無限の世界と交錯する世界   作:黒矢

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前回のあらすじ:レイティス氏の「【実況】掲示板でデンドロを進みたい【安価】」もどうぞよろしく!(ダイマ
※許可を取った微クロスです


コールの場合/天は二物を与える:後編

 

 【炸竜王 ドラグマイン】――<厳冬山脈>から降りてきたその【竜王】にとって、“狩り”とは相対的強者にのみ許された()()だった。

 所詮この世は弱肉強食。特に食料の足らず常に他種族との、そして仲間内での争いが絶えない<厳冬山脈>では猶更その様に世界は構築される。

 弱ければ食料を奪われ、命を狙われ……強ければ逆に他者の糧を奪い尽くし、敵者の命すらも喰い尽くす事を許される。

 人の介在する余地のない自然の最中であるが故の、原始的なその摂理を【ドラグマイン】も兄者(【竜王】)達との暮らしの中で学んでいった。

 【ドラグマイン】は【竜王】として、それ以前に一匹の竜として、若輩者だったからだ。

 年若く、(ステータス)も弱く、経験も浅く……外敵から身を守る術すら覚束なかった。

 故に、いつも兄者等の力を借りて地竜達の群れの中で暮らしていた。

 兄弟達と怪鳥種を始めとした外敵と生存競争を繰り返し、そして兄弟達とも熾烈に多くない食料を巡って相争った。

 

 

 別に、それは後に【ドラグマイン】となる彼だけの事でも、地竜だけの中でも、勿論<厳冬山脈>でだけ起きている事でもない。

 モンスター(非人間範疇生物)であれば極々当たり前の光景だ。

 特段彼らだけが厳しい状況を生き抜いてきたという訳ですらない。

 

 だが、それでも彼は――【ドラグマイン】は、()()()

 

 知能があった。

 モンスター全体の中でもドラゴンは知能が高い方ではあったが、それにも増して周囲より抜きんでた知能を有していた。

 ステータスこそ変わらなくとも他の兄弟達よりもより効率的に戦う術を編み出し、リソース(経験値)を蓄えていった。

 

 自信があった。

 己はこんな所で燻っているべきではないと、もっと強くならねばと、なれる筈だと確信していた。

 他の兄弟達よりも貪欲に命を賭して戦い、全身全霊で戦い、知略を尽くして戦い、敵を選ばず戦い――己の力を、経験を、リソースを、全てを研ぎ澄ませていった。

 

 そして何より――才能があった。

 成体になってそう時も経たずに同種の中でも頂点に――〈UBM〉に、【竜王】に――【炸竜王 ドラグマイン】の名を手に入れられる程に!

 その力の使い方も自然と己の賢才で以て把握した。

 

 

 そして――彼は群れを飛び出し、<厳冬山脈>を飛び出し、外界に降り立ち、目につく敵全てを自らの(リソース)とせんが為に()()を続けていた。

 より強くなって、いつか<厳冬山脈>の兄者達にも太刀打ち出来る様になる為に。

 敵を屠り、腹を満たし、心身共に充足を得る為に。

 ――己の才覚を、己の力を示し、優越を得る為に――――

 

 

 

 

 

 

 

 

■<ヴァルディラ大砂漠> 【炸竜王 ドラグマイン】

 

 

 日が照り付ける<ヴァルディラ大砂漠>の中で、……【ドラグマイン】は警戒しながらも、迷っていた。

 それは――先程己と戦った<マスター>の残党を追い掛け殺すか、否か。

 一度戦った時の感覚からしてみれば、確かに彼奴等の従属モンスターの力は――それを与えた<エンブリオ>の力は大した物ではあった。

 

 ――己には全く届かない程度の物であったが。

 

 故に、再度戦闘に突入したとしても屠る事自体は簡単だ。

 己を相手に逃げ果せられたのは些か頭に来たし、常の彼であればいつも通り奇襲を警戒しながら追撃し殺しに行く所であるのだが。

 

 彼は知識として……そして先程体感し、経験としてもそれを知り得る事となった。

 

 ――<マスター>と戦うのは、余りにも()()が無さすぎる、と。

 

