試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【一般版】 作:珍歩意地郎_四五四五
* * *
「【SAI】――どうだ様子は」
『相変わらず変化なし。内部からも動体反応はありません』
近くの駐車スペースに停めたトラックからの返答。
オレは耳にコネクターをつけたまま『BAR1918』の前をゆるい足取りで通り過ぎた。
頭の横にカメラを着けて撮影する感覚で、ゆっくりと辺りを見回しながら、シマらないあくびをかみ殺す。
情報屋と『美月』のバカが。
ゲームで明け方まで騒ぎやがって。
おかげで体内時間が微妙に狂ってつらあじ。
繁華街のストリートは、宵に入ってようやく活気を取りもどしつつあった。
看板に明かりがともり、電飾がクルクル・キラキラと回りだし、華やいだ雰囲気で。
全てをさらけ出す無慈悲な陽光に照らされて、それまで干からび、死に絶えていたような街。
それが秘めやかな夜の釣帳が降りたことで、ようやく潤いを取りもどし、息を吹き返したような印象。
耳に付けたデバイスからの情報が多くなってきた。
頭の中に、ワッと世界が入ってきたような感覚。
ロック技術顧問の手で調整されたコネクターの調子は最高だった。
コンタクト・レンズ型のモニターで、後ろにも目が付いたように背後の光景が良く見える。
これは今までにない、チョッと新鮮な感覚。
たぶん、潤沢な予算を持つアメリカの特殊部隊には、すでに支給されている品なんだろう。
技術の進歩――畏るべし。
そして。
この場末の繁華街に溶けこむべく“ちょい悪キャラ”を気取るオレの革ジャンのポケットには、あの技術顧問から渡された更なる秘密兵器が入っている。
それが半ば眠さに負けつつあるオレの心をも、いくぶんワクワクさせていた。
時刻は――すでに16時を半ば過ぎて。
そろそろアチコチの安酒場に灯が入りはじめる頃合いだ。
外回りから会社に連絡を入れて“直帰”ということにしたらしいサラリーマンたち。
すでに上着を脱いで席に着き、ネクタイをくつろげた姿でビールのジョッキを打ち合わせている。
――くそっ……。
ひそかに舌なめずりをしながら、露骨にならないよう、さりげなくあたりをチェック。
『BAR1918』も、向かいの『ジーミの店』も、暗く静まり返って動きらしきものは無い。
通行人は、まだ辛うじて少なかった。これ以上時刻がおそくなって人通りが増えれば、ヘンな動きは出来ないだろう。
――よし!ンじゃ、いまのうちにコイツを仕掛けるか……。
オレはロック技術顧問から渡されたマッチ箱ほどの器具をとりだし、設置用アダプターを調整する。
そして前もってアタリをつけていた場所に素早くセットした。
高性能な全方位型の監視カメラ。通称「監視ポッド」。
顔認識システムもそなえており、轢殺目標をインプットしておけば、自動的にコネクターへアラームを投げることもできる。
とうぜん防水・防塵タイプで、おまけに簡単な自律機能も付いており、もし誰かが盗もうとした場合は自動的に内部の機構を劣化させるとか。マグネシウムの燃焼剤が
「いいぞ【SAI】!リンクを確立させろ」
『周辺の回線を検索。目的に合致する種別を確認。守秘回路を仮想構築――完成』
さっすがスーパーAI。ものの5秒もかからない。
「もうこれでイイんだな?」
『これで
フンス!となぜか鼻イキも荒く【SAI】は宣言した。
『この前マイケルが行った銭高警部補との張り込みを聞いて、なんとアナクロなことをとワタシは嘆いたものですよ。
「……ダレが父ちゃんだ」
『おっと!ウワサをすれば。やはり人間でいうところの
「は?ナニを言っている」
『特定コール周波数を発信する
――隠れてったって、おまえ……。
ワタワタと左右を見わたし、おれは足早に近くの横道へと身をひそめた。すると、
『ダメですマイケル、もっと奥へ。10mほど進んだところに、路地がありますから、そこまで行って下さい――早く!』
駆け足で言われた通りに進む。
