無限の世界と交錯する世界   作:黒矢

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前回のあらすじ:ねんがんの リアリティ極まるVRMMORPGにログインしたぞー!


ザ・キングの場合/とある異邦人の物語・序章:中編

□<カルディナ大砂漠・西部> 【戦士(ファイター)】ザ・キング

 

 <カルディナ大砂漠>。

 それは、カルディナの中でも有数の都市、<商業国家コルタナ>を取り囲む様に存在する非常に広大な砂漠の名称である。

 中央に座する巨大オアシスを頼りにしなければ横断も難しい程の圧倒的な広さに、日中は常に地肌を焼く非情な日光が全体に照り付け、中央のオアシス以外に碌な目印もなく迷い易さも指折りという過酷さを誇る。

 極め付けは<カルディナ大砂漠>の全域に生息している凶悪なモンスター(非人間範疇生物)だ。

 

 人食いワームに猛毒の蠍の様な魔蟲の他、この過酷な砂漠という環境に適応した魔獣共の他に<厳冬山脈>から南下してきた地竜種、怪鳥種まで生息している大魔境となっているのである。

 勿論、場所を選べば低レベルの下級モンスターばかりが生息している場所もあるが……この広い広い大砂漠で、この世界に降り立ったばかりの、右も左も分からぬ様な素人がそれを判別するのは――

 はっきり言って、ほぼ不可能だ。……それが、この世界に急増してから一週間も経っていない<マスター>達であれば、尚更。

 仮に【斥候】や【冒険家】、【探索者】等の索敵に有用な汎用スキルを持ったジョブに就いていたとしても、下級職のスキルではスキルレベルを最大まで上げなければ満足な効果を得られないだろう。

 広大な砂漠の、砂中にも潜んでいるモンスター達を見つけられずに徒労に終わるどころか、ムキになって何時間も無為にこの大砂漠を歩き続けてたかがゲームだと慢心していく中で熱中症によりデスペナルティとなるか。

 あるいは、初心者の<マスター>達では到底敵わないモンスター達の住処まで知らぬ内に踏み込んでしまい、敢え無くそのモンスター達のおやつにされてしまった<マスター>も少なくないだろう。

 

 正直に言ってこんな所を初期スタート地点にした運営(管理AI)に対して恨み言の一つか二つ言ってやりたい気もするが(まぁデスペナった人達から既に結構メール行っているだろうが)それはさておき。

 当然ながら初期スタート地点である<商業都市コルタナ>の周辺は東西南北何処もそんな有り様なので、厳しいからと言って他の街に移動するのも一筋縄では行かない。

 今朝掲示板で見た時点では、ティアン(この世界の住人)の案内抜きで他の街に到達したのはほんの一割程度だったとか。

 デスペナルティを考えると全く割に合わない話である。

 

 ならば。

 ならば、初期国家にカルディナを選び、<商業都市コルタナ>からスタートする俺達カルディナの<マスター>に救済措置はあるのか? というと……まぁぶっちゃけつまりそれが俺達が雇ったティアンであるナームルさん、つまりは“案内人”の人達の事だ。

 

 そう、()()()()で、このカルディナで生まれ育った現地人。

 その中でも探索や索敵に適したジョブに就いた者達が行う、ちょっとした小遣い稼ぎ。

 本来であれば各々の専門ギルドで斡旋された仕事をしている彼らだが……狩りがてらにナームルさんに聞いてみたのだが、どうもカルディナの議会からの通達があって彼女達からすれば今は物凄く“稼ぎ時”なんだとか。然もあらん。

 なんでも、他所の都市からこのコルタナまで寄越されたティアンの“案内人”もかなり多いのだとか。それでも需要が尽きないんだから本当にカルディナの金に対する嗅覚は本物だ。

 まぁ、それで地元民であるナームルさんとかは多少割を食っているらしいのだが、それ以上に儲けているから何も言えないのだとか。

 …………それに、それ以上に今は“案内人”達を悩ませている存在があるというのも理由の一つなのだが。 

 

 

 

