試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【一般版】 作:珍歩意地郎_四五四五
――コイツが!?
どこからどう見ても、先ほどの“人形”化された少女と似たり寄ったり。
とても少年だったとは思えない。
「いや、しかし声が……」
「声帯を手術しました」
「顔つきが……」
「もともと女顔でしたからな。チョッと改変するだけでしたぞ?」
『マゾ犬』――立て、と小男が命令する。
するとしおしおと、恥ずかしそうに前の方を押さえながら少女は立ち上がった。
「どうした。手をどけろ」
「
“彼女”はちょっと反抗する。
だが、すぐにあきらめたように手枷のはまる腕を後ろに回す。
すると……なぁぁんというコトでしょう!(例のBGM)
スカートが可愛くピョコンと持ち上がってしまうではありませんか。
小男が、サテンのミニエプロンをつけたピンクのミニスカートを持ち上げます。
すると――ボッキしたオ〇ンポの根元を、ハーネースが締め上げる、シャレた、仕掛け。
萎えることをゆるさない……匠の……ワザ。
「コイツには回春館製薬の『ハンダチナオリーヌ・A錠』も投与しています。もともとバイアグラのようにジジィ向けのクスリなので、若い
ふと、傍らの護衛を見ると、人形を前にしてズボンをパンパンに突っ張らせていた。
そしてもう一人の護衛のほうは、あろうことか俺の顔を見て同じように。
――おいおいカンベンしてくれ。
どうしても信じられなかったが、小男が部屋にある映像機器に、さきほど使わなかったメモリー・カードを再生することで俺のうたがいは氷解した。
・刺青のガンを使った顔面へのパーマネント・メイク。
・黒々としたアイライン。濃いめのアイシャドウ。
・
・声帯の手術と、喉ボトケの切除
・局部麻酔のまま、数日かけてビーチボールに肥大化される胸。
術衣を着せられ鼻から、口から挿管されて昏睡している轢殺目標。
画面の中で、メスや刺青のガンが唸り、悪夢の処置が進行してゆく。
みるみる女性らしく変化してゆく少年の顔面。
早回しの映像の最後で、とうとう目の前の少女と同じ顔になる。
最後のシーンは手術の結果を全裸で見せられ、ふくらんだ胸と口唇に絶望する姿。
そういえば……と俺は相手のミニスカートの尻まわりを診て、
先ほどの『梨花』とは、腰つきが断然に貧弱だった。
「……ふぅぬ」
オレは讃嘆を込めて小男を見た。
それが相手にも伝わったのか。奇怪な顔は、ちょっと嬉しそうに。
「お分かりの通り、まだ歯は抜いていませんからな?表情筋の神経ブロックもしてません。質問には、お答え出来るとおもいますよ」
「ナルホド……分かりました」
それでは――と。
俺は相手を椅子に座らせ、じぶんは
ほかの三人は、それを離れて見守る姿勢。
ポケットから携帯を取り出そうとしたとき、背後で素早い動きの気配。
振りむけば、護衛が拳銃を突き付けている。
フッと嗤いをもらし、
「……いまどき
そういって、ゆっくりとした動きでポケットから携帯をだす。
護衛の緊張がほぐれてゆく気配が、ありありと感じられた。
「さて、本題だ」
俺はベッタリとしたアイシャドウに彩られる相手の顔を見る。
「ほぁぃ」
……どうも調子が狂ってやりづらい。
女の子を尋問してるんじゃないんだぞ、と自分に言い聞かせなきゃならないホドだ。
ヘッケルとジャッケルとか言ったか。あの白衣のふたり。イイ仕事してますねぇぇぇ……と声が聞こえるぐらいだぜ。
携帯にドレッド野郎の3D画像をうかべ、相手のまえに差し出した。
「貴様――コイツを知ってるか……?」
ハッ、と“美人形”が息をのむ気配。
ビンゴ!と沸き立つ血をなんとかおさえ、さらに観察。
「じゃぁ、コイツはどうだ?」
おさるのジョージ。
俺に風穴をあけた、オレンジ色のニクい奴。
ソワソワと、ピンク色なサテンのミニスカメイド服がゆれる。
――くそっ、これにも反応アリだ!
