試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【一般版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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 銭高は、あの子のこと何て呼んでたっけ……?

 

 ――そう、()()()()だ。

 

 パンツ・スーツ姿の、警察(ポリ)にしておくには勿体ないような容姿の娘。

 瞬発のありそうな身のこなしと、利発そうな口もとが印象的だったが……。

 

 それがどういうカラクリだろうか。

 

 ハンカチで口をおさえ、苦しそうに身をビクビクと震わせながら歩く姿。

 身体の線も(あら)わとなる(みだ)らな衣装をまとわされ、服従の証である首輪さえ装着(つけ)られてしまっている。

 よく見れば、ハンカチで隠した口もとから黒い帯が後頭部までグルっと伸びて。さらにその黒いドレスの股間と尻では、なにやらウネウネと禍々しく動いているモノがある。

 

 ――あれは……もしかして。

 

 『ボニー』こと美香子をヤクザどもの拉致から救い出したとき。

 彼女の口唇(くちびる)を塞いでいた口枷。

 そして女の股間にある穴を三点ともども深々と穿(うが)ち、ギッチリと食い込まんばかりに縛めていた「装具」。

 あの時と同じように、おそらく銭高の助手もまた、性器(ヴァギナ)肛門(アヌス)、それに尿道にも電動式の玩具(オモチャ)挿入(いれ)られているのではなかろうか……。

 

 “サッチー”は一度足を留めた。

 

 首輪のリードがピン、と一瞬張られる。

 そのまま彼女は、音楽だけが気怠く流れるフロアを、力なくながめわたした。

 レスラー崩れが口もとを下品にゆがめ、手もとで何かを操作するしぐさ。

 すると彼女は痙攣的に身をふるわせるや、ついに片膝をついてしまう。

 しばらくその様を満足げに鑑賞していたレスラー崩れは、首輪を邪険にグイと引き、脚をガクつかせる“サッチー”をムリヤリに立たせた。

 

 「オラッ、さっさと歩け!」

 

 やがて彼女は言われるまま、再びうつ向いたまま歩き出して店の奥へユルユルと連れ去られてゆく……。

 

 その時オレはハッと気づいた。

 

 ――そうか!もしやおとり捜査?……だが、ここまでやらせるか?

 

 いや、銭高(アイツ)ならやりそうだとオレは思い直す。

 事件解決のためなら己の魂すら悪魔に売りそうな男だ。

 自分の助手を犠牲にするくらい躊躇しないかも。

 

  ――すると、この怪しげな“ボッタクリ店”が手入れを食らうのも時間の問題か……。

 

「どうなさいましたの……まぁ!」

 

 フロアの気配が変わったことを敏感に察したのか。

 振り向いてオレの視線を追った彼女の柳眉(りゅうび)が逆立つ。

 ちょうど、首輪から延びる鎖のはしを取られた“サッチー”が、ガクガクと脚をふみしめつつ、艶めかしい光沢を帯びる重そうなビロードの釣帳(とばり)の陰へと、その異様な姿を消すところだった。

 

 彼女が姿を完全に隠すと、詰めていた息が吐かれ、ある種のため息とともに緊張は融けてフロアの温度は上がったように感じられた。

 うす暗がりのあちこちから拍手がおこった後、まだ(なご)やかな談笑の雰囲気にユルユルともどってゆく。

 

「アレほど言っておいたのに……なんてこと!」

「どうした?」

 

 ふぅっ、と小枝子は大きく息をついた。       

 

「やはりわたしが居ないとダメね……お店の規律が」

「あの子か?シロウトっぽい奴も採るんだな」

「まだ彼女は()()()なのよ。“オモテ”のフロアには出すなと言ってあるのに」

「いろいろ仕込まなきゃならないワケだ」

「そう――色々と、ね?」

 

 フフッ、と小枝子は謎めいた微笑を漏らし、

 

「サ!(たの)しい時間はコレでおしまい。仕事しなくちゃ」

 

 代わりの子を寄越すわ、という小枝子。

 しかしオレは手をぞんざいに振って断った。

 

「いいよ。気楽に()ってるサ」

 

