試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【一般版】 作:珍歩意地郎_四五四五
――うわ……。
ピン・ストライプなパンツ・スーツにショルダーバッグ姿の詩愛。
端正な顔立ちの奥から、冷ややかで険を含んだ視線が放射されている。
ひくいヒールのパンプスが、カッ!と鳴らされ、彼女がグィと身を寄せた。
腕にしがみついていた『美月』が、ヒッ!と言うようにオレの影に身を縮めて。
「やっ、やはッ。詩愛サン――コレハ奇遇ですねヱ」
「どうしましたの?声がウラがえってますわよ」
いくぶん事務的な声で、つけつけと彼女は言い放つ。
見慣れぬ冷ややかな目が、疚しさ全開なオレの心にグサグサと突き刺さって。
それを“女のカン”で察知するのか。彼女はさらに雰囲気を数度下げ、おまけに皮肉な微笑を浮かべ、
「……それに、ずいぶんカワイイお嬢さんを。お連れになられてますコト」
「いや、これはだな。そのぅ、ナンだ。この子をバイト先まで送ってゆくトコだったんだよ」
夕方のラッシュで、通勤客が二三、立ち止まるオレたちに突き当たっていった。
広いコンコースの中央で立ち止まっていては邪魔なので、オレたちは端まで歩いてゆく。
どことなく固い、そして怒りのオーラめく気配をみせる、男性的なスーツの背中に向かい、
「んで、キミは?――仕事の帰りかい?」
すぐに返事はなかった。
ややあってから、いくぶん暗く澱んだ声で、
「それもありますけど……
「医者?どこか悪いのか」
鷺ノ内医院は内科だ。問題があるとすれば、それ以外と言うことになる。
三人はコンコースをゆく人の流れからはずれた、ちょっと静かな物陰にはいった。
声がだいぶ聞き取りやすくなり、同時に詩愛の珍しく強ばった
「精神科のクリニックですわ。おクスリを――抗不安薬をいただきに」
「精神安定剤?なんでまた」
ふぅっ、と彼女は物憂げに小さく息をついて、
「わたしの気にかけている殿方が、そんなハレンチな恰好をした女の子と歩いているのを見たときに必要なんですのよ」
「またまたぁ。そんな身もフタモない。この娘はタダ――」
そう言ったとき、姉に顔を見られないよう、うつ向いて左腕にからまる『美月』の手がギューッと閉まる。そして、ビスチェをまとう自分の胸が変形するほどオレの腕を押しつけた。
チロリと目ざとくそれを見つけた詩愛は、さらに絶対零度めく冷たい視線で、
「マイケルさん。どうやら
「オレは!その。この子を、ただバイト先に送り届けてあげようとしただけだよ」
「そぅ?じゃぁ、参りましょうか――わたしもご一緒しますわ」
どことなくお局サマを思わせる挑発的な口調で、彼女は冷ややかに
「で、どこにありますの?そのお店」
「うん……遠いぜ?歩いて20分ほどかかるかな」
「かまいませんわ?」
うぅ。
多めにサバをよんだ時間を伝えたにもかかわらず、彼女が引き返す気配は無い。
――仕方ない……か。
まさに薄氷をふむ思いのまま、ひやひやとオレは歩き出す。
このデーハーな、アタマのユルそうな恰好をした少女が自分の妹だと知ったら、彼女はどんな顔をするだろうか。
怒り狂う?はたまた呆れたような、脱力した視線で『美月』を嬲るだろうか。はたまた……。
時間的には夕暮れだが、頭上には明るさが十分にのこる季節だった。
そんな空のもと。だんだんと賑やかさの勢いを増す繁華街のなかを、オレたち三人連れは、どこか心がバラバラな感じで歩いてゆく。
かかる“珍道中”ともいえる道行き。
そこでどうしたことか詩愛は、オレのうでにからみつく“過激なファッションをした少女”をネチネチといたぶり始めていた。
「まぁ、でもアナタ。街中を、そんな露出の多いアッパーで。恥ずかしくないの?」
「……」
「おまけにこの人混みを、風が吹いたらおシリが見えちゃうようなスカートで」
「……」
「そんなことじゃ、HENTAIさんが寄ってきてしまいますよ?」
「……」
「それともHENTAIさんに自分のカッコウを見て欲しいのかしら?」
「……」
