無限の世界と交錯する世界   作:黒矢

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前回のあらすじ:エフ氏うっきうき。エメルどっきどき


ザ・キングの場合/彼は《“■■■”》:後編

□<商業都市コルタナ>【生贄】エメル

 

 

 (いやいやいやいや――やっぱり、これはどう見ても()()じゃないですよねっ!?)

 

 <商業都市コルタナ>、その巨大オアシス前に位置する大広場。

 オアシスの冷の恩恵を授かりこの砂漠の中でも快適に過ごせる為日中はほぼ毎日人で賑わっているそこだが――今日は何時にも増して、倍以上の人が押し掛けていた。

 人人人人人人――その人波の最前列に()があった。

 お立ち台だ。地属性魔法で即興で作られた簡易舞台(ステージ)

 この場に集まっている人々が注目しているそこに――一組の主と奴隷、即ちザ・キングとエメルは立っているのであった。

 常の鎧兜の姿のままに、あるいは“兜の人”の知名度も漏らさず使う為に。

 【拡声の指輪】で集まった全ての人に、否さ此処に居ない人にも聞こえる様に――ザ・キングは声を上げる。

 

 

「――諸君! 今日は急な呼び出しにお集まり頂き感謝する! 俺は今回皆を集めさせて貰った首魁のザ・キングだ! どうぞよろしく!!」

 

 

 そして、その言葉の通りに――この場に集まった多くは彼や、彼の知り合いの伝手で呼び集められた<マスター>を中心とした者達であった。

 臨公パーティで組んだ者、依頼(クエスト)を共に達成(クリア)する為に組んだ者、ただ純粋に助力された者、ただ純粋に気が合った者等、理由は様々だ。

 そして、そんな彼の伝手の中でも金満な者であったり更にコネや伝手を持っている者であったり通信系の<エンブリオ>を所有している者に概要だけ説明しお願いし人を集めて貰った結果が――この大賑わいであった。

 おそらく、此処に来ている多くの者が一体今から何が始まるのか、言われるのかも分からないままに集まってきているのであった。

 ……それ自体に別に問題は何もない。

 何せ彼らは<マスター>なのだから――仮にそこまで呼び寄せていなくとも、()()()()の気配があれば何も言わずとも寄ってくる、そういうモノだからだ。

 

 

「さて、長々と挨拶できない事もないがきっと誰も求めていないだろうから手短に行かせて貰おう。――議題は、“このカルディナと言う国家における人権意識の希薄さ”だッ!!」

 

 

 だが、初っ端から飛び出た言葉は――そんな<マスター>達の大半が困惑するものだった。

 それはそうだろう。考えるまでもなく――このカルディナと言う国は、彼らが来る前から()()なのだ。

 そこに疑問を挟み込む意味も必要もなく、公式サイトにすらそう記載されている“設定”だ。

 “中央大陸の中心に坐する、金で全てが決まる商業都市国家群”である、と――

 

 

「なるほど確かに! 確かにこの国は以前から、ずっと前からこうだったらしいな。金が無ければ人非人で、金さえあれば全てが許される。借金を返せなければ即奴隷に落とされても誰一人も擁護しない――そんな国が今俺達が居る国だ!」

 

 

 そして、続く事実その物である言葉に――事実その物であるからこそ、苦い表情をする<マスター>も多少は出てくる。

 それでもまだ多数は平静の顔であったり嘲笑しながらその喜劇を見てはいても――この広い国なのだ、当然キングの他にもそういった<マスター>は居た。

 見て見ぬ振りをしようと、“己の手の届く範囲”で善行を成していようと――変わらない。

 この国はそういう国であると言う現実は。

 ――少なくとも、()()()()

 

 

「故に、敢えて言おう! ――()()()、それでいいのか!?」

 

 

 そして、次の言葉は逆に全く抽象的であり、聞く方の<マスター>達にも困惑の色が強まる。

 何を指して言っているのか、どんな目的の発言なのかの真意を読み取れず。

 その真意を読み取れた者は僅かしか居らず……キングはその困惑に追撃する様に続ける。

 

 

「お前達も、()()()()に来る直前に言われただろう。――この世界で、俺達<マスター>は何を、どんな事をやるのも自由なのだと!

