試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【一般版】 作:珍歩意地郎_四五四五
結局、PAでメシにしようと思ったものの事故渋滞がひどいので目的地を変更。
ナビで見つけたハンバーガー店でお茶を濁すことになった。
「スマんな。こんなところで」
「いえ、実をいうと……」
青年はへへッと笑い、
「ネットで評判聞いてて、正直、マエから来てみたかったんですよね」
「なんで?くればよかったのに」
「えー。家族と顔合わせたくないし……金もないし」
「そうか。よし、それじゃァいちばん
「ほんとですか?よぉ~し……」
サイドメニューまで含むと、ハンバーガー店にしてはワリといい値段になる。
どれもこれも、ブ厚い肉に、これでもかといわんばかりの具を挟んで。
それを串でたてにブッさして、ハンバーガーの形をととのえている。
恐ろしいほどのタテ長な包装を見たとき(失敗したかな……)とチラり思ったり。
通常のトラックに偽装してあるとはいえ、轢殺用の特殊車両を人目につくところに長いこと置いておきたくないので、テイクアウトをオーダーし、オレの知っているアナ場の高台までトラックを走らせた。
そこのコイン駐車場は街が一望できる場所にあり、人けもなく隠れスポット的な場所だった。ただし先日、カーSEXをやっているアホカップルが居たので、知れわたるのも時間の問題だろう。
オレはトラックを停めるとサイドにつくハシゴを使わせ、銀色のウィング・ボディに偽装した転生装置のうえに青年を登らせる。
「うわぁ……」
見上げれば彼は腰に手を当て仁王立ちになり、夜景を見おろしている姿。
オレは後からテイクアウトのセットとともにヨッコラセと登り、美味そうな匂いのする紙袋をガサガサさせ、えらくかさばる包みを開く。
すると案の定。「どうやって食えばいいんだコレ」と迷うくらいの巨大なバーガーが、たてに串をブッさした状態で姿をあらわした。
缶コーヒーのタブを鳴らし、二人して肩をならべて微風がふきあげる街の夜景を眺める。
オレのとなりでは、はやくも青年が冗談のようなハンバーガーに苦戦していた。
なにしろ一個2000円ちかくの代物だ。パテやらトリュフやらが、スゴいことに。
「――どうだ。
「うまいけど……食いづらいです」
言ってるそばからアボカドの大きな一片を太ももに落として。
「良ければオレのも食え」
青年の食いっぷりに何となく胃もたれを覚えた自分は、
――なるほど。確かに自分はもう、それほど若くないんだ……。
というホロ苦い思いを、眼前に広がる夜景を眺めながらすする缶コーヒーの味せいだと己をごまかすという有様。
「ところでサ――さっきの都市伝説なトラックの話」
「あぁ……異世界転生屋の」
「若い連中の間では、そんなウワサがひろがってるンか?オレこそ運送業界に身を置いてるが、聞いたことないぞ」
それが――と青年は胸を苦しそうに叩きながら、ようやくノド奥のモノを呑み込むと、
「えふっ……運送業、というのは“ダミー”なんですって。なんでも依頼をうけると大きな10tトラックが撥ね殺しにやってくるみたい。これ何トンです?」
「――4tだな」
じつは総重量は20tちかくあるのだが。
頑丈なシャシーと前方の装甲板、それに転生装置のせいだ。
最近は走りが荒くなったのか、タイヤの減りがはやい。
「なんだ――じゃァほんとに違うのか」
「たりめーだ。そんな面白い職業があったらオレがやってるわ」
そう言ってからキレイごとをいう自分に自己嫌悪。
仮にいま、この記憶を持って過去に遡ったら、絶対に転生協会のオファーなど受けなかったことだろう。
「裏サイトや学生のSNSで人気みたい」
「都市伝説だよ。トイレの花子さんみたいなモンさ」
でも、と青年はブ厚いパティにかぶりつこうとした動作をやめ、
「ひとり、ボクのゲーム仲間で実際に行方不明になったヤツがいます。パーティーから抜けるときにそんなこと言ってましたから。アドレスも教えてくれました」
どれ、見せて見ろというオレに携帯を取り出そうとして、(あ……)という顔。
そういえばそうだった。
結局オレの「捨てメアド」を教え、後でこちらに問題のサイトを教えてくれるよう、手はずを取る。
「どうだ、もう一個」
「そんなにはムリ……消化しきれない」
――消化、か……。