しんねりとした彼女の口調に眉をひそめつつ、そういや、例のストーカーはどうしたとコネクターの投影画像を見れば、頭に丸くマーカーを付けられた男が背後からつかず離れず、何気ないフリをよそおってキッチリついてくる。
詩愛がいなければ、追いかけて素性をあきらかにしてやるのだが、姉妹を二人きりにした結果、オレの腕に絡みついていたのが妹のなれの果てだと彼女にバレるわけにもいかない。
彼女は『美月』が履くヒザうえ丈の、ピッチリとした黒革ブーツに目をやり、
「ずいぶんヒールの高いブーツねぇ……12cmはあるのじゃなくて?」
「……」
「まさか。このシュミの悪い
「いやぁ。そんなことはしないよ」
「そ。良かった。でも、露出満点のミニやウェスト・ニッパーは、百歩ゆずってイイとして……」
詩愛は、さらに彼女のファッションを下から上へと
「その首輪のようなチョーカーは、いただけないわねぇ。連れているマイケルさんまで品格を疑われてしまいますよ?ねぇ貴女」
「……」
「たしかに、こんな淫らな格好じゃぁエスコートが必要ですわねぇ。もう少し考えないと」
「……」
「ま、貴女みたいな“あたまパー”な人には、たしかにお似合いですけど」
「……」
恥ずかしさのせいか、絡めてくる腕に力がこめられ、熱くなった彼女の体温を伝えて。
「あのなぁ……」
いい加減イラッとした。
ついにオレは足をとめ、往来であることを忘れて思わず声をあらげ、
「さっきから何だね?この子にイヤがらせばかりして!」
「いやがらせですって!?」
「そうだろうが!きょうの君には、いったいどんなモノが取りついているんだ!?」
通りすがりの夜の蝶たちが一瞬驚いたような顔をして。
やがてクスクスと視線を交わし、忍び笑いをしてすれ違っていった。
たぶん痴話ゲンカか、三角関係のもつれとでも思われたんだろう。
「どうしたんだ一体!――君らしくもない」
言われた詩愛は一瞬、ムッとソッポを向いていたが、次いでホロホロと涙を流しはじめた。
やがて、ようやく押し出すような声で、
「……ごめんなさい。つい、カッとなって」
思わぬ相手の反転攻勢。
またも“女の涙”という業物を見せつけられたオレは気勢をそがれ、一転オロオロしてしまう。
「おいおい、泣くほどのことか?」
だんだん周囲の視線が気になりだしたコッチとしては、声もなく目頭をおさえる彼女を何とかなだめすかし、お引取り願いたいところだった。
「悪かったよ、怒鳴ったりして。でもホントにどうしたのさ」
「……具合が……すこし、悪かったものだから。つい」
「ぐあいだって?大丈夫なのかね。もう家にもどった方が良かないか?」
「そうね……」
彼女はレースのハンカチで目をぬぐった後、鼻声のまま、今度はみょうに明るい表情で、
「ねぇ。この娘をお店に送り届けたら――お食事に行きませんこと」
「えぇっ?」
「どこかのホテルのレストランにでも。僭越ながら、お代はわたしが」
このあとは寮にトラックを取りに行き、轢殺稼業を再開しなきゃならない。当然、飲むなどはもってのほかだ。
それに、このジェットコースターな態度の変わりよう。これは本当に情緒不安定なのかもしれない。
どういうわけか、腕に
――イテテテテ……。
「ね?宜しいじゃございません?」
しいて声を励ますようにして、作ったような明るい面持ちで詩愛は、
「わたし、このところツラいの。家じゃ父の機嫌がいつだって悪いし、母は
「あぁ。それで精神安定剤を……」
それだけではありませんわ?と彼女は歩きながら、オレとオレの陰に隠れるようにして俯き足をはこぶ『美月』をチラリ、
「気にかかる殿方は、わたしのことをチッとも見て下さらないし!デキの悪い妹は!」
カッ!と再びパンプスを踏み鳴らし、彼女は美しい顔つきを険しくすると、
「お
――イテテテテ……。
「それに――この前、高校の担任の先生がいらっしゃいまして……」
「え、『
「それはどうやら父の見せかけだけだったようですわ。このままでは出席日数もあぶなく、進級もおぼつかないって……」
オレは絡みつく『美月』の腕を、反撃とばかり密かに右手で(オラオラ)と突いた。
ナニをやってるんだコイツは。“少女老いやすく、学成り難し”なんだゾ?
