試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【一般版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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「ごくフツーのヤツに見えるがなぁ……」

 

 その3Dホロを見ながらオレは、

 

「就職に失敗しただけで、引きこもりなんかになるモンかね」

『いまは“売り手市場”なんて言ってますが、要は企業にとっての“奴隷”が足りてないだけですからね。圧迫面接で辛辣なことでも言われ、心が折れたんでしょう』

「今どき圧迫面接なんてやるトコあるのかぁ?」

『いずれにせよ、ぬるく育った今時の若者には労働条件がキビしいかもしれません』

 

 【SAI】は知ったような口ぶりで批評する。

 

『「プラザ合意」からこっち、この国がこうなるのは、既定路線でした』

「オマエも相変わらず辛辣(しんらつ)だねぇ……」

『で、そのシンラツなAIは、面白い光景を見つけましたよ、っと』

 

 ――こいつ……またセリフが微妙に変化している。

 

 

 オレが入院している間、コイツには絶対なにか変化があったに違いない。

 撃たれた時のことは“二人とも”意識しているのか、いちども話題にのぼらなかった。

 

 【ちゃんとAIの手綱(たづな)を握っておけ……】

 

 “アシュラ”の言葉が思い出される。

 あれは、過去になにか事件があったような口ぶりだ。

 ぜひともこんど機会を見つけて聞いてみなくては。

 

 メガネに投影されていた履歴画像が消え、別の場面を映し出した。

 電柱にくくり付けた監視用マイクロカメラの映像だ。

 夕映えの薄暗がりに、数人の人かげ。

 よくみると折り畳みタイプの自転車にまたがった一人の人物を、3人ばかりで囲んでいるらしい……。

 

 

「【SAI】――音声」

『ヤボゥール、ヘル・コマンダー』

 

 待ってましたとばかり、キャビンに望遠マイクからの音声が控えめに。映像も音声も小ささの割には恐ろしくクリアだ。装備係から受領したときヘブライ語の注意事項シールが貼ってあったから、もしかすると民間には流れていないIMIの軍装品かもしれない。

 

 三人は、ひとりの人物をカツあげしているらしかった。

 

 目を付けられた真ん中の人物は、抱えるショルダーバッグを取られまいと、必死に抵抗している。

 

「オラ、イタイ目みたくなきゃとっととカバンよこせよヨ!」

「ナメてんじゃねぇぞ兄チャンよぉ……」

 

 一生懸命スゴんでみせているような借り物めいた口調。そして強請(ゆす)る側の声が幼ない。どうやら中学生らしかった。

 オレは強請られている人物に目をこらす。

 そして相手がまたがるミニベロ・タイプの自転車――。

 

「まてよ……おぃ」

『お気づきになっただろうか……ではもういちど』

 

 いやな効果音と不気味な声で、映像がズーム。

 

 ――轢殺ターゲットだ……。

 

 オイオイオイ、そんなご都合主義な。

 あの姉妹の事といい、今回といい、何か出来すぎてはいないだろうか。

 ラノベでもこんな都合のいい展開はないぞ?そりゃオレは簡単に轢ければ楽しいが、運を使い果たしたことによる平均律的な()()()()()が怖い……。

 

 ――いやまて。

 

 オレは助手席に置いたバッグの中のお守りを思う。

 あの日、小銭入れをはたいて賽銭をいれた神社のお守りだ。まさか、これも縁結びの神様の威力なのか……?

 

 渡された資料では、実家の人間と顔を合わせるのを避けるため、もう少し遅くにここを通るハズだった。資料の情報(ネタ)はデマか。あるいはたまたま実家の人間が泊りがけで外出でもしているのか。

 

 これが危ないんだよ。こういう不確定要素が、いつも計画の邪魔をする。

 目標が予定外の行動をとることで、最悪、現場で警察(ポリ)とはち合わせしそうになることすら。

 

 腰の入っていないパンチが青年のほおに一発入り、目標は自転車ごと倒れた。ついにバッグが奪われ、中が乱暴に漁られる。携帯がみつかり、一発でバキバキに割られて。

 

「ンだよ!コレだけかよ!」

 

 バッグに蹴りが入り、歩道の端まで滑って行った。

 

「シケてんな。オィ兄ちゃんよ、小銭も出してみな!」

「コイツの免許証シャシン撮って、あとでコイツん()行こうぜ」

「オレらの秘密基地にするのもよくね?姉貴か妹いるといいな!」

 