 公式サイトにも書いてあっただろうし今までの生活で十分分かっているだろう。――俺達<マスター>は<エンブリオ>に選ばれた者でこの世界でも特別扱いされている者なのだと!」

 

 

 ――それは、この場に居るほぼ全てのティアンには理解できず、されど<マスター>であればこそ理解できる台詞だ。

 自分達は特別なのだと、一種の特別階級なのだ、何をしても良いのだと言うある種傲慢な台詞――

 

 だが、それは間違いなく真実なのだ。……多重の意味で。

 彼らはその行動の自由を遊戯(ゲーム)として管理者たる管理AI達にも保証されていて、それどころかそんな自由を推奨されている立場。

 そして、彼らが持つ<エンブリオ>を含む<マスター>としての多くの特権もまた、この世界の本来の住人たるティアンは持ち得ない特別その物の証。

 ならば――

 

 

「それなら――俺が、俺達が“主人公”なんだ!! MMORPGってのはそういうもんなんだぜ!?」

 

 

 そんな子供みたいな事を臆面もなく言い切った。

 こいつマジかよ、とかうわぁ……という視線も大分混じってきたが、それでも話の注目度は間違いなく高まってきているのを肌で感じる。

 だから――ここで()()を投入する。

 

 

「勿論。だからこそ俺も()()にやらせて貰っている!! 横のこの子は俺が買った奴隷の子だ。どうだ可愛いだろう!!!」

 

 そう言い――傍らで直立しずっと黙っていたままだったエメルへ手を向け注目を集める。自身には若干の煽りと罵声を集めながら。

 ……()()通りに。

 

 ――もう直ぐ私の出番だ。

 

 出番を前にして、瞑目し集中して精神を整える。

 彼女自身が行う役割自体は大した事ではない、と自身の主(キング)から言われているし、奴隷の彼女にそれを疑う余地はない。

 

 事実……既に此処まで公権力からの妨害が入っていない時点で、(キング)の目論見は既に達成されているも同然だった。

 自分一人の力で出来る事なんて高が知れている。金、コネ、その他あらゆる力を使って尚改革だなんてそう簡単に果たせる訳がないとキングは理解していた。

 だが、その為の“芽”は打ち込める。

 この演説を聞いた彼らが、()()()()状況に直面した時に、ふとこの時の事を一瞬でも思い出し――そして、行動を起こす()()()が出来るのだと。

 その程度の助力であれば、ある程度注目を集め耳目を集めたこの時点で達成できるのだと、俺程度が持つ力でもできるのだと、()は語っていた。

 故に……厭うのであればその時点で拒絶してくれても構わない。何なら最初から失敗したって構わない、と。

 それで怒る者など誰も居ない――少なくとも、奴隷の主としての自身は絶対に怒り叱るつもりはないのだと断言された。

 そもそもその場に連れていかれ、衆人環視の中晒されると言うだけで普通であれば苦痛であるのだから、そうなって当たり前なのだと始める前から慰めてくれていた。

 

 それは、その計略は、<マスター>としての、ある程度の年長者としての視点であり、ティアンの若輩者であるエメルには全ては理解できなかった。

 だけど――――

 

 ――失敗したくは、ないですね……!

 

 親身に案じ、世話をしてくれた彼の足を引っ張りたくは、ない。

 そう思い、無言のままに決意を固めていた。

 

 

「だが、先に言った様に俺としては金で命を買う様な事はそう簡単に賛成したくはない。故に――こんな物を用意させて貰った!」

 

 そして取り出されたるは――一枚の【中級契約書】。

 ――――先刻、エメルが差し出された台本の紙束と共に差し出された紙片の一枚と同じ物だ。

 その【契約書】には以下の様な事が記載されていた。

 

 

 ――この後にザ・キングはエメルの衣・食・住と労働に応じた給料を保証し、エメルはそれに応えた労働を行う事。

 ――但し、エメルはザ・キングの“命令”を拒否する権利を有するものとする。

 ――例外事項として、“奴隷”である間はエメルの生存を優先する為に【ジュエル】への格納は許可を取らずザ・キングの判断で行う物とする。

 ――両名は同文が書かれたこの【中級契約書】を一枚ずつ所持し、自由にこの契約と同時に《奴隷契約》を解除できるものとする。

 

 ――エメルとザ・キングは“奴隷”と“主”でありながら対等な関係を築く事とする。

 

