試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【一般版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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   〃   (Ⅱ)

「よぅ、(あん)チャン――イイ目ェしてるじゃねぇか」

 

 五十路に近いとみえる大柄な男だった。

 

 身体の各部にプロテクターが付いた、ゴツい革ジャン。

 ひと昔まえなら『バトル・スーツ』とか呼ばれる仰々しいシロモノだ。

 ふたりの配下も、デザインは微妙に違うものの大柄な男が着るものと似たり寄ったりな恰好。

 3人とも全体に荒れた雰囲気をまとい、リーダー格に至っては何のキズがしらないが、額に大きな引きつれがある。

 この連中がモヒカン刈りでないのが物足りない。世紀末救世主に〇孔を突かれて爆散する様を見てみたいくらいの出で立ちだ。

 そんな凄み満点な人物が「ギロリ」とマンガの擬音が聞こえてきそうな勢いでオレをニラむ。ややあって、リーダー格の男はおもむろに、

 

「この俺等にガン飛ばすタァ、ウワサに聞くションベン事業部らしいや。ロクな轢殺屋がいないと見えらァ」

 

 次いでツナギ姿をした朱美のほうに目をやって、

 

「んで?このパイオツが無駄にデカいフェロモン姉ぇちゃんも……まさか轢殺屋ってわけじゃねぇだろうなぁ?」

「お生憎サマだね。その“まさか”だよ」

 

 姉御がグイと進み出た。

 ツンと顔をあげて相手をにらみ、持ち前な鉄火肌の気風にモノをいわせるや、

 

「こちとら毎月のノルマはキチンと果たしてンだ!アンタらはとっととマッ〇・マックスの世界にでも帰んな!」

「……ンだとコラ」

 

 男の後ろにいた痩せっぽちとデブが、ズイとリーダーの前に出た。

 

「ココの業績がワルいってんで、来たくもねぇオレたちが出張るハメになったンだろが!」

「失踪者は出すわ目撃者は出すわ。とどめに(チチ)のデカさだけが取り柄の女ドライバーがでしゃばるときた。ロクな人材が居ねぇな!」

 

 なんだって――!

 

 上等だよ!と息巻きながら前に進み出る朱美の姐御。

 それをオレは腕で制す。勢いあまって二の腕にオッパイが当たった柔らかい感触。

 すると、リーダー格の手下ふたりは、姉御からこちらの方に目を向けて、胡散臭そうに目をほそめ、

 

「お前ェも!ここの“ちんカス運転手(ドライバー)”かァ?……フぬけたツラぁしやがって!」

「手前ェ……リーマンあがりだろ?会社の金を横領したか。それともオンナがらみで首になったか。えぇ?」

 

 どうも、とこっちは相手のアオリを無視して軽く会釈した。

 

 ――こいつら、挑発してやがる……。

 

 営業マン時代にキタえた人物感が、そう言っていた。

 適当にアオって、こちらの品定めをする気とみえる。

 ダレがそんな見え透いた手に乗るかってんだ、アホが。

 

 手の内がわかればこっちのものだ。状況が見えると余裕が生まれる。

 

 痩せっぽちはオレより身長がすこし高いぐらい。

 栄養が足りてなさそうな顔には、あごの辺りにアザがあった。

 もしかすると過去に事故をおこした名残かもしれない。

 

 デブの方は、オレより背がひくかった。

 だが、脂肪太りと言う感じではない。筋肉質で、やっかいなタイプだ。

 腫れぼったく眠そうなまぶたの奥に、油断のならない閃きがある。

 どちらも年代物の、いい加減にくたびれた臭ってきそうなバトル・スーツを着ているのは、なにか意味があるのか。 

 

「スカしてんじゃねぇぞコラ」

「その姉ェちゃんと、今夜あたり一発ヤるんじゃねぇんかい、えぇ?」

 

 手下の凸凹コンビは、さらにオレの方に進み出ると廉っぽいアオりをかましてくる。

 

 ――おいおいマジかよ。

 

 それを聞いたオレは、胸の中で失笑した。

 2人ともこちらと同じ三十路なのに、こんな頭の悪いセリフを言うのかね。

 昭和の時代にいた、港湾を根城とするガラの悪い昔ながらのトラック野郎そのままなノリだぜ。

 

「すかしてるなんて、とんでもない」

 

 オレは営業マン口調で慇懃無礼に相手をさばいた。

 

「高名な巻き狩りドライバー御一考とお会いできて光栄です」

 