 それは<エンブリオ>を有するが故に戦闘力が高いから、と言う意味ではない。

 <エンブリオ>を抜きにしてすら、それと相対し、打ち倒し……そして得られる報酬が他のモンスターやティアンと比べて非常に少ないのだ。

 経験値(リソース)は同レベルのティアンと比べ一割も入らず、モンスターと違って腹を満たす為の肉となる事もない。

 全くどんな生態をしていればそんな不可思議な事になるのか全く分からないが……いかな【ドラグマイン】がモンスター、ドラゴンの中では賢い方だと言ってもいくら考えてもその答えに辿り着ける筈もなく。

 だが、その原因については……一先ずは関係のない事だ。

 

 重要なのは――その様な戦ってもメリットも殆どなく、むしろ<エンブリオ>を持つ強敵である<マスター>を相手にこれ以上追撃する必要があるのかという事だ。

 

 相対する事に益はなく、撤退する事も見逃して違う実入りの大きな獲物を探しに行く事も容易。

 故に……賢しらに効率を求めるのであれば無視するのが正解だ。間違いなく。

 

 だが――

 

 

 ――逃げる? 【竜王】となったこの我が? ()()()()の相手に、逃げる為の言い訳までして?

 

 その選択肢は――()()()()()()認められる筈がない。

 且つてとは違うのだ。まだ力も弱かった幼竜だった頃とは。

 力を得た。自負を得た。経験を得た。戦い方を覚えた。成長し――【竜王】の誉れを戴いた。

 一族の力を象徴する昇華された力を――固有スキルとなったこの力を持っていながら、我にまともに相対する事すら出来なかった弱者を相手に尻尾を巻く?

 

 それだけはあり得ない。

 そもそも己は何故同族(地竜)達が多くいる<厳冬山脈>から降りこの地へ来た?

 この【炸竜王】としての力を、種の誇りである己の力を、才覚を示す為だ。

 安穏と親のお膝元(<厳冬山脈>)でぬくぬくとしていたあいつ等とは違うのだ。己は――戦いに来たのだ!!

 

 己の中でそう考えを纏め、戦意荒く、気炎を上げていた【ドラグマイン】の前に――【フェイス・デミドラゴン(能無しうすのろ亜竜)】と【サンドウルフ(すばしっこいだけの雑魚)】が飛び出してきた。

 

 どうやら――相手も同じ気持ち(戦る気)らしいと僅かながらに口角を上げる。

 残りの面子は確か後衛だった筈、どうやら先の様な遭遇戦ではなく――()()()()戦うつもりなのであろう。

 【ドラグマイン】としてもそれは望む所だ。

 一方的な蹂躙を悪いとは言わないが――それでも、彼はより良い戦いを、敵手を求めていた。

 弱者を喰らい殺すのは強者の特権なれど、弱者を甚振るのは強者の行いに非ず。

 そして――強者と戦う事こそが己の強者としての“格”を上げる為に必要なのだと――本能で感じていたから。

 

 

 ――さぁ掛かってくるが良い化外(<マスター>)共。諸共全て、己の糧となるが良い――――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『GRRRRRRWWWWWWWッ!!!』

『ぐっ、くぅ――!?』

 

 砂漠に竜王が、亜竜が、砂狼が駆ける。

 そのどれもが亜音速機動を超越し、この砂漠にも適応した機動力を有し、常人には目にも止まらぬ速さで攻防が繰り返される。

 勿論、その中で攻勢に転じているのは――【炸竜王 ドラグマイン】だ。

 AGIに特化し、【ティファレト(エンブリオ)】の援護を受けてすら亜音速域、AGI以外のステータスに至っては3000程度にまでしか強化されない【サンドウルフ】は論外。

 弾除けにすらならず、《炸竜爆雷》を数度使って追い込めばそれだけで狩れる雑魚だ。

 

 そして、それよりも種族としてもレベルも上であるにも関わらず同程度のAGIしか持ち得ていない【フェイス・デミドラゴン】は、只の案山子も同然だ。

 耐久力しか見る所はなく、竜種としては余りにも貧弱な攻撃力しか持たない。まともに使える有益なスキルも取得しない為……【ドラグマイン】の様に多少以上の知能を持つ相手には壁にすらならない。

 <エンブリオ>による強化によって幾度か《炸竜爆雷》による攻撃を耐える程度の力はある……が、障害としては余りにも非力に過ぎた。

 それでも、素の【ドラグマイン】と同等の亜音速機動が行えるのであるのだからまだマシなのだが――《炸竜爆雷》によって距離の概念を容易く覆されなければの話だが。

 

 故に、【ドラグマイン】として問題なのは――残る従属モンスター。それも魔法系に属する二体だった。

 

 ――何時だ? 何時撃ってくる?