なるほど、見通しの効かない細い路地が横手に見えた。
近くにあるボロボロな高層団地に囲まれた、谷間のような一角。
おれは革靴のソールをすべらせてコケそうになりつつ素早く駆けこむ。
と……なんと。
そこは今しも「ネコの集会」の真っ最中ではないか。
互いに距離をおき、いきなり駆け込んできたオレに迷惑そうな顔を一瞬向けた。
しかしそのあとは、視線をもどし、ただ黙って思い思いの恰好で座り込んでいる。
一瞬、虚を突かれる。
だが、気にしているヒマはない。すぐに近くの電柱に身を潜めた。
回転等の赤い反射が[休工中]とフダを貼られた工事現場のA型看板に反射する。
どうやらパトカーが横道の入り口に停車して、この通りをじっと警戒しているらしい。
「おぃ【SAI】、まさか連中、この付近の防犯カメラにアクセスしてるんじゃないだろうな」
『周辺の情報インフラに当該設備は確認できません』
「乗っているのダレだ?まさか銭高か?」
『映像をそちらに回します』
コンタクトレンズ型モニターにさっきオレが仕掛けた機材からの映像が展開した。
なんという高精細な絵。これが技術部が生んだ最新型モデルが持つ威力か。
いつもながら、どこからそんな
「すげぇ。でも広角に振った画角のせいか、すこしパトカーが遠いな」
『OK,ズームします……』
画像が極めてなめらかに拡大される。
それが、撮像素子の
だが、なんとしたことだろう。
警部補どのは、何か中毒でも起こしたんだろうか。
彫りの深い、鉛色をした顔面が、ギョロリとこちらを向いて。
あの名作「レ・ミゼラブル」の何とかという(歳のせいか名前がスッと出てこない)主人公を執拗に追い詰める警察官を連想する。
そしてその銭高警部補どのはサイド・ウィンドウに顔を寄せ、『ジーミの店』の方を疑いぶかい、鋭い目つきで凝視しているのが分かった。
運転席にいる若い制服警官が助手席になにごとか話しかけるのが見えた。しかしこの偏執狂じみた猟犬は、相手に対し顔の筋肉ひとつ動かさない。
ごくろうサン、とオレは心ひそかにほくそ笑む。
“本命”は向かいの『BAR1918』であるのも知らずに。いい気味だ。
おそらく、あのスクーターのガキどもをシメあげて情報を得たのではないだろうか。
だが、この病的なまでに執念ぶかい男は、残念ながらどうも肝心なところでヌケている気味がある。
“紅いウサギ”のガサ入れを失敗し、あの小男を書類送検どころか検挙すらできなかったのが、その証左だ
しかし。警察の情報網はあなどれない。ウカウカしてると、こっちの店も嗅ぎつけられる
――こりゃ、ハヤいとこ目ぼしをつけないと……。
コネクターからの映像。
PCが近づき――視点が切り替わって――遠ざかってゆく。
――ふぅ……。
脱力して振りむいたとき、オレは思わずギョッとした。
路地に駆け込んできた時には目もくれなかった集会中のネコたちが、こんどは一斉にこちらを
三毛。
さび。
ハチ割れ。
白。
茶虎。
キジ虎。
ロシアンブルーまでいる。
距離を置いて等間隔に地面へすわりこむ姿。
啼き交わすでもなく、毛づくろいするでもない。
ただこちらの、オレの方を、底の知れない目つきで……。
黒ネコの姿をザッと探すが――見えない。
なんとなくホッとして、知らず緊張していた肩のちからを抜く。
そんなおりだった。
耳もとで――何とも言えない声がした。
――**ヲ、ハズセ……。
「何だって?【SAI】、お前か?」
『どうしました?マイケル』
「【SAI】?」
――“オ守ヲ”外セ……デナイト**様ガ、オ前ニ会エナイヂャナイカ……。
なぜかゾワッと背筋が寒くなる。
――違う……この声、【SAI】じゃない。
こちらを見つめるネコの眼差し。
それが、何やらいっそう“念”がこもった気配になったような。
ふと――ネコたちの顔つきが、一斉に変化する。
まなじりを微妙につり上げ、どこか怒っている風にも見えて。
まさか、とそのときオレは初めて思い当たった。
――ネコが……喋っているのか?
