試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【一般版】 作:珍歩意地郎_四五四五
風虎隊の隊長は、脇差を手にするオレを感情のこもらぬ目で見た。
そして砂漠の太陽に灼かれたほおに作ったような短い嗤いを浮かべて、
「……待ちかねたゼ」
「どういうことか、説明してもらおうか」
初めて胸に感情が動いた。
最初にやってきたのは“怒り”でも“嘆き”でもない。
いまや指名手配となった、この古くからの友人に対する“哀しみ”だった。
「……説明だってェ?」
見れば相手は満身創痍。
あちこちに血のにじむ包帯を巻きつけ、刃こぼれも血曇りも激しい抜き身の剣をひざに横たえたまま“虎”の隊長は力のないせせら笑いをうかべると、
「なんの説明だィ?お
「はぁ?――『蜂起』だ?」
怒りが、不意に爆発した。
「どうみても『叛乱』じゃないか!これは!」
「……お前ェに分かってもらおうとは思わん」
コチラの怒りにも動じず“虎”はソッポをむくと声ひくく、
「ふだんは王都の警護。たまに紛争地帯に出張るくらいで、あとはナニ不自由なく過ごしているお前らに、俺たち常設の辺境守備隊が味わう苦労は分からねェよ」
「ふざけるな!命が保証された安楽な生活がしたかったら、役人にでもなれば良かっただろうが!身体を張って自分を犠牲にして!
「お前ェには分からねェんだよ!」
こんどは“虎”がソファーのひじ掛けを叩いて爆発した。
「ものごとには!限度ってヤツがあるだろうが!」
逆襲の勢いを肩からもうもうと煮え立たせ、血走った眼を怒らせつつ、
「守っているはずの“人々”から「人殺し」呼ばわりされ、新聞では散々な風評!おまけに中央集団と違って予算も無いのでまともな作戦も出来ない!二日に一食なんてザラだぞ!?補給だ?そんなモノこっちには回ってこねェよ!侵略してくる奴らとの戦闘で負傷しても、医薬品すら欠乏している!助かる隊員の命が!
沈黙。
やがてオレは白けた目つきを相手に放ち、
「で……あげくがこの有様か」
荒れ果てた自分の屋敷をグルっと腕で指し示した。
「今回の件で
「俺は王都で安眠をむさぼる連中の眼を覚ましてやりたかったんだ!いろいろ他の手段も講じたサ。でもダメだ。だから俺たちは“革命”する覚悟を決めたんだ。現に王宮の一部の議員も呼応してくれた!クサってやがンだ、いまの政治は!目的のためなら、多少の犠牲は仕方ねェ!」
カッ、とオレの身体を怒りが奔った。
来る途中で見た惨劇の数々。それが爆発的によみがえってくる。
「多少の犠牲!?コレが!コレがか!街の惨状を見てそう言ってるのか!」
「あぁ!そうさ!」
「オマエは頭痛を直そうとして頭を切り落とそうとしたんだぞ!」
「崇高な目的のためなら!――そうさ、手段は正当化されるよ……」
ダメだこれは、とオレは脱力して首を振った。
もはや手の施しようがない。
手前勝手な理想を求めたために、現実に地獄をよびこむ
オレの非難がましい軽蔑のまなざしに、
「後世の歴史は……かならず俺たちを評価してくれる!」
「どうかな。オマエたちがムダに引っ掻き回したこの国に“後世の歴史”とやらがあればイイが」
抜き身を手に“虎”は立ち上がった。
「どうする――俺を逮捕すッか?」
「裁判で、いまの事実を世間に知らしめればいいじゃないか」
「ムリだね。六法全書をひねくることしか能が無い、
ドカッ!と“虎”は大剣を小卓に振り下ろし、それを真っ二つにする。
「拷問!――密室裁判!――処刑!……おおかたそんなトコだろ」
そしてこの男は疲れたような微笑みをコチラにむけ、
「そして俺は、捕まる気がない……表ェでようか」
「――よかろう」
オレたちは屋敷の裏庭に出た。
そこはシーアが丹精を込めた芝生の園となっており、奇跡的に破壊を免れていた。
美しい花々が咲き、小川から引いた水流がサヤサヤと流れている。
剣を手にせず、お互いの着ているものがボロボロでなかったら、午後の陽ざしをうけ、古なじみが語り合っているのかと疑うところだろう。
――いや、実際にそうじゃないのか?