「っらぁッ! 《ファーストスラッシュ》!」

「《ツインアロー》! 《ツインアロー》ッ!」

「ほらほら二人共ー。もっと敵釣ってきて欲しいッスー。足りてないッスよー」

「ええい、お前達は鬼かっ!? ()()()にも限界があるのだぞっ!?」

「すみません……そろそろ……!」

 

 つい大声を出してそう怒鳴るが、アタッカーの三人は何処吹く風といった感じでスルーし、遠方に見つけた二匹の【サンドウルフ】に狙いをすませて追って行ってしまう。

 そうなってしまうとこのパーティの防御役と回復役、……そして案内役である三人も走って追わざるを得なくなってしまう訳で……

 

 どうしてこうなったー!?

 

 

 

 

 

 

 

 事の始まり――という物は特になかった。

 ただ、理由を簡単に纏めるとしたら……俺達のパーティは実に、実に順調に狩りを続けられたから少しずつ調子に乗っていった、というのが正確な所だろう。

 

 そう、俺達のパーティは実に理想的な臨公パーティムーブをし過ぎてしまっていたのだ。

 

 <商業都市コルタナ>を取り囲む<カルディナ大砂漠>、その中でも勿論()()()()はどの方角のモンスターがどのレベル帯の狩りに適しているか、という指標程度ならある。

 俺達が狩りをしている西部は初心者狩場の中では多少要求レベルが高い方のモンスターが出現する。――が、それはソロ狩りでの話だ。

 パーティを組んでいれば、それもきちんと定石通りに役割をこなせる構成でパーティを組めているなら、その効率も難易度も段違いとなるという物だ。

 その視点で言えば今回の俺達のパーティは……流石に満点とは言わないが、極めてそれに近いメンバー構成をしていたと言える。

 

 前衛、後衛。攻撃役(アタッカー)防御役(ディフェンダー)回復役(ヒーラー)に索敵も完備。

 魔法火力がない、という弱点もあるにはあったが、【剣士】の彼の剣のエンブリオの固有スキルの威力はそれを補って余りある程にあり、そしてそれを大した消費もなく放てるのだ。

 <カルディナ大砂漠・西部>で、戦う予定のモンスターは道すがら全てナームルさんに予習させられたが、その中で最大の防御力を持つ【ジャイアントスコルピオ】さえも一刀両断できるのだ。彼に関しては調子に乗っても仕方がないと思わないでもない。

 

 また、その道すがらでパーティ内でもう一人、【狩人】の彼女のエンブリオも孵化していた事も大きい。

 極々狭い範囲の運動エネルギー増減の固有スキルを持つ手袋型のエンブリオ。それによりパチンコ(投石器)を主武装としていた彼女の火力も桁違いの物となり、その石礫の威力はモンスターの頭部に直撃すれば容易く一撃で粉砕できる程となった。

 エンブリオこそ未だ孵化していないながらも与えられた仕事を卒なくこなす【弓手】の彼の弓の連射も併せれば、多くのモンスターが近付く暇もなくつるべ打ちとなり絶命してしまう事となる。

 

 勿論、それでもたった二人の遠距離攻撃では一体も近付けさせないと言うのは不可能である。良くて半分と言った所だ。

 VRMMOはそれまでのゲームとは違い一発一発矢や石を番え構え放たなければならない。その手間に命中率まで鑑みれば……むしろそれでも非常に優秀な二人だと言えるだろう。

 

 この世界(ゲーム)、<Infinite Dendrogram>にはセンススキルという存在がある。

 一言で言えばシステム的な行動のアシストだ。主にジョブに関連した行動を行う際に“正しい動き”ができる様になるちょっと凄すぎる代物だ。どうやっているのかちょっと分からない。

 それ故に……【狩人】や【弓手】であれば弓の引き方や当て方、【剣士】や【戦士】であれば剣術や近接戦闘術が、ほぼほぼ戦いの素人である俺達<マスター>でもちゃんと戦える様になる素晴らしいシステムなのである!

 ちなみに、余談ではあるがこのセンススキルというのは下級職の最大レベルで一人前、上級職の最大レベルで一流の少し上程度、と現実での掲示板等では言われているが……

 それはつまり、現実でそれ以上の実力を持っていれば他の<マスター>と比べても頭一つ二つ、あるいてはそれ以上に抜きんでる事が可能という事である! リアルチートとかどれくらい居るんだろうなぁ!

