパーティを組む必要がない様な物まで募集されていたりするが、まぁMMORPGならばよくある事だ。

 

 だが、この<Infinite Dendrogram>には他のMMORPG等にはない大きな要素がある。

 それは個々の<マスター>で全く違う能力を持つ、無限の可能性を謳われる――<エンブリオ>だ。

 <エンブリオ>により、各々の<マスター>が持つ能力は非常に特化、先鋭化、固有化される事となる。

 その為、一期一会のこの臨公パーティの様な場は他のどのゲームとも違う楽しみを提供してくれる場にもなる――まさに夢のゲーム此処に極まれりと言った所であった!!!

 

 

 

 ……と言うのが、<Infinite Dendrogram>が始まって早二日経った現時点でのネット上での評価である。

 尤も、事前情報すらなかった<Infinite Dendrogram>を手に入れて即座にプレイできた層は極少数だし、<エンブリオ>が孵化する時間も個人差があるっぽいし、そもそも仮に孵化しててもまだ孵化したばかりだから大した性能じゃないだろとか色々突っ込まれてたけどそれは一旦無視して!

 例によって(ザ・キング)の<エンブリオ>はまだ孵化していないのだが、まぁ俺もまだキャラメイク終えて数時間も経ってないから許して貰いたい。

 突入した募集中の臨公パーティだって俺みたいにログイン直後の超新米<マスター>達による普通の狩りパーティだから、それでも問題ない筈だ。

 

「――つまり、既に孵化している約一名がエリートゥ! であるだけでまだ<エンブリオ>が孵化していない俺達がスタンダードという事だな?」

「は、はぁ……」

「なるほど、一理ある」

「うーん、あるかなー?」

「ねぇよ!? 俺だってスタンダードだ! そっちが遅いだけだろうが!?」

 

 そんな訳で、早速だが今回俺が組んだ楽しい楽しい臨公パーティについて非常に簡単だが紹介させて貰おう!

 まず俺ことザ・キング――【戦士(ファイター)】のタンク役に加えて、<マスター>のパーティメンバーが後4人。

 唯一エンブリオが孵化している近接アタッカーである【剣士(ソードマン)】、後衛アタッカーである【狩人(ハンター)】と【弓手(アーチャー)】が一人ずつ。

 回復役に【修道士(アコライト)】が一人と……経験値を公平分配しない道案内役のティアンの【測量士(マッパー)】(サブで【斥候(スカウト)】【冒険家(アドベンチャラー)】も持っているらしい)の若人を加えた6人パーティだ!

 

 ……まぁ、物理に寄りすぎだとか、盾役の約一名()を除いて皆布防具(初期の服)だとか色々あるが臨公パーティならむしろこのバランスでメンバーが集まっただけ幸運だと言いたい。

 

 ちなみに、道案内役、というのはこのカルディナでの初心者の臨公パーティ特有の代物だ。

 都市国家群――とは言う物の、ぶっちゃけ街の周りは一面の砂漠に囲まれているのがカルディナという国だ。

 当然、慣れていない者が碌な準備もなかったらカルディナ内の街から街への移動も命懸け。砂漠の中に潜んでいる凶悪なモンスターに喰われるのがオチとまで言われているのだとか。

 勿論臨公パーティで狩りをしたいだけの俺達<マスター>もそれは例外ではない。

 カルディナに慣れているティアンの人の案内が無ければこのコルタナの街を視認できる程度の距離までしか出歩く事も出来ないだろう事は言うまでもない。色々な意味で。

 街からすぐ出た所は初心者狩場――と言っても、広大な砂漠の中では何処に目当てのモンスターが居るかも分からず、境目も分からずうっかり初心者狩場から出てしまい強力なモンスターに殺されると言うのはカルディナの新人<マスター>あるあるネタらしいからな。

 だから、冒険者ギルドから臨公パーティ向けにと案内人を斡旋してくれるのは素直に助かると言う物だ。

 

 それは事実、事実なのだが――その斡旋料と案内料が併せて5000リルなのはカルディナ冒険者ギルドの悪意を感じる金額だな!

 初期金額そのままの値段だ。どうやらカルディナの上層部は実にイイ性格をしているのであろう。

 

 ちなみに俺の分の代金は臨公パーティ終了後の精算時に天引きするという事で暫定リーダーの【剣士】の彼に払って貰っている。

 だから茶化しながら褒めていたりもするのだが、まぁ彼には合っていないようなので今後は真面目成分大目の方が良さそうだ。

 

 なので……ふむ。

 

 

「――それでは、此れより栄光の為の第一歩(最初の臨公パーティ)を踏み出そうぞ! 俺達の冒険はこれからだ!」

「「「打ち切ってるじゃない(ねぇ)すか()!?」」」

 

 パーティメンバー達の実に良い反応に満足して……タンク役として言葉通りに先頭に立ち、案内役の人に頼りながらも歩き出す。

 

 これから始まるのは、この夢のゲーム、<Infinite Dendrogram>に入ってからの、初めての戦闘、初めてのパーティ。……初めての、冒険。

 うむ、やはりテンションを下げてなんて居られる筈がなかったな!

 

「はっはっは――ッ!」

 

 大笑にパーティメンバー達に怪訝な視線を向けられるも、それを半ば意図的に無視しながら、更にテンションを上げて……内心で再度、呟き、宣言する。

 

 ――俺達の冒険(物語)はここからだ!

 

To be continued……




ステータスが更新されました――――

【戦士】:
 非常にスタンダードな前衛系下級職。あいあむふぁいたー。
 白兵戦用汎用センススキル《戦技》の他、各種白兵戦闘用スキルを習得する。
 適正武器は白兵戦用武器すべてであり、ステータスも物理ステ―タスが全体的に高めに上がり、更に《看破》等の必須スキルも最大レベルは低いながらもジョブで習得できる。
 控えめに言って余程尖ったビルドを事前に想定しているのでなければ前衛の一職目はほぼほぼこれで良い程の良物件。
 まだ得意武器が分かってない人、物理ステ―タスが欲しい人、とりあえず護身用のセンススキルが欲しい人、数多く存在する戦士派生職のサブに欲しい人にとオススメ具合に限界が存在しないのか?
 弱点……にもならないが、特異な効果を持つスキルはない事が特徴。ある意味では長所でもある。
 また、得意武器が決まった後はその武器種に特化したジョブ(【剣士】【槍士】等)に転職してリセットされる事も多いが……それもまた、【戦士】のいぶし銀な活躍と言えよう。
 レベルを上げて物理で殴れは大体の敵に通じる。通じない時は仲間を頼ろう、そして仲間を守ろう。それが【戦士】の魂なのだから。

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