オレ自身が戸惑ってしまう。
なにしろあまりの境遇の変化に、ようやく息を吹き返した心がついて行かないのだ。
こうして距離を置いて二人で向かい合っていると、今にも妻が現れ(お二人で何をなさってますの?)と不思議そうな顔をしつつ、紅茶の盆をささげて東屋に誘い、娘は買ってもらった巨大な竜のぬいぐるみをヨタヨタと抱え、目の前の男に自慢しに来るような……そんな気がしてならない。
「どうしてコウなっちまったのかな……」
“虎”は血曇りが浮き出る己の剣をしげしげと眺め、
「あの火薬塔の失敗がなけりゃァ、まともな政権を作れたはずなんだ」
「首が入れ替わるだけさ。オマエが毛皮をまとった娼婦に囲まれてオープンの竜車に乗る姿は、さぞかし画になるだろうゼ」
「……あァ?」
不機嫌そうな顔をして旧友はスゴんだ。
「テメ……ダレに向かって言ってるンだよ」
この男も、昔はこんな口ぶりをする奴ではなかったのだが。
全体に品下っている印象がはなはだしい。辺境の生活は、ここまで人を変えるのか。
学生時代からは、考えられなかった凋落の気配が、相手からは漂っていた。
オレは教え諭すような口調で、
「不当な手段で
ふぅん。と“虎”は澄まし顔で、
「なら、俺もせいぜい楽しんどけば良かったか。でもまぁ、お前ェの奥さんのマ○コも中々の味だったし、少しはトクしたかな」
「……」
「腹ァへらした手勢のオークどもを、この屋敷に引き入れたのは失敗だったゼ……やつらすさまじい食欲を満足させたら、お次は性欲とくる。まさかお前ェの娘……ガキまで手ェかけるたァ思わなかったが……」
「……」
「そう、お前ェのキレイな奥さんったらよ?「娘だけは~」なァ~んて。俺の名前を呼びながら命乞いしてたッけなァ?オークのやつら容赦しねぇから、自分の大きな一物をいれるため、アゴぉ外してひろげた子供の口に、ブッとい
【自主規制】
そりゃァ見ものだったぜ」
「……」
「娘の服をビリビリに破いて引ん剥くころは、反応がなかったんだが、さすがに肛門に尖らせた杭の
【自主規制】
オークの馬鹿力で、こう、ズブズブズブゥゥゥゥゥ……!っと」
オレの心の中で、痛ましさが広がってゆく。
目の前の友人は、精一杯悪ぶっている。それがなんとも見ていて悲しい。
「遠征先でも……そうやってきたんだな?」
オレは“旧友”の心が、あいつぐ辺境での任務で完全にスリきれてしまったのだと理解した。表面はいかついが、人一倍やさしかったこの男が。
そのとどめが、ヤツの離婚事件だったのだろう。
清美のやつも、相当にガマンをかさねたのではないだろうか。
知性と品性。なにより思いやりがあったオレたちのアイドル。
よほどのことがなければ、離婚なんて結末にはならなかったはずだ。
「あァそうさ――どハデにやってやったよ」
“旧友”はオレの問いに下卑たニヤつきをみせ、
「侵略者どもと同じことをやらなきゃ、戦いに勝てやしないんだ。ヤツラは数をたのんでコチラが守の村を襲撃し、妊婦のハラを裂き、子どもを串刺しにして、老人を小屋に追いこんみ外から火をかけやがる」
「それで向こうにも同じことを?」
当然、と痩せた頬にスゴ味のある表情を浮かべ、
「ヤツラのシンパと思われる遊牧部族を襲撃し、火炎放射器で家畜を焼き、井戸に毒を投げ込み、牧草地に枯葉剤をまいた」
「……」
「拷問で組織の構成員をあぶりだし、敵対する町のシンパを暗殺し、権力者の子供を誘拐して見せしめのため片輪にして返した」
「……残酷きわまるな」
残酷だ!?と電気をあてられたように相手は反応する。
「残酷と思うか?そうだな、王都のフニャチンには――そう見えるだろうな。だがヤツラはそうやって何十年何百年、争いを、殺し合いをしながら生きてきたんだ。こちらも奴らの流儀に合わせなくちゃならん。なりふりカマっちゃいられねぇ」
「死の応酬じゃないか……そこからは何も生まれんぞ」
「それは日々の生活が保障されている人間が持つ理性的な考えだゼ。ケドよ?厳しい自然の中で生まれた宗教!それを信奉することでスリこまれる“文化的刻印付け”!その洗礼を代々営々と受けてきた蛮族どもには!アマっちょろい対応は許されねェ……降伏するか!根絶するか!……それだけだ!」
「話し合いの余地なしか?」
「太陽が西から昇らなきゃ、ムリだね」
「残念だ……きわめて残念だ」
一拍の、そして無限とも思える沈黙。
「――そうかい」
「――そうさ」
ユラリ、
目にもとまらぬ突きが、こちらのノドを狙ってきた。
オレは左に受け流し、返す太刀筋で相手の手首をねらう。
ガキッと鍔でそれを受けた“旧友”は、
「ハ!刃こぼれをキラうか?お上品なこって!」
こちらの剣を上にねじふせ、さらに突きが来る。
同じ攻撃をフェイントで。
こちらが下がったところを逆袈裟に。
刃が打ち合わされる金属音が、静かな庭園に鳴り響く。
「イイゾぉ!やっぱりお前ェはサイコーだ!」
「ぬかせ!腐った刃筋をしてからに!清音が愛想をつかしたワケも分かるわ!」
“旧友”の顔が瞬間、真っ赤に染まった。
下段から、刃筋を隠した一撃がくる。
――風塵剣!
