無限の世界と交錯する世界   作:黒矢

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Superior Calculation Pioneer

□■商業都市コルタナ

 

『Shyeeaaaaaa…………』

「あの、聞き忘れていたのですが……今は何方に向かっているのでしょうか?」

「あれ、言っていませんでしたか? まぁとりあえずは――私達の()()へ行くんですよ。落ち着いて話するのにも其方の方が良いでしょう?」

 

 商業都市コルタナ――その上空を三人を乗せた()――フォルトの<エンブリオ>である【隔世現想 ファンタジア】が行く。

 この三人……任務や命令により合流した三人、ベテラン二名と何も知らぬ新米(ニュービー)一名はフォルトの言葉通り、とりあえずの待ち合わせと合流を果たした後、兎にも角にもまずは場所を移す事を優先したのだ。

 元よりあのオアシスで待ち合わせしていたのも新米であり、精神的にも消極的な子供に等しいマスターでも分かりやすい場所であるとして彼女らの上司が決めただけの事。

 顔合わせが済めばより相応しい場所へ場を移すのも当然なのであった。

 

 だが、それも尋常な移動法でなければそれもまた物知らぬ白痴の子であるマスターからすればとても目新しく新鮮な物。

 

 黒紫色の霧靄……正しく“幻想”の名を背負いし<エンブリオ>、【ファンタジア】。

 ある程度知っている相手(<マスター>)が見れば「筋斗雲型のチャリオッツかな?」と合点が行くその様相も、“ファンタジーらしさ”漂わせる色彩と相まってとても珍しく素晴らしい物に見えてしまうのだった。

 

「フォルトさん。これ、これは何ですか? 雲……じゃないですよね? 乗って、動いています……不思議ですねっ!」

「え? うん、まぁこれが私の<エンブリオ>だからね――って、<エンブリオ>の事くらいは分かる、わよね?」

すごいふしぎ(ふぁんたじー的さむしんぐ)なものの源!」

 

 ――誰だこの子を説明(教育)したのは……え、いやまさか私達の仕事なのこれは……?

 

 まさかのマスターの容態に顔を見合わせて戦慄する二人。

 だが……今更拒否などできよう筈がない。それ以前に、()()不出来な子の教育をする程度、財団での今までのの業務を考えれば欠伸が出るほどに簡単な任務だ。

 尤も、それはそれで不服がない訳ではないがそれは兎も角――

 

「マスターさんは<エンブリオ>に興味がおありですか? ならば都合が良いかもしれませんね」

「はい! ……えーと、それはどういう事でしょうか?」

「簡単な話ですよ。今私達が向かっている拠点――私達の組織が運営しているクランには、個性的な<エンブリオ>を持った方が沢山居ますかからね」

「本当ですかっ。それは楽しみですね!」

「……あのあの、ラストさん? 私の【ファンタジア】をあれら(奇々怪々の魑魅魍魎)と一緒にして欲しくないんですけど……」

 

 そう、今から彼女達が向かうのは彼女らの所属している組織――財団に所属しているSCP-10106-JPの担当職員達のみが所属する特異なクラン。

 本人達の適性や要望、あるいは情報収集や任務によって他の大型クランの大概に潜入しているのとも違う――財団職員のみが集う、唯一のクラン。

 SCP-10106-JPの研究主任やそれに近しい者達が立ち上げ運営し、そして他の各所へ向かわせる為の一時の止まり木でありながらカルディナのクランランキングにも名を連ねる謎の強豪クラン。

 活動内容も構成<マスター>も外部からはまるで不透明。カルディナの議会からの干渉すら跳ね除ける異常の城塞――

 

 ならば、それを構成する<マスター>達の<エンブリオ>は、そうであるからこそ他の多くの一般<マスター>から見ても“異常”な物が多い。

 その<エンブリオ>の特性――――異常特性の由来が何であるのかという事はさておき、それは内部の<マスター>であるフォルトから見ても確かに比較的個性溢れる物ばかりだと言うのは事実であった。

 

「自覚していないのかもしれないけれど貴女の【ファンタジア】は紛れもなく普通ではないのよ。非実体存在であるのになんで平然と人を運べるのかは考えた事はないのかしら?」

「ラストさんの【タルタロス】と比べたら全く普通の乗騎(チャリオッツ)型の<エンブリオ>ですけどぉ!? 一般人確殺じゃないですかあれ……」

「沢山の<エンブリオ>…………! あ、あのっ。この子(【アナンタシェーシャ】)の仲間も居るでしょうかっ!?」

「「…………ある意味では居るわね(居ますよ)」」

「やったあ!」

『Syqyeeeeeeeuaaa!』

 