 ……あからさまに、奴隷であるエメルが有利な契約を為されている【契約書】に、既にサインされているのが見えた他の<マスター>達の心情は如何程の物か。

 だがそんな物関係無いとばかりに。

 

 

「俺がこの子を買ったのは同情と憐憫と多少の打算だ。知っているか、売られている奴隷って言うのはプライバシーなんてあったもんじゃない。そのプライドを折る為か、俺みたいなのから同情で買わせる為かは分からないが、奴隷となった経緯まで詳らかに明かされているもんだ。……奴隷になる様な不幸な経緯が、所狭しと並べられているんだ。勿論、この子みたいな子も含めてだ。……この子の場合は――」

 

 そこで一旦区切り――エメルの方へちらり、と兜で隠れている筈の視線を向けた。

 ――この状況で話せるだろうか、話せてくれるだろうか。

 ――いや、やはり即興だったし無茶があったか。概略程度であれば俺が――

 

 そんな一瞬の思索の先に、一歩前に出て注目を集め再度語り始めようとしたキング――を制し、顔を上げる。

 顔を上げた先に見えるのは、驚愕の雰囲気を感じさせる視線を向けるキングと、数多の興味と多少の同情の視線を向ける<マスター>達。

 

 ――大丈夫。これくらい……()()()に比べたら、全然怖くないです。

 ――それに、この程度できなきゃ――ご主人様の献身に()()()なんてできっこない……!

 

 

「――――ご紹介に預かりました。私はご主人様――ザ・キング様の“奴隷”となったエメル、と申します――」

 

 

 

 

 

 

 

 エメルは、カルディナを構成する都市国家の一つ、<迷宮都市エルトバウル>のとある【魔術師(メイジ)】の夫婦の一人娘として生まれた。

 下級職と言えど複数の属性の魔術が使える【魔術師】の需要は高く、彼女も富裕層でこそなくとも不自由する事なく育つ事が出来た。

 そして、幸いな事に彼女自身も両親の才能を色濃く継ぎ、齢12歳にして【魔術師】のジョブを得て未熟ながらも両親の薫陶を受け順調にレベルを上げる事が出来た。

 正に順風満帆……とまで言えるかはさておき、幸せな、安定した未来が拓かれていると信じられていた生活の日々。

 

 それに罅が入ったのはエメルのジョブレベル50に達し、【魔術師】のジョブをカンストした後の事。

 ――エメルに、両親が持っていなかった、“上級職”に就ける程の才能があると判明したからだった……

 それも、詳細に調べてみればカルディナにおける()()の壁――合計レベル300を突破できるかもしれないと言う程の才を、彼女はその身に秘めていたのだ。

 それが判明した時、両親は我が事の様に祝してくれた。

 だが、エメル自身は、カルディナのティアンの多くがそうである様に――()を出してしまった。

 

 ――それ程の才能があるのなら、もっと良い師匠に鍛えて貰った方がより強くなれるのでは――?

 

 ……実際、それは事実なのであった。

 両親は【魔術師】の他は毒にも薬にもならない多少の内職くらいしかできない下級職を一つ、それもレベルカンストできない程度の才能しかなく、合計レベルの限界は100に満たない程度なのだから。

 【魔術師】から派生した上級職に就けるその時点で、上級職に就きたてで覚えられる上級魔法一つだけで二人同時に戦っても勝てる程度の実力差。

 それが、下級職と上級職の差なのだから。……尤も、上級職と超級職の差はそれにも増して酷い物であるが今は関係ないので置いておく。

 

 結局、両親とは喧嘩別れに近い形で別れてしまい――同じエルトバウルに居た一人の【大魔術師(ウィザード)】を師匠とし頼る様になった。

 合計レベルにして400越えであり、エルトバウルの上層部からの信頼も厚い人物だった。

 エルトバウルで過ごす【魔術師】一家の娘として知っている顔でもあり、彼ならば適任だろうと考えたのだ。

 

 ――結局、その彼には騙され欺かれ、奴隷に落とされる事になったのだが。

 

 より【魔術師】としての実力を高める為の近道とは何か……それを体現するジョブを勧められ……深く考えもせずに、就いてしまったのだ。

 いや、深くはなくとも確かに考えはした。

 その上で――そのジョブ、そして構成(ビルド)はエルトバウルに滞在する術師系統の<マスター>でも就いている者が多い有効なジョブだったのだ。

 事実それは後に“最強ビルド論”の中にも言及される程の物であるのだから、その誘い文句は間違っていないのだ。

 間違っているのは――一言で言えば安全マージン、ただそれだけだった。

 