 じっさい、フリーになってこの店を探索したかった。

 もうかなりの出費だ。それに見合うだけの情報が欲しい。

 コッソリこの店の中を歩けないだろうか……。

 しかし、小枝子は言下にそれを否定し、

 

「そうもいかないわよ。お店の体面に関わるもの」

「体面ねぇ……そうだ」

 

 オレはさりげなく尋ねた。

 

「もしサ?もしも金は持ってるけど初見の若い客が来たら、どうする」

「若い方?紹介状を持っていない限り、ムリね」

「顔はイイ奴なんだ。新宿のホスト界でもトップ取れるやつ。女受けもいい」

「どうかしら?――イエ、やはり若い方はダメね」

「そう……か」

 

 よかった。とオレはとりあえすホッとする。

 とりあえず美香子は店に守られているってワケだ。

 あとは出退勤の時に、気を付ければいいとおれは心中うなづく。

 と、なると、轢殺場所を探すのがが困難だ。この区画は防犯カメラが多い。

 

 ――なにより轢殺トラックの待ち伏せ場所が、ない……か。

 

「どうなさったの?」

「いや、なんでも。代わりの()か……じゃぁキミよりイカした女性を寄越してくれよ」

「……いじわるネェ」

「そうだなぁ……」

 

 もう小枝子を利用する時間がない。

 あとはせめて『ボニー』の……もとい美香子の状況を確認したい。

 

 オレは改めてフロアを見回した。

 回遊魚のような黒服や、宝石箱におさまった真珠のような指名待ちのフロアレディに混じり、お運びやテーブル案内用のバニー・ガールたちが目についた。彼女も、あんなきわどい格好で働いているのだろうか。

 オレは壁ぎわでみょうなポーズを作って佇んでいる、イエロー柄のバニー・スーツ(本来はバニー・コートと言うんだそうな)を着たメガネっ子に目をとめた。

 

「ようし、あのウサちゃんにしようか」

 

 えぇ?と小枝子は面白そうに、

 

「もっとイイ娘が居るのに」

「実はね――ある娘から、こんなカードをもらったんだ」

 

 オレは美香子から渡されたカードを相手に見せた。

 

「なによ。美月(この子)とお知り合い?」

「知り合いってほどじゃないんだ。バニー・ガールが珍しくて」

「あきれた。貴方もオヤジ趣味入ってるのねぇ。ダメよ?もっとイイ子つけてあげる」

 

 幾分じれたオレはムッとして、

 

「じゃぁ。もしその子が気に入っちまったら、以後はそっちに貢いで、もうキミには目もくれなくなっても(よろ)しいか?」

 

 ウッ、と小枝子は鼻白み、しばし何かを考える風。

 

「……それも面白くないわね……いいわ」

 

 小枝子は通りすがりの黒服を呼び止め、

 

「あそこの娘――エスの『ナナ』を、この(テーブル)に呼んで頂戴」

「そのカードの()は、今夜居ないの?」

「彼女は、いま馴致(じゅんち)……いえ、研修中よ」

 

 やってきたショート・ボブなイエローのバニーに向け、立ち上がった小枝子は二言、三言と耳もとでささやいてからこちらを向いて、ふたたびあの謎めいた微笑を浮かべると、

 

「それじゃ――ごゆっくり」

 

 そう言って、周りの女の子たちとは明らかに格のちがうイヴニング・ドレスの裳裾(もすそ)を引きずりながらゆったりと去っていった。

 辺りを女王のごとく圧し、睥睨(へいげい)するその“尊大な気品”ともゆうべきオーラに、さすがのオレも舌を巻く。

 

「あ、あの……」

 

 テーブルの脇に立つ、イエロー柄なバニー・スーツをまとわされた娘。

 

「あの……わた、わたしテーブルに付くの初めてなんですぅ」

 

 大玉のメガネの奥で、キレイな瞳が落ちつかなげに動く。

 オレはソフアーにふんぞり返りながら、新たな相手をマジマジと見つめた。

 

 ボーンがいくつも入った、硬くキツ目なバニー・スーツ。

 そこに胴体(ボディ)を鋳込まれるような勢いで押し込まれ、ギチギチに矯正された姿。

 大きくやわらかそうな胸は押しつぶされ、ハミ出そうだ。

 細くシメあげられたウエストにできるシワ。

 おまたの食い込みも、恥丘の谷間をイヤがうえにクッキリと強調して。

 

