試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【一般版】 作:珍歩意地郎_四五四五
「……よく寝てたなぁ」
「さいきん、疲れちゃうのよねぇ……」
美香子はオレが貸し与えたトレンチ・コートの前を掻き合わせ、まだどこか眠そうな口ぶりで、
「お仕事ってぇ、やっぱタイヘン」
宵の口を過ぎた頃合いだった。
オレと美香子は、タクシーの車内から流れゆく街の灯を眺めている。
“紅いウサギ”の小男には、メールでアポをとって訪問を了承されていた。
そしておなじ文面で、
・『美月』をとりまく(高校での孤立や家族との軋轢もふくんだ)現在の厳しい状況のこと。
・彼女の店での勤務はアルバイト程度にとどめ、普通の高校生活を送らせたいこと。
・上記の理由によって見かけを“夜の女”から“ふつうの少女”にもどしたいこと。
――などを送っておいた。
もちろん“懸案の事項”は
「そりゃ、そうさ。働くってのァ、それだけ大変なンだ」
「でもお医者さんがぁ……」
「んぅ?」
「おしごとぉ、はぢめるまぇにぃ、えーよーホジョのてんてき打ってくれるからぁ」
「――点滴……点滴だって?」
「そのおクスリもらうとぉ――ひとばんガンバれるのぉ」
医者って言うのは?とおれは聞く。
「先週いた、あの若い二人組のヤツか」
「うんそぉ。ヘッケさんとぉ……ヂャッケさん……かなぁ?」
イヤな予感がした。
やはり同伴出勤めいたことをやっておいて良かった。
小男が約束をたがえるとは思えないが、オペレーターが裏切っていた件もある。
部下の隅々まで目が届いていないのかもしれない。これは一応、念をおしておかねばなるまい。
今日のオレは、ごく普通のスリーピースなスーツ姿だ。
当然だ。飲みに来たのではない。交渉に来たのだから。
対する彼女の方は、昼間の挑発的な格好ではなかった。
それでも下に履くリーバイスの上は“童貞を殺す”ニット姿。
豊胸されたノーブラに、ニットの縦じまはなかなか凶悪に見える。
乳首のポッチリが浮き出るソレを、どうしてもこれを着てゆくと言って聞かないので、仕方なくオレが春物のコートを羽織らせたのだ。まったく。
「そのほかには?カラダの調子で、おかしいトコはないのか」
「ご主人様がカマってくれないからぁ……」
美香子はオレにしなだれかかり、
「メス奴隷『マゾ美』は夜ムラムラしてオナニーしちゃいますぅ……」
そう言って、彼女はオレの手をつかみ、自分のジーパンの股間にあてがう。
そのままスリスリ。フロアで覚えたのか、一丁前に甘い吐息。
――ヤッパリおかしい。
眠たいにしても、このしゃべり方はヘンだ。
前は、もっとハキハキしゃべっていたはずだが。
「――お店は……面白いか」
「みんなが優しくしてくれるしぃ……」
「うん」
「チップもぉ……いっぱいくれるよぉ?」
「店の“オモテ側”に出てるんだろ?」
「ぅんそぉ。“ウラ”はマスターがダメだって」
「マスター?」
「オモテの支配人」
――仁義切っとくイミで、心づけでも遣っておくか……。
ふと、オレは脇を走るトラックにふと目をやった。
オレは思わず(エッ!)と身をのりだす。
見覚えのある轢殺トラック。
――『連チャン1号』……重サン!?
早速Tel。
≪ンだよぉ!マイケルかィ?≫
驚いたような声が伝わってきた
≪今日有給だってェじゃないの。優雅だなァ≫
「重さんこそナニよ――仕事中?」
≪これから逃げた目標を追ってT県に行ってくる。張り込みバレちゃってサぁ≫
「ひぇぇぇ、お疲れちゃんwww」
≪マイケルこそ、どうしたの。こんな時間に≫
「いま重さんの隣にいるタクシーん中だよ」
運転席の人影が動く気配。
そしてトラックに幾台もついているマイクロ・カメラからの視線を感じる。
≪なんだよォ、ホントに優雅だな。オンナ連れかよぉぉぉぉ≫
「タマにはイイじゃんか。でもこれからオレも、仕事がらみで相手と交渉なんだぜ?」
≪有給中に?サッすが。デキる男はちがうねェ……≫
「よく言うよ。毛ほども思って無いくせに」
≪ハハッ――んじゃネ≫
重さんのトラックは軽くホーンを鳴らして加速してゆく。
「……おともだちぃ?」
「まぁね。気の置けない先輩さ」
重量級の轢殺トラックが遠ざかってゆく。
ふと、その後ろ姿に、なにか不吉なものを感じるような気がした。
どこかがオカしい。言ってみれば、何かに取りつかれているような……。
――チッ!