 

 彼奴等が先程逃げた時には姿を現し、逃走の援護を行っていた天使と、光の精霊(エレメンタル)に属する二体。

 それを警戒しているのは今姿を現している二体が相手にならないからと言うだけではなく――彼にとって魔法攻撃というのは弱点とも言える物だからだ。

 尤も、弱点とは言ってもそれは常以上の効果を期待出来る様な物ではなく、ただ単に彼は物理防御力よりも幾段か魔法防御力が低いと言うだけの事だ。

 眼前の二体や弓矢による物理攻撃とは違い、《炸竜爆雷》による防御、反撃も出来ないのだが……それですら、《竜王気》による減衰は可能であり、《竜王気》がなくとも攻撃が専門ではないであろうあの二体の魔法攻撃では数十発喰らった所で致命傷には程遠い。傷痍系状態異常に至る重傷にすらならないであろう。

 その有り様であって尚……今【ドラグマイン】が相対している<マスター>のパーティの戦力の中では、最も脅威度が高いと判断される程度の“弱者”であるのだ。

 それが、厳然たる彼我の実力差。それが――〈UBM〉の、【竜王】の力と言う物だ。

 

 まだ相手の後衛達が姿を隠しているからと言うのもあるが……そんな戦いは、【ドラグマイン】としては酷く退屈な物であった。

 点在する岩陰か、傾斜の影を塹壕代わりにしているのか……それとも砂中や砂塵舞う空中にでも姿を隠しているのか。

 それならそれで、こんなくだらない戦いをする為にか挑んできた彼奴等に本当の闘いという物を――“力”という物を教えてやる為に辺りの障害物を諸共爆破し尽くしてくれようか、それともまずはこの二体を血祭りに上げようかと思い。

 

 

 その時。

 

 ――何らかの“力場”が【ドラグマイン】を、辺り一帯を包み込んだ。

 

 

『GR…………!』

 

 

 【ドラグマイン】は、それが彼らモンスターを強化している力場――【ティファレト】の固有スキルと別種にして同質の物だと看破した。

 即ち――TYPE:テリトリー。結界型にして、周囲に影響を及ぼす無形の固有スキルを有する<エンブリオ>であると。

 

 そして、図ったかのように――実際、タイミングを図っていたのだろう――二体の前衛と、ジョブスキルによって放たれたであろう今までの物とは違う強矢が【ドラグマイン】に――()()()()()()()()()()、迫る。

 しかし、それでも双方共にAGIにして2000には届く程度の速度――【ドラグマイン】がこの“力場”について思索を整える前に激突の時は来る。

 ならばと先ずは――その無謀の代償を支払わせるのが先だ。

 《炸竜爆雷》と《竜王気》の全力同時行使。

 威力を増した《炸竜爆雷》による炸裂装甲の壁は、直撃すれば【サンドウルフ】は勿論、【フェイス・デミドラゴン】であっても痛手を負わせられると確信している。

 そして一瞬後、【ドラグマイン】の狙い通りに《炸竜爆雷》に接触した二体が爆発四散。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――せずに、「ぼふん!」と情けない音が響くだけに終わった。

 

『GGRYAUUUUッ!?!?』

 

 

 当然の様に、弓矢も、二体の突撃も――《炸竜爆雷》を頼りに待ち構えていた【ドラグマイン】に命中し、その身体に僅かな傷を負わせる。

 特に弓矢は【剛弓手(ストロング・アーチャー)】のスキル、《ダイレクトヒット》による防御力の一部無視攻撃――その一矢は()()していた【ドラグマイン】の前脚に確かに突き刺さっていた。