 ――まぁちょっと変な魔物(ガードナー)型なら普通に複数居るから間違ってはいない筈よね。

 ――魔物型以上に魔物(モンスター)っぽい人も居ますけどね。普通に複数。

 ――……最初にトップツーに話を通しておけば襲われない、と良いなぁ……

 ――あの二人は二人で逆に<エンブリオ>がとても凄いアイテムボックスととても凄い通信魔法でしかないから、この子のお気に召すかどうか分かりませんけどね。

 

 未知なる不思議(<エンブリオ>)との出会いに胸を膨らませるマスターに対して小声で作戦会議を行う子女二名。

 正直に言って、不安だ。不安しかない。それ程までに彼女達が属しているクランは――――混沌(カオス)なのだから。

 だが、もはや賽は投げられた。どの道マスターの【アナンタシェーシャ】の為にグランバロアへ歩を向けるにしても準備は必要なのだ。

 特にまだジョブにすら就いていないマスターの準備は……まだ砂漠を超える為の基礎能力すらないのだから。

 故に、暫くはあそこへ、あのクランへ滞在するしかないのだ。あの伏魔殿に――――

 

 

「あ、見えてきたわよ。あれが私達のクラン――あ、オリジンさん(クランオーナー)が外出してる」

「丁度良いですね。先に挨拶して行きましょうか」

「はい、分かりました――」

 

 

 まるで複数の()()が融合したかの様な珍妙なデザインの屋敷(?)の前に【ファンタジア】は降り立ち。

 そしてその建物――クランハウスを利用している魑魅魍魎達の(オーナー)である老人の前に立つ。

 

 ――――ここから。

 <エンブリオ>も使っていないのに、一等不可思議な気配を醸し出すその老人の姿を見て……ここから、マスターの本格的な()()が――物語が始まるのだと直感して。

 

「オリジンさん、外に出てるなんてどうしたんですか。私達狙われているっていう自覚ありますかー?」

「はっはっは。こうして風を受けながら日光浴なんて現実(リアル)では久しくしてなかったからね。君たちもどうかな、健康は大事だよ?」

私達(財団職員)に健康とか何の冗談ですか。しかもこの世界ならデスペナになれば元通りですし……」

「まぁまぁ、それは置いておいて――はい、頼まれていたマスターさんです。この子のお世話をするという事で――暫くこの子もクランに厄介させていただく事になるかと」

「うむ。承知した――諸々、よろしく頼んだぞ」

「「了解!」」

 

「さて、では……最初くらいは多少案内させて貰おうか――ようこそクラン<Superior(超級)Calculation(演算)Pioneer(先駆会)>へ。歓迎するよ。マスター君――――」

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

そして、始まりたるは数奇な<マスター>、マスターの新たなる仲間達との出会い――

 ――ではなく。

 マスターに齎されるのは、多くの先達共からの洗礼だった!!

 

 

 

 

「ふぉっふぉっふぉ。久方ぶりの新人はまためんこいのう! ちょっと拷問させて貰っても良いかね?」

 

「ほう、新鮮な新入りとは――折角だし味見させて貰おうかな!」

 

「新しいフレンズ!? フレンド登録しよフレンド登録しよフレンド登録しよ――」

 

「はいはいこの子の教育に悪いから消えてくださいね――《万永死(エンドレス・ジュデッカ)》」

 

「「「ぐぎゃあああああああ――――!!!」」」

 

「ひえっ……」

 

 

 

 

 

 

 異常。異端。異形。異彩。異才。異質――――そこは、常とは“異”なる者達の万魔殿。

 されどそこは決して気が休まらぬ場所なだけではない。

 味方となり得る者も、興味深い楽しい異なる物を持つ者も大勢居るびっくり箱の様な場所でもあり――

 

 

 

 

「おーい。何か人が少ないだが……誰か【オリハルコン(俺の身体の材料)】余ってる奴居ないかー?」

 

「フォルトさん、ラストさん。金属人間ですよ、金属人間! あれも<エンブリオ>なんですかっ!?」

 

「そうですよ。あの人は厳密には真鍮人間のブラスさんですね。実に難儀な人です……ちなみに、先程すれ違った女性は気付かなかったかもしれないですが陶磁器人間だったのですよ」

 

「とうじき……何だかとても凄そうですねっ!」

 

「揶揄っといて何もなしとは薄情な奴ばっかりだ……!!」

 

「いや、そもそも私達物理型じゃないんで金属とか普通に持ってないですしー……」

 

 

 

 

 

 

 そんなクラン、<Superior Calculation Pioneer>でマスターがやらねばならない事。

 それは砂漠越えの準備――即ち、強くなる事(とりあえずレベリング)に他ならないのだった!