 

 当然だが残念ながら俺も、他のパーティメンバー達も優秀でこそあってもそこまでのリアルチートではなかったので戦闘に関してはほぼセンススキル頼りな訳だが、実際それで狩りが上手く行っているのだから改めてこのセンススキルという物の出来に戦慄せざるを得ない。

 ああ、多分本当のVRMMOの主人公というのはそんなリアルチートなんだろうな。と多少感傷に浸るが、そんな俺は俺でしっかりパーティ内での役割もこなしていた。

 【剣士】の彼と共に前衛としてモンスターの足を止め、そして相対したモンスターを倒す役目だ。

 まだ後衛二人のセンススキルのレベルでは接敵した乱戦の最中に射撃しても誤射する危険がかなり大きい為、援護射撃は期待できないし、【剣士】の彼ほどの攻撃力もない。

 しかし、それでもセンススキルの導くままに身体を動かせば【サンドウルフ】や【ジャイアントアント】程度なら一対一ならば普通に勝てるし、三対一までなら【剣士】の彼の援護が来るまで防ぎ切る事はできるのだ。何度も言うがセンススキルって凄いな!

 俺も、勿論【剣士】の彼も、後衛の二人もセンススキルのレベルが初期状態だった時ですら初心者狩場のモンスターなら普通に戦い合える様になるのだから。

 

 勿論それはセンススキルのお陰、というだけではない。

 自分自身の才能――は全く関係ないが、それでも選択は良かったのだろう。全身鎧と兜、そして購入した盾という防具達は俺が夢想した戦士像そのものの様な、いやそれ以上の働きを持って俺に答えてくれた。

 たかが初期装備、されど初期装備だ。

 動き辛さや重量、視界や行動の制限と言ったマイナス点も目立つが――それでもれっきとした金属製の鎧と、兜なのだ。

 布製や革製の初期装備とは、実際の防御力は比べ物にならないという物だ! ……まぁ、金属だろうと直撃すれば余裕で拉げる程度の怪力を持つモンスターだってうようよ居るが、それでもあるとないとでは大違いだ。

 

 もう一つ、これは俺だけではなくパーティ全員に言える事だが――モンスターとの戦闘に対する忌避感が少なかったのは大きなプラス点だっただろう。

 いくらセンススキルがあり、ジョブがあり、エンブリオがあり、ステータスがあり……モンスターと戦う術があると言っても、このVRMMO、<Infinite Dendrogram>では戦うのは<マスター>自身なのだ。

 視界は変更できるとは言え、リアルな感触をその身体に伝え、モンスターの悲鳴すらも超リアルな物であるこの世界で<マスター>が戦闘を行うハードルという物は予想以上に高い。現実準拠の視点であれば、特にそうだと言える。

 まだこの<Infinite Dendrogram>が始まって二日しか経過していないと言うのに、インターネットの各所で数え切れないほどリアルさによるリタイア報告が呟かれているのも、現在進行形で経験している俺からすれば理解できなくはない事だった。

 

 人間とそう変わらないサイズの蠍や蟻が、殺意を剥き出しにした狼の群れが、正体も良く分からぬ異形の怪物が、自分に仇なそうと、殺して喰らってやろうと襲い掛かってくるのだ!

 ……しかし、パーティメンバー達と来たら、実際に戦いを繰り返してみても戦闘への躊躇いという物は殆どないし、不慮の事態が若干あっても多少慌てた後は実に適切に対処してくれるメンバーばかり。

 頼もしい限りではあるが、俺自身が10代だった時に同じ事が出来たかはちょっと怪しいのが少し悲しい所だな! 長年の経験と言うのは人を強くするな、うん。 

 

 そして、影が薄くなりがちだが【修道士】の彼女やナームルさんと言った補助役の働きも非常に大きい。

 ナームルさんは確実に迅速にモンスターが居る方を、それも俺達が同時に対処できる四体までを目安にしてしっかり先導してくれていたし、事務的ではあっても聞けば大抵の事を教えてくれる親切な子だ。お陰でコルタナについて結構詳しくなる事ができた。