 傷痍系状態異常を発する程の傷ではない。

 しかし……<マスター>と違って痛覚を無視できないモンスターの身である彼の機動力を奪うには十分な程の痛撃がその身に刻まれていた。

 

 そして、間を置かずして岩陰から、空中から――聖属性魔法と光属性魔法が【ドラグマイン】に向けて放たれる。

 咄嗟に飛び退いて聖属性魔法は避ける物の、不意の痛撃に驚き一瞬の意識の空白が生じていた【ドラグマイン】に光速の光属性魔法は避けられず。

 ――そして、またもや《竜王気》は僅か程度しかその威力を減衰する事は出来ず、何故だか相手の魔法の威力も減衰していた為更に傷が増える事となる。

 

 事此処に至れば……流石に【ドラグマイン】もこの“力場”の正体に、その効果に思い至る。

 

 

 ――まさか、これはスキルの封印……否、スキルの効果の大幅な減弱か!?

 

 風の噂でしか聞いた事のないそのスキルを――固有スキルを主力にして戦う自身に対する天敵となるその存在と出会った事の不幸を呪うのだった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

□■

 

 

 

 しかし。

 実際にはその予想は僅かにだが外れている。

 少し冷静になって考えてみれば【ドラグマイン】も気付いていただろう。

 今しがた彼に傷を負わせた【剛弓手】のスキルには、何の変化もなく、確かな効果を発揮していた事を。

 

 それは、そのスキルが<エンブリオ>を展開した<マスター>であるコール自身の物だったから……ではない。

 敵味方や自身の主を見分ける程度に制御できるスキルであれば、そのスキルは此処までの……〈UBM〉の固有スキルにさえも絶対的な減弱が出来る程の出力を発揮していない。

 

 コールが展開した<エンブリオ>は、ほぼ完全なる“無制御型”のTYPE:テリトリーの<エンブリオ>。

 それも、その<エンブリオ>自身以外の全てに――それこそ、自身の<マスター>であるコールにすらも躊躇いなく効果を及ぼす暴れ馬が如き<エンブリオ>。

 そして、その対象もスキル全てではなく、『制限』が掛かった物となっている。

 彼が己のパーソナリティの発露として、何よりも何よりも何よりも何よりも意識していた物。

 それは即ち――()()()()()……固有スキル(唯一特別な力)に他ならない。

 余人が真似できぬ特別な力。他と隔絶せし圧倒的な力。誰も届き得ぬ頂点の力――

 超級職、<エンブリオ>、特典武具、そして――〈UBM〉。

 それらが保有する、象徴するその力を、羨ましくも妬ましきその力を……最早見る影もない程に減弱させる。

 アクティブスキルも、パッシブスキルも、奥義も、必殺スキルも、最終奥義すらも全てそのコストまで含めて――どうしようもない程に貧弱な物へと変える。

 

 それがコールの<エンブリオ>、【重枷才魔 ヘーラー】の固有スキル、《ジェラシック・アビリティ》の効果だった。

 

 

 (だが、今回の戦いで漸く得心した。この固有スキルは過剰だとも思っていたが、そうではない。……ここまで出力を跳ね上げなければ、抗しえない物なのだな、固有スキルを扱う者と言うのは――)

 

 思い返すのは、つい先程の【ドラグマイン】との遭遇戦。

 【ヘーラー】の固有スキルの関係上、どうしても味方まで巻き込んでしまう為使えなかったというのもあるが、それでも自分達のパーティは何があろうと……それこそ〈UBM〉との戦いになっても打倒出来る程の総戦力を誇っていると思っていた。

 †聖天使猫姫†が従える複数の強力な従属モンスターに、アルファとモヒカン・RTAも<マスター>の基準で言っても最上位(ランカー)には及ばないにしても間違いなく上位クラスの実力者であったのだ。

 それを、相性もあったとはいえ鎧袖一触に屠って見せたあの実力を思えば――やはり、固有スキルの力と言うのは非常に大きい。

 

 いや……正確には――固有スキルを扱う者の力、と言うべきか。

 〈UBM〉とは遭遇したのは今回が初めてであり、そしてカルディナを根城にしているから知識では知ってはいても、今まで実感してこなかったのだ。

 ――この世界には、()()()()が、人に限らず非人間範疇生物(モンスター)も含めて多いのだと。

 

 ……だが、あゝ。

 本当は何処かで理解していたのだろう。経験として実感する前から。

 それこそ――()()()()に来て、初めてパーティを組んだあの時から。

 

 ――俺の剣なら斬れないモノは殆どないっ!