あまりの嬉しさに、深呼吸を数回しなくてはならないほどだ。
そのあいだも、目の前の人形は宙に浮かぶ画像をジッと観ている。
俺は貴様を殺しに来たんだ、とコチラは身分を告げた。
「貴様が過去に強姦した女たちに雇われてな……」
ビクリ、と相手の身体がふるえ、重そうな胸がゆれる。
俺は手を伸ばすと、それを服のうえからわしづかみにする。
「
またも背後で荒々しく動く気配。だがすぐに収まった。
おそらく護衛が止めに入ろうとしたところを、小男が制止したのだろう。
プレイ用の安っぽいサテン地なメイド・ドレス越しにつかんだ胸は、ふつうの乳房よりいくぶん弾力があった。
「どうだ?強姦される気分は」
俺はニヤニヤと、なるべく下卑た笑いを意識しながら、
「映像で見たぞ。ガチムチな兄キたちにさんざ嬲られて「やめてくれぇ」だと?――だが過去に女たちからそう言われて、貴様は止めたか。あ?」
濃いアイラインで飾られる目元から、何かが閃いた。
間違えようもない――殺意だ。
――へぇぇ!
驚いた。
こんな姿にされても、まだ反抗心が残っているのか。
クソが、という想いが血を逆流させ、嗜虐心を喚ぶ。
乳房をワシづかみにする手に、思わずチカラがはいった。
「ひゃぁぁぅ!」
「好き放題に
「
シリコンを入れた唇のせいか、言葉が不明瞭だ。
俺はさらに顔をちかづける。
「年貢の納め時が……きたってワケだ」
「ほへはひ……ほへはひ……」
「だがな?コイツ等について知ってる情報を教えてくれれば……見逃してやらんでもない」
濃いアイラインとアイシャドウに彩られた目が、相変わらずこちらに注がれている。
クソっ。濃い化粧のせいで、表情が読みにくい。
「さぁ、答えろ。コイツらの居場所はどこだ?」
「
目標が光沢ドーナツのようなくちびるを動かし、なにか呟いた。
さらに身を乗り出し、人形化された目標の言葉を聞こうとする。
すると、突然、
「
耳もとでいきなり大声を出され、思わずのけぞった瞬間、冷たいものが首筋をかすめた。
護衛が素早く動き、人形を羽交い絞めにする。
バタバタと人の動きが交錯する殺伐とした空気。
小男が胸からポケット・チーフを抜き出し、俺の首すじに当てた。
「はやく!そのアイス・ピックを取り上げろ!」
もう一人の護衛が、人形の手から氷を砕くときに使うニードルをもぎ取った。
ポケット・チーフをおさえる俺の手が暖かく濡れる。
辺りは一転、一気に鉄臭くなって。
医者が――たぶんヘッケルの方だ――すぐさま呼ばれ、俺の首の手当てをする。
「頸動脈まで、あと少しでしたね」
この若者は手早く処置をしながら呟いた。
「スッパリやられていたら、助かったかどうか」
どこか残念な色が声に感じられるのは気のせいだろうか。
オーダーメイドのスーツは血まみれとなり、もやは見る影もない。
「お館さま、危なかったですね」
護衛の片方が、後ろ手に拘束されて暴れる“人形”を「寛一・お宮」のように足蹴にして踏みつけるや憎々しげに見やり、
「場合によっちゃ我々がこうなっていたかも……」
「どこで手に入れたのか、まったく!」
血のついたままの凶悪なアイスピックを護衛のひとりが憎々しげに見やる。
「コイツを。そこの“聖アンデレの十字”にくくりつけて下さい……」
俺は、自分が妙に冷たい声で部屋に居る四人に命令するのを聞いた。
「なに?なんですと」
「X型の十字架ですよ――はやく」
俺の語勢に気圧されたのか。
マッチョな護衛二人の兄キたちは言われるまま、轢殺目標を十字架に備えられた枷を使って拘束する。
「
アイシャドウが彩る眼は、いまや露骨に殺意を閃かせて。
「……驚いたな。まだこれだけ反抗心が残っているとは」
「あとでサムソン班に、タップリ肛門を