――ソノ“オ守リ”ヲ捨テロ!……**様ガ、オ困リダ。
『マイケル?どうしましたマイケル』
「なんだ?よく聞こえない。誰が困っているって?」
『リンクの不具合は確認できません。マイケル聞こえますか?』
――**様ノ
「コラっ!」
いきなり上半身ハダカにステテコ姿の爺さんが路地に飛び出してきた。
たちどころに分解するネコの集団。
まるで地を奔る稲妻のごとく、瞬時にバラバラの方向へ消え去る。
爺さんは、それをイマイマしげに見送って、
「ったく。そこィらじゅう、ウンコやションベンまき散らしやがる」
突き出た皺くちゃな腹をボリボリと掻きながら、オレのほうに聞えよがしな独り言で、
「道が臭くなっちまってタマんねェ……」
「あのネコたち、よくこの辺に集まるんですか?」
「ンなモン知らねぇよ。猫に聞いてくれ……アンタ、エサとかやってねェよな?」
ブンブンとオレは、どこか結城の野郎を連想するこの爺さんに首をふった。
爺さんはまばらに生えた汚い白髪をなでつけながら、
「なら良いケドよ。アンタもナニ?『路地裏探検』とかいうヒマじん?」
「は?いいえ。私は表の酒場に興味があったんですけど、閉まっていたからこの辺ブラブラしてたコトでして」
通りの酒場だぁ?と爺さん、すこしウサん臭げな顔になり、
「どっちの方だ?通りの手前か、それとも向こうの1918とかいうヤツか」
「1918の方で……」
とたん、ヤメとけヤメとけと爺さんは手をふり、
「深夜ンなると、ウサん臭い連中も集まってきやがる。ときどきケンカしてるみてぇな声もするしなァ」
「手まえの『ジーミの店』ってのは、どうなんです?」
「あぁ。気のいいアフリカ人が店やってたんだが、パスポートの更新で日本離れたときに、留守番役のヤツに好き放題されたらしくてな。いまモメてっとこだ」
路向こうの店には気をつけなよ?と、だいぶ暗くなった路地を爺さんは歩いてゆき、やがてガラガラと昭和チックな引き戸を開ける音がして――ピシャリ、閉められた。
『マイケル聞こえますか?』
「あぁ、良く聞こえる」
『よかった。コネクトはもどっているようですね』
オレは路地を出ると、次第に喧騒を増しつつある繁華街を歩き、トラックを停めた場所にもどった。
『どうします?これから』
「【SAI】。オレが横道に逃げ込んだ時のコネクター画像、モニターに出せるよな」
ホイさ、と助手席側のモニターが立ち上がり、アームが調整されて画面をこちらへ。
やがてネコの集会の画像が明度を補正されて浮かんだ。
沈黙。
オレの息切れの音。
≪何だって?【SAI】、お前か?≫
≪どうしました?マイケル≫
「【SAI】、ゲインを上げてくれ!」
『りょ』
ボリュームが大きくなり、それまで聞こえなかった遠くの生活音を拾うようになる。
≪マイケル?どうしましたマイケル≫
≪なんだ?よく聞こえない。誰が困っているって?≫
≪リンクの不具合は確認できません。マイケル聞こえますか?≫
沈黙。
≪コラっ!≫
「“【SAI】、お前か?”のところから、今の爺さんのところまでをリピート!」
オレは目を閉じ、スピーカーに耳を澄ませる。
――ダメだ……なにも聞こえない。
爺さんの≪コラっ!≫が大音量でキャビンに響いて録画はおわる。
やはり幻聴か?
そもそも何と言っていた?
**様ってなんだ?よく聞き取れなかった。
お守りを外せだか捨てろだか言っていた。
「【SAI】、この辺に神社は?」
『1.23km四方には存在しません。ただ昔は
「ふぅぬ……」
淫祠。
それは左道仏教や、一般に認められていない民間信仰の類。
だが。
それは、すがるものもない力弱き大衆が、最後の救いとして信奉した“心のよりどころ”だ。
ためにかえって変な力をもってそうで、なんとなく怖い。
――なにか忘れられた土俗信仰な土地神。そのトラップに引っかかったのか……。
お守り?
オレは上着のポケットに入れっぱにしている、縁結び神社のお守りを取り出した。
!!!
白いお守り袋の下1/3程度がコゲていた。
もちろん火の気など、上着の内ポケットにはない。
おまけに中のご神体である木札も、なにか割れている気配がする。
「なんてことだ……」
おもわずオレは呟いた。
出来の悪い「洒落怖」じゃあるまいし……。
こいつは、またあの神社に行ってお守りをもらいなおしてこなければ。
もっとも。例の今風な巫女サンに、屋根修理の寄付をせびられちまうかもしれないが。
今日はもう遅いだろう。時間をみつけて近々に行ってこようか。『美月』、いや美香子の学校の具合も知りたい。
『マイケル。そのぅ――お詫びしなければならないことが……あります』
そのとき、キャビンのスピーカーから戸惑いがちな声が響く。
驚いた。このクソ生意気な【SAI】が、ココまでへりくだるとは。
「なんだ?ヤブから棒に。オマエがそんなことを言うなんて、あしたは雹でも降るのか?」
『いや、そのぅ。マイケルのコネクター映像を解析して判明したんですが』
「だからなんだ」
『あのステテコ爺さんとの会話が始まった23.45秒後」
「うん?」
『仰角45度。近くの低所得者層向け市営住宅9F共同廊下』
モニターの画像が上向きになり、路地に覆いかぶさらんばかりだった旧い団地の9階を示す。
と、そこに下を見下ろしている一個の人影。
ズーム。
画像補正。
またズーム。
また画像補正。
明度、輝度、修正。
見間違えようも無い。
くわえ煙草をした男の姿。
それが
なにより特徴的な、その髪型。切れ味鋭い
――ドレッド!