「やっぱり父親だ。娘のことを、気にかけているんだね」
「……どうですか。体面の方が大きいと思いますけど」
やがてオレたち3人は、【
明るいうちにみると、やはり建物の大きさが目に留まる。
六道ビルヂングと同じく昭和初期の意匠をのこす建物は、もとは糸へん景気・金へん景気で潤っていたどこかの会社の建屋だったらしい。建屋が古いので耐震の問題があるところを役所の担当部署にワイロをわたしてやり過ごし、内部を豪華に改修したと、小男からは聞いていた。
「ここが……」
詩愛は店の威容に呆気にとられたようだった。
「マイケルさんも行きつけの店ですの?」
まさか、とオレは苦笑して、
「こんなところに通ったんじゃ、たちまち破産さ」
入り口には、早くも耳にインカムをつけた黒服が2名、お客を待ち受けていた。
そのうちの年配者に、見覚えがある。
通りしな、オレはちょっと足を停め、サングラスを外してその男に目くばせをした。
相手も気づいたらしい。
おぉ!と相好をくずし、手元のタブレットを掲げてみせ、
「
「やっこさん、まだ居ないんだろ?出張とか」
「来週には、もどってくると思うんですがネェ……ありゃ?」
年かさの黒服はオレの脇にしがみつく『美月』をのぞきこみ、
「なぁんだ。妙な子をダンナは連れていると思ったら、ミッキーじゃねぇか」
「歌のレッスンがあるらしくてね。今日はエスコートしにきたんだ」
「あぁ。マダム・ヴァランのレッスンか。裏口から入ってくだせぇ。いまナシつけときマ」
そういうと、この年かさは耳もとのカムに何ごとか略語めいたものを伝える。
「あら――この子、生意気に歌のレッスンなんか受けているんですの?」
ソッポを向く『美月』の後頭部を、詩愛はシゲシゲと見つめる。
黒服に挨拶してわかれ、正門を通り過ぎて、いつかの裏口へとたどりついた。
コネクターの映像の中でストーカーが、オレたちの後ろを何気ないフリで通り過ぎてゆく。クソが。
入り口を張っていた黒服たちは、表からの連絡を受けたのだろう。オレたちの姿をみると、前栽の鉄柵をガラガラとあけた。
中のリーダーらしき1人が耳のカムに手をやって、
「3名さま――ご到着ゥ!」
「いや、我々は……」
「あら、いいじゃありませんか」
詩愛は“ニンマリ”と擬音がみえるくらいの、邪悪とも思える笑みをもらし、
「わたしも美香チャンの歌を、聞いてみたいですわ……」
* * *
「ちぇっ、ヒトが悪ぃナァ。ハナから分かっていたのか」
店の楽屋裏である廊下を、サブ・フロアマネージャーだという中年男に案内されつつ、オレはぶつくさと文句を言った。
「余計な神経使うんじゃなかったぜ」
「……お姉ぇちゃんヒドい」
なにがヒドいもんですか!と柳眉を逆立て詩愛がキレた。
「美香チャン!?そんな。色キチガイみたいなカッコして!」
腕組みをして歩きながら、姉は妹のファッションを横目にして冷たい眼差しでみつめる。
「恥ずかしいと思わないの?まったく困った娘!」
「だって!仕方なかったンだモン!!」
意外にも『美月』逆切れで応酬する。
この彼女の大声で、こちらに気づいたのか、
「あっ!ミッキーだ♪」
「やだ、ホントに着てきてるの?」
廊下の奥から、バニーガール姿の2人連れがやってきた。
あいかわらず“
2人とも顔はもちろんのこと、ボディ・スタイルも、そんじょそこらのグラビアモデルなど比べものにならないワガママ・スリーサイズだ。
もっとも――メスやクスリで、矯正されているのかもしれないが。
ヒョウ柄のバニーコートをまとった片方が、携帯で『美月』のキワどい服装を撮ってから、
「いわれたとおり、ちゃんと着てきたのね。エラいエラい」
「どぅれ?下のほうはどうかな?」
いきなり『美月』のミニ・スカートが有無を言わさずめくられる。
すると“いつでも挿入OK”なきわどいショーツが丸見えに。
サブ・マネージャーが苦笑いをしながら、
「おいおい。大事なお客サマのまえで、ナニしてくれてンだ」
「あら――ワタシたち、彼女を試したのよ?ちゃぁんと“ウサギの女”になれるかどうか」
日焼け肌に髪を茶髪にした姉御肌と見えるヒョウ柄のバニーがあとを引きとって、
「良いトコ出のお嬢チャンらしかったから心配だったけど、どうやら大丈夫のようね?いいわ。大部屋のみんなにも言っといたげる。この娘は、
やはり、とオレはうめいた。
『美月』は第三者に言われて、この格好をしてたのだ。
「おやめなさい!」
目前でくりひろげられる醜態に、とうとう詩愛が割ってはいる。
「なにをなさるんです!
