試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【一般版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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第4話:異世界転生のこと(1)

 

 

「やれやれ……やっと終わったな」

 

 オレは机上の書類にサインをし、印章を押すと執務室のデスクでノビをした。

 

 大きなヤマをひとつ超えた。

 あとは夏の一般参賀まで少しはヒマになるはずだった。

 

 王都の特殊警護を任ぜられる龍騎隊。その専任隊長であるオレは、塔の窓から今や森の彼方に落ちんとする陽を心地よい疲労とともに眺める。

 

 屋敷もだいぶ空けてしまった。家内もだいぶ不安がっているだろう。

 とくに(アレ)はエルフだから、よけいに心配性なのだ。

 今度の休みに森へ遠出をして、そのもどりに市場(バザール)で何か買ってやろうか……。

 

 ノックの音がした。

 

「――入れ」

 

 伝令を束ねる伍長が顔をのぞかせ、

 

「第二神殿のボウズどもが帰郷の準備しているとの報告です、隊長」

 

 執務室より上、塔の最上段から下を見下ろしている見張り役からの情報だ。

 

「いま、竜車に走竜をつないでいます。あと四半刻もすれば、でてくるかと」

雷門(ライモン)の小隊に“送礼の位置”につけと伝えてくれ」

 

 オレは渡された書類にサインをしながら、

 

「あぁ、それからくれぐれも警護隊にちょっかい出すなと、念を押しといてくれよ?」

 

 諒解、と伍長はニヤつきながら顔を引っ込め、扉をしめた。

 雷門のヤツにも困ったものだと思いながら、ふと下の大部屋に行ってみるかと思い立つ。

 威厳をたもつために、いちおう銀のバックルがついた帯革(たいかく)を巻き、そこに長剣を()いた。

 剣の重さも、そろそろ腰に来る。

 一本、軽い()を新調してもイイのかもしれない。

 

 階段をおりてゆくと、給湯室から華やかな笑い声がする。

 そっとのぞけば、出稼ぎの地属な娘たちが、ウロコのあるシッポをふりたてつつ、黒茶を()れながら今度の休暇の予定と買いもの談議に花をさかせているのだった。

 

 マントをまとった伝令や獣族出身の秘書がいそがしげに扉を出入りする大部屋をあけると、一同に緊張が奔った。

 

「隊長殿――入室!」

 

 ザッ!と龍騎隊用の大部屋にいた全員が一斉に立ち上がる。

 オレは手をあげ、

 

「あぁ、そのまま、そのまま。ラクにしてくれ……」

 

 そして、居並ぶ部下たちを一人一人眺め渡しながら、

 

「諸君、このたびはご苦労だった。諸君らのおかげで、この王都で開催された“第四次公会議”も、どうやら無事におわることが出来た。これも皆の尽力のたまものだと思う」

 

 ホッとした空気が一瞬流れた。

 

 まわりで事務をとっていた隊員たちも疲労の色が濃いものの、表情(かお)は一様にどこか明るい。

 王都で長々と開催された政治日程もおわり、あとは残務整理が残っているだけとなれば、夕映えが窓からさしこむこの時刻、今日こそは早めに帰ろうと、おのおの仕事に最後のおいこみをかけている。

 

「また先ほどより、顧問官から直々に感謝の言葉を頂いた。臨時ボーナスは、期待してくれ――以上だ」

 

 わぁっ、と明るいドヨめき。

 

 月雇いされた地属の女性給仕兵たちが、パンツが見えそうなほどシッポを勃てながら黒茶を煎れはじめた。

 おそらく先ほどの娘たちだろう。

 彼女らも、ようやく休暇がもらえるのがうれしいのだ。それに加えて臨時ボーナスが支給されるともなれば、彼女たちのセクシーなシッポがフリフリされるのも、むべなるかなだった。

 

 ふたたび仕事に動き出した大部屋の風景のなか、常駐の副官が近づき自分のデスクに誘いながら、

 

「これでどうやらひと段落ですな隊長……まったく肩がコッた」

「あとは衛士隊(ポリ)の仕事だからな。我々特殊部隊は、ココまでだ」

 

