□■皇都郊外・<叡智の三角>本拠地 【機械王】■■■■■■・
<叡智の三角>。
それは、
――そして、その短期間でこのドライフという国にとって無くてはならない程の技術と実力、人材を築いた超大型クランにして――ドライフ皇国クランランキングの堂々たる一位の座に就いた特別なクランでもある。
まず特筆すべきはその技術力――機械技術を信奉するこのドライフと調和する、
それが、<マスター>となってこちら側の機械技術と見事噛み合わせたもの――と言うのが彼らを表す上で最も適切だろう。
特に、彼らが作り上げた人型機動兵器、<マジンギア>の中でも正式採用機の後継と相成りその名を世に刻んだ【マーシャルⅡ】の製造、量産はそれだけで難易度:10のクエスト複数に匹敵する程の偉業だ。
今となっては皇国全土に【マーシャルⅡ】の量産、配備が行き届き、寒村を襲うモンスター達の被害は劇的に改善されてきており、あるいは各地を治める貴族達よりも感謝されている事もある程だ。
勿論、モンスターの被害が減ってきているのは【マーシャルⅡ】のお陰だけではなく、他にも多くの人々を救わんとする<マスター>の意思あっての賜物であるが――やはり、自分達の力でモンスターに対処できる様になったという事は
そして、そんな<叡智の三角>の彼らの特筆すべき点とはただ【マーシャルⅡ】を作った様なこの世界に非ざる技術力だけではなく――彼らが<マスター>であるが所以の<エンブリオ>も挙げるべきだろう。
勿論、彼らの精神性を鑑みても多くは機械製造に関連する<エンブリオ>であるのは事実であるが……知らぬ者は驚くかもしれないが、現時点での【マーシャルⅡ】の量産製造の過程においては――<マスター>が持つ最大の力の源である<エンブリオ>は一切使われていないのだ。
だが、それもある意味当然だ。
何せ――
たった一人の<マスター>の、<エンブリオ>の助力を失くした程度で生産ができなくなる程度の物であれば、【マーシャルⅡ】はそう呼ばれてはいないのだから。
不定期にあちら側の世界に行く<マスター>が関わるのであれば尚の事だ。
勿論、量産に当たってより効率よく製造を進める為の力を持った<エンブリオ>を用いて効率化はしているが……それがなくても効率が落ちるだけで製造が不可能になるなんて事はない。
当然、ティアンだけであっても製造、量産できるようになっているからこそ彼らの偉業がより映えるのだが――それはさておき。
では、そんな彼らの他の<エンブリオ>は一体何に使われているのか?
――決まっている。所属している<マスター>達自身の……そして、クラン自体の強化だ。
クランハウスの魔改造化、<エンブリオ>を用いたクランメンバー限定の門外不出の固有スキルで作られた機械群にTYPE:ガードナーやチャリオッツでの従属された機械の<エンブリオ>も。
オーナーの<エンブリオ>の様に素材から特殊なものを作るのもあれば、完成形の機械に後付けで更に強化改良を付与できる物まで種々様々。
量産型には行われない多くの秘儀を抱える<叡智の三角>は確かに、生産面だけでなく総合的にもドライフ皇国のトップクランであるのだ――――
◇◆
「なるほど。つまり殿下はそんな私達にいつもと違う依頼をしに来たと――まぁ、私達と殿下の仲ですしぃ、謹んでその
「それは有り難い。私としても、
「……ふむ?」
<叡智の三角>本拠地。
そこで、ドライフ皇国の皇族たる私、ラインハルトが<叡智の三角>オーナーを含む<マスター>陣と対話していたのは、偏にその
前述の通りに、今回の依頼……とある人物を匿ってもらう護衛依頼において、ここ以上に適した場所はなかったから。
そして、皇族の中でも【機械王】である私が少なからずこのクランと縁を結んでいる為、話を通し易いだろうと判断されたから――そう
……そう。この依頼、今回の護衛任務はドライフ皇国の最高権力、皇族肝煎りの極秘任務だ。
現在、このドライフ皇国は緩やかに――とすら言えない程に重大な危機を迎えている。
