試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【一般版】 作:珍歩意地郎_四五四五
* * *
『マイケル、さっきワタシの悪口言ってたでしょう』
張り込み用の寝具一式を後ろにセットして、厭世人レーダーの指示に従いながらトラックを走らせていると、いきなり【SAI】が沈黙を破った。
『
「盗み聞きしてたのか……ワルいやつだナァ」
『これでも自分のセンスには、自信をもっているんですが?』
オレの中で少し、警戒感が生まれた。
【SAI】はどうやって会話の内容を知ったのだろう。
それとも空気の微細な振動をひろって?
あるいはレーザー光でも当てて、その反応からか?
もしかすると、機能を制限されているはずの朱美の【SAI】が会話を中継したのかもしれない。
警戒するこちらをよそに、このスーパーAIは分かったような口調で、
『朱美サンの件ですが……』
「んう?」
『アレは完全にさそってましたよ。マイケルは気づかなかったかもしれませんが』
心ならずも一瞬、オレは沈黙してしまう。
かつて味わった家族の団欒。それがおどろくほど鮮明によみがえって。
「そ……そうか、なぁ」
『女ごころが分からないンですねぇ』
ムカつくことにこの人工知能はドヤ声で、
『だから配偶者にも逃げられるんです。これでワタシの華麗なセンスをよく疑えたものですね』
言い返そうとして、やめる。
どうやらコイツは言葉の語勢から、心理状態を確認するすべまで、いつのまにか身に着けたらしい。いや――あるいは単に朱美の【SAI】が音声だけでなく映像も中継して、その内容を解析した結果だろうか。
いずれにせよ【SAI】“たち”には、気を付ける必要がありそうだ。
朝会で
『マイケル……ゴメんなさい。すこし、言い過ぎたようデス』
オレはさらに驚く。
ここ数週間で、【SAI】-108の心的能力が一段と増している、ような。
オレの驚きの沈黙を、コイツは怒りと取ったらしい。
気まずそうな声で、
『お許しが出るまで、業務に集中します……』
恐ろしいものだ、と舌を巻かざるをえない。
――“萎縮”の思考回路まで構築するとは。
その日の午前中は、独りで車載レーダーの示すまま、オレは標的――もとい転生志望者を探した。
獲物の――潜在的転生志願者の見つけ方は何パターンか。
1)本部から直接、該当する人物を指示される。
2)厭世観、または自殺志願者をサーチし、処分――処置する。
3)ドライバー個人の責任でネットに自殺サイトを立ち上げ、アクセスしてきた人間から目星をつける。
4)情報屋を私費で抱え、それを
……等、等、等。
なかには違法なことをやってポイントを稼ぐドライバーも居るらしいが、そういうヤツとは付き合わないので、情報は入ってこない。JCやJKをクスリで手なずけ、学校のコネクションからアタりをつける下司なヤツも居るときく。
成果のないまま、昼メシどきになったので適当なラーメン屋でも見つけようと、幹線通りから外れた抜け道をゆるゆる進んだ時だった。彼方で趣味の悪いピンストライプのスーツを着た男が、横道の入り口に<工事中>の看板を路面に置くのが見えた。とても工事の業者とは思えない。
なんだ?とその一通な横道に、ゆっくりトラックを寄せた時だった。
とおくで、なにかが激しく争う気配。
「【SAI】9時方向。距離30、録画」
『了解』
モニターに、ズーム画像と指向性マイクでひろった音声。
〔だから金なんて無ェっってんだろ!?〕
〔じゃァ、テメーの身体で払えや。“プッシャー”がだいぶ怒っててナ〕
〔知らねェよ、汚ねェ手でさわンなよキモおやぢ!〕
〔コイツ、女子〇生のクセに( ・∀・)イイ!!身体してやがるぜ〕
争い、もみあう気配。荒い息使い。
ふたりのヤクザ風な男が、独りのJKを羽交い絞めにしている。
〔ヘヘヘヘ……アニキんとこ納めェ行こうぜ。“カスリ”ん足しになッかも〕
〔バレねぇかな?最近は
〔こんな家出メスガキ、さがしゃしねぇよ〕
〔それもソウか。アニキも好きモンだから、よろこぶナ?〕
あとは下卑た笑い。
ビリィっ!と服が破かれる音。
出かかった悲鳴は、すぐに押さえつけられ、くぐもった声に。
〔コイツ、
〔合点だ!アニキの趣味にあわせてハードに姦ってやんよ!〕
〔クスリブチこんで30分も革袋に漬け込んどきゃ、洗脳効果でおとなしくなンだろ……〕
なんだ、とオレはがっくりして、ラーメン屋の心配にもどる。
クスリの横流しがバレたJKが“ケツ持ち”から制裁を受けて
警察に通報するまでもない。
自己責任。
因果応報。
自業自得。
焼肉定食。
――ハッ!まて!!