 くちぐちに勝手なことを言う少年たち。

 この辺は通行量も少ないので、多少騒いだところで目撃者や通報人が出ることもないだろう。こうなったら、いっそひとまとめに……。

 

「【SAI】、あいつらの――」

『ザンネンながら、転生指数はいずれも低いです。少年法の通じるうちにヤリたい放題やって、この世界を謳歌しようという種類の個体たちですね』

「ちぇ、全員まとめて轢き殺してやろうかと思ってたのに……」

 

 おいまて、コイツ本持ってんぞ!と少年たちの声。

 手荒く本の書店カバーが引きはずされ、中身が見えた。

 

「オレこれ知ってる!萌え画ってヤツだ!コイツ“オタク”じゃね?」

「ちげーだろ。オタクならもっと金もってなくね?」

「なになに?【異世界に転生したら能力が「女たらし」限定!?王女様までヒモパン+踊り子にコスプレさせた挙句ハーレムめいたキャバレーの店長になって女の子たちの性癖開発しまくりingウハウハあふぅ~ん】……だってよ」

 

「「「きめぇぇぇぇぇえl!!!!!!!11」」」

 

 少年たちが腹をかかえて爆笑する。

 

「こんなキメー奴、たいぢした方が世の中のタメだべ!?」

 

 一人がポケットから取り出したナイフを鳴らしながら仲間の同意を求める映像。

 尻馬にのって、ほかの二人が暴れる目標の腕を後ろから羽交い絞めにおさえた。

 

 それを見たオレは、また光モノ(ナイフ)かよとウンザリする。

 しかも今の世には珍しい、ご禁制の、昔懐かしい“飛び出しナイフ”だ。

 いったいドコから持ってくるんだか。

 

「【SAI】?あそこでターゲットが殺されたとして、その後で轢いても転生は可能なんだろうか?」

「殺されてすぐなら大丈夫かもしれませんが、確証はありません。前のオーナーも……いえ、わたしのデータバンクにも、そういう手法の“臨殺例”はありません」

「ふぅん……」

 

 コイツ。

 

 前のオーナーと言いやがった。

 ドライバーが変わるたび、AIはデリートされると聞いていたのだが。

 おれは、考えていることを人工知能に悟られないように、

 

「どうすッかなぁ……新装開店一発目でケチつけたくねぇしナァ」

『このまま殺されても、マイケルにペナルティはないと思われます。“君子火中の栗を拾わず”ですよ』

「それも何かチガうんだよな……」

『ハテ。わたしには分かりかねますが……宜しければその理由を400字以内で述べてみて下さい』

「……」

 

 オレは思い出深いモンキーレンチを後席の工具箱から引っ張り出した。

 ウンザリしたような【SAI】の反応。

 

『またそれを使うんですか」

「こっちも刃物を使えってか?やだよ」

『“M”にお願いして特殊警棒を装備してもらいました」

「誰が?――お前がか?」

『こんな主人思いのトラックは他にいますかネ?」

 

 工具箱の脇を見ると、ご丁寧にもプレゼント包装された細長い包みが。開いてみると、まえ腕ほどの長さをした適度なしなりを持つゴム製の警棒が出てきた。

 グリップにスイッチがある。オンにすると、チャージされてゆく時の、かすかな高周波音。良かった、まだジジィじゃない。よく見ると先端が放電のための電極部になっている。

 

 オレはコネクト・カムを耳に付け、警棒を左ウデに仕込むとトラックを降り、スロープを駆け上がる。

 

「【SAI】――通行人を確認」

≪クリア≫

 

 オレはアラミド繊維とケブラー、それに突き刺し攻撃用の装甲板で作られたジャケットに手を突っ込み、知らんぷりの足取りで一団に近づく。中坊たちは獲物を中に囲い込み、こちらからの視線をなるべく遮ろうとする姿勢。

 

 そうだ、と思いついたオレは電話をかけるフリで携帯を耳に当て、

 

「ハイ!えぇ、そうなんスよ。さっきスロットで大勝ちして!いま腹ンなかに50万ほど入ってマス。えぇモウ、これモンで!はい、はいじゃぁ」

 

 オレは電話を切ったフリ。

 横目に、少年たちの顔が見合されるのが分かった。

 やがて個々の表情(かお)が、ニンマリと卑しげに歪んで。

 と、そのうちの一人が、一団の横を通り過ぎるオレの背後から近づいてくる。

 

(……かかったな、アホが!)