 また、網タイツではなく黒いシーム付きストッキングをはかされているので、その輝くような光沢がムッチリとした脚の微妙なメリハリを際立たせている。

 バニー・スーツの腰には、花形リボンつきの名札で『菜々(ナナ)』とあった。

 

 そんなメガネっ子はオレの視線に顔を赤くし、カフスを巻いた手をオズオズと股間のまえで交差させて身じろぎをした。

 

「初めてだァ?カマわんよ。獲って食いゃしないサ。さぁ座って」

 

 それでもこのウサギは涙ぐんだような目で、

 

「おねぇサンたちにぃ、あとでいじめられちゃうかもォ……」

「なにが?お運びなのに客を取ったことがか?だ~い丈夫、小夜子にうまく言っておくさ」

 

 あぁキミ、とオレは通りかかった別の赤バニーを呼び止め、廉価(やす)いモエを注文した。

 これでも5万。いい商売だぜ、まったく。

 

「この店は、入ったばかりなのかィ?」

「入ったばかりじゃないけど……」

 

 『菜々は小首をちょっと傾げて、

 

「まだ……三か月ぐらい?」

「ふだんは?ナニやってるの。まさかココ専業ってわけじゃないだろ?」

「……学生ですぅ」

 

 そう言って彼女は、お嬢様系な女子大の名前をあげた。

 あっ、とオレは声をあげ、なるべく心安い調子で、

 

「キミ同じバニーさんで、キミんトコの大学の付属高校に通っている『美月』って子、知らない?友達なんだ」

 

 すると『ナナ』の顔が物思わしげに暗くなる。

 

「――どうした?」

「知ってますぅ。先日までココのフロアで、私と同じ“エス”をやってました」

「えす?」

 

 小夜子が言っていた言葉。

 なんだろう。まさかSMのエスではあるまい。

 

「エスコート・バニーぃ」

「あぁ、なァんだ」

 

 拍子抜けする。

 そういえば、彼女からもらったカードにも、そんなことが記してあったっけ。

 オレは名刺入れから彼女のカードを取り出して眺めた。

 

「そっか、エスコートか。で――その子いまは?」

「もっとお金が欲しいからってぇ、お店の“ウラ”に配属になりました」

 

 そう言った後、このメガネっ子バニーはポツリと呟いた。

 

「……よせばイイのに」

 

 ウラって何だと思わず聞きそうになるところを危うく踏みとどまる。

 

「あぁ、なんだ。ウラか」

 

 いかにも「なぁんだ」という風をオレはつくろう。

 ウラとは、この店の、もうひとつの“顔”ということだろうか?

 オレはシャンパンをまた口にふくみつつ、あくまでさりげない調子で、

 

「珍しくもない――いつからウラに居るんだィ?」

「土曜の夜から本格的な研修受けてるみたいですぅ。もっとも前から時々“ウラ”に出入りして、整形受けてたみたいですけど」

 

 先ほど呟かれた小夜子の言葉が、耳もとでよみがえった。

 

 

 ――面白い見モノですよ?女の子が、私みたいなメス奴隷に堕ちてゆくのは……。

 

 

 自棄的な口調に併せて漏れた、小枝子の笑み。

 それはまさしく「魔女の微笑」なイメージで、オレの胸にたちのぼる。

 そういえばあの巫女さん――真琴と言ったか。彼女も美香子の体つきや口唇(くちびる)が変わったとか言ってたっけ……。

 

「あいつめ!いいトコの娘なのに。なんで金なんか。小遣いが足りないのかな?」

「あの娘ぉ、家出したらしくてぇ……」

「――ふぅん」

「高校もヤメるんだって」

「は!?」

 

 ナニやってんだ、あのバカとオレは心中うめく。

 

 あの()ッかない親父サンの顔が浮かんだ。

 自分の娘の捜索願いすら出さないなんて信じられない。

 それとも本当に次女のことは(あきら)めているのか。

 

「ここの寮に入って……住み込みで働くとか言ってました」

「給与は、いいの?」

「私は“おもて”のアルバイトで時給4000円ぐらいだけど“ウラ”で働けば……」

「ここの店の“ウラ”は、どこにあるんだ?他の店のウラには行ったコトあるけど」

「あの通路の奥ですよォ?」

 

 そういって『菜々(ナナ)』はサッチーが連れていかれた釣帖の奥を示した。

 

「ふぅん。ここの店では女の子の“売り(売春)”もやってるんかい?」

「えぇ。実際に“売られ”てペット代わりに飼われたりもしているそうですぅ」

 

 どうも話が噛み合わない。まさか本物の人身売買?