オレはこの日はじめて真剣になる。
――ラーメンじゃなくて……焼肉定食も良かないか!?
ソースの染み込んだタマネギのかかった肉。
肉汁を吸ったキャベツの大盛り。お代わりもあるライス……。
コレは悩みどころですよ?とオレはラーメンと生姜焼き定食を秤にかけながら、グゥゥゥっ、と腹を鳴らしつつ真剣に精査する。
横道の入り口近くでトラックを止め、けっきょくオレは定食屋の引き戸をガラガラと開けて油じみたような店に入ると、汚い厨房着をまとうオヤジに生姜焼き定食の注文を通し、壊れかけたパイプ椅子を引き寄せて、ヨレヨレになったスポーツ新聞片手にお冷やをふくんだ。
棚の上のTVが、炒め物の音に押されつつ芸能人がしゃべるニュースもどきを伝えてくる。
どこもかしこも不景気な話。CMは通販が目立ち、人手不足が叫ばれるワリには、パワハラだリストラだの話題がつづく。
スポーツ新聞の荒涼たるエロ欄を素通りして政界ゴシップを横目にしていたところ、また引き戸が開き、現場作業員の兄チャンたち入ってくると、てんでバラバラに注文をしてちかくのテーブルにドカドカと座り込んだ。そして行儀わるくイスの上で片ひざを立て、別段こちらを気にする風でもなく、
(――知ってッか?半グレどもが……)
(――あぁ、黒龍ンとこの
(――ホっとけ。破門を食らった連中同士がツルんでるだけっしょ)
(――ヤツらに関わらないほうがいい……ありゃ狂犬だ)
なにやら穏やかでない話を背中で聞きながら、オレはオバちゃんが運んできたジュウジュウと美味そうな湯気をたてる生姜焼きにかぶりついた。
(――あいつら***組の鉄砲玉になったってハナシだぜ?)
(――ウチらンとこも影響あッかな?)
(――関係あるけェ、オレ等みたいな下っパ)
(――でも上納がキビしくなるカモよ……?)
あとは鍋をあおる気配と揚げ物のはじける景気のいい音に消され聞こえない。オレはスポーツ新聞をたたみ、下世話な話も頭から締め出して、いまはゆっくりと昼飯を平らげる。
ご飯と味噌汁をお代わりして、ようやく満足したオレは、すすけたような定職屋の天井をあおぎみた。
――さぁて……また狩りにもどるか……。
存外にうまかったので上機嫌で暖簾をくぐり出て、プラプラとトラックのところに戻る。
よっこらせと運転台に登ると、彼方で例の男二人組が何やら重そうな黒い包みを後部座席から抱えだし、はねあげたトランクの方へとヨロヨロ運んでいくのが見えた。
――なんだ、あのヤクザども。ま~だやってるのか……。
うさんくさげに彼方を一瞥し、オレはあくびをする。
マズい。
腹がいっぱいになったせいか、眠くなってきた。これはどこかの公園で30分ばかり昼寝をしなくてはならない……。
シートの具合を直し、さて、とエンジンをスタートさせようとした時。
『マイケル、そのぅ……』
いかにも遠慮がちにAIが話しかけてきた。
まだ、先ほどのことを引っ張っているとみえる。
しかしオレは美味いメシを食って上機嫌だ。聞いてやらないこともない。
「なんだ――言ってみろ【SAI】」
『あの反社会的組織構成員ふたりが……』
「あぁ、あそこのヤクザか?それがどうした」
『マイケルが留守のあいだ、ワタシを調べていきました』
「人が乗っていないか、気になったんだろ?」
『その際、彼らをサーチしてわかったのですが……』
「ふむ?」
『彼等、転生ポイント85と80です』
――なにぃィィィっっっッッッツツツツt!!!111
眠気が一気にフッ飛んだ。
ガス欠で走っていたトラックが、彼方にスタンドを見つけたような。
あるいは古書愛好家が、格安の値段がつけられた稀覯本を手にしたような。
それとも……
いやいやいや!まて!まて!――まて!!!