それを聞いた人形のドーナツ状な口が、悔しそうにふるえる。
そんな会話を背後に、俺は目標に近づく。
相手の目が、このときはじめて
――だが……もうおそい。
心のなかは森閑と静まり返り、どんな残虐なことでもできそうだった。
俺は相手が着せられているエプロン付きの黒いミニスカートをまくりあげる。
こんな状況にもかかわらず、みごとに勃起したままの薄黒いチンポ。
射精を禁じられるバンドで根もとを
傍らのテーブルから、俺はガラス製とみえる
なんだろう。
妙にうす笑いがでてしまう。
もしかして【SAI】のクセが移ったか。
「なぁ――知ってるか?」
俺はガラス製の棒を、きびしく縛られ身動きが取れない目標の前にかざしてみせてから、
「
俺はガラス棒を相手の勃起したチ〇ポに近づけるや、ゆっくりと鈴口から尿道に差し入れた。
ショッキング・ピンクな色をしたドーナツの口から上がる女性的な悲鳴。
十字架のクサリがガチャガチャと鳴り、セックス・ドールが悶えた。
ガラス棒に感じる多少の抵抗は無視し、グイグイとチンポに埋没させる。
「こうしてな?ガラス棒が完全に埋まったところを……」
俺はテーブルの上からさらにナプキンをとり、チ〇ポに巻き付けると両手で握った。
「 折 る ん だ よ ……」
相手の悲鳴がふたたび大きくなった。
「俺に取っちゃ貴様なんぞどうでもいい……コレがオワったら、あそこにあるコルク抜きで貴様の目をエグっても面白そうだしな……」
キシッ!とガラスが歪む気配。
長い睫毛をエクステされた目がヒタヒタとまばたき、
「い、いひひゅうひひはひ!」
ふるえる女の声で絶叫する。
「なんだ?――1918?」
ドーナツの口が動かしづらそうに動いた。
「アー!1918!
「なんだ?あーって」
「あーえぅ!
「あぁ、バーか」
――まて。
1918……BAR。
あのスクーターの糞ガキ共が吐いた酒場の名前。
その対面にあった、風変わりな看板。
用心深そうな影が、ブラインドに素早く隠れた情景。
「ウソぬかしやがったら、戻ってきてテメェを轢き殺すぞ!」
「おんほぅでぅ!『
「ボーイング?」
「ひゃう……『
そのときアタマにピンと閃くものがあった。
ブローニング・オートマチック・ライフル。モデル1918。
――よぅし……。
どうやらウソは言ってなさそうだ。
俺は両手に力をこめる。
「おほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
人形の、涙ながらの甲ン高い絶叫。
その刹那。
ガラス棒を折ろうか、どうしようか。
自分の中で葛藤がうまれた。
“オレ”は止めろといい、“俺”はヤッちまえと叫ぶ。
『ナニをためらうッてンだ!
そのクソ甘さが!部隊を全滅に導いたんだろうが!』
【慈悲を以って臣民にあたらんとす!
貴様の所業は!山犬のそれと変わらんではないか!】
頭の中で二人の男が争う――ような。
小男の方を見れば、片腕を前に差し出してして奇怪な顔をゆがめ(あぁ、どうか……)と猶予を
俺は目標の汚らしい〇ンポから手をはなした。
ガクリ、と人形が脱力し、汗まみれでうなだれる。
――フン、なるほど……。
コイツにとって“男性自身”が最後の拠りどころと言うワケか。
「また一つ貸しと言うワケですかねぇ……」
テーブルの上にあったアルコール・スプレーで手を清めつつ、自分のスーツの惨状を改めて確認しながら、
「……どうも損ばかりですな」
「スーツ代は、もちろん弁償致します」
「それは結構です。『美月』に仕掛けてくださった寸劇の鑑賞料としますよ」
おや、と小男は驚いたように、
「バレてたんですか。まぁヘッケルたちの言葉責めは予想外でしたがねぇ」
白衣の片割れは、何のことかわからぬようにキョトキョトと。
「ほっへぇ!