納屋のオークたちの首もとを一刀にハネた必殺の剣。
右のほおに殺気を感じ、とっさに剣を上げた受けが辛うじて間に合った。
目の前に火花がとび、
――次撃がくる!
オレは素早く相手と
行き場のなくなった刃筋にスキがうまれる。その肩口を狙い、存分にオレは剣をふるう。
だが――浅かった。
素早く
新たに流れる血を手のひらで確かめた“旧友”はフフッと笑い、
「ニブっちゃいないようだな、えぇ?……だがコレはどうか、なッ!」」
嵐のような連速攻撃がきた。
上段、下段、そして中段の突き。
大振りではない、しかし一刀一刀が風のような剣筋。
――クッ!
腕に、肩に、チビリ、チビリと剣先が届き始め、オレは防戦一方となる。
相手の顔が、悪鬼のごとくゆがんで。
「コレでオワりだ!」
相手が大きく振りかぶった瞬間にスキが生まれた。
オレは振り下ろされる剣に合わせ、迎え撃つかたちで相手の首筋を狙う。
だが――庭園に掘られた小さな穴に脚をとられ、一拍反応が遅れた。
――ゴルフをやるとか言って、娘が掘った穴だ!
そんな思いがこの非常時の脳裏に稲妻のごとく。
オレは渾身の力を込めて大上段から流星のように墜ちかかる太刀筋を迎え撃つ。
鋼と鋼が撃ち合う
二撃目!
今度はオレが上段で、下段に回った相手の剣を討つ。
鈍く、それでいて澄んだような音がして、“旧友”の剣が吹っ飛んだ。
いや、吹っ飛んだというのは見間違いで、相手の剣が中ほどから折れたのだ。
“虎”は一瞬ぼうぜんとして、折れた自らの剣を眺めた。
しかしヤレヤレと首を振るや、剣を棄てる。
そして悠揚せまらず腰から長いナイフを抜き出した。
「来いよ、まだオワっちゃいねぇ。俺の小太刀は知ってるだろ?」
そうだな、とオレは言いつつ自分も剣を棄て、腰から脇差を抜き放つ。
相手の驚いた顔。
次いでそれはニヤついたものになり、
「まったく……お前ェってヤツは、とんだロマンチストだぜ?」
「そういうオマエも、今どき革命とやらを信じるなんざ、中々のモンだ」
言い終わらないうちに
刃渡りが短いだけに、ふたりの距離が近くなり、動きが荒々しくなった。
身体をぶつけ、コロげ、全身芝まみれになりながら、まるで野獣のように。
相手に組み付いたオレだが、手もなく振り飛ばされた。
“虎”は仲間うちでも力自慢で通っている。
手負いな状態とはいえ、力勝負の一対一では分がわるい。
息を切らせ、間合いを取ったあとは中腰の姿勢。
相手の眼を読み、つぎの攻撃を組み立てる。
「――勝負!」
瞬間、叫んだ相手が撥ねた。
黒い影が、オレの視界いっぱいに広がる。
突きだされる刃筋の向こうに、勝利を確信した相手の薄ら笑い。
ドカッ!と二頭の巨大なイノシシが激しくぶつかり合うように。
やがて相手の顔から笑みが消え、信じられないという風に身体をはなす。
「そんな――そんな――」
“旧友”は力なく呟きながら、へたりと芝にひざをつく。
オレの脇腹には、相手のナイフが深々と突き立っていた……。