――ここはひとつ慎重にイこう……。
「キッド!周囲の防犯カメラ!確認!」
『ありませんマイケル』
まるでこちらの質問を予期していたように【SAI】は即答した。
『あの二人組は、あらかじめあの場所を選んでいたようで』
「へぇ……意外と手慣れてるのな」
『役所の担当課から情報を得ているのでしょう――わたしたちみたいに』
しばらく見守っていると、やがてトランクが閉められ、ガタイのいい二人組が息をつき、ニヤリと笑う二人組。
やがて彼らもそれぞれ前席に入り込んだ。
『やっちまいマスかィ?
【SAI】がニヤつく気配。
「♪チャララァ~~~!!!ちゃららぁ~~~!!!」
ズン・チャン、ズン・チャン、とキャビンに「仁義な〇戦い」のテーマが流れはじめた。
こっちも菅原〇太をイメージしつつ、トラックを始動させる。
「♪男の~道は~……」
エホン、と【SAI】のひかえめな咳払い。
「……♪ふたり旅ぃ~~」
『いいですね、マイケル』
セダンが動き出した。
抑えるなら、この場しかない!
オレはヘクサスに近づくとロー・ギアのまま相手の後ろにドン、と軽く追突してやる。
相手は停車。一瞬沈黙。
やがて、助手席から頭のワルそうな兄チャンが青筋立てて出てきた。
そして無残につぶれたヘクサスの後部を確認するや、鬼のような形相でこちらを向き、
「≧∩Θ⑧!オ㍗ル§※@ら;lskふじこ;rじゃ!――おゥ!?」
『マイケルww何語wでしょうwwコレ』
「さぁ?wwwヤクザ語wじゃねww?」
オレはギヤをバックに入れ、ゆるゆると後退。
すると、相手はそれにつれ、威圧しながら追ってくる。
――バカが。
ほどよく相手のヘクサスから離れると急速バック。
相手は何か叫びながら追って来た。
ブレーキ。
轢殺ギアへ。
急速前進。
最大トルクで、ドンと撥ね、転がしたところを車体の下へ。
跳ね上がる電力消費量。
車体の下から「ボリボリ」と何かを
異変を察したのか、ヘクサスからもう一人が降りてきた。
怪訝な顔をしながら、こちらのトラックに近づく。
「キッド!やっておしまい!」
『アラほらサッさー♪』
コイツ反応した、とオレは心中ビックリ。
自分がいないときに、こっそりMe tubeでも観ているのだろうか。
トラックは急にスピードを上げた。
相手の顔色が変わり、背中を向けて逃げ出す――だが、もうおそい。
ドカン!と鋼鉄製のボディが男を跳ね飛ばした。
『ハイおしま~~~~い』
「……おまえホント悪趣味だな」
トラックが、転がりながらウンウン唸る男に覆いかぶさる。
キャッ!という声。
それだけ。
ふたたびボリボリと言う音を聞きながら、オレはヘクサスに車を寄せた。
毛髪を落とさぬようバラクラバ戦闘帽をかぶり、真新しい滑り止めつき軍手をはめ、車外へ。
セダンの運転席からトランク・レバーを引いて後ろに回ると、ゴルフバッグが2~3個楽に入る空間に、黒い革製の死体袋のようなものが赤い革ベルトで、ひし形に
それが、ギュウギュウ・ミリミリと革を軋ませ、身じろぎして。
ジィィィィィィィ、と幽かにローターのような音すら。
アイツらどれだけ手際がイイんだか。
オレは周囲を確認。
看板のせいか、細い横道に車は入ってこない。
――目撃者無し、ヨシ。
緊縛され、ミリミリと音を鳴らして悶える黒い革包みを横抱きに。
そして運動不足の背筋を酷使して、運転台の後ろのキャビンにオラッ!と放り上げた。
ドサリ。くぐもった悲鳴。
ヤクの横流しなんかするJKだ。
ていねいに扱ってやるつもりなどサラサラなかった。
監視カメラのない資源ゴミ置き場にでも放置してやろう。
ヘクサスにもどると、ドライブ・レコーダーのメモリを抜く。
あまり中を物色して証拠を残したくないのでザッと見るが、それでも大人のオモチャだらけなのが見て取れた。
――アブねぇ……。
グローブ・ボックスの中に、女子高の生徒手帳を発見。
革包みの上から緊縛されている、あの娘のものだろう。
ほかには……注射器と、オモチャの手錠?