 折り目ただしい一礼。

 下手に出たこっちの言葉に、デブが鼻白むのが分かった。

 痩せっぽちの方も、出かかったくしゃみが引っ込んだような顔をして。

 凸凹コンビの背後から、リーダーの男が面白そうにふたりを掻き分けオレのほうに寄ると、

 

(あん)チャン。頬のハレ、どうした。その威勢のイイ姉ぇちゃんに殴られでもしたか」

 

 手下2人の下品な笑い。

 オレも同じように笑ってやった。

 すると相手は、微妙な顔をして真顔になり、

 

「お前ェは笑わなくてイイんだよ!」

 

 いやぁ、とこっちは見積書の金額を取引先の相手にクソミソにけなされても愛想笑いを引っ込めない営業マンよろしく、

 

「この稼業やっているといろいろありましてねェ。皆さんもご経験がおありのハズだ……そうでしょう?」

 

 フフン、とリーダーの男は意味ありげに唇のはしを歪める。

 そして頑丈そうなアゴに生えた濃い無精ヒゲを撫でまわしながら、二重のイミでの上から目線で、

 

「聞いたハナシじゃココの事業所にァ、轢殺目標に撃たれて死にかかったマヌケも居るってハナシだからなァ……」

「えぇっ、そりゃマジですかい班長ぉ!」

「なかなかブッソウなエリアなんスね」

 

 ヤバイ。オレの話が出た。

 まさかドレッドの一件を知ってるのか?

 しかし慌てず騒がず、さりげなく話題を変える。

 

「するとそちらのエリアは平和なんですか。いいですねぇ……本拠地は、どちらです?」

「本社事業所だ」

 

 リーダー格が、わずかながら胸を張るのが分かった。

 

「一応、これでも俺等は全社的に見れば“選抜ドライバー”なんだぜ?」

「選抜ドライバー、ですか?」

 

 なんだそりゃ。

 はじめて耳にする名前だ。

 歴戦のドライバーである(しげ)さんからも、聞いたことがない。

 

「へぇぇ……当方は入社して2年も経っていないので分からないんですが。その選抜ドライバーに選ばれるには、なにか試験でもあるんですか?」

 

 バカかお前ェ、とデブが今度はエラそうにフンと鼻を鳴らし、

 

「普段の勤務実績と轢殺達成数にキまってんじゃねぇか」

 

 痩せっぽちが後を引き取って、

 

「しかも、いかに効率よく、静かに処理したかが重視されるからなぁ」

「なるほどぉ……」

 

 オレはいかにも「よっ、大将!感じ入りましたゲス」というヘリ下った物腰で、

 

「しかし――そうなると!給与もさぞかし良いんでしょうねぇ?」

「そんなでもネェよ」

 

 痩せっぽちは、垢じみた首のあたりを掻きながら渋面を浮かべ、

 

「いろんな手当がチビっと増えるだけだァ。ボーナスの増額だって、微々たるモンさ」

「ゃぁ……やはりどこも世知辛いんですねぇ。選抜の皆さんクラスなスゴ腕ともあれば、給与もらい放題、高級風俗にも行き放題と思ってましたが」

「ンなわきゃねぇだろアホが……」

 

 どうしようもないモノ知らずだなと言わんばかりに今度はデブがせせら笑いながら、

 

「まぁ、備品が少しばかり潤沢になるのと、必要経費がおとしやすくなるぐれェだ。そんぐらいの役得は当然だろうがな」

「するってぇと、ナンですかい?成績が良ければ、自動的に本社勤務になると……」

「そうは言ってねぇよ、アホ。まぁ全国の事業所からデーターを吸い寄せて、適当と思われる人材をピック・アップするんだろうな」

 

 備品が潤沢、ってことは……とオレはさらに太鼓もちのような追従笑いをうかべ、

 

「使っているトラックも、さぞかしイイものなんでしょうねぇ?さっき大きな排気音(エキゾースト)がしましたが。なかなかスゴそうな車体ですなぁ」

「俺等はモーターで人を撥ねるのが嫌いでね」

 

 自分のトラックを褒められて気を良くしたのか。

 ここでリーダー格の男がニヤリとわらい、とつぜんブッソウなことを言い出した。

 

「大出力のターボ・エンジンで、こぅゴリゴリっ!と盛大に目標を殺るのが本来の轢殺屋の醍醐味なんだぜ。分かるか?」

 

 おいおいその言葉……。

 

 さっきの“いかに効率よく静かに処理したかが重視”云々のくだりと矛盾してないか?