 

 つられてオレの顔も、どこかで聞いたようなセリフをニンマリと。

 やがて足音がいきなり近づいてきて、

 

「オイ――待てやオッサン」

 

 オレの肩にガキどもの手が背後からかかった。

 振り向きざまにパンチが襲ってくる。

 

 ――くっ!

 

 オレは、キワドイところでそれを避ける。

 ヒョロいパンチがオレのほおをかすめた。

 まさか。こんな形で先制攻撃をくらうとは。

 だがコレでいい――これでガキだからと言って手加減は、ナシだ。

 

「な、ナニをするんです!危ないですね!」

 

 慌てふためいて5、6歩離れてみせた。

 オマケとして、ちょっとブルブルふるえてみたり。

 オレの哀れっぽい声に、残りの二人も獲物をみつけた喜びで近づいて。

 

「おまえ、金タンマリ持ってんだろ?俺たち恵まれない子供に寄付してくれや」

「おなか空いちゃったよう!寿司食いたいよう!」

「ノド渇いちゃったんでドンペリのみてぇや」

 

 ゲラゲラと笑う三人組。

 

「ちょwww俺らってwwwチョーぜいたくじゃね?」

「VIP待遇だぜ、VIP待遇!」

 

 オレも思わずニヤニヤしてしまう。

 

 ――さぁ~て。どいつからヤってやろうか……。

 

 すると少年たちの顔がフッと真顔になった。

 まるでお(たの)しみを奪われたか、臭いモノでも嗅がされたように。 

 

「おうコラ、余裕カマしてんじゃネーぞ」

「オメーは笑わなくてイイんだよタぁコ!」

 

 ひとりが一団から離れ、オレに近づいた。

 

 金髪に染めた髪をソフトモヒカン。

 スカジャンの下はTシャツに金ネックレス。

 狭いひたいにアタマの悪そうな締まりのない口もと。

 最初に不意打ちで殴りかかってきた(ヤツ)だ。

 

 ――よゥし、このガキに決定~~♪

 

「ちょーしブッこいてると、ケガしちゃうよ?オッサン」

「ダレがオッサンだ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 『いきなりハンバーグ』ならぬ、『いきなり全体重を載せての右ストレート』だ。

 それがヒゲ一本生えていない、生ッ(チロ)い相手のアゴをとらえる。

 絹豆腐のような手ごたえの奥に、骨がひしゃげる気配。

 

 ――あ、しまった……。

 

 そう思ったのは、相手がいきなり白目を剥いて崩れ落ちたからだ。

 ちぇッ、もっとジワジワ()()()()()やらなきゃ面白くないのに。

 おもうに今の一発は、あの“ボニー”に関わって以来、積もり積もった鬱憤(うっぷん)が含まれていたのではなかろうか。我ながら快心の一撃。でもすこし肩を痛めたっぽい。やっぱ歳だねオレも。

 

 ガキどもの顔に、はじめて怯みの色が(はし)るのをオレは()た。

 

 ――だが、もwうwおwそwいw♪

 

「……ンだこらォオ!ヤルってンのか」

 

 けなげにも声をはげまし、殴りかかって来た相手の腕をヒネりあげ、背中を向かせる。()じり上げたまま、相手が暴れるのもお構いなしに力任せで首の方まで持ち上げると、

 

 ビキッ!

 

 軽快な音が鳴った。

 

 なるほど、最近のガキはカルシウム不足だ。だから怒りっぽいんだな?

 ちゃんと牛乳飲まなきゃ大きくならないぞ――とくに知能(アタマ)が。

 みょうな悲鳴をあげ、少年は肩をおさえて土下座風味にしゃがみこむ。

 

 残るひとりがチン、と飛び出しナイフのブレードを出した。

 

「てめ――こんなことしてタダで済むと思うなよ?」

「思ってないよ?オマエががタダで済むわけないじゃん♪」

 

 ふひっ、と思わず嗤ったオレに、()ッと少年の顔が怒りにゆがむ。

 ナイフを無茶苦茶に振り回し、肉薄してきた。

 

「オヤジてめぇ!」

「オヤジぢゃねぇっつてンだろうが!!!!!!!!」

 

 抜く手も見せず、脳天にゴム警棒を叩き込む。

 さすがにちょっとは加減したが、それでも重量のある一撃に、この少年は白目を剥き、ヘナヘナと垂直に崩れ落ちた。

 

 骨を砕いてやった少年が肩に手をやりつつ青い顔をして、それでも感心なことに殺意を喪わず、

 

「てめぇ……オヤj」

「ギロリ」

「う……いやその、俺らクラーケンに手ェ出したらワかってン……でしょうね?」

「くらぁけん?――ってなんじャそりゃ!あぁ?」

 