一手間違えれば滅亡が確定しかねない程の国難。一般市民達や、国民とよく関わっている<マスター>達ですら薄らとその予感を感じている程の重大事に、災厄に……直面し掛けている。
その災厄の名は――飢餓。
歴史上、幾つもの国が滅ぶ原因ともなったそれに……七大国家と呼ばれるこのドライフ皇国も陥り掛けていたのだった。
確かに、元より皇国の大地は農業に適さず、食料自給率は高い物ではなかった……が、それでもある程度は作物も育てられたし、隣国や友好国からの輸入もあり、贅沢できる者はそう多くはなかった物の安定はしていたのだ。
しかし……ここ数年、<マスター>が多数現れ始めるその少し前から、その均衡は崩れつつあった。
今まではある程度は作物を育てられた大地で作物が育たなくなり、そして隣国、商業国家であるカルディナはそれを知ってか知らずか食料の輸出を大幅に絞り始めた。
――食糧難の始まりである。
まだ、国にはある程度の備蓄はある。
しかし、当然ながらそれは日に日に減っていき、そして補給の見込みは今の所、ない。
王国は友好国の危機に無関心であり、カルディナは更に輸出を絞り、もはや殆ど食料を輸出しなくなった。
国民達や配下の貴族達にも節約する様に他の皇族達が触れを出しているが……先の見えない制限にまだ目には見えなくとも、不満が溜まっていくのが肌で感じ取れる程。
いつ決壊するか、あるいは決壊する前に限界を迎えて飢餓で絶望の内に死ぬのか――――そんな事は、曲りなりにも皇族の一人として放置できるものではない。
それ故に――――
「護衛、というのは……護送、じゃない様だねぇ。つまりは――」
「そうです。
「ああ、先触れの手紙はそういう事ですか。まぁ、最近また新人も増えたし構わないけども――しかし……
「……お願いできるでしょうか?」
「無理とは言わないけどねぇ…………」
話は続き。
依頼の段になり、オーナーであるフランクリンが私を――否、私の後ろに無言で控えていた少女を見て言う。
……彼女の言いたい事は分かる。それはもう痛い程に。
年齢の程は私や、
<マスター>の初期装備である布の服のみを纏い、それ以外何も身に着けず、空虚な瞳で彼方を見つめ続けて口を開いているだけの――白痴の<マスター>の少女。
特務兵が偶然見つけ、保護してきた――民の希望になりえる存在。
それが彼女――
尤も、彼女は<マスター>の中でも殊更特殊な存在ではあるが。
その理由は――
「それで、彼女は」「――パンが焼けました」
フランクリンが話そうとしたその直後。
何の脈絡もなくトースターがそう言い、微かな光に包まれた。
そして――次の瞬間、彼女の眼前に抱える程の
……そう、彼女の<エンブリオ>の能力は――
「パンじゃないじゃない……じゃなくて、食物の生産。それも、半自動って所かねぇ? 良くこんな<マスター>見つけられたもんだ」
「ええ、全くです。……見ての通り、色々と問題があるかと思われますが、やはり<マスター>の世話をするなら<マスター>に依頼するのが筋かと。――頼まれてくれるでしょうか」
「皇国のクランとして、それを見てから放り出す程薄情なつもりはないんだけどねぇ。……それに」
そこで一区切りし、背後の――<叡智の三角>の広間、クランメンバー達が屯しているであろうそこに僅かに視線を遣り――呟いた。
「その子も、最近入った新人と何となく気が合う様な気がするからねぇ。――木を隠すなら森の中作戦と行こうじゃないかぁ!」
……何故かテンション高めに快諾するフランクリンの姿を前に、私はどうか無事であってくれと祈る事しかできなかった…………
◇◆
◆◇
◇◆
[――君達の近隣で適当なクランを当たったが、君達の能力や活動様式からも鑑みて――王国、皇国の<Wiki編纂部>あるいは<バビロニア戦闘団><叡智の三角>等が妥当だろう。どれであっても既に加入している職員を通して加入させられるが、どうする?]