 それが無ければ、あるいは前提としてそれを持っている<マスター>でなければできる様な物ではなかったのだ――“【生贄】MP特化理論”と言うのは…………

 

 

 そして、この欲の坩堝であるカルディナで、【生贄】と言う――あらゆる抵抗ができない、文字通り生贄のジョブに就いたエメルは本性を現した彼によって奴隷として売り払われた。

 上級職に就ける才能に浮かれた程度で迂闊にも【生贄】なんぞに就く、愚かな小娘として…………

 

 

 

 

 あるいは【奴隷商】全体がそうなのかも分からないが、少なくとも彼女を買い取った【奴隷商】の環境は、劣悪の一言だった。

 日除けも十分に出来ず、飲食も碌に与えられず、粗悪なサンダルによってただじっとしているだけで砂漠の熱で足裏が焼けそうだった。

 常日頃から罵声を浴びせられ自尊心を折り奴隷に相応しい様に躾けられ、満足に休む事すら簡単には許されない。

 特にエメルの場合は、【生贄】に就いていたせいでMP以外の全ステータスに大幅なマイナスを掛けられていた為に……辛かった。

 恐らく、あの時のエメルの身体の貧弱さはジョブに就いていない子供と同程度だっただろうから。

 ……それでも死なずに済んでいるのは【奴隷商】の采配なのだが、決して“おかげ”とは言いたくない程には、あの状況は辛かった。

 そんな奴隷達がプライバシーも何もあったものではない値札を付けさせられ、スペースを取らない様に固まって愛想笑いを強制させられるのだ。……そんな状況で愛想笑いを作れる子なんて、殆ど居ないのに。

 

 身体的にも、精神的にも、限界だった。

 それでも、自業自得なのだと自戒して、耐えて耐えて耐えて耐えて――そして、エメルは、(キング)に出会った。

 ――――救ってもらった。助けてもらった。

 

 

 だから、私は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――奴隷には、そんな私よりも軽い理由でなっていた人も、重い理由でなっていた人も、どちらも多数居ます。そんな私達を少しでも憐れに思うのであれば……どうか、私のご主人様の話を聞いて下されば嬉しいと、そう思います――」

「お、おう。……ありがとう、良く言ってくれた。はい、拍手。皆この勇気に拍手ー!」

 

 ぱちぱちぱちぱちぱちぱち……とキングがするのと同時に疎らな、そして次第にノリと冷やかしの意味が込められた大量の拍手が送られる。

 若干キングが想定していたノリとはズレてしまって居たが――何、即興劇(アドリブ)で修正を入れる程度は楽勝だと考え、更に続ける。

 追撃する。彼らの良心に、自尊心に、彼女の話に心打たれたその意識に――

 

 

「――改めてだが、もう一度言わせて貰おう! 俺達は、君達は自由だ! 運営(管理AI)が言う様に何をしてもしなくても良い。己の心のままに動いて良いんだ!」

 

「俺がやった様に奴隷の子を救ってやっても、抜本的な改革を<マスター>の方で企画したって良い! 逆に奴隷を集め良からぬ事にしたり奴隷を増やしたりする事だって俺が止められる事じゃない」

 

「だが、それでももし、この話に少しでも感銘を受けてくれたのなら――」『貴様ら――ッ! そこで何をやっておる、今すぐこの危険な集会を止めんか――!!!!』

「……ちぃっ! 良いタイミングで!」

 

 

 キングの話に被せる様に……より高性能な【拡声の指輪】による特大の怒声がその場に掛けられる。

 それは、この場に集まってきた<マスター>よりも遥か後方に、幾人もの暴力的な気配を醸し出す私兵に守られた人物が放った物。

 不健康な相貌に相当な肥満体を誇る男性――この<商業都市国家コルタナ>の市長、ダグラス・コインの物だった。

 コイン市長は肩を怒らせ私兵達と共に集会を解散させようと――

 

 

「――まだまだ話途中で悪いが、皆集まってくれてサンキューな! そんな訳で前科が着く前に皆解散だ解散! <マスター>バンザーイ!」

『何を勝手な事を――ッ!?』

 