 すると痩せっぽちが、とつぜん目に底の入った光をやどらせて、

 

「まさに“命を轢いてる”って感じがしやすよネェ。ゆっくり動かすと、あのタイヤに伝わる感じがなんとも……」

 

 だが、この言葉にデブは「イヤイヤ、分かってないね」とでも言いたげに、

 

「ブースト圧全開で人を撥ねるのがイイんじゃねェか!こっち振り返る絶望した顔がサイコーだ」

 

 そこでしばらく“選抜ドライバー”たちの間で喧々諤々(あーでもないこーでもない)

 

 ――こいつら……。

 

 単なる“殺したがり屋”じゃないか。

 まるで【SAI】の人間版だ。いや、あのAIの方がまだマシのような気がする。

 すくなくともあの人工知能は審美眼、いや審美S/W(ソフトウェア)らしきモノを持ってるらしいからな。

 

「モーターで轢くんじゃ、こうはいかねぇからなぁ」

「まったく味気ないですぜ。ねぇ?」

「悲鳴のひとつでも上げてくれたら最高だけどョ、だいたい俺等は巧すぎてその隙は与えませんからねぇ」

「――あのぅ……」

 

 いくぶんウンザリしながらオレは議論に横入りしてリーダー格に、

 

「こちらの方にはどういったお立場で――まさか転勤?」

「アホか、ただの出張だよ。本社が俺等を手放すワケなかろうが」

「本社から来られたのは、お三方だけですか?」

 

 知らねぇよ、と相手はにべもない。

 

「ここの親分から、何らかの通達があるんじゃねぇの?ソイツに聞けや。言っとくが俺等はあのクソ下らねぇ『朝会』なんかには出ねぇからな?選抜ドライバーの特権さ。いや、初日ぐらいは出てもイイか……ここのマヌケ共の面ァ、拝んでおくのもおもしれぇ」

 

 ここでリーダー格の腕に巻かれたスマートウォッチが鳴った。

 それを見たこの男は忌々しそうにオレたちを見て、

 

「ちッ!下らねぇトコで話こんじまった――オィ、行くぞ」

「ま、ノルマの達成がんばりな新人ちゃん?」

「アバよ。そのうち本当の殺し方をおしえてやるぜ」

 

 いうだけ言うと、選抜3人組は技術棟の方に向け去ってゆく。

 

「――クソっ!」

 

 朱美がその背中に向けてドライバー・シューズで蹴るマネをした。

 

「ナンだい、あいつらは!本社もトンでもない奴らを飼っているもんだね」

「まったく……じつに興味深い連中だ」

「なにさ!マイケルも!ヘラヘラと媚び売ったりして!」

「媚びだァ?」

 

 オレは姉御の憤慨した顔を眺めながらフフッとなって、

 

「奴ら。こっちが下手に出たことで、いろいろベラベラとしゃべってくれただろ?」

「あッ……」

 

 朱美の顔が、純粋な驚き顔にかわる。

 

「アンダまさか――それが目的で?」

「もうすこし話をして、本社のことや事業所のカラクリなんかを聞きたかったが、惜しかった。あのクソ男の腕時計さぇ鳴らなきゃなぁ」

「まったく!アンタってヒトは。ずるがしこい男だねェ……」

「そういや姐g……いや朱美サン。本社って、行ったことある?」

「はぁ?どこにあるかすら知らないよ。第一本社とか、第二本社とか」

「なんだ?第二本社って」

 

 アンタねぇ……と姐御は感心した顔から、ふたたびいつもの呆れたような雰囲気にもどり、

 

「会社の要綱にあったでしょう?第一本社は大阪。第二本社は東京……らしいケド」

「アドレスとか無かったっけ?」

「ずいぶん昔に見たっきりだけど、建屋のフォトすらなかったよ」

「でもヤツラは……そこから来た」

「知るもんかィ!あんな下品な男どもなんて!」

「たしかに。あんなのが“選抜ドライバー”だとはなァ……知ってた?この制度」

「さぁね」

 

 気のなさそうな声で朱美はそういうと、急に醒めた表情になる。

 脂の乗り切った若年増(わかどしま)(かお)が一転、生活に疲れたシングル・マザーの面差しになって。

 

「きょうはウチの祖父母が病院なので、アタシが竜太を迎えにいかなきゃ。まったくアタシもヘンなとこで時間食っちゃったよ」

 