拘束された腰を身じろぎさせ、ガラス棒が刺さったままの勃起チンポをゆらし、性奴隷となった目標が哀願する。小男が、そんな轢殺目標だった少年を冷たい目で見やりながら、
「心配することはない。数日たてば、立派なオマ〇コにしてやる」
人形が、一瞬叫びをやめた。だがすぐに、
「ほんはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
号泣……ッ。
女にされる哀しみによる、目いっぱいの……号泣ッ!
小男は、ズボンの前を突っ張らせる護衛にきづいたか、
「おまえ。チョッとスッキリしていきなさい」
そう言われるや、このマッチョな兄貴は喜び勇んでベルトをカチャつかせると、
ボロン、と擬音が出そうなほどの巨大な一物をあらわした。
そして壁の十字架に近づくと、両手、両足の枷をつなぐクサリの間隔をのばし、十字架と目標の間に自分が滑り込んでしまう。
暴れる美人形。
「さて、もう結構。できれば場所を変えて飲みなおしたいですな」
「おっ♪ようやくソノ気になって下さったか」
みょうに距離が近い護衛と小男で俺は部屋を後にする。
扉が閉まる瞬間、
「ひぃぁ!ひゃえへぇぇぇぇ……アッ――――!!!!!」
ボスッ、と重い扉は自然にしまり、あとは廊下の静けさだけが残った。
また目隠しをされ“オモテ”のエリアまで戻ってくると、フロアを見下ろせる升席に我々は陣取った。
ちょっとパリのオペラ座のような雰囲気。
相変わらず深海の底めいた光景の中で、客席の間をバニー・ガールが回遊し、ソファーに陣取った客たちにフロアレディ―がしなだれかかる。
あちこちで湧き上がる矯正。または怪しげな睦みごと。
――『美月』のヤツは……と。
いたいた……。
ソファーの傍らに立った紅いバニーガールが、腰まである豊かな赤毛を頭の後ろで持ち上げ、肢体をクネらせて客の求めに応じ、ポーズをとっている。どうやらあのバーコード禿げは脇フェチのようだ。
「だいぶあの娘にご執心のようですなぁ」
「ご執心、とはチョッとちがいますね……」
そう、危なっかしくて、見てられないんだ。
一旦は、その“性欲にダラしない痴呆ぶり”から、店に囲われて飼い殺しにされるのがお似合いかと考えた彼女だが、強制的に注入されたクスリのせいと分かればハナシは別だ。
あの娘には、なるべくイイ人生を歩んでもらいたい……。
――な~んてwwww。
こんなジジィめいたコトを考えるのも、オレが歳をとった徴か。
そうさ。今はもう。認めちまおう。
コイツはさしずめ、言ってみるとしたら……。
「……まぁ、父性本能の発露、とでも言いますか」
「ほほう。ではパトロン、というところですな」
「ご随意に。ところで“オモテ”のフロア・マネージャーを呼んでもらえますか?」
小男の命令で、恰幅のいいタキシード姿の男がやってきた。
ちょっとバルザックの挿絵にでも出てきそうな押し出しの効いた風体だ。
「お館サマ――御用で」
そう言った後、オレの方を一瞥する。
しかしこの男は一般人が見れば目をむくような、コチラの血まみれな姿に眉ひとつ動かさず、あくまで礼儀正しく控えていた。
「この方はね?エスの仕事に就いている『美月』クンのパトロンだよ。あのウサギを宜しく頼む、とこう仰っているんだ」
オレはポケットからマネー・クリップで留めた10万を燕尾服に差し出した。
「タバコ代だ――少ないが、取っておいてくれ」
燕尾服が小男の方を向き、ヒョィと眉毛をあげた。
微笑みながらうなずく小男。
この恰幅の良い男は白手袋をはめた手で胸ポケットからLetts製の薄型手帳を取り出すと、うやうやしくそれを両手で持ち、
「裸でスマんね」
「過分の心づけ、たいへん恐縮にぞんじます」
