無限の世界と交錯する世界   作:黒矢

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海、それは■の縄張り

■グランバロア――管理外海域

 

 

 海。

 母なる海。偉大なりし大海原。

 それは此処、現実(リアル)をほぼ完全に模倣していると言われている<Infinite Dendrogram>でも変わらず、その雄大なる姿を晒し続けている。

 あるいは……現実以上の威容を余人に見せつけながら。

 

 ただ一国が管理するにはあまりにも手が足りなすぎる程に広大なその面積。

 現実には居ない、あり得ない程に巨大な、そして強大なモンスター(非人間範疇生物)達。

 グランバロアの本船から離れた海域や深海にはそれにも増して異質な特殊能力を持つ海の怪物達が屯して――そして、地上とは比べ物にならない程多くの〈UBM(埒外の怪物)〉が我が物顔で闊歩する。

 そして何より、海の化身とも言われる【海竜王 ドラグストリーム】の存在も――――

 

 

 ……これは、そんな海での物語のとある一節。

 そう、海を縄張りとする■との戦いの話である――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――許さない。

 

 ――認めない。

 

 ――――絶対に、許してなるものか――――!!

 

 

 我々は、一つの……たった一つの目的の為だけに心血を注いできたのだ。

 他の何事にも目をくれず、ただ真摯にそれだけの為に今此処に居る。

 力を付けて、技を磨き、道具の力も神秘の力も利用して。

 遍く犠牲を許容し自らの損得など考えもせず只管に実直にそれを実行してきたのだ。

 

 この大海に浮かぶ国家グランバロアで。そして、他の国々でも変わらずに。

 この世界の海に、そして固有スキルによって海に限らずともその生息圏を広げていた()()を同志達と共にクランを作り上げ遍く鏖殺にしてきたのだ!

 一遍の曇りもない我らの理念の元、確実に、絶対に――

 

 

 天地に居た対人に特化した業を扱う【殺刃鮫 カーナイデス】は屍山血河を築きながら討伐し。

 ドライフ皇国の暴走した巨大機械だった【機器鋼鮫 メガロシャーク】は解体し部品の一つ一つを丹念に殴打し。

 黄河が信仰していた【鮫竜王 ドラグシャーク】とレジェンダリアの一部族に信仰されていた【天海神鮫 アクィラ】も構わず滅殺し。

 アルター王国を襲撃した九種の攻撃方法と八種の耐性を持つ【九頭鮫王 レギンバオラ】は我らが数の前に斃れ。

 カルディナで出た砂の海を泳ぐ【砂含鱗鮫 ザボアガレイス】には苦労させられたが、我らの鮫に特化した<エンブリオ>の前には敵はなく。

 勿論、本拠地であるグランバロアでも数多の()を屠ってきた。

 

 仲間と共に力を付けて、そしてその成果も上々の出来であり、我らの行いを止められるモノなど誰も居ないと慢心していた。

 この世界において目的を完遂するのも時間の問題だと……そう思っていた。

 

 

 ――彼奴等に獲物を横取りされ、あまつさえあの様な物を見せ付けられる、その時まで――――

 

 

 許せない、認めない。

 彼奴等を、決して逃してなるものか――

 

 我らの理念の元に――()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!!

 それが我ら――<The Shark Punching Center>の至上目的。

 それ以外に勘案すべき事は何もないし――故にこそ、絶対的に彼奴等とは敵対する運命と相成った。

 

 さぁ、我らが総力を持って殴りに行こう――戦争を始めよう。

 標的は――【()()()() ()()()()()()】。

 そしてその所有者シフィル・ワルツ及び彼奴を庇い立てする<マリン・ダイバーズ>。

 

 相手が不死身の<マスター>で? しかも〈UBM〉の特典武具であり再生するから意味がない?