「Wikiのクランと戦闘メインと生産メインですか……どうしますか、マスターさん、フォルトさん」
「私は何処でも――」
「私は<叡智の三角>に一票かなー! これ以上この子に戦闘寄りにさせたくないしっ」
「…………なるほど。一理ありますね」
「????」
[……君達も中々苦労しているのだな]
「元はと言えばエアーバードさんとオラクルさんの頼みですけどね……!」
「あ、決まったんですねっ。ところでところで、ドライフ皇国の、<叡智の三角>…………どういう所なんでしょうかっ!?」
「まぁマスターさんはそこからですよね。そうですね、その二つであれば、表すのに一言で十分ですよ」
「――機械の国。そして、それに相応しきクランランキング一位の機械のクランよ――――」
紆余曲折の末、三人の珍道中の次なる宿木は――ドライフ皇国クランランキング一位、<叡智の三角>と決定された。
この世界における最先端技術を持つ国家、そしてその中でも設備も、技術も、資材も人材も、あらゆる面でトップたる、即ちこの世界において一番の技術力を持つクラン、それが<叡智の三角>。
ならば、そこに所属している者達は紛れもなく最高のエリート達に違いない――
――と言うのは、大きな間違いであったと彼女達が気付くのにそう時間は掛からなかった!
「何故分からんのだ!? ロボ物にだって――お色気要因は必要なのだと! 魅力的なロボットに搭乗するのは魅力的な登場人物! どちらも欠かす事は認められんのだ!」
「お前こそ分かっていない! どう考えても一番の主役はロボットなんだ! ならば他はロボのオマケ! 付属品! リソースを注ぎ込むべき所を間違えてんじゃねぇ!」
「くそっ! 実際に書くのは僕だからって好き勝手言いやがって――だが、どっちの主張も分かる、分かってしまう! 僕はどうしたらいいんだフォルトさん――!」
「――――ロボ異世界転移無双地球舐めんなファンタジー系とかどうですかね?」
「「「邪道だぁぁ――――!!!」」」
「ラストさん《
「ああああああアームパーツの生産が追い付かなーい! クールタイム、クールタイムはまだ明けないのー!?」
「《メディテーション》終わりました、MP補充始めます。……どれだけ仕事を引っ張って来てるんですか、ここのオーナーはっ」
「あっはっはー! 今は作れば作るだけお金と経験値と信頼とクエストポイントが稼げるボーナスステージだからねー――はい【MP回復ポーション】あるだけ買い込んで来たよー! もうひと踏ん張りだよー!」
「「
奇人、変人、趣味人、異人――正にそこは
常人が常人のままでいる事などできないのか、あるいは類は友を呼んでいるのか。
だが、それも致し方ないのだろう。
ドライフ皇国のトップクランであり、技術屋の望んだ楽園であり――そして、<Superior Calculation Pioneer>を除けば最も多くの財団職員が紛れ込んでいるクランでもあるのだから――!!