 【修道士】の彼女も【剣士】の彼や俺が傷を負った時や【毒】を受けた際には即座に回復魔法を掛けてくれるし、万が一にもモンスターに接近されない様に常にパーティで唯一にして一番の索敵役のナームルさんの傍を離れない構えだ。

 回復役はパーティの生命線だ。ゲーム次第では回復行為に高い敵愾値(ヘイト)が設定されている事も少なくないし、自分の身を守ってくれるだけで十分にありがたい事だ。

 

 

 ……そう、そんな感じで、臨公パーティにありがちな地雷(やべー奴)が混じる事もなく、個々の実力もパーティ構成も何ら問題なく

 むしろ総合的なパーティとしての実力は非常に高かった為――臨公パーティは()()()調()()進行していったのだ。

 

 その結果が――()()だ。

 

 順調に狩りを続けていくにつれ、初期の下級職に就いたばかりだった俺達のジョブレベルはぐんぐん上がり、ステータスも初期からは桁違いに強くなり、スキルレベルもどんどん伸びて行き。

 初期状態ですら普通に狩れていたこのパーティ、当然ながらそうやって成長していくに従って狩りの効率は良くなっていく。

 ……それも、ナームルさんに聞く限りは、ティアンの人の基準からすれば尋常ではない速度で。

 パーティメンバー全員がリアル都合上問題なく、今の臨公パーティも非常に効率良く稼げている事から、デンドロ内時間での日を跨いで狩りを続けている事も、おそらくは理由の一つ。

 別に彼ら、彼女らが図々しい性格だったとか、問題がある性格だったという訳でもない。

 元芸能人にして、ほぼ間違いなくパーティ最年長である俺の経験に言わせれば、少なくともこの臨公パーティで見る分には間違いなく皆()()()な子達だ。

 そして、そんな子達が現実としか思えない程のリアリティを誇るこの世界で、長く一緒に狩りを、モンスターを相手にした戦いを続けるにつれて生まれた仲間意識が、連帯感が……()()が芽生えるのは、むしろ当然の成り行きだ。

 

 そして、来たるデンドロ内の日を跨いだ、臨公パーティによる狩りの二日目。

 

 レベルアップにより劇的な成長を果たしたアタッカー陣営の活躍ばかりになって防御役も回復役もまともに仕事する事が少なくなったのが――今の現状だよ!

 

「全く、あいつらめ。調子に乗っていると足元を掬われると言うのに」

「ははは……皆さんの向かっている場所は把握しているので大丈夫ですよ。それに、こういうのは慣れていますので」

「うーむ。それはそれで<マスター>として少し申し訳ないと思う訳だが……」

 

 嘆くように呟いたが――このパーティの中で、最も立場が微妙な事になっているナームルさんにフォローされてしまい、逆に少し気分が落ち込んでしまう。

 ティアンで、現地人で、案内人であるナームルさんとしては、この扱いも、フォローも仕事の内なのだという事は理解している。

 

 理解――していても尚、微妙な気持ちになってしまうのは、それがパーティ内でも自分一人だけだという事は、果たして俺の心が弱いせいだという事だろうか?

 

 

 ……勿論、そんな事はないと、頭の中では分かっているのだ。

 だが、それでも、だ。

 

 約1日の間、一緒に行動してきて見て来た、その表情も言動も。

 いや、彼女だけではない。

 あのコルタナの街で思い思いに過ごす街の住人達。街を歩いている時にすれ違った数多の人々。

 古びた武具屋で格安ながらも良い盾を見繕ってくれた老練としたあの店主も、言葉の凶器で俺をノックアウトしてくれたあの親子だって、<マスター>で溢れ返る冒険者ギルドでパーティ募集の整理に悪戦苦闘していた受付嬢さん達も……そうだ。

 彼ら、彼女らティアンが、このリアリティ溢れるこの世界の住人達が――作られたNPCだと、他のパーティメンバーの様にそう扱うのは、どうしてもできそうにない事だった。

 