 フルえる手で、相手は土方(ドカ)ジャンから黒銀のステッカーを出して見せる。

 

【 蔵 悪 拳 】

 

「ぶわははははははははははははは!!!!」

 

 オレは爆笑した。

 少年の顔がムスッとして。

 

 ひとしきり笑ったあと目じりをぬぐって、

 

「おっかし、このステッカー幾らで売ってんの?」

「……二千円」

 

 オレは札をとりだすと、ナイフを警戒して少年の前に放った。

 相手はそれを卑屈な目で拾い集めながら、

 

「笑っていられンのも今のうちだぜ――ジョージ先輩がこンこと知ったら」

 

 オレの爆笑が冷や水をぶっかけられるように消える。

 

 トカレフでこっちのワキ腹をブチ抜きやがった糞ガキ。

 こっちの顔色が変わったのを相手は誤解したらしい。いかにもザマぁみろ的な(あざけ)りを震えながら浮かべて、

 

「へ!ジョージ先輩にかかったらオワりだぜ」

「そのジョージってクソ餓鬼とツルんでいるドレッド・ヘアがいるよな?」

「えっ……」

 

 威勢のよかった顔が一瞬でしぼむ。

 

「ガタイのシマった上背のあるヤツだ」

「……」

「アンタ……刑事(デカ)?」

 

 間髪をいれずお見舞いしたオレの平手打ちに相手が悲鳴を上げる。

 モチモチした、ハンペンのような頬だった――まったく叩き甲斐(がい)がない。

 幼い顔つきに、はじめて本物の恐怖が浮かんで。

 

「あのクソ野郎、今どこにいる……?」

「……知らないっス」

 

 ドカッ!と警棒が砕けた肩を直撃する。

 悲鳴をあげる相手の両ほおを咄嗟に片手の握力でつかみあげて黙らせ、

 

「なぁ?ジョージだ。おさるのジョージ……それと、糞ドレッドの居場所だ」

「しらねぇ……」

「ああァ!?」

「知らない……デス」

 

 相手がモゾモゾ動く。

 肩をおさえていた手が背後にソロソロと。それを横目にしたオレは、

 

「なぁ、若いの。人生一回キリだ。ソイツで勝負できるかどうか、考えろ」

「……」

「もう一度聞くぞ?おさると、ドレッドだ」

「知らねぇ――よッ!」

 

 相手の腕が突きだされた。

 ナイフを握った腕だった。

 だがあいにく、防刃使用のジャケットだ。脇腹を旧友にブッ刺されてからコッチ、ずいぶん用心深くなってね。おまけにこの馬鹿はいまどきドスを使ったらしい。グリップが滑り、もろに刃を自分の手で掴んでやがる。

 

 相手が、みるみる赤黒く染まってゆく自分の手を、信じられないと言う顔でみつめていた。

 

「オレは警告したよな?考えろってよ。賭けはお前ェの負けだ。掛け金は払わなきゃ」

「オジさん危ない!」

 

 とっさにオレは身をひねって転がる。

 背中をかすめて振り下ろされた一升瓶が、ドスを落とした奴の脳天を直撃。

 一升瓶は割れず、ゴッ!と鈍い音が響く。

 

「痛ッてぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええ!!11111」

 

 血まみれの手で頭を抱え、この少年はアスファルトにのたうち回った。

 

 素早く態勢を整えると、金髪のソフトモヒカンが復活していた。

 真っ赤に腫れたほおの向こうから睨んでいる。そして一升瓶を手近な電柱に叩きつけた。

 即席の刃物を作ろうとしたのだろう。しかし手もとに瓶の首が残っただけ。

 B級シネマの見すぎだっつーの。

 

 次に彼は素早く動いて、道路に落ちていた仲間の飛び出しナイフをひろう。

 

 ――へぇ?まだやるんだ。

 

 おれは餓鬼の執念深さに舌を巻きながら、

 

「なぁ?おさるのジョージだ。それにドレッドの居場所」

 

 金髪は、ナイフを無茶苦茶に振り回してきた。

 二度、三度、それが防刃ジャケットに当たる。ザンネンだったな。

 

 スキを突き、おれは警棒のスイッチを入れて相手の目にヒットさせる。

 でゅわッ!と変身しそうな声を上げナイフを棄て、この少年は目を抑えてうずくまった。

 

 転がっているもの二人。

 昏倒しているもの一人。

 