オレは嫌な印象を振り祓うように首をふる。
「ご主人さまぁ……」
美香子が猫のように身体を柔らかくスリ寄せてきた。
と、ここでメールの着信――所長からだ。
オレは携帯の画面を美香子に見られないよう、すこし身体を話して文面を開く。
短い一行があった。
【苦しんでいるところを!そしてもう二度とヤツが下劣な行為をしない証拠を!】
* * *
ほどなくして。
オレたちは堂々と“紅いウサギ”の正面ゲート前に乗りつける。
耳にデバイスを装着し、鉄柵を守っていた二人組のうちのひとりがタクシーの中を覗き込んで、
「なァんだ、『美月』かァ」
それでもこの若い黒服は、開いたドアから彼女が差し伸べた手をうやうやしく取って。
事業所のタクシー・チケットで料金を払ったオレは、彼女に続いて車を降りる。
するとオレを見た黒服の態度が一変、慇懃としたものにかわって、
「――いらっしゃいませ。御芳名を、頂戴できますでしょうか……アッ、はい……」
例の監視センターから「余計なことをするな」と指令が飛んだのだろう。
オレはコートを羽織った『美月』に腕をからみつかされたまま、フリーパスで前栽の道に入ってゆく。
(ちぇっ、ダレだよアレ?……ミッキーのパトロン?)
(お館サマの客だそうだ。小僧、五体満足でいたけりゃ――詮索はナシだ)
背後で、そんな声がヒソヒソと。
別の案内役に引き継がれたオレたちは、そのまま店の奥へと進んだ。
とちゅうで「S」の控室に行って自分のバニー・コートに着がえると言う『美月』を押しとどめ、ふたり連れ立って案内人のあとにつづく。
「キミは――この店は長いのかね」
オレは廊下を進みながら、この一見若そうな燕尾服の背中に話しかけた。
「は、ソコソコかと」
「この不景気で客層なんかもずいぶん変わったろう――おとくいサンも、ずいぶん入れ替わったんじゃないかね?」
「ご推察のとおりでございます」
「“ウラ”のほうも、売り上げ予算がきびしくなってるんじゃないのかい」
「えぇ。しかし皆様には御贔屓にして頂いてるので」
――ふん。
オレは情報を仕入れることは諦めた。
あたり障りのない返事。なるほど、よく仕込まれている。
やがて“小さな応接室”といった個室に通されたオレたちは「こちらでお待ちください」と案内人が扉の向こうに消えるのを待ってから、豪華な革張りのソファーに腰を下ろした。
「ココはどういう部屋だい?ソファーは革だし、調度も品が良い」
「ワかんなぁい。たぶん“ウラ”の客室ぢゃないかなぁ……」
おそらく、この部屋にも監視カメラがあるのだろう。
先週の金曜日の気配がよみがえってくる。余計な行為はつつしむべきだ。
今回は薄氷をふむような事態にならなきゃイイんだが。もうあんな思いはゴメンだ。
どれくらい待っただろうか。
ガチャリ、と勢いよく開く扉。
そのあとから常のように一部のスキもなくスーツを着こなした小男が颯爽と入ってきた。
やや遅れて若いメイドが二人ばかり、テーブル・セット用のワゴンとともに。“馴致”で補助役を務めるセクシャルなフレンチ・メイドではなく、19世紀に見られた品のあるお屋敷風メイドだ。
「いよう、お待たせしましたな!イロイロな意味で!」
「お忙しいところ、ご無理を聞いていただきまして……」
オレはソファーから立ち上がるとキッチリする。
「またまたァ!」
小男は渋面を浮かべると奇怪な顔の前でブンブンと手をふり、
「水臭い。ワタシと貴殿の仲じゃぁないですか!」
小男は指を鳴らした。
後ろに控えていたメイドたちが合図に応じて小卓に酒肴をならべはじめる。
「おや、珍しい娘がいるね。今日はフロアはお休みかね?」
思わせぶりな小男のイタズラっぽい言葉に『美月』はモジモジしながら、
「だってェ……ご主人サマがぁ、いっしょに来いってぇ、いうんです……」
小男の顔が、ふと曇った。
そしてオレの方に向き直り、
「このSは――いえ『美月』は、いつもこんな口調でしたかな?」
そこなのです、とオレは重々しくうなずいてみせ、
「この店ではバニー・ガールに勤務前、医師が栄養補給を目的とした点滴を行いますか?」
サッと小男の顔が変わった。
「ヘッケルとジャッケルを呼べ!」
ややあって、見覚えのある白衣の若者二人づれが、青白い顔をしてやってきた。