オレは夜景を眺めつつ、いつのまにか「人生消化試合」となりつつある気配の中、自分の境遇を改めて俯瞰する。
「なァ――お前の引きこもっている部屋は……胃袋だぞ」
「胃?」
「な~んの刺激もなく、安楽に暮らしていくウチに、どんどん溶かされる」
「……」
「そうするとな?肉が溶けて、神経だけが露出するんさ」
「どういうこと?」
「神経が露出するから、チョットの事でキレたり、暴れたりする。ネットの中の連中を見ろ」
「……」
「想像力だけが鋭敏になって、今度はその想像に怯えるコトになる」
青年が小ばかにしたような顔で、
「想像力って?何かを妄想するってこと?」
「仕事に就くときに面接へのおそれ。いまの境遇の不安。ひいては自分の将来……」
シェークをすする彼の口もとが止まった。
その目が不意に焦点をうしない、虚ろになって。
「想像力ほどコワいものはないぞ?大体それは現実を超えているんだ。怒られるかもしれない、イジメられるかもしれない、失敗するかもしれない……そんな恐れが、自分をますます萎縮させて、さらには自分の能力を削いでゆく。そうすッと、さらに想像がすすむという負のスパイラルだ」
オレはウィング・ボディに座り込んで冷たくなってきた尻を少しうかせた。
最近シリも冷えるようになってきた。
「でも……なんか気後れするなぁ」
「自分の才能や運を試すのは、若い今しかないぞ?」
「さっきも言ったけど、ボクに才能なんかない」
「さっきも言ったが、ある。なぜそう自分を諦めたがる?そーゆーのを“セルフ・ハンディキャップ”というのだ」
「大人はそういう風に、説教じみたことが言えるさ。だって成功体験だもん」
「じゃぁイイよ。だが少なくとも“若さ”という才能はある。そうだな」
「キミは自分の今に腹を立てて洗面台の鏡を割ったな?心がクサりきってない証拠だ。これがもう少したつと、どうでもよくなる。ブクブクと太り、外見を気にしなくなり“恥”という概念を忘れるんだ……。キミにはまだ若さがある。みすみす財産をフイにするな」
相手はバーガーの包みを固く固く丸めながら、街の灯を見る。
ややあって、
「おじ――お兄さんも、下の兄キみたいなコト言うんだね」
「……もうオジさんでいいよ」
オレはついに音を上げた。
今宵、若い奴を証人に、中年宣言をするのもいいだろう。
オレはふたりの間に広げられたテイクアウトのサイドメニューからフイッシュ&チップスを一本選んで口に入れた。
――脂っこいな……。
昔はファースト・フードでも、もっと美味く感じたものだが。
心なしか、街の灯も遠くが少し
何時だ?とブランド物の腕時計をみればどうしたことか。
夜光文字盤に焦点が合わなくて苦労するじゃねぇか。ケッ!
吹き上げる夜風が、冷たくなってきた。
オレはジャケットの襟を立てつつ、
「確かに、もう“お兄さん”なんて歳じゃない。キミと同じように踏ん切りがつかないだけだな。でもオジさんは、過去に落とし穴にハマって苦しむ人間をたくさん見てきた。そして今またキミはオレの――オジさんの忠告にもかかわらず、みすみす落とし穴にハマろうとしている」
「……」
「ま、忠告なんてのは、そういう性質なのかもしれないな。あとから気づいて(あぁ、あのキモいオヤジの言うことは本当だったと、後悔させるためのモノかもしれん」
「……」
「済まなかった。たしかに説教じみていたかもしれん。年長者の
青年は肩をすくめ、
「いいよ――別に。ボクが弱くてアホなのは知ってる」
「自分が弱いことを知っているヤツは、弱くない」
おッと、また説教じみちまったな、と反省。
「行こうか……家の近くまで送ってってやるよ」
* * *
高速を逆にもどって指示の通りにすすむと、だんだん高級住宅街となってきた。
【SAI】が使えないので、少し不便だ。
なるべくこの青年には、車内の電子機器が稼働しているところを見せないようにしなければ。見たところ機械やPC関係にも強そうだ。
夜の市道を、右に、左に。
目標追跡用のオート6輪操舵が効いて細い曲がり角でもトレースできるが、方向感額があっという間になくなる。こいつ、自分が使っている自転車道を教えているな……。
「危ない!」
青年の叫びに、オレはとっさにブレーキを踏んだ。
重量のある車体がズズズズッ、とスリップして止まる。
「なんだよ!ビックリするなぁ――どうした」
「猫です……黒猫が、そこの十字路に寝そべって」
「黒ネコぉ?」
フロント・ライトを、フォグも含め全開にした。