「ゲーム・セットか――あァ?」

 

 オレは転がっていたナイフを取り上げた。

 少年たちの様子が、いまは借りてきたネコのように。

 

「どうせオマエら、強姦(ツッコミ)やらナニやらヤってきたんだろ」

 

 そう言い放った時、そうだ、もしかしたらコイツ等も詩愛を輪姦したうちの仲間かもしれないと思い当たった。あのジョージの知り合いだ。可能性は高い……。

 

 オレは転がっている少年に近づくと、ナイフを使ってズボンを切り裂いた。

 そしてキョドっている二人をねめつけながら、

 

「チンコつけてる資格ァねぇよなぁ!?」

 

 いかにも安ッすいナイフの峰を使い、これ見よがしに、

 

(ボロン)

 

 昏倒している少年のチンコをこぼし出した。

 すでに少女たちの純潔と悲哀の涙とをたらふく吸ったのか。

 サイズのワリに罪深くも、薄黒く“淫水灼け”をしている。

 

 ――やっぱりな。

 

 ちゅぃィィィーーーーンンン……というエネルギーの充填音。

 警棒の先を、毛もまばらなキン〇マに当てた。

 

 少年らが目を丸くして見つめる前で――ファイア。

 

 バチッ!と火花がはしり、焦げ臭いにおいが辺りにただよって。

 ビクビクッ、と倒れた少年が白目のまま痙攣。

 再度、エネルギー充填――ファイア。

 ビクビクッ、ビクビクッ。

 もういちど――。

 

 オレは携帯で、この情景を撮影してやる。

 少年たちはすくみ上り、毛刈りをしたばかりなチワワのようにフルえて。

 

(ヤベーよヤベーよ!)

(アブねーオッサンに手ェ出しちまった!)

「ハィそこォ!」

 

 オレは警棒を指し示し、ギロリと“ガキども”をニラむ。

 

「いま『おっさん』といった()は――ドッチだ。んン?」

 

 ちゅぃィィィーーーーンンン……。

 

「いえ、とんでもないッス!」

「素敵な兄サンで……ハィ」

 

 ようし、とオレは ニ ッ コ リ 。

 

 バチィッ!

 

 足もとに転がるガキのキンタマに、また一撃。

 両方のタマが、イイ感じに腫れあがってきた。

 少年ふたりがヒッ!と目をつぶる。

 

「で、その素敵なお兄サマは『おさる』と『ドレッド』の居場所がしりたい」

 

 沈黙。やがて片方が、

 

「俺らが言ったって、ダマっててくれますか?」

「ソースは守る……あぁ、ソースってのは情報源のことだ」

「***区にジーミの店って酒場(バー)がありまス。そこならタブン」

 

 オレは警棒を構えたまま少年たちの身をさぐり、携帯を取り出すと情報を自分の端末に入れ込んだ。それが済むと、

 

「――失せな」

 

 オレはコイツらを解放する。

 大型スクーターで来てたらしい少年たちは、キンタマを腫らし気を失った少年を前後にはさんで3ケツに、エンジンの音も力なくノーヘルでそそくさと去っていった。

 

「さぁて……」

 

 オレは、しゃがみ込んだままの目標に向き直る。

 青年の怯えたような目は、あたりをウロウロとさまよっていた。

 すこし離れたところに、その理由を見つける。

 

【異世界に転生したら能力が「女たらし」限定!?王女様までヒモパン+踊り子にコスプレさせた挙句ハーレムめいたキャバレーの店長になって女の子たちの性癖開発しまくりingウハウハあふぅ~ん】

 

 ……が、哀れにも女の子満載の表紙をボロボロにされた状態で、夕方の風にヒラヒラと(ページ)を揺らしていた。

 

 このターゲット、どうしようか……。

 オレはしばし考える。

 一番手っ取り早いのはコイツをゴム警棒で殴り倒し、【SAI】に轢かせるコトだ。

 

 

 

 オレは目標の顔を見た。

 二十歳を過ぎたばかりの、軟弱な面だ。

 乳臭い大学生の雰囲気がプンプンしてくる。

 

 ふと、アフリカで現地の自警団につかまって両腕を取られながら後頭部にAKを突き付けられている過激派少年兵の怯えた目つきを思い出す。1分後、脳漿をぶちまけ崩れ落ちた、あの12,3歳のガキも同じような目つきしてたっけ……。

 

 さァて、どうやって轢き殺そうかなとオレは考えをめぐらす。

 

 ――まったく疲れるハナシだ……。 

 


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