視線をコソコソと、お互いあらぬほうにさまよわせて。
小男の怒鳴り声が、狭い客室に爆発した。
「貴様ら――まさか思考減退剤を!この子に投与してるんじゃあるまいな!?」
「……」
「……」
「どうなんだッ!」
そのう……と、とうとうヘッケルだかジャッケルだか、片方が、
「大林製薬の『アホニナール・点滴静注液』を毎日1パックほど……」
「毎日1パック!?」
血管大丈夫かよと言うぐらい、小男のこめかみに筋が浮く。
「何日だ!?」
「3~4日ほど……」
貴様ら!と小男は、さらに顔を醜悪にゆがめ、
「分かっとるのか!?この娘に化学的なロボトミー手術をしてるんだぞ!ワタシは断じて!思考能力のない、主人の言うことしか聞かないセックス・ドールに、この娘をするつもりはないッ!――ワタシは!」
そこでゼーハーと小男は息を切らしてオレを指し示し、少しばかり呼吸を落ち着かせてから、
「
ふと見れば、20代前半と見えるメイド姿の女性たちが顔をうつむかせ、部屋の隅でブルブルと震えている。
疲れたのか、ドッカと小男は座り込んだ。
そして放心した風に、
「……“思考減退剤”を使った理由をきこうか」
白衣の片方が一歩前に進み出て、いかにも確信犯の口調で、
「“オモテ”で勤務する「S」に“ウラ”の秘密を見られたからです」
「というと」
「“オモテ”の勤務中、この店のことをしゃべられてはかないませんから」
「そんなコトはワタシが判断する!!お前たちは言われた作業、言われた処置、言われた手術をすればいいのだ!ココはワタシの店だ!」
小さな部屋で鼓膜が痛くなるほどの怒鳴り声。
なるほど、このオヤジの精力たるや、なみなみならぬモノがある。
こういうガツガツした男が成功してゆくのだろう。
オレみたいに妻をNTRされて轢殺屋になるようじゃダメだということサ。
チェスターフィールド風な革張りソファーに座り込んだ小男を立ったままの全員が見おろすという奇妙な構図に小男自身が気づいたのか、オレに向かって小男が対面を指し示し、
「これはしたり……マイケルさん――座って下され。そしてオマエたち……」
一転、口調をやさしくして、わきに控えるメイドたちに、
「メチャクチャにされた哀れなジジィの酒席を、立て直しておくれ……」
よく躾けられたスタッフなのだろう。
先ほどの畏れがウソのように、洗練された手つきでコニャック・ソーダを作り始める。
「ヘッケル!ジャッケル!ワタシは見せたいものは“オモテ”であろうと“ウラ”であろうとすべて見せるのだ。
手早くカナッペやつまみが作られ、いろどり豊かに並べられた。
ブランデーの華やかな香りが辺りを充たす。
「さ、さ。今夜こそは付き合って下さるんでしょうな?」
小男は喜悦を浮かべてオレにグラスを進めた。
「先週と同じように、ナニやら込み入った“おハナシ”もあるようですし」
オレはわずかに頷くと、メイドが捧げる盆の上からグラスをとった。
「ひとつは、この娘に関して。もう一つは――例の件です」
例の件、と言ったとき、小男の顔がわずかに固くなったのをオレは見逃さなかった。
やはり調教した“あのガキ”を店内で飼うつもりか。あるいはどこかに買い手がついたのか。
いずれにせよ、やはり一筋縄ではいかない感触があった。やはりこの店とは、あまり関わりたくない。
やがて、客間にノックの音がした。
小男の
アラ♪と目だけでオレの方を向いて驚いたあと、彼女は小男の合図によって手にした鎖を引っ張る。
すると室内にフレンチ・メイド風な
一瞬――オレは目をうたがう。
これは果たして“生きた女性”だろうか。
ひょっとして、よくできた“
まずは、その顔つきだった。
見開かれたような大きい目。
驚くほど長いまつ毛。
どぎつい化粧。
まるで等身大なバービー人形かと思われるほどに。
なにより唇は輪郭がないほど肥大化され、パッと見テカりのある「赤いドーナツ」が口元に接着されているとしか見えない。O型で開きっぱなしに改造された口もとは……【以下自粛】
『美月』が、この人物を凝視していた。
無理もない。彼女のアタマは自分と同じように剃り上げられ、なにかの処置をされているのかビニールのような光沢のある質感となっている。そしてそこにはもちろん、カツラを留めるための強力な磁石が規則正しく並んでいた。