 じゃぁね、と朱美は豊かな尻をふりたてて去ってゆく。

 あのボリュームには、クスリで盛り立てた『美月』も、いや詩愛ですら敵わないなとオレは苦笑する。

 すれ違った整備課の若いスタッフたちがそんな豊尻を振りかえり、いつまでも名残惜しそうに見送っていた。

 

 ――ちぇ。オレも今日は帰るか。

 

 なにかあのアホ三人組のおかげで、気力をゴッソリと削り盗られた気がする。

 管理部に行ってコネクターの持ち出し許可を得るため、複雑な書式となった『帯出依頼票』を記入。同時に整備部に頼んで、念のためトラックへ電源供給ホースをつなぎパワーを確保してもらった。

 

『おや。マイケルまだ仕事をやりますか?』

 

 リンクが生き返った片耳に【SAI】の驚いた声。

 

『基幹電源を供給してくれるなんて?』

「店の監視だけだ。一応ポッドにも目標が現れた場合の警報はカマしているが、オマエも気をつけておいてくれ」

『アイ、サー』

 

 このところ轢殺も途絶えている。ノルマも危ない。

 こりゃ数日中に上から目標を押し付けられるかなと危ぶみながら、オレは事業所を後にする。

 メンドくさい目標だと、ドレッドたちの監視との両立が難しくなるだろう。やはり何とか言い逃れしないと。

 

 なんだかんだで、もう21時を回っていた。

 

 コンクリの冷え冷えとした地下駐車場からエレベーターで事務所を経て、外に一歩を踏み出す。

 もわっとした、生暖かい空気がオレをつつんだ。

 見上げれば、工業団地区画の広い夜空に星もまばらな空間が頭上を覆って。

 何かそこはかとなく感じる見通しの暗さに、オレは思わずタメ息をついた。

 電車の中でワンカップを飲みながら談笑する作業着のオッチャンたちをチラみしつつ、オレはふと、

 

 ――そうだ。『美月』のヤツに、なにかケーキでも買ってってやるか……。

 

 工業地帯を走る、この時間帯は本数の少ない電車に揺られながらオレは何となく考える。

 じっさい家庭を持ち続けていたら、似たようなことを頻繁に考えていたんだろう。

 そういや夢の中のオレも、シーアのご機嫌取りに、いろいろお土産を買って帰ったっけ……。

 

 春のフェニックス・フルーツ。

 聖者の水ゼリー/夏離宮風。

 秋の石焼イモ。

 雪の恋人たち……。 

 

 一般的な団欒の営みから遠くはなれたオレだが、いまだに人並みの幸せを考えないことも無い。

 そのなぐさめ相手が、リアルJKである『美月』に向かぬよう心せねばと、己を改めて戒める。

  

 

 

 異変を感じたのは、不死屋で売っていたケーキの箱片手に、寮の部屋の扉へ手をかけた時だった。

 ペンキの色あせた鉄の扉を通して、中からかすかに悲鳴が聞こえる。

 

 ――しまった!

 

 頭の中にしつこく残っていた3人組の印象が一瞬でふきとび、全身の血が逆流して一気に戦闘モードになる。

 

 やられた!侵入者だ!

 留守のスキを狙われ、『美月』が襲われている!

 部屋の左隣は、ながらく空き部屋となっていた。

右がわのギシアン若夫婦は、今日なにか泊まりがけの大荷物を抱え外出するところを見ている。

 両隣が居ないので、暴漢が侵入してちょっとやソッと物音を立てても気づかれなかったのだろう。

侵入者は、あるいはそれすら調査した上で行動を起こしたのかもしれない。

 ただでさえこの地区は周辺とのつながりが希薄で、他人には関心をもたない人間の集まりだった。

 だからこそ、轢殺ドライバーの寮にもなりうると総務の福利厚生担当に聞かされていた。

 

「【SAI】!――【SAI】!」

 

 切羽詰まった(ささや)き声でオレは事業所の相棒をよびだす。

 

『どうしましたマイケル。そんなにアワてて。まだ目標は――』

「オレの部屋に侵入者だ!中の動体を検知しろ!早く!」

 

 コンタクト・レンズ型モニターに浸透型サーモグラフ(赤外線検知)の人型が浮かんだ。

 壁を通しても自動で感度を最適に調整し、熱を検知できるスグレものらしい。

 

 ――2人いる。

 

 ひとりは『美月』のヤツだろう。

 そしてもうひとりが、何やら激しい前後運動をして……。

 

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