 異世界に送ったヤクザは『武蔵』側のはずだが、まさか『黒龍』もこのテの商売をしているのか。

 きっと店のトップは転生指数の高そうな連中ばかりなんだろうな……。

 

「系列店の……(小夜子は何て言ったっけ。あぁ、そうそう)馴致(じゅんち)は見たことあるけど、ココもやっぱり厳しいのかな」

「徹底的に躾けられるときいてますぅ。それにエステやら脱毛やら整形やら。なかにはそれを羨んで“ウラ”に行くコもいます。『美月』チャンも、たぶんそっち系ですねぇ」

 

 オーダーしたシャンパンがやってきた。

 

 先ほどとは違う黒服が、オレと『菜々』の前にグラスをおく。

 マネークリップから、また一枚を抜き出し、青年の胸ポケットへ。

 彼は口もとに微笑を浮かべつつ、オレのティスティングのあと、それぞれのグラスに注ぐ。

 

「なにか食べるかね?」

「私でしたらぁ、お構いなく。オーダー重ねてあまり点数かせぐと、お姉さんたちに「生意気」だって怒られますぅ。それにこの衣装、お(なか)キツくて食べられないんでぇ……」

 

 バニー・コートにギッチリとハメられたため、いくぶんポッコリとしたテカテカの下腹部。おまたの恥丘が露わにならぬよう、彼女は光沢ストッキングに包まれた(もも)に力をこめてギュッとあわせながら、付け爪の飾る指で固いバニー・スーツの生地をソヨソヨと撫でた。

 

「さぁ、どうぞ?」

 

 オレは彼女にシャンパンを勧める。

 

「じゃぁ……一杯だけ」

 

 すると、おどろいたことに『菜々』はシャンパン用フルート・グラスの脚をつまむや、

 

 スゥゥゥゥゥゥゥゥ……ッッ。

 

 まるでサハラの熱砂が水を吸うように、グラスをいとも軽々と干してしまった。

 

 むふぅ♪と満足そうな口がペロリ、と小さく舌なめずり。

 みかけによらぬ飲みっぷりに、財布の心配とはべつにオレは目をむいて、

 

「おどろいた!――イケる口なんだな」

「大学のコンパでは『うわばみの菜々子ちゃん』って“二つ名”ァ持ってますからぁ」

 

 ふんす!と彼女は小さくガッツ・ポーズ。

 

「学部は?」

「文学部の仏文でぇす。マラルメをすこし――といってもおぢサン知らないか……」

「肯定的外観から生じた明るさの混ざり合う、衝突の墓場くさい()()()()の無意識的記憶によって長引かされた躊躇(ためら)いの(うち)に、羽目板の中断された崩壊の幻影が現れる……」

「すごぉい!イジチュールだぁ♪」※

 

 彼女の無邪気な驚き顔。

 

 フフン、とオレはドヤ顔。

 相手のメガネの奥で、純真そうな瞳がわらう。

 と――言っている間に手酌され、またも彼女のグラスは空になって。

 

 ――畜生……やられた。

 

 オレはテーブルを去り際に小枝子が浮かべた、先ほどの心象とは別の笑みを思い出す。

 あいつ()、こう言うコトだったのか。とんだ爆弾、仕掛けて行きやがった……。

 

 気が付けば、なんと手酌でこのバニーは酒をどんどん注いでいる。

 廉価(やす)い銘柄にしておいて良かったよ……それでも5万だが。泣ける。

 オレはさりげなく彼女からボトルを奪いながら、

 

「しかし、あの“お嬢サマ大学”の学生さんが、こんなところでバイトをねぇ」

「“お嬢サマ大学”の学生だって、お(なか)はすくし、欲しいものはあるし、旅行にだって行きたいですぅ」

 