ややあって彼女は、きわどいメイド服を着せられた人物にオズオズと近づき、その胸をガン見する。
“女性本来の形”を無視して、まるでビーチ・ボールを2個。ヤケクソにくっつけたようにも見える巨大な乳房。それが胸もとの大きくあいたメイド服の前ボタンを弾き飛ばさん勢いで前方に突き出ている。
さらに、メイド服の胸の先端にはスリットがあり、そこから肥大化した……【以下自粛】
その反面、下に目をやれば、胴は革製のウェスト・ニッパーによって驚くほど絞り上げられ、一番細い部分は両手で丸をつくって囲めるのではないかと思われるほどだった。
結果、この“人形”の体形は、短いスカートに隠れた尻も合わせると砂時計を想わせるほどに。
「如何です?よくできてるでしょうが……小枝子、下をご覧にいれろ」
イヴニング・ドレスの帯から、彼女は上品な手つきで乗馬用のムチを抜き出すと、この人形じみた女がまとう、エプロン付きメイド・ドレス服の短いスカートを、まるで汚いものでも扱うようにムチの先端でもち上げた。
胸と同様、あきらかにシリコンでムリヤリ膨らまされた感がある巨尻。
そしてそこには怪しからぬことに道具付きの貞操帯が……【以下自粛】
肉感的な太ももからつづくスンナリとした脚は、ガーター付きの光沢ストッキングに包まれて。
そしてつま先立ちの状態で足先を固定する、拘束錠のついた黒いショート・ブーツ。
小枝子が、哀れな女の……【以下自粛】
ブブッ!……ヴヴヴ・ブゥ~~ン……ン……ブブブブブ。
強弱と不定期なリズムをともなって、ふたつの筒が振動をはじめた。
しかし、女の表情は変わらない。
相変わらず驚いたように見開いた眼と、ポッカリ空いた口もとは、そのままで。
「ヘッケル――マイケルさんに説明」
白衣の片方が一つ咳払いして、
「この女は、ごらんのとおり“人形化”手術済みの個体です。『美月』に投与した薬剤ではなく、物理的に脳を
オレは不可逆という言葉に念をおす意味で、
「じゃぁ――『美月』とは方法が違うんだね」
この
「すべて女性ホルモンと薬剤、および自己組織の移植で形成しています。もちろん乳房の場合、
白衣のもう一方が、バービーと『美月』を並んで立たせた。
「片方は強制的に抜歯済み。ほおの内側にもシリコンの玉を多数埋設し、男性器に……【以下自粛】」
『美月』の顔が、だんだん青ざめてゆくのが分かった。
つまりは、目の前の若い女性が“自分のなれの果て”であること。
それが思考力を引き下げられた現在でも、彼女には充分理解できたんだろうと思う。
ヌメッとした無機質な印象の肌。
口を丸くポッカリあいた痴呆顔。
淫らな改変を受けた人形めく
悪魔のような白衣の説明はつづく。
「この女は、神経ブロックにより表情筋を殺してあります。また許可がない限り発言もできません。そのうえ自身で“達する”ことを禁じております。ただし性的な感度はマシマシにしてありますので、いってみれば人形の形をした『快楽の檻』に、永久に閉じ込められた形でしょうか」
粘液に充たされたような数拍があった。
小枝子だけが微笑をうかべ、ムチの先端でソヨソヨと人形を嬲っている。
もちろん“バービー”の表情は変わらない。相変わらず目を見開いた顔で。
だが淫欲のトロ火に炙られ切ないのか、ドーナツの呼吸がわずかに荒くなる。
下半身に関しては、言わずもがなです――と説明は続いた。
「……【以下自粛】」
どうですか?『美月』さん、と白衣のもう一方、ジャッケルが、
「アナタも、そんな中途半端な
ヘッケルが後をひきとり、彼女の方に体を乗り出して、
「アタマの中はキモチいいコトだけでイッパイになるんですよ?――もう学校のテストや家族のことなど考えなくて良いんですよ?――いろんなお客様に体を差し出して身を任せていればイイんです――もちろん性技をふくむ“お客様の喜ばせ方”は洗脳レベルでアタマの芯まで徹底的に叩きこまれますけどね……」
お人形に、なっておしまいなさい――『美月』サン
最後は医者二人の声が、ハモって。
『美月』の顔が赤くなったり白くなったりした。
小男は、そんな彼女とオレとを等分に眺め、コニャック・ソーダを含みながら楽しそうに。
人形がパクパクと肥大化した口唇を物欲しげに動かした。
ピシリ!