 ならば俺が読んできた小説の様に、此処は本物の異世界で、彼らは異世界の住人だ――と、素直に信じたい心もあるが、流石にそれを完全に信じ込める程綺麗な性根をしているつもりはない。大人になるって大なり小なり汚くなる事なのさ。

 しかし、だからと言って旧世代のゲームのNPCと同じ様な、ただプレイヤー(<マスター>)に使われる様な存在では決してないと思う。

 

 ちなみに、俺の中では管理AIとは別種にして同類の、超高性能AI説が有力だ。異世界説とは6:4くらいの割合で。

 今の御時世、管理AIを始めとして、実際に受け答えする分には人間と何の区別もつかない程に、あるいは人間以上に人間らしい仕草や表情をするAIという物も存在しているという事は知っている。

 ……俺の勝手な持論としては、感覚的に“人間と何の区別もつかない”程の存在が現れたのならば――それは人間として扱われるのに何ら問題はないと言って過言ではないと思うのだがな。

 流石に世論では許されないし、態々公言する様な事でもないが。

 

 

 

 

「ふぅ……」

「――正直、キングさんは色々と気にし過ぎじゃないですか?」

「うん?」

 

 内心で少し黄昏ていた俺に、唐突に横から声を掛けて来たのは、横を並走していた【修道士(アコライト)】の彼女だった。

 ……ちなみに、俺に返事をした後、ナームルさんは三人を追って先に行ってしまった。

 【司祭】のマイナーチェンジであり、AGIの低い彼女と【戦士】で普通にAGIがある癖に全身鎧のせいで動きが鈍い俺達が若干遅れて殿になっている形だ。

 ……そして、【司祭】のマイナーチェンジ、つまり先程も言った様に回復役にしてパーティの生命線である彼女の一番の仕事と言えば――

 

「さっきから見ていたのですが、私達後衛へモンスターが流れない様にするのは、まぁともかく――あの【剣士】の方が相対するモンスターを調()()していたり、あのNPC(ティアン)の方の立場にまでずっと配慮してましたよね?」

「む、それは勿論だが……」

 

 NPC(ティアン)、現地人……つまりナームルさんへの配慮は先の通り俺としては当然の事であった。

 唯一の防御役(タンク)として絶対に攻撃が流れない様に全力を尽くすのだってそうだし。

 絶大な攻撃力を誇るがその剣筋は大体センススキル頼り(それでも俺よりは数段マシだが)の彼が対処しにくい小型のモンスターを足止めし相手取るのも、確かに事前に取り決めた役割分担でこそない物の――その仕事はもう一人の前衛たる俺にしか出来ない事なのだから、これも俺の仕事だろう。

 

「他にも、合間合間で良くあのNPCの人の仕事手伝ってたり教わったりしましたし……実はああいうのが好みなんでしょうか?」

「いや、別にそういう訳じゃないんだがっ!?」

 

 あれ!? 何か凄く不穏当な勘違いをされていないか!?

 大体一緒に居るナームルさんとの話にも、パーティ内での会話にもあまり入って来ないで、大体静かに一歩引いた所にいたのは判っていたが、もしかしてずっとそんな事思われていたのかッ!?

 

「あれはこれからもこの国(カルディナ)で生きていくに当たって必要だから頼んで教えて貰っていただけだし、他のだって別に意識してそうしていた訳じゃない、当然の事をしたまでだッ!!」

「あ、はい。怒涛のマジレスですね……私は、多分他の方もそれを当然とは思っていないと思いますが」

「当然、それは、プレイスタイルは人それぞれだと言うのは大前提だ。それは否定しないし俺だって強要するつもりなんて欠片もないぞ? ――ただ、()()()()だってだけの話だ。」

「いえ、私だってキングさんのそのスタイルを否定するつもりはありませんが……」

 

 そう言いながらも、彼女は一瞬だけ気遣わしげな視線を向け、そして溜息を吐いて――

 

「その生き方(プレイスタイル)、凄く疲れませんか……?」

 

 と、聞いてきた。

 

「……ほう。そう思うか?」

「ええ、思いますとも。……勿論、私もそれを否定したい訳ではありませんが」

 