「特殊新規兵装開発部門……ね。良く言い包めたものですね」
「これでも皇国用の兵装だって確り開発しているのだよ? ――このSCP-10106-JP内での実験の隠れ蓑にもしている、というだけで」
『大規模な実験は流石に出来ないので、
「フフフ、ゆくゆくはウチの部門から【マーシャルⅢ】を――」
「……あれ、目的逆転していませんか?」
『……財団職員には……<叡智の三角>では良くあるコト』
「ジェラルドの野郎を新作のテスト機に乗せやがったのは何処のどいつだぁ!?」
「えっ、あの人もテスターの【高位操縦士】だと聞いていたんですけど……」
「ああ、新人のティアンの子は知らないのね! あれは
「止せ、やめろー!! 折角作り上げた機体が――」
『確か今回のは耐久試験でしたね、了解! 《
「「「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁ――――!!!」」」
だが、そんな中で、新人<マスター>であるマスターは新たな友を得る。
その名はトースター――奇しくも似たような境遇である、白痴の<マスター>だった――
「かれーぱん」
「へぇ、そうなんですか?」
「ほっとさんど」
「ふむふむ、なるほどー……」
「めろんぱん!」
「うん、ありがとうございます!」
「そういう訳でオーナーさん、トースターさんはMPやSP、HPをコストにすればもっと食料が出せるから私も鍛えて欲しいって言ってましたよーっ」
『Shyrrrrrrrrrrr!』
「なんで翻訳できるんだろうねぇこの子は……」
共に異常特性に晒された者同士、何処か人並み外れてしまった者同士。
悲しいかな、この技術クランにおいて特に目立った仕事がない者同士――行動を共にする事が増え、そして仲良くなるのも時間の問題であった。
そして――遠からず知る事となる。
その仲良くなった彼女が狙われていると言う事も――
「相手は所属不明――という事になっている暗殺者達、いずれも凄腕だよぉ? それも、ウチの防備を抜けて来られると言うなら尚の事の、ね」
「相手が強いと言うのは、戦わない理由には、なりません……!」
「――良い啖呵だねぇ! 宜しい、それじゃ頼んだよ。可愛い護衛さん――」
そしてマスターは、物知らぬが故に当然の如く――戦いの中に身を置く事を決断する。
未熟で幼いマスターの、無知故のその決断が、何を齎すのかも無自覚なままに。
「クランハウスの防御が抜けられた! あいつ、元特務兵の――サイバーアサッシンだ!」
「《アサシネイト》――――!」
「かつサンド――!?」
「トースターさんは、私達が守って見せます。行きます――!」
『Shrrrrruaaaaaaa――――!!』
――こんな境遇の己を、他と変わらず見つめ接してくれた友を守る為に。
新たな居場所を、今度こそ守る為に――マスターは三度戦いの壇上に登る。
己の力の餌食となる贄を探し求めて――
「共振ー、遠当てぇー!」
「馬鹿な、その歩法はぐべらぁッ!」
「マスター――――ッ!」
……二人の教育虚しく。
暴力に完全に目覚めてしまったマスターの明日はどちらだ――!!
To Be Continued…………
追記:資料10106-JP-ε
担当職員名:D-426-98
<マスター>名:トースター
創出結果:
特性:食物生産
備考:SCP-10106-JP-A内に居る時に半自動的に食物を生産し続ける能力を持ったSCP-10106-JP-Cです。
当初は
後の研究によりSCP-10106-JP-Cの進化形態、ゲーム内のHP、SP、MPの値に比例して食物生産量とその質が劇的に向上する事が判明しました。
また、進化によりコストを消費して能動的に食物を生産する能力を身に着けています。
生産された食物には特に効果は付与されていない、通常の食物である事が確認されています。他の食物と同様に使用、摂食する事が可能です。
メモ:エージェント・斎藤が代筆させて頂きました。███研究主任に送付させて頂きます。
SCP_foundationはクリエイティブ・コモンズ表示-継承3.0ライセンス作品です(CC-BY-SA3.0)
http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/deed.ja
SCP-3000「アナンタシェーシャ」
http://ja.scp-wiki.net/scp-3000
SCP-426「私はトースター」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-426
SCP-191「サイボーグの少女」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-191
Anomalous-052JP
http://scp-jp.wikidot.com/log-of-anomalous-items-jp/order/name/p/2
ジェラルド博士の人事ファイル
http://scp-jp.wikidot.com/dr-gerald-s-personnel-file
SCP-666-J「ジェラルド博士の運転スキル」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-666-j
SCP-710-JP-J「財団神拳」
http://scp-jp.wikidot.com/scp-710-jp-j