 そんな世の摂理(常識)等知った事か――我らの掲げる名は、目的はただ一つ。

 

 ――()()()()()()()()であるのだから――――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

「うみっ。うーみー! これが海なんですねっ!?」

 

「そう、此処がこの世界の“海”。そしてあれが海上国家グランバロア本船、【グランバロア号】なのよっ!」

 

「まぁ、私達が世話になるのはもう少し離れた場所にある所ですけどね」

 

『Shyeaaaaaaaaaaaa!!』

 

 

 

「おぉぉぉー……クライスさん、これが例の!?」

 

「如何にも――我ら(・・)の技術の粋も集めて作られた特殊船、【マリンモール号】だ! 我はともかく、我の仲間達はすんごいからなマジで」

 

「海のオブジェクトの収容の危険度と難易度を鑑みれば、まぁそうなりますよね」

 

「別に卑下らんでも良いだろうが……それは兎も角。此処――<マリン・ダイバーズ>には一般の<マスター>も相当数加入しているから、そっち(・・・)の話をする時は周りに注意してくれよな」

 

「はーいっ!」

 

 

 

 

 

 カルディナでの修行も、身支度も終え、マスター擁する一同はその行く先を海上国家グランバロアに定める。

 見渡す限りの海、海、海、海――――【アナンタシェーシャ】もご機嫌でその身を浸し、そして<マスター>達も一息吐きその身を休ませる為にとあるクランに身を寄せる。

 そのクランの名は――<マリン・ダイバーズ>。主に<エンブリオ>の力による深海活動を専門とする精鋭クラン。

 財団職員も複数在籍しているその特殊クランであるが、今はどうやら暗雲が――?

 

 

 

 

 

 

「クソっ! また奴らの――<The Shark Punching Center>の襲撃だ――ッ!!」

 

「皆、応戦を頼む! 海賊クランなんかに負けてたまるかよ――!」

 

「戦闘用意! 皆“潜水服”の準備は出来た!? ――仲間(シフィルちゃん)をあんな奴らに渡せる訳ないのよねっ!」

 

「《夢忘の吐息》――っ!」「《風よ、来い(ウインドワインド)》」「《私ハ全テ飲ミ込ム嵐也(ウンディーネ)》」「《冥魔の輩(カナロア)》――行けぃ!」

 

 

 

「そうだ。今のが前に話した海賊クラン、鮫殴りの野郎共だ。日に日にエスカレートして来ていてな……どんな形でもいいから今は戦力が必要なんだ。頼む、一緒に戦ってくれないか?」

 

「シフィル、良イ娘。……デキレバ、助ケタイ」

 

「絶滅危惧指定種のモンスターの根絶に、鮫人系統の亜人種及び鮫系統の従属モンスターに対する無差別殺傷事件多数……むしろ、良く今までこれで監獄に送られてないですね……」

 

「手口の巧妙さと偏に実力、だな。あいつらもあいつらで俺らと同等以上に尖った奴らばかりだからな」

 

 

 

 

 襲撃してくる海賊クランとの戦い、応戦、迎撃――慣れぬ戦いの日々。

 周囲への被害の為に国の船から離れた場所での戦いは果たして吉と出るか凶と出るか。

 

 

 

 

 

「【エクサロドン】を、出せぇえぇぇ――――!! 《エクスプロード》ぉぉー!」

 

「殴っ血Kill! 殴っ血Kill!」

 

「あの人達は見境という物がないのでしょうか……シフィルさん、そちらへっ」

 

「はいっ!」

 

 

 

 

『OooOooOoooOoOooooOOOooO――――――――』

 

「なんだこいつら――ゴースト!?」

 

「TYPE:レギオンではない、本来の意味の方のレギオン(悪霊の群れ)よ!」

 

「鮫の悪霊、じゃない……? 撤退、撤退ぃぃ――!!」

 

 

 

 しかし、戦場にイレギュラーは付き物。

 突如海上に現れたるは……海の藻屑となっていった無数の怨霊達。

 人も魚も区別なくこの大いなる海でその命を散らした無数の負の生命が集合し――その名を変えて、生ある全てを恨み襲い掛かってくる――!!