 ――まるで甲虫の甲殻がクッキーみたいッスねぇ!

 ――私の<エンブリオ>は相手が何処に居てもその様子が把握できるんです。だから――

 

 ――コール君、そちらは任せた! ここは俺に任せて貰おうッ!

 

 ――――俺が、俺達が“主人公”なんだ!!

 

 内心で羨ましく思う程の“特別な力”を持っていた皆と――そして、それほどの力を持っていなかったにも関わらず、あの中で最も輝いている様に見えた、僅かにあいつを彷彿とさせた彼の様に。

 <エンブリオ>を持つ――<エンブリオ>だけに限らない多くの特権を持つ<マスター>。

 その力で、特権で……それは、本来は凡人である自分達をすら()()に限りなく近づけてくれる魔法の様な物だろう。

 だが、それでもその中の()()の席は限られている。超級職然り、特典武具然り。

 ならば、それを手に入れられるのはやはりそれもまた<マスター>の中での特別な者だろう。

 

 そして今、自分はその特別に王手を掛けているのだ……!

 

「――――――――」

 

 緊張で、弓を握る手にも力が入る。

 蓋を開ける時間も煩わしく思い【SP回復ポーション】を割り振り撒く様に自身の身体に掛けて回復を図る。

 まだ……まだ、王手だけだ。

 此処から一手間違えれば逆転を許す可能性は十分に残っている――否、致命の一撃を()()するのに此方が足りていない。

 †聖天使猫姫†の【ティファレト】の固有スキルも減弱を受け、その超強化の恩恵は殆ど失われている。

 ……残る彼女の従属モンスターの攻撃力では、討伐は不可能だ。十中八九その前にこの中の誰よりも高いAGIで以て逃げられてしまう。

 この先は()()を決める為に、間隙を縫う様に正確に自分の意図を通さなければならない。

 合図はもう†聖天使猫姫†には伝えてある。

 後は……自分がやり遂げるだけだ。

 

 

 ――――いいか■■。どんなにか細く険しい先にある道だとしても……お前が諦めない限り可能性は消えはしない。

 ――――持てる全てを使って、諦めずにその可能性を追っていけば……お前ならきっと――――

 

 

 ――……ああ、全くその通りだな。憎らしい程に。……本当に、妬ましい。

 

 

 心の中で、誰にともなくそう呟く。

 一瞬の瞑想(回想)の後に――緊張は嘘の様に消え去っていた。

 

 故に……先の通り、後は自分で――――自分の才覚で、やり遂げるだけ。

 そう改めて自分に言い聞かせて、コールは静かに弓を弾き絞った――

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 《魔物強化》によってENDだけは【ドラグマイン】を越えたその亜竜が――組み付き拘束せんと突進してくる。

 退路を塞ぐ様に聖属性魔法の光熱が周囲の砂を焼き飛ばし、一瞬でも足を止めれば連続して放たれる光速の光属性魔法がその身体を焼き焦がさんと迫る。

 反対側の足を、脳天を、喉を貫かんと今度は三本の矢が狙いを定め飛んでくる――!