 じつは、とこの男は一瞬言いよどんだあと、

 

「本隊の催しとは別に、大部屋で打ち上げの慰労会を計画しているのですが――いかがですか?隊長も」

 

 オレは副官の微妙なニュアンスを直ちに感じ取った。

 フフッと笑い、相手を小突いて、

 

「いや、オレなどがいると、かえって皆が気詰まりだろう。キミらで飲ってくれ――もちろん、幾らかは出資するよ?」

 

 副官の顔がほころび、深々と最敬礼。

 肩章で飾られた相手の肩を叩き、オレは大部屋をあとにする。

 

 あちこちから追いすがられ、その度に書類にサインや印章。

 いいかげんウザくなったので、オレは龍騎団用に拝領された城塞の最上階に単身、登った。

 王都の片隅で、王宮を彼方に望むこの場所からは、

 

  ――片方は王都の街並み。

   

    ――もう片方は遠方に雪を頂く連山を背景とした大森林。

 

 言ってみれば二極の相が観られる立地となっており、オレ的には気に入っていた。

 街中の喧噪と、交通のごった返しは、どうもしょうにあわない。

 それに妻の実家がある森も近いので、なにかとベンリなのだ。

 

 たかが一特殊兵団にこのような城塞を与えられているのも、この立地ならではだろう。

 王宮直属の近衛師団など、ウサギ小屋みたいな本部なのだから。

 

 夕方の風に吹かれていると、足音が近づいてきた。

 

「よう、龍の。探したぜ。ま――たぶんココだとは思ったが」

 

 なれなれしく話しかけてきた声に振り向けば、学生時代からの腐れ縁。

 もう一つの特殊部隊である戦闘団のリーダーが、疲れたような顔で立っていた。

 

「虎か!なんだよいつ戻った?ひとことあってもいいじゃないか」

 

 オレは砂色の制服を着た剣士の肩をかるく小突く。

 

「たったイマさ。だからこうして報告に来ている」

「なんだよクソっ!急に飲みたくなってきちまったゾ!?」

 

 相手は辺境の砂漠を守る専門の特殊兵団、風虎士隊、通称“砂漠の虎”だ。

 この男ともう一隊、高所専門の山岳部隊、通称“雪鷲”の隊長である男とは、高等剣士校時代の同期でよくツルんでいろいろと暴れたものである。

 

「“鷲”のヤツはどうしてる?お砂場にいると、どうも情報にうとくなってね」

「元気にしているらしい。例の“空魔”がいるカルパチア連山に派遣されてるよ」

「まだ独りモンなのかな?」

「どうもそうらしい!あいつは束縛を嫌うからな――ホント、高空の鷲みたいなヤツさ」

 

 どうだい!今夜あたり、とオレは誘いをかけた。

 

「イイ店ができたんだ」

「うn――いや」

 

 “虎”の隊長は煮え切らないような曖昧な微笑をうかべ、

 

「お前、例の公会議の警備と防諜で、ここんとこ忙しかったんだろ?」

「んぁ?ま、そりゃそうさ。あと数日で、ようやく通常業務にもどる」

「で――そのあいだ、家には帰ってないと」

「まぁな?近場の旅籠を借り上げて対応したんだ」

 

 微妙な一拍。

 やがて“虎”は気弱な、照れたような表情で、

 

「できるだけ家に帰ってやれ……奥さんエルフだろ?人間と違って繊細だから、なるべく労わってやらんと」

「なんだオィ、どうした?清音っちは元気か?結婚式以来、会ってないからなぁ」

 

 おれは高校時代クラスメイトだった女性剣士をおもいだす。

 龍と虎と鷲は、同学年だった彼女を奪いあい、結果“虎”がお相手となることに成功したのだ。当時の悔しさは今でもはっきり覚えているが、時間がたってみると、アレも青春の1ページだと中年の入り口に差し掛かった現在では思えるようになっている。

 

「こんど彼女も交えてどうだ?食事会でも」

 

 