 

 

 

 

 

この海(・・・)に存在する全ての怨念を糧にする、か……【衆獄霊海 デイヴァーボース】、趣味が悪いったらないですね」

 

「総量が膨大に過ぎるぞ。誰かあれに有効な攻撃できる奴は居ないのか!?」

 

「「非実体系アンデッドは完全に対象外なので……」」

 

「使えない奴しか居ない…………!」

 

 

 

 

『rOooOOOOoooOoOOOOOOOOOOOO――――!!』

 

 

『hSyewwwwwwwwwwueaaaaaaaaaaaaa――!』

 

 

「削れ削れ削れっ! 見ただろ、とりあえずアレを接近させるのは不味い――!」

 

 

 

 

 四海に跨り数多存在する怨念溜まりから際限なく汲み取られた怨念のリソースは計り知れず。

 そして、居合わせた二つのクランは共に特定行動、特定対象に特化したクランであるが故に。

 このままかの〈UBM〉の暴虐を見過ごすしかないかと、そう思われた――――

 

 ――若干名を、除いては。

 

 

 

 

「私達なら……【アナンタシェーシャ(この子)】の力なら、あれを鎮められるんじゃないでしょうか?」

 

「なるほど。怨念も所詮心の残滓でしかない――ならば、その記憶()が無くなれば……!」

 

『Shyurururururu…………!』

 

 

 

 善き心も、悪しき心も、変わらず吸い取り喰らい尽くす神威の力が今、開陳される――――

 

 

 

「今です。【アナンタシェーシャ】、《夢忘の吐息》を――――!!」

 

 

 

『OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO――――』

 

 

 

 

 

 そして、総ての怨念が()に還る。

 名も過去も何もかも失っていたマスターの……初の大金星。

 その世界の大衆に、ただの<マスター>ではない、マスターの名が初めて刻まれた事件だった――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え、海水に固有スキル(夢忘の吐息)の残滓が混ざって周囲のティアンにも被害が出てたって?」

 

「準指名手配扱いになってますね……これは、河岸を変える必要がありそうです」

 

「そ、そんなー!?」

 

『Syeaaaaaaaaaaaa――!?』

 

 

 

 

 ……マスター達の珍道中は、どうやらまだまだ続く様だ――――

 

 

 

 To Be Continued…………

 




追記:資料10106-JP-ε

 担当職員名:コンドラキ博士
 <マスター>名:
 創出結果:建物(キャッスル)型のSCP-10106-JP-C、【殲戦父国 ティタノマキア】
 特性:兵器鍛造
 備考:無骨な工房型のSCP-10106-JP-Cであり、その能力はあらゆる対象(オブジェクト)の武器・兵器化になる。
 素材だけでなく、食物や防具、あるいは所有物として判定される従属モンスターや奴隷であっても武器、あるいは兵器(特殊装備品)のいずれかの分類の装備アイテムに改造する事が出来る。
 当然であるが武器・兵器化されたそれらの性能は自分自身のステータスやスキル、そして元の素材(・・)次第だ。
 SCP-10106-JP-Cの進化に従い習得した、俗称で言う“必殺スキル”を使用する事で一時的に他者のSCP-10106-JP-Cを器物(アームズ)型、あるいは乗騎(チャリオッツ)型に改変する事も可能となったのは特筆すべき能力だと考えられる。






SCP_foundationはクリエイティブ・コモンズ表示-継承3.0ライセンス作品です(CC-BY-SA3.0)
http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/deed.ja

SCP-3000「アナンタシェーシャ」
http://ja.scp-wiki.net/scp-3000
SCP-2662「くとぅるふ ふ「ざけんな!」」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2662
SCP-527「ミスター・おさかな」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-527
SCP-058-JP「血飲みの嵐」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-058-jp
TheSPC非公式日本語化Wiki
https://spcjapan.wiki.fc2.com/
コンドラキ博士の人事ファイル
http://scp-jp.wikidot.com/dr-kondraki-s-personnel-file

SCP-____-J「先延ばs」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-j

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