 どうせ就職すれば、そんなヒマ無くなるんだし、と彼女は半ばヤケじみて。

 

「バニー・ガールになるって、抵抗は無かった?」

 

 うーん、と彼女はまたもグラスを干してから、

 

「初めのうちは恥ずかしかったけど、だんだん慣れてきました……それにお給金イイし」

「けっこうシフト入ってんの?」

「週3ぐらい、かな?お給料がイイぶん、時間ができるので勉強に専念できます。ヘンにコンビニや喫茶店なんかで働いてたらストーカー被害にあうかもだし。ここならチャンと男の人がガードしてくれます。」

「なるほど。そういう考えもある、か?」

 

 とは言いつつも、ソイツぁどうかな?とオレは危ぶむ。

 見ようによっては、ストーカーの群れの中で働いているようなものだ。

 ヤバいクスリや色男の手くだ。おまけに調教施設まで有るってんだから、火薬庫で火遊びするようなもんだ。彼女に何ごともなけりゃイイが。

 

「でも、コレがギリギリですよねぇ」

 

 フルート・グラスを弄びつつ、彼女はバニー・スーツに縛られた身体をイライラとねじり、少しでも楽になろうとモガく。

 動きにつれてミチミチと鳴る、ショッキング・ピンクの扇情的な装い。

 いつのまにか太ももが開き、スーツが食いこむ“おまた”を無防備にして。

 

「――わたしってぇ、スタイル良くないしぃ。野暮ったいしぃ」

 

 オレはソファーから身を引いて、相手の身体を品定めする。

 はにかんだような笑みが、赤らんだ面に浮かんで。

 

 恥じらいの所為なのか。

 シャンパンの所為なのか。

 それはちょっと分からない。

 おいおい、とオレは苦笑しつつ、

 

「キミがスタイル悪いなんて言ったら!イヤ味としか受け取れんぞ?そんなワガママ・ボディさらしといて」

「そんなコトないですよぉ……」

 

 ソファーに座りなおそうとして、つい大股開きになる彼女。

 女の匂いが、ふと香って。

 

 そしてモエの瓶を、ぬかりなく掴みながら、

 

「“ウラ”のお姉さまたちにはァ――とてもかないませぇん」

「そんなコトないさ。キミも“ウラ”に行けば、売れっ子になるぜ?」

 

 菜々は、ふと真顔になる。そしてバニーの耳の位置を直しつつ不安気に、

 

「“ウラ”は――怖いですぅ」

「ほぅ?」

「女の子たちの性格や見た目まで、変えられちゃうらしくッて」

「ふむ」

「『美月』チャンもぉ……」

 

 言葉がとぎれた。

 グラスに残った酒を干し、ながらく放っておいたため乾燥がきたキャビアのカナッペをほおばりながら、

「……美月(ミッキー)も?」

「きのう、表とウラの(しきい)ですれ違ったとき、チラッと会って少し話ができたンですケドぉ」

「ふん?」

「その、『美月』チャン、店の“ウラ”でだいぶ馴致(じゅんち)されちゃって、ずいぶんと――その」

「――随分と?」

 

 意味するところはあらまし分かっていたが、オレはワザとスッとぼけてたたみかける。

 『菜々』は、さすがに言いにくそうにモゴモゴと、

 

「その、『赤いウサギ』流に(しつけ)られちゃったみたいでぇ。一瞬ダレか分からなかったくらいですぅ」

「誰だかわからない、って?」

「顔を変えられたりィ、胸をおおきくされたりィ。胴なんかもを細くされたりして……」

「整形手術みたいなもんか?」

 

 エステや美容整形だけならイイんですぅ、と『菜々』は少し顔を曇らせて、

 

「おクスリ使われちゃったり。どんな命令にも逆らえないようになるコワい機械に入れられたり……きのうは、そのぅ……オシリと“女のコのところ”に『お道具』まで挿入(いれ)られてたみたいでぇ……」

 




※イジチュールまたはエルベノンの狂気(ステファヌ・マラルメ:秋山澄夫氏訳)

さて。
極めて不本意ながら、次からだんだんハナシがエチーになってゆきますよ?

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