 その言葉を聞くが早いか――多くの<マスター>達は一目散にその場を離脱……解散する。

 別にその様な段取りをしていたと言う訳ではなく、ただ単にイベントがそれで終わり、そして追われる身になりそうであるのだからキングが言う様にその前にとんずらする。

 多くの遊戯派の<マスター>達はそうして――僅かではあるが先の話の影響か、コイン市長とその私兵に敵意を向ける<マスター>を……キングは壇上より降りて牽制する。

 

 キング自身は……当然ながら、この事は想定済みとして今回の事件を計画していたのだ。

 そう――己を主犯として。

 なればこそ、いやそうでなくとも、体制に抗う心を持った<マスター>が力を発揮するのはこんな所ではなく、もっと相応しい場面がいつか来るはずだと信じている。

 だから、咎を受けるのは自分だけで良いし――だからこそ、エメルとの先の【契約書】にも一計案じてあったのだから。

 

「そういう訳で。……ごめんな、少し窮屈な思いをさせるかもしれん」

「いえ。私こそお手数を掛けます。……後は、よろしくお願いします――()()()()

「ああ、任せろ。《送還(リ・コール)》」

 

 多くの<マスター>も気付かなかったであろう【契約書】に仕組んだ穴――それは【契約書】の効力が発揮されるのを“この後に”――即ち、この集会に纏わる騒動が終わった後に先送りすると言う物だった。

 故に、今現在は未だその最中であり――エメルとキングは通常の奴隷と主人の関係と何も変わらず、エメルはキングの出すあらゆる“命令”に逆らえない。

 ――ザ・キングの所有物に過ぎない存在のままだ。

 

 ……今は、そうでなくてはならないのだから。

 【契約書】の効果が有効であり、エメルとキングの関係が実質的に対等の状態であれば……そこを市長に突かれ、エメルが、或いは後々にも続く何らかの責を背負わされる可能性があったかもしれない。

 だが……【契約書】はまだ効果を発揮していない。

 エメルは命令に抗えない被害者という立場のまま。……そうでなければこんな無茶な場に立たせられない。立たせられる筈がない。

 それでも、傍にずっと立っていた彼女と言う存在が、かの【契約書】の存在がなければ彼の言葉の説得力は大きく変わってきていただろう。

 

 或いは、彼女に奴隷として強制なんかせず、ただ一人で立ち演説するだけでも十分に効果があったかもしれない。

 もしくは、こんな事を企画せず彼のコネで、伝手で、金で、叶う限りの奴隷を解放してあげた方がより多くの人々を救えたのかもしれない。

 

 

 それでも……キングは最も<マスター>達に訴えかけられるであろう方法を、自分が出来る中で最も効果的であろう方法を選んだ。

 

 結果として、キングは逃げも隠れもせずにコイン市長に連れていかれ……予想通りにコルタナから追放される事となり、カルディナ全体としても準指名手配の様な扱いを受ける事となった。

 

 当然、カルディナで最も栄えている都市であるコルタナに入れないとなればカルディナでの活動はほぼ不可能となり、他国へ出奔する羽目になり、今まで築いてきた多くの伝手やコネを喪う事となる。

 その旅路に付いていくのは、彼の<エンブリオ>である【真紡譚姫 レジェンダリー】……レンと――“奴隷”として、付き人として付き従う事を選択したエメルだけであった。

 

 もはや約一年も掛けて培った多くの繋がりを残しカルディナを去り、それ以上あの国の奴隷を救う事も関わる事も難しくなり。

 そして一時ではあれど正真正銘の“奴隷”として活動させてしまったエメルを従え。

 

 果たして。その選択が、その旅路が、その未来が……より善いモノになるのか――

 それはまだ、誰にも分からない――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――全て遍く未来を見通す力を持つ、“魔女”以外は。

 

 

「ええ、使い物にならない愚者であれど……その程度には正確に動いて貰わないと、駒としての価値すらない。……それも長く使える物ではないのだけれど」

 

「あの演説によって、カルディナの<マスター>は僅かに活性度が上がる。だから、止めるのは話がある程度済んでから。後に手に入る手札(<超級>)からすれば、その方向がどうであれ問題はない」

 

「それ以上に後の愚者の粛清の手間が幾つも省けるし、カルディナの……他の他国の世界損害も僅かでも増える」

 

()()は……これ以上はカルディナにいてもプラスにはならない。結果としては最善だったわね」

 

 

 