 返答には即答される。

 ……正直、このデンドロ内時間ではあるが、1日くらい一緒に過ごしていたが、こうもグイグイ来る子だとは思わなかった。

 とは言ってもそれは悪い意味では全くない。

 それだけ俺を、他のパーティメンバーを無関心に思わず観察してくれていたという証左なのであるし、それは支援・回復役のパーティ内での働きの理想的な物の一つでもある。

 ……こういう所を聞かれるとはちょっと思っていなかったけどな。

 

()()は、()()は、ゲームです。遊戯です。私達は遊びに、楽しみに来ているんですよ? なのに、そこでそんな全力で疲れる様な真似をしては本末転倒じゃないですか? ……ゲームって、もっと適当にやる物なんじゃないですか?」

「あー……――ふむ、なるほどな」

 

 彼女のその言葉を聞いて、くっくっと苦笑しながらも……得心が行く。

 インターネットの掲示板等で聞かれたならば戯れ言と流されそうなその言葉であるが、彼女の表情からは100%の本音が浮かんでいるのが見て取れる。

 ……中々初心で可愛い物だ、とやや不謹慎に考えてしまう。

 

 なるほど、確かに。

 俺もこの臨公パーティ中でのフォローに心地良い疲労感ではあるが、確かに疲れているとは言えなくもない。

 ゲームというそれに対する認識も……まぁ、頭を空っぽにして楽しむ様なゲームも多数あるというのもその通りだし、この<Infinite Dendrogram>でその様にこのファンタジーでリアルな世界の()()をこそ楽しんでいるという者も大勢居るだろう。

 嗚呼まさしくその通り、他にも要らない苦労を進んでしているし、ゲームで疲れる様な真似だって沢山しているとも。

 

 だけど――

 

「あっはっは――君、実はゲームを遊ぶ経験って殆どないんじゃないか?」

「なっ――そ、それがどうしたんですっ? それが何か関係あるんですかっ?」

「うむ、良い質問だ! それはな――」

 

 

 

 ――――うおおおおおおおおおおおぉッ!?

 

 ……答える直前に、前方から【剣士】の彼の悲鳴が轟いた。

 

「まずっ! 話し過ぎたか!?」

「――急ぎましょう!」

 

 

 ――駆け出し始めた俺達の視界の先に映ったのは。

 

 

 ――十数キロメテルは離れた場所を生息域にしていた筈のモンスター。【純竜陽炎】の幼体……【亜竜地蟲】が操る流砂に足を取られている、先行していた四人とそれを取り囲む十数体の魔蟲のモンスター達だった――――!

 

 

To be continued……




ステータスが更新されました――――

名称:【雷轟腕 ヤルングレイプ】
<マスター>:斎藤立夏
TYPE:アームズ
能力特性:運動エネルギー増減
スキル:《アドバンスド・アームズ》
モチーフ:北欧神話の神トールが所有していた鋼鉄の手袋“ヤルングレイプ”
紋章:紫電迸る拳
備考:一対の手袋型のアームズのエンブリオ。能力的に雷要素はゼロ。詐欺かな?
 両手の武器枠に装備されている装備に干渉する運動エネルギーを増減させる効果の固有スキルを保有する。
 パチンコを持てば射出威力が、打撃武器を持てば衝撃が、斬撃武器を持てば切れ味が増し、盾を持てば受け止めた際のダメージを大幅に緩和する万能物理増幅手袋。
 白兵武器持って鍔迫り合いとかさせたら大抵の相手に一方的に打ち勝てる。
 弱点は手で持つ装備品にしか効果がない事と魔法的な効果には全くの無力である点。そしてそこそこSPを消費する点だ。
 現在はまだいいけど多分今後スキル数増えたらSPのやりくりが大変な事になる奴……
 また、弓やパチンコなら問題ないがクロスボウや銃等と言った相応以上に複雑な機構を持つ武器の場合も正常に効果が発揮されない……というか武器が壊れる弱点があるとか。
 そんな感じに弱点はそこそこあるがシンプルに使う分には非常に使い勝手が良い類のエンブリオ。

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