 

『――GRRGWUOOOOONNNN!!!!』

 

 足の痛みを一時的に無視し走り続け、それらの全てを回避しきり誘導されるがままに懐に飛び込みその爪牙で敵手の命を奪わんと迫る。

 が――岩陰に見つけた二人と一体に襲い掛かる寸前で直観に従い全力で横に飛び――その隙に放たれた魔法と、超音速に至る真正面からの《クイックショット》を回避する為に再度大きく後退る。

 当然とも言うべきか……その直線には【大狩人】【罠狩人】謹製の簡易罠が仕掛けられていた。

 今の自分は固有スキルもまともに使えない、ただの純竜級程度の力を持っただけの竜でしかない事は己自身が承知している。

 ……罠に引っかかり、大きな隙を晒せばそれだけで命取りになるであろう事も【ドラグマイン】は重々承知だ。

 

 最短の道は選べない。……いや、もしかしたらそれ以外にも罠を仕掛けられている可能性が高い。

 そうと疑って見てみれば――確かに、彼らの周囲を覆う様に罠が仕掛けられているのを把握できた。

 一瞬だけ歯噛みし……直後また相手の魔法を回避する為に足を動かし始める。

 

 ――どうする? 岩を跳び越すか? それともかの岩毎砕いてしまうか?

 ――……いや、それは難しいな。己の(STR)では楽々砕けると言う程ではないし――《炸竜爆雷》が使えない今滞空中を狙われたらどうしようもない。

 

 そう思考し、再度眼球に向かって放たれた《クイックショット》をイラつきながら回避する。

 射速を大幅に増す《クイックショット》は速さだけなら【ドラグマイン】を越え、ダメージは僅かながらも、それを防ぐ手段のない今部位によっては軽視する事はできる筈がない。

 完全に回避する事は出来ず、頬に僅かな、それこそ自然回復でそう時間を掛けずに治る程度の傷ができた。

 ……その程度の傷であっても、傷は傷。【ドラグマイン】の焦りを加速させるのには十分過ぎる物であった。

 

 どうする、どうする、どうする、どうするどうするどうするどうする――――

 退けば魔法、前には罠が。中空からは光速の魔法、そして不規則な弓矢の雨――

 足の怪我もあり、時間を掛ける事はできない。

 相手が此方を()()()()()としているのを自覚して尚、即座に有効な対処法を思いつかぬ己への怒りが過ぎ去り。

 

 

 ――――待て。……別に、使()()()()()()()()()()

 

 ふと思い至り。……《竜王気》を展開してみる。

 ……出力は常とは比べ物にならない程に低い物ではあるが……確かに、スキルは発動するのだ。

 そうだ、彼奴がやっているのはスキルの封印ではなく――減弱。

 

 ――それなら…………減弱してすら威力を発揮する程の出力で放てば良いのだ――――!

 

 そして、気付きを得た。

 それは、本来の【炸竜王 ドラグマイン】としての必殺……切り札と言えるモノ。

 自身に若干反動が来る程の出力で、生命力(HP)すらも消費して真に全力全開の全周炸裂爆破。

 半径数百メテル程度の周囲全てを更地と化す程の奥義であり、彼としても消耗が大きすぎる為使った事は殆ど無い大技。

 それでも、今この時であれば。

 大幅な減弱を受けているこの時であれば――丁度良く罠も亜竜の突進も吹き飛ばせる程度の威力になる筈だ。

 全力を込める為数瞬の隙こそできるが――数瞬耐えるだけであれば、問題はない……!

 

 

 即断即決。

 元より余裕のなくなった【ドラグマイン】は、そうして相手にも見せていない初見殺しの切り札で強敵と認めた敵手を屠らんと踵を返し突進する。

 光属性魔法の一発や二発喰らってやると言わんばかりの方向転換に亜竜も対応する事はできない。

 ただ一直線に進み、罠に掛かったその直後に《真・炸竜爆雷》とも言うべきそれによって全てを吹き飛ばし、体勢を崩した彼奴等を順番に、迅速に殺していくだけ――

 

 

「――今!」

「う、うん! 《絶対なりし黄金比(ティファレト)》――!!」

 

 一言の宣言の後に――相手のほぼ全員が、黄金のオーラを纏う。

 あれは、先の戦いの際にかの鬼にも掛かっていた――短時間だけダメージを無効化する固有スキルだ。

 しかし、それでも衝撃は無効化できず――減弱が掛かるであろう現時点ではどれほどに効果があるか分かった物ではない。

 ならば、考えるまでもなく一旦他の相手を――あの射手を狙い直後に効果が切れているであろう他の者達を殺せば良い。

 それだけだ。

 