落ち着いた声がそれに応え、いつのまにか手帳も札束も消えている。
「ありがとう、行きたまえ」
小男が燕尾服を去らせたあと、
「スマンことですなァ。ナニからナニまで」
「なるほど、いい人材が揃っているようだ」
そうでしょうが?と相手は満足げに。
「しかし――」
「しかし?」
オレは自分の背後に佇立する護衛の男をチラッと振り向いた。
「その男なら大丈夫。ワタシのお墨付きを与えられます」
「なら言いますが……店全体に
相手の顔が幾分くもった。
「と――おっしゃると?」
「オペレーターによる内通者」
「……」
「勝手に従業員に薬剤を投与する医者」
「……」
「拘束されていたはずのガキが、いつのまにか凶器を手にして」
「……」
どうも剣呑ですな、とオレはイエローのバニーガールが彼方からやってくるのを見る。
盆の上には、シードル酒らしき瓶とグラス。それにアイス・ペールと小料理。
ハチきれんばかりのムチムチ(死語)な身体に、お仕着せであるウサギの装束がいかにも窮屈そうだ。
「やぁ、元気にしてたか『菜々』クン」
いきなり言われた“うわばみのナナちゃん”はテーブルをセットしながら一瞬キョトンとするが、すぐにオレの顔を思いだしたらしく、
「あぁ、
バニー・コートの胸をゆすり、具合を直してから一礼して下がってゆく。
そんな『菜々』の後ろ姿を見ながら、
「彼女だって、いつ勝手に“ウラ”の担当にされるか分かりませんよ?」
「ばかな。当店の“ウラ”勤務は、本人の了承が絶対にひつようです」
「あるいは……それが
【……この子『菜々』じゃないか。“馴致”はもう少し先の予定だぞ?】
オレは白衣の男たちの会話を思いだしながら、暗い眼をする小男に告げる。
「あるいは『美月』のように、クスリで洗脳されたとしたら……?」
なるほど、良くわかりました、と小男は大きく息をついて肩を落とした。
「いちど、内部を洗いなおさなくてはならないようですな。仰る通り、組織と言うものは、放っておくと自然に腐っていきますからねェ」
小男はスーツの胸ポケットから小切手帖を取り出し、そこに何やら書き入れて俺の方に差し出した。
金弐佰萬円.-
そして、その上にさきほど上映した映像がはいった数本のメモリー・カードも。
「今回の件は、なんとお礼を言ったものやら見当もつきません。どうぞお納め下さい」
オレはメモリー・カードだけをつまみ上げ、自分のポケットに入れた。
「マイケルさん。そんな――アナタ」
小男は奇怪な顔またもゆがめて、
「コレ以上、ワタシに恥をかかさんでくださいよ」
「酒は自分の金で飲むから美味いんです……もし、どうしてもというなら」
「はいはい!ナンでもどうぞ!!」
「領収書を下さい。このメモリーカードを手にするために、これだけかかったという証拠になります」
「お廉い御用ですよ、アナタ」
先ほどのフロア長がやってきて、銀の盆に一枚の領収書を載せて差し出した。
金参佰萬円.-
――ちょww増えてるじゃねぇかwww
そう思いつつも、コレ以上の面倒はゴメンなので黙って受け取った。
そのあとは、たあいもない四方山話だった。
小男が経験した学生時代のフィールド・ワーク。
サラリーマン時代にオレが経験した役人と政治家の横やり。
ともに話を交換しつつ、気が付けば――日付が変わる、深夜まで。
タクシーが呼ばれ、ちょっとオレはフラつきながら部屋に戻った。
そのまま、前後不覚に、泥のようにねむる。
気が付けば、朝だった。
はしゃいだ陽光が、遮光カーテンの合わせ目から、寝室の壁を鋭角に這っている。
そしてオレの目に前にニュッと突き出た物体。
……。
――腕……だよな?
――紅いウサギ編・終わり――