 幸いにも規模も大きなこのクランであればその為の準備は容易く達成できるであろう。

 勿論、戦闘が専門外である世話役二人に代わり師匠となる者もまた、多い――

 

 

 

「知恵を得たい? 良かろう良かろう! 数多の世界を旅しその全てをこの頭の中に収めてきたこの【賢人(セイジ)】、Drブラックウッドに任せておきたまえ!」

 

「ほう、迷惑にならない程度に力が欲しいか……瞳を見れば分かるさ。伝承者には届かずとも俺もまた師範として認められし者――貴様には才がありそうだ。促成で授けてやろう――“財団神拳”を!!」

 

「はい。どうかよろしくお願いしますっ!」

 

 

 

 

 

 あまりにもリアルでありながら、遊戯(ゲーム)としての特性を色濃く表すこの世界において、強さと言うのは何をするにしても重要な物だから。

 何をするにも、あるいはしないのも、全ては力があってこそ選べる強者の摂理。

 ならば、そんな世界に何も知らずやってきたマスターでさえもその摂理から逃れられる訳はない――故、求めるのだ。力を。

 それも、固有スキルが命中すれば実質的に相手を無力化できる【アナンタシェーシャ】が居れば簡単な事――――

 

 

 

「……え、こういうモノ(当たれば勝利)って<エンブリオ>なら割と良くあるんですか……?」

 

「そう多くはないけど、まぁそこそこあるよね? 当たれば終わり、発動したら終わり、範囲に捉えられたら終わりと言う類は……条件こそある物ばかりだけど」

 

「ちなみに、私の【タルタロス】もその部類ですね。私の場合、条件(トリガー)も射撃、接触、範囲と各種取り揃えてますが」

 

「がーん……っ!」

 

 

 

 

 例え身近に上位互換が居ようと、負けるなマスター!

 <Infinite Dendrogram>は、<エンブリオ>は無限の可能性を<マスター>達に与える物。

 【アナンタシェーシャ】も未だ下級の<エンブリオ>。共に進化していく事できっとオンリーワンの力がその身に備わるのだから――――

 

 

 

 

 

 

「【ギガント・ゴーレム】……全く、厄介な物を持ち出してきましたね……っ」

 

「私達じゃちょっと相性が悪過ぎます。一旦撤退して相性の良い人を――」

 

「――待ってください。あれは……私が倒して見せます!」

 

「な……【アナンタシェーシャ】も相性が悪い筈では――」

 

 

 

 

 

 

 力を着ける為の日々。繰り返した実験に、蓄積されたリソース。

 己の個性(パーソナリティ)の結実、<エンブリオ>の進化による新たなる力が今――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

共振ぱーんち!

 

「あの子に余計な事教えやがったのは何処のどいつですかぁ!!??」

 

 

 

 

 ……きっと、その内。

 明かされる日が来るだろう…………

 

 

 

 

 

 

 

 To Be Continued…………

 




※ゴーレムの術者はこの後無事に財団職員に補足・捕獲され拷問・自白共用・記憶漂白・洗脳の後にスタッフ(財団職員)が美味しくいただきました。


追記:資料10106-JP-ε

 担当職員名:エージェント・雛倉
 <マスター>名:フォルト
 創出結果乗騎(チャリオッツ)型のSCP-10106-JP-C、【隔世現想 ファンタジア】
 特性:逃避
 備考:搭乗可能な黒紫色の霞型のSCP-10106-JP-Cです。
 形状、大きさはある程度までであれば任意に変更する事が出来、最大で十人程度であれば同時に搭乗する事が可能となっています。
 私自身のMPを動力として使用し、消費量は速度と霞の大きさに従い増大していきます。
 最大速度は亜音速(秒速130m)程度であり、更に一時的に搭乗者ごと物理的に透過する事ができる特性を有します。
 他にも目晦ましや一時的な高速化、光学的透明化を行う事ができ、総じて逃走には便利な代物であると思います。




SCP_foundationはクリエイティブ・コモンズ表示-継承3.0ライセンス作品です(CC-BY-SA3.0)
http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/deed.ja

SCP-3000「アナンタシェーシャ」
http://ja.scp-wiki.net/scp-3000
SCP-014-JP-EX「君のその顔が見たくて」
http://ja.scp-wiki.net/scp-014-jp-ex
SCP-002「生きている部屋」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-002
SCP-106「オールドマン」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-106
SCP-971「エキゾチックなファーストフード・デリバリー」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-971
SCP-2790「イカした友達」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2790
SCP-629「ミスター・しんちゅう」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-629
SCP-706「完璧な磁器人形」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-706
SCP-1867「うみうし博士」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1867
SCP-710-JP-J「財団神拳」
http://ja.scp-wiki.net/scp-710-jp-j




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