オレの中で血がカッ!とたぎった。
忘れていたわき腹の銃創が、ヤケドのようにうずく。
とうしてもあの糞コンビを、このトラックの餌食にしなくちゃ気が済まない。
「畜生!……やっぱり居やがった!」
『申し訳ありませんマイケル――ワタシとしたことが』
「くそっ!“おさる”は?あの“おさるのジョージ”は!?ドコ行きやがった!!!」
オレは大径のハンドルを思い切り叩いた。
「オレのドテっ腹に風穴をあけた――あの腐れガキは!どこにいる!」
『すべての人型動体物を検索しましたが、現在の記録では該当する映像がありません』
ふーふーとオレは肩で息をして、怒りの波が収まるのを待った。
【SAI】も、そんなコチラにあえて口をはさまず、様子見をしている気配。
「……まぁいい」
海外に高飛びしたワケでもないことが分かっただけでも大収穫だ。
土地カンのある場所から離れたくないんだろう……アホめ。
それとも、なにか他に目的があるのか?
もうあまり時間が無い予感がする。
すでに銭高が『ジーミの店』を嗅ぎつけているという事実。
しかしヤクの売人の集会場と噂のある店に居たところを“紅いウサギ”のガサ入れよろしくオレまでとばっちりを受けてパクられたのではタマらない。
――でも……動きがない限り、どうしようもない、か。
時間帯が移り、通行人も増えてトラックが目立つようになっていた。
とりあえずオレは駐車していたスペースを出ると、さらに目立たない場所をさがしてこの地区をながす。
だが――ダメだった。
基本、図体のデカいこのトラックだ。
それが目立たずに身をひそめる場所など、繁華街であるこの地区には存在しないようだった。
『マイケル。いい案が、ありますよ?』
【SAI】が、なにかイタズラっぽそうな声でささやいた。
『遠距離の適当な場所にワタシを止め、マイケルは店の近くにもどって近所のマンガ喫茶で時間をツブしたらどうです?』
「はァ?」
『見張りはこちらでしますので、マイケルはその間エロアニメのディスクでも観ていればいいです。イザとなったら駆け付けますよ』
ふ。
オレはハナで嗤わざるをえない。
「アホが。無人のトラックが市街を爆走してみろ。通報されて大騒ぎになっちまう」
「――あ」
【SAI】の間抜けな声。
『そういやそうでした……すみませんマイケル』
「オィオィ、大丈夫かよスーパーAI」
なんだろう。
【SAI】の提案に、みょうな不自然さが。
ワザとらしいと言うか――変にネラった感じが否めない。
しかし、今はそんなことをグジグジ考えている場合ではなかった。
「しかし……イイことに気づいたな。今度、その作戦を実行できるようダミーの人形を買おう」
『そんなもの、あるんですか?』
「うん、たしか女性ドライバーが防犯のために助手席に乗せるマッチョなダミー人形があったハズだ――経費でおちるかな?」
ネットを検索したらしい【SAI】が、迷彩服を着たバタくさい等身大な防犯人形の商品情報を映し出す。
『なるほど、こういう物ですか』
「げ!