「サブぅ、このヒトだれ?」
詩愛を
中年男は慌てず騒がず、落ち着いた口ぶりで、
「ダレって……お店の見学のお方だよ」
「ふぅん。じゃぁウチらの部下になるわけかァ」
えぇっ?と詩愛の驚いた顔。
そんな面差しを、スタイル抜群のバニーたちは“
「お
「でも、先輩、後輩のけじめは付けなきゃネ」
格上らしい黒バニーが腕組みをして詩愛をニラみつける。
バニー・コートで縛められた、彼女に負けず劣らずな巨乳の下で腕組みをして、
「さもなきゃ、ココじゃ
2人の、3人の間で火花が
毛色のまったく異なった美女3人。
しかし、ややあって詩愛は
「申し遅れました。わたくし、この子の姉である鷺ノ内・詩愛と申します」
バニーたちの間でアッ、という気配が伝わる。
それは彼女たちにとって、思わぬ不意打ちであったに違いない。
一転、気まずそうに顔を見合わせるが、ヒョウ柄のほうがボリボリと茶髪をかきながら照れ嗤いをうかべ、
「んだョ、そうだったンか。ワリーワリー。そりゃ実の姉サンだったら、怒るわなぁ」
そういうや、『美月』の方に歩み寄ると首に肩をまわし、
「ナンでもないんだ。実はコイツとオレは、同じ組の仲間なんだぜ?」
「ゴメンなさい。勘違いしてほしくはないんだけど、別にイジメじゃないのよ?ただ先輩として、このお店で働く覚悟が知りたかっただけなの」
黒バニーも、あわてて場を取りつくろうようにそう言って、こわばった笑みを浮かべる。
ヒョウ柄は大きな尻をふりたててサブ・マネージャーの方を向き、
「しっかしウチの店もガメついよねぇ~。姉妹をワンセットで売りだそうって魂胆かぁ」
「売り出すですって?いったいなにを……」
詩愛の驚きにも気づかず、次いでヒョウ柄は、そういう彼女のまわりを、まるで品定めするようにゆっくりと周り、
「ミッキーの姉さんなら、そりゃ美人なワケだよ……見れば見るほど男好きのする肉づき。申し分のないお面。このペア、売れるぜ?」
「あなた――男との経験は」
いきなり黒バニーにズバリと言われ、詩愛は目を白黒させる。
「なっ、いきなりなにを!それは……その」
「だよ、なぁ?」
ヒョウ柄が、なぜか嬉しそうに足ぶみ。
ラメの入ったタイツが脚の表面にキラキラと光沢を
「こんな美人、男どもが放っとくワケねぇモンなぁ。よぉサブ、このヒトも歌ァ仕込むの?」
サブとよばれた中年男もニンマリと笑みをうかべ、
「今後の話しだいだねぇ。接待のテクニックはもちろん、コトによったら性技も“特別指導”で覚えてもらわないと……」
「正義、ですか……?」
「そ。フェラとかパイずりとか……アンタもオッパイ大きいもんねぇ」
ヒョウ柄に言われてようやく意味の分かった詩愛は(まぁ何てこと!)とでも言うように顔を赤くする。
「おほォっ♪そのウブっぽいとことか!ヒヒじじぃ共にも大モテだぜェ?きっと」
このまま2匹のウサギに言いたい放題いわせていたら、いいかげん詩愛も怒髪天をつく勢いになっただろう。しかし、このとき『美月』の携帯が鳴りだし、一団をしずめる。
「あ……いッけなぁい。マダム・ヴァランからだ」
「えぇっ?あのSMババぁ、ナンだって?」
「きょう、歌のレッスンの予約をしているんです。もう時間過ぎちゃってるゥ」
それを早く言いなさいよ!と黒バニーがあわてだした。
ヒョウ柄バニーも血相をかえて『美月』をうながして、
「さ!ハヤく――行った行ったァ!」
オレたちは追われるようにバニーたちから別れ、廊下の奥へといそぐ。
やがて廊下に独特の匂いが漂い始めた。
音楽室やスタジオでよく嗅ぐ防音材の匂いだ。
両側にならぶ重そうな扉のうち、一つに[Mme.Ninon Vallin]と札のある取っ手を『美月』は引き開けた。
「遅れました!」
部屋の中に飛び込んでゆく彼女に続いて、オレや詩愛。それにサブ・マネージャーまでゾロゾロと入ってゆく。
「
ムチを手に、乗馬用の正装をした美貌の中年婦人が、女性の伴奏者が座るグランドピアノわきで仁王立ちになり、入室してきた『美月』を、そしてオレたち一行を、何とも評しがたい目つきで眺めわたした。
* * *
自粛!自粛ゥ~~~!!!111
「小説家になろう」みたいに、いきなり削除食らうのは、もうゴメンです。
しかし、黒バニーとヒョウ柄バニーなんて登場予定には無かったんですが。
もうキャラが勝手に登場、暴れだして収集がつきません……。