「――離婚したよ、オレたち……」

 

 

 え”……と言うのが精いっぱいの反応だった。

 

「……なんで、また」

「男をつくって、出て行ったのさ」

「清音が!?うそだろう」

「任務にかまけて、放っぽらかしちまった俺がイケないのさ……勤務地が遠方の砂漠だろ?1年に1~2回、帰るかどうかじゃ、愛想もつかされるよ」

 

 オレの中で胸が(うず)いた。

 

 それは――不思議な痛みだった。

 まるで前世で、自分の方こそ妻に逃げられたことがあるような……。

 

「今回、王都に帰ってきたのも離婚手続きのためなんだ。まさか逓信(ていしん)で財産分与にかかわるような大事なことはできないし」

 

 こんな時にかける言葉は、なかなか見つからない。

 

「……なぁ?」

「あぁ?」」

「しばらく王都にいるんだろ?」

「うん、そのつもりだ」

「機会を改めて一杯飲ろうぜ」

「オゴリか?」

 

 ハ!とオレは学生時代からのこの男のヌケ目なさを久しぶりに思い出した。

 

「――いいぜ……久しぶりだ。オゴってやるよ」

「その言葉、忘れンな?」

 

 そう言って相手はオレの肩を一発ドヤしつけ、外衣の具合をなおすと、この砂漠の猛者は屋上を去っていった。

 寂しげな背中が塔の階段降り口に消えるまで見送ってから、オレは風が吹いてくる森のほうを見やった。

 早くも日は落ち、空には“神の瞳”が昇り始めた。

 古文書によれば、あれは超・巨大な人工物で、かつて“よその世界”からきた侵略者と戦ったそうだ。

 

 ――戦い、か。

 

 南の平野が不安定だと最近はもっぱらのウワサだった。

 なんでも見たことの無い知性をもった獣が徘徊しているとか。

 

 なぜだろうか。

 そのとき、オレは幸せのモロさというものを、ヒシヒシと実感してしまう。

 

 今日は部課長の報告会と後始末で、どうしても身動きが取れない。

 

 ――明日こそは、久しぶりに我が家に帰ろう。

 

 オレはその時、固く心に決めた。

 

 

           * * *

 

 

 通い竜車(タクシー)で、俺は王都近郊にある大きな村の入り口に乗り付けた。

 ここから先は村の規則で王宮側の車は通れない。かつてこの地方で争いが会ったときの、古い掟の名残だ。

 買い物袋を両手に下げ、剣を「邪魔だ!」と尻に回しつつ“森の部族”が操る駄獣がひく荷車などが騒々しく行き交う村のメイン通りを行く。

 

 大きな角を持つ水牛属のおかみさんが洗濯モノを取り込む手をやすめ、

 

「アレ、だんなァ――しばらく見なかったねぇ」

「や、これはアルネェのお上さん。お元気ですか?」

「都の催しも終わったンだろ?ようやく静かになるねぇ」

「静か?なにか騒がしかったんですか?」

「いえね?森の街道を、会議用の荷物だとかナンとかいって、ずいぶんと大きい駄車が頻繁に行き来していたんだよ?ウチの子も危うく轢かれそうになって……」

 

 轢く、という言葉を聞いたとき、なぜか胸がズキリと痛んだ。

 

「大きな会議がありましたからね。でも、それも終わりです」

「そうかい?じゃまた静かになるね。ヤレヤレありがたい」

 

 オレはおかみさんと別れ、そのまましばらく道を進むと、横道に折れた。うるさいメインストリートを離れ、すこしばかり歩くと緑に包まれた屋敷が見えてくる。

 すこし、剪定が必要な具合だった。いかに自分が屋敷を放っぽらかしていたか、まるで自分が責められているような気分にさえなる。

 

 屋敷にちかづき通用門をあけると、庭の砂場で遊んでいた女の子がこちらを見て立ち上がり、目を丸くする。

 そしてスコップを放り出して一目散に屋敷に駆けもどり、

 

「ママぁ――!?パパ帰ってきたァ――!!!!!」

 

 

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