「――誰にとっても。そうでしょう――未来の【砦騎士(ナイト・オブ・フォートレス)】――――」

 

 

 

 その者がかの場における顛末に大して暗躍していた事を知る者は少ない。

 その者が口に出すその言葉、その単語の意味を知る者は少ない。

 まだ<超級>と言う概念すら<マスター>の中で生まれてすら居らず、世界損害と言う単語の意味を知る者すらこの世界にどれだけいる事か。

 そして、彼女が口に出すその超級職――条件のロストしたそのジョブに誰かが就く等という未来も、予想できる筈がない。

 

 だが、それできるが故に――“魔女”。この業と欲の渦巻くカルディナを支配する者であるのだから――

 

 そして、それでありながら……彼女の言う通り、最早()にとっては関係のない蛇足。

 彼の新たな旅路は、新たなる未来は始まったばかりなのだから――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□Result......

 

 

 

【《貴方が紡いだ英雄譚(テイルズ・オブ・エピック)》が発動】

【“称号”を確認。“称号”の指向性を解析】

【対象にリソースの増強、固定化を付与――】

 

【称号、《“偽善者”》を獲得しました】

【データを開示します】

 

 《“偽善者”》:パッシブスキル

 自身の全ステータスに+[今まで助けた人数×0.5]の補正を得る。

 

 

【《貴方が紡いだ英雄譚(テイルズ・オブ・エピック)》が発動】

【“称号”を確認。“称号”の指向性を解析】

【対象にリソースの増強、固定化を付与――】

 

【称号、《“解放者(リベレイター)”》を獲得しました】

【データを開示します】

 

 《“解放者(リベレイター)”》:アクティブスキル

 パーティメンバーが一人以上存在し、パーティメンバー一人のHPが半分以下の時のみHP・SP・MPの最大値の10%を消費して発動可能。

 自身が受けているあらゆる制限系状態異常の効果を無視し行動が可能になり、自身のSTR・AGI・ENDが2倍になる。

 このスキルを使用中、毎秒HPを最大値の3%消費し続ける。

 このスキルはスキルの発動条件が満たせなくなった時、自動的に解除される。

 

 

 

 (ザ・キング)の冒険は、まだ終わらない――――

 

 

 Episode End………… 




ステータスが更新されました――――

【魔術師】:
 非常にスタンダードな魔法系下級職。あいあむまじしゃん。
 【魔術師】が使用可能な三大属性内の属性の中で自身の適性にあった属性の下級魔術を使用する事が出来る。
 一家に一台というかパーティに一人は欲しい魔法枠。別にレベルが低くても属性魔術が使えれば水を出したり火を出したり風を吹かせたり土で色々作ったりできる。
 便利過ぎる……マジックアイテムで代用できる? マジックアイテムがなきゃ代用できない時点で有能って事なんだよ。
 しかも《詠唱》を始め各種魔法拡張スキルも習得可能。MPさえあればなんだってできる。そう魔術師系統ならね!
 実際【魔術師】に限らず、魔法職が使用する魔法は拡張スキルによってMPを込めれば込めるだけ威力が増幅される。
 更に、最大MPが高ければ高い程使用する魔法の基礎威力も高くなる為、MPが一番高い術師が世界で一番強い術師と言っても過言ではない。そうですよねカルディナの某氏!
 それ故に、術師系で最強のビルドと言えば【生贄】MP特化理論なのだが…………

【生贄】:
 全くスタンダードじゃない特殊な方の下級職。リリースされてサクリファイスされる方。
 下級職でありながら上級職二つ分に匹敵するMPの数値にして2万程度も上昇するMPお化け職。きっと贄を喰らう方もMPが高ければ美味しいのかもしれない。
 ただし、その分のデメリットとして、このジョブをメインジョブにしている限り非常に重い『制限』が課せられ続ける。
 それは――あらゆる戦闘行動の禁止、並びにMPを除く全ステータスの大幅な減弱。
 それによってどんな抵抗も行う事ができなくなり、場合によってはウィンドゥを介したジョブチェンジも低ステータス化によって邪魔されて果たせなくなり――結果、本文中のエメルの様な事になってしまう事もままあるだろう……
 仮に<マスター>で自害システム等の退避手段があるとしても、信頼できる外部の経験値獲得手段が確立されていない限り有用ではあっても就くべきではないジョブと言えるだろう。
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