 一瞬の――まるで走馬灯の如く一瞬の間にそれを思考し――【ドラグマイン】は罠を踏み抜く。

 それは、巧妙なカモフラージュの施された【ミスリル】製の原始的なトラバサミ。

 それを理解するが早いか反射の如く【ドラグマイン】は全力で。

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

「――――《才ある者よ、才に狂え(ヘーラー)》」

 

 その瞬間。

 【()()()()()()()使()()()()()()()《炸竜爆雷》の全力展開の瞬間に――()()()()

 

 それは、コールの<エンブリオ>である【重枷才魔 ヘーラー】の必殺スキル。

 その効果は固有スキルへの対策(メタ)であるという点は通常スキルの《ジェラシック・アビリティ》と同様であるが……実際の効果は、全くの真逆。

 

 範囲内の固有スキルの効果を超減弱させるのではなく、出力を信じられない程爆発的に超強化する物だ。……それも、()()()()()()()()

 相手の固有スキルの強制無制御化。

 

 それは、今まで《ジェラシック・アビリティ》によって己の強み(固有スキル)を殺され続けてきた者からしてすら救いの一手になる訳がなく……尋常ではない“災厄”として顕現する。

 何故なら、《ジェラシック・アビリティ》の最中でも行使しようとする程に出力が高い固有スキルを使用しようとしているのだから――それ程の威力の固有スキルが、発動直前にその減弱が反転させられたら――

 

 そう、その結果は今この瞬間の【炸竜王 ドラグマイン】を見ればどうなるのか分かるという物だろう。

 周囲一帯どころか、数十キロメテルを、自身の身体ごと爆発四散させる程の最終奥義が如し超爆発を見せた【ドラグマイン】を見れば――

 岩も、僅かに点在する草木も、遠くに居た野生モンスターも全てを巻き込み吹き飛ばし――

 

 

 ――そして、そこには†聖天使猫姫†とその従属モンスターを除く全てがモノが跡形もなく消し飛ばされる事となった。

 世界にその功績の軌跡だけを残して――――

 

 

 

 

 

 【〈UBM〉【炸竜王 ドラグマイン】が討伐されました】

 

 【MVPを選出します】 

 

 【【コール】がMVPに選出されました】  

 

 【【コール】にMVP特典【伏竜炸雷 ドラグマイン】を贈与します】

 

 ――――

 

 

 …………End

 




†聖天使猫姫†「えぇぇぇー……………………」

ステータスが更新されました――――

名称:【重枷才魔 ヘーラー】
<マスター>:コール
TYPE:ワールド
能力特性:嫉妬
スキル:《ジェラシック・アビリティ》《才ある者よ、才に狂え》
モチーフ:ギリシア神話における最高位の女神“ヘーラー”
紋章:黒い天秤持つ女神
備考:爆発オチなんてサイテー!
 オンオフできるだけマシな無制御型のテリトリーの<エンブリオ>。
 固有スキル絶対殺すマシーン。とりあえず固有スキルに頼りきりの奴は絶対に許さない絶対にだ。
 その固有スキルは【ヘーラー】以外の全ての固有スキルの出力を数十分の一/数十倍にする凶悪なモノ。ちなみにコストもそれに従って増減する為疑似【大小喚の輪】的な事も出来る。
 必殺スキルの方は放出系の固有スキルであれば大抵最終奥義染みた相手の命と引き換えに出来る凶悪なスキル。…………なのだが。
 通常スキルの方もそうだが、その効果を実現させる為か【ヘーラー】のスキルはSP消費が大きい傾向にある。
 ただでさえ無制御で使い辛いのにポーション飲みながらでないと長時間使えないわ必殺スキルはカンストの現時点の最大SPほぼ全てを消費する程に消費が激しい。
 実は足の怪我があって尚耐久戦されてたらコール達の方のポーションが尽きる方が早かった。相手は固有スキル使わなくなってSP消費なくなってたからね。
 ちなみに、コール本人はこの<エンブリオ>のスキルについて“あいつなら減弱された固有スキルなぞ使わなくとも状況を打開できるだろうし、超出力無制御化した所で自前で制御し切ってみせるだろう”とコメントしているとか。
 やっぱり厄介オタクじゃないか……
 
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