辺りは一気にナイター球場のように明るくなる。
しかし黒い毛の塊など――どこにもいない。
オレの背中が寒くなる。
発光石のランプと、藁のベッドの匂いが急にまざまざと思い出されて。
シーアの気配。サフィーの笑い声。
長剣と炎。騎馬の荒ぶる疾走。
金色に輝く瞳の――
――バカな……。
オレはハンドルを転回させ、道を曲がった。
「あれ、そっちじゃないよ?」
「ワぁってる!――迂回するだけだ」
「まさか迷信を信じてる?」
「イロイロあったんだ!」
そのうち、どこか見覚えのある光景。
『鷲ノ内医院』というデカい建物がライトによぎったとき、一気に地理感覚は復活した。
――あぁ、この地区か……。
「アレ。ここどこだろ?ワかんなくなった」
「大丈夫だ。この
やがて15分ほど走って、青年の家についた。
うぅむ、とオレは唸る。
いや、家というより、屋敷だコレ。
「……デカい家だなオイ」
「父がやってる事業絡みサ――ボクには関係ない」
「そもそも親父サンなにやってんの?」
「なんでも土地取引から、商社めいたことまで」
ふぅん、とオレはうなづく。
なるほど叩けばいくらでもホコリが出てきそうな人物だ。
助手席のドアを開けた相手に向かい、
「なぁ……もし、引きこもりを止めるんなら……徐々にやれ?いきなり本式に働こうとすると、精神がつぶれるぞ。だんだんと体を慣らしていけ」
「そうだね……ありがと、お兄サン」
「もう“オジさん”と呼べ」
あははと青年は屈託なく笑う。
それでいい。それが若い奴の笑いってモンだ。
ドアを閉める寸前、青年は運転台のオレを見上げ、
「ねぇ?『ニューヨーク1997』って知ってる?」
≪マイケル、「プリスキンと呼べ」というんですよ!≫
インカムから、とっさに【SAI】のアドバイス。
「……“プリスキン”と呼べ……」
青年の笑いが大きくひろがった。
ドスッ!とブ厚いサイドシルを持つドアが閉じられ、この若い奴とオレとを隔絶する。
バック・ミラーの中に彼を置き去りにしながら、
――できれば、もう会うことのないように願いたいもんだ……。
迷宮のように曲がりくねった道を幹線道路にもどりながらオレは、
「なぁ【SAI】、さっきのセリフはなんだ?」
『あぁ、映画の1シーンですよ。自分のことをあだ名の「スネーク」と呼ぶようにしつこく強制していた主人公が、銃撃戦をかいくぐるなど死ぬような目に何度もあって、とうとうそのあだ名にうんざりし、本名である「プリスキン」と呼べと言うようになるんです』
「ふぅん。有名な映画?」
『マイケルも知ってるカーペンターですよ』
えっ、知らんかった……。まぁ人間長く生きていても、知識のエアポケットなどいくらでもあるし。日暮里を「ひぐれざと」と読んだり、トマス・アクィナスをアクティヌスと覚えていたり、色々。
「――ところで【SAI】。アイツの転生指数って下がったりしてないかな?」
『ムリですよ。数値は相変わらずです。それより……』
「なんだ」
『コレは……明確な背任行為では?いくら私でも賛成しかねます』
「もしヤツが引きこもりを脱して、転生指数が下がったなら轢く必要もないだろ?」
『どうですか。人はそうそう変わるものではありません。』
へぇ、とその語勢に意外な重みを感じたオレは、ますますこの人工知能に一目置く思いだった。これはヘタをすると、仕事を乗っ取られてしまうかもしれない。
――自律型轢殺トラック……。
SF映画どころかホラー映画まで現実化しそうな勢いだ。
とにかく!と声を荒げて、
「オレはそっちの方に賭けた。ヤツを殺すのは――厭だ」
『感心しませんねぇ。社には、なんと報告を』
「邪魔が入ったことは知らせておく。一週間ばかり、
ようやく幹線道路まで来た。
一時停止で左右とミラーを確認し、出ようとした時、
『マイケル……本来ならドライバーには伝達不可な情報なのですが……』
アクセルを踏み込もうとしたオレは足をはなし、ブレーキを踏む。
「なんだ?」
目の前を長距離貨物のトラックが轟音を上げて通り過ぎていった。
『彼の轢殺依頼者は……彼の母親です』
先ほど感じた胃の重さが、また戻ってきた。
まさか本当に家族が轢殺願いを出していたとは。
あの青年の言ったことは本当だった。これが今の社会ってヤツなのかね。
「――なんてこったィ」
オレはブレーキを解放して、テールランプが流れる夜の大河へとトラックを漕ぎ出す。