小枝子のムチが、巨尻に飛ぶ。
貞操帯が食いこむ
「やだ♪この子ったら」
小枝子がニンマリと女悪魔のような微笑をうかべ、
「もう“イキそう”になってるのネ……でもダメ」
そういうや、いかにも左右均等に整形された顔を自分の方に向かせ、赤いドーナツ状なくちびるの中に自分の舌をネットリと差し入れた。
ついに『美月』の緊張が切れたのか。
フラフラと彼女はソファーに崩れ込んでしまう。
オレはあやういところで、彼女の身体を受け止めた。
小枝子の――そして小男のうす笑い。
――なんだ……?
オレの中で、警報が鳴っていた。
何かがおかしい。どこかに違和感がある。
客間の空気に、なにかの“暗黙な了解”な気配が漂っているような。
二人のメイドは、面を伏せたまま、そんな部屋のすみで気配を消したまま。
すると、オレの怪訝そうな顔を看たのか、小男が軽くうなずいた。
――そうか!畜生ッ!
やられた。いっぱい食わされた。
これはオレのメールに応じた寸劇だ。
しかし、そうと分かればハナシは早かった。
オレは抱きとめた『美月』の肢体をゆるやかに擦りつつ、
「さぁ――『美月』クン。どうする?」
相変わらず人形の方を
「お医者さんたちの言う通り、アタマをパーにされて、カラダにシリコンいっぱい詰められてみる?」
「……」
「
「……」
「お母さんや詩愛の思い出もおクスリで消されちゃって、女の子の〇〇〇を変態的な手術で改造されて、もちろん〇〇〇の穴も大きくされちゃうんだよ……」
いやだ……と小さな声が呟いた。
「一生落とせないエロいお化粧されちゃって。おまけにこんなエッチな身体にされちゃったら、もう絶対お外を歩けないねぇ……」
いやだ……と、また小さな声。
「イヤらしい命令をされても絶対に
いやだ……いやだ……いやだァァァぁ。
とうとう『美月』は泣きだしてしまった。
オレはそんな彼女の背中をなでつつ、
「ね?ココは怖ぁい世界なんだよ?一歩間違えれば、おクスリいっぱい
震えながら泣く『美月』を横目に小枝子は、
「新しいカツラは、地味なものを用意できると思います。皮膚浸透式のメイクも、リムーバーがありますので少しずつ薄くなるでしょう。思考減退剤は、時間とともに体外に排出されるはずですわ。ただその
「小枝子――化粧の処置をしてやりなさい」
小男が、コニャック・ソーダを含みつつ命令した。
「それと、その人形も一緒に連れて行きなさい――商談の邪魔だ」
人形の首もとから延びる鎖が小枝子に引かれ、寂しく鳴った。
「この子は、いったいどういう立場の娘なんです?」
オレは小男に質問する。
「本人の了承を得ているんですが?」
「了承ですと?――いいえ?」
小男は一瞬、不思議そうな顔をしたが、すぐに合点がいったように、
「あぁ、なるほどワタシとしたことが――小枝子!こいつのオリジナル・ウィッグだ!」
命令された彼女はどこから取り出したか、カツラを手にすると、カチカチと磁石の音を立て、彼女のアタマに装着した。
栗色をした、どこか見覚えのあるポニーテール。
最終的に小男の薄笑いが、記憶のギアをいれた。
――あの時の!
敵と内通していた女性オペレーター!
清楚で可憐な感じだった面影はどこにも見当たらない。
いまや性に貪欲な、『美月』などくらべものにならないほど“生きたダッチワイフ”処理されてしまった容姿。
それこそ“Bimbo girl”などが淑女に見えるくらいの、徹底的な改変手術ぶりだった。
「ワタシは――裏切ったものには、キビしく罰するタチでしてな」
小男はヘッケルとジャッケルの方をギロリとニラみ、
「二人とも。この件は貸しにしておくぞ?」
白衣の若い二人組みが、仏頂面でうなだれる。
すべての者が、それぞれの面持ちで小さな応接室を出ていったあと、
「さて――」
小男はテーブルの向こうから奇怪な顔でじっと見つめてきた。
「ビジネスの話を――しましょうか……?」