総務のお局さまが眼鏡の奥から放つ、サド風味な冷たい目つきが浮かぶ。
「とりあえず帰社しようか。【SAI】――自動帰投Mode」
『諒解しました。「戦闘帰投Mode」「轢殺帰投Mode」「ぐいぐい帰投Mode」どれにします?』
「フツーのでイイ! フ ツ ー の で ! 」
オレ的には「ぐいぐい帰投Mode」に非常な興味があったが、【SAI】の説明が長くなりそうなのでヤメた。
大径のハンドルが勝手に回り、轢殺トラックは車で渋滞気味な道を事業所の地下車庫に向け走り出す。
――あのドレッドの野郎……どうやって引っ張りだしてやろうか。
ハンドルを【SAI】に任せつつ、コネクターから監視ポッドにリンクして二つの店の入り口を見張る。
キワどい格好のお姉チャンたちが歩いてゆく。
いかにも何かキメてそうな、ハイになったガキども。
ハンズフリーで何やら“納期”だとか“見積り”だとか呟いているリーマン。
路上でのケンカがあれば、なにやら泣きながらフラフラと歩くOLの姿もあった。
高そうなロード自転車でケータリングをする青年や、ぜんぜん受け取ってもらえないティッシュ配り。
店長らしき者に店の裏で怒られているバイトくん。ゴミだしついでにゴム長のつま先でネコとたわむれるラーメン屋のオヤジ。
――つまりは浮世の悲喜こもごも……か。
気がつけばトラックは車庫に至るスロープを下っていた。
天井の高い、広大な地下駐車場は、相変わらずエンジン音やメンテナンス工具の甲高い響きでうるさい。
さが、最近ではこの騒音が、ふと心休まるように思えるときがある。ようやく帰ってきた、という安堵感。
車両管理課にトラックのキーを返していると、朱美の姐御とバッタリ出会った。相変わらずの胸をはだけたムチムチなツナギ姿。
「ハィ、マイケル。ってどうしたの?その頬」
「朱美さん……なにね、依頼人と少しばかりやりあったのさ」
「ナニよそれ」
「いろいろあったんだ。そっちは?今日はもう終了?」
「目標をひとり殺ったんでね。今月のノルマは、もうおしまい♪」
ちぇっ。イイな。
こっちはいろいろ変な目標にかかずらって“ご新規”の実績がのびていない。
背景が背景なんで所長やネズミ面が手加減しているのだろうが、これ以上成績が伸び悩むと、よけいな目標を割り当てられるおそれがある。
ドレッドの件に集中できるよう“流し”で2、3人。転生ポイントの高い人間を見つけ轢いておくのもイイかもしれない。
「――約束、忘れないでよ?」
「運動会だろ?だいじょうぶ。行くさ」
「参観式には来てくれなかったんだから!こんどは絶対お願いね!?」
「仕方ないだろ。どてッ腹に風穴あけられた時だったんだから」
「とにかく、頼んだわよ!」
オレの元妻も、これぐらいスッパリと竹を割ったような性格だったらな。
なにかと文句を言ってきて、挙句に「ワタシがなんで怒っているかわかる?」とキタもんだ。クソが。
朱美の姐御は、まるで少女のように純粋なうれしさを、ケバめな表情に隠すことなくのせて、
「うれしい。あの子も喜ぶよ、絶対!当日はお弁当を――」
姐御のセリフの最後は、スロープを下ってくるトラックのエンジン音でかきけされた。
広大な地下空間に、マフラーを外したような、ひと昔前の排気音が響きわたる。
「うるッせェな!だれのトラックだ!!」
坂を下るぐらいだから、二次パワーユニットを切ってもいいはずなのに、やたらフカしながら降りてくる。
怒鳴ってもかき消されがちなその騒音は、見れば道理。3台の轢殺トラックが、連なって地下駐車場に入ってきたんだ。
この連中。まわりの轢殺ドライバーの注目をあびつつ整備エリアまでゆっくり“エレファント・ウォーク”をする。
そして最後に3台はひとしきりパワーユニットをふかした後、いっせいにエンジンを切った。
高いドーム空間に、ゆっくりと反響が消えてゆく。
トラックからドライバーたちが降りてきて、それぞれが始動キーを直接整備員たちにむかい、邪険に放る。
ひとり、わかい新米らしき整備員が取り落として、キーがコンクリートの床に澄んだ響きをたてた。
やがて一団は、辺りのギャラリーにスゴ味を効かせながら、管理棟にいるこちらに歩いてきた。
「くそっ――だれだァ?あのウルサイ連中は」
「あいつら、たぶん“巻き狩り”専門の轢殺トラック部隊だろ。“巻き狩り”するヤツラは気が荒いって評判だよ。トラックは……見たことないねぇ」
「あぁ。アレが集団で狩りをするって戦法の野郎どもか」
「ヤバい目標ばかりを割り当てられて、上層部からも一目おかれてるとか」
「ナルホド。それでデカい面ァしてるワケだ」
「ホラ、こっち来るよ!気をつけなマイケル」
3人の先頭を歩き、肩で風をきるようにやってきた男。
引き締まった体躯をした、光学補正ゴーグルらしきものをつけるこの人物が、ふとオレに目を留めた。