ドスらしきもの。
電子タバコのカートリッジ。
フロアには菓子パンの空き袋。
見慣れぬ代紋のはいった金バッヂ。
エロ本。コンドーム。ティッシュ。
マンブランの金製ボールペンに食指が動くが、やめた。そこまで堕ちたくはない。
静かに体を動かして撤収。
トラックの運転台にもどってドアを閉めると【SAI】が、
『マイケル、すこしバックします――念のため』
「は?ナニする気だ?」
『あの車に電磁パルスを浴びせ、ドライブ・データーをまるごと消去します」
「そんなことまで出来るのか!?」
『任せてください。なにごとも詰めが肝心……』
【SAI】はトラックをすこしバックさせて停車。
『EMP照射用意・目標、前方のヘクサス……終了』
トラックの電力消費量が爆発的に跳ね上がる。ヘクサスからはうすい煙が立ちのぼった。
「アレで済んだのか……?
『EMPと同時に車内を走査して記録媒体の場所を全部焼いてやりました』
「オッしゃ。長居は無用、ズラかるぞ」
すると【SAI】が、またもや済まなそうに、
『もうしわけありませんマイケル、
証拠隠滅のためEMPをブチかましたんだ。そりゃ電力不足にもなるだろう。というよりこのトラックにそんな軍用兵器なみの装備が付いていたのが驚きだった。車輪から相手をパンクさせるノコギリが出てきても、もうオレは驚かないぞと心に決める。
「内燃機関走行とベースへの帰投――認可」
『感謝します、マイケル』
ゆっくりとその場をはなれる。
横道の出口で、工事中の立て看板。
もちろん、どこにも工事などやっていない。
あの二人組、だいぶ手慣れているようだった。
女を拉致るのも、今回がはじめてではあるまい。
はてさて、業の多そうな二人だったが、本当に異世界があるとしたらどこへ行ったやら。
燃料と電力の残量を計器で確認。十分いける。
幹線道路を走りだすと、後席フロアの荷物から暴れる気配。
――イケねぇ、わすれてた。
この荷物、どうしようとオレは頭を悩ます。
やはり適当なところで放置するしかないか。
――えぇと、粗大ゴミ置き場は……と。
しばらく走っていると【SAI】が警告音を出した。
『マイケル、後席の荷物、酸欠気味です。バイタル低下』
――あぁモウ、クソめんどくせぇ!
おまけにキャビンの中が、なんとなく
新しい革コートのような、毛皮の内側のような……。
よけいなモノを拾ったナァと後悔するが、あのまま現場に放置すればヤバかったろう。
夕方のニュースで、窒息死体発見の報に自分の手落ちを見せつけられるのはゴメンだ。
マップで一番近くの駐車に良さげな公園をえらび、そこに急行。
トラックを止め、周囲を確認。
平日の昼間なので、人けはない。
念のため、後席窓のスモークをスイッチで最大にする。
ヤレヤレ、と自分はシートを動かして後席にうつり、床から重い包みをシートにのせ、黒い革袋を人型に縊る赤い革ベルトをほどいてゆく。
上半身分をほどき、革袋を閉じるやけに頑丈なジッパーを引き下ろした。
とたん、ムワッ。という女の汗と愛液。それにわずかな尿の臭い。
長い髪の毛が、べっとりと張り付いて。
顔面は無残にも、穴無しボールギャグ、革製のアイマスク、それに耳を覆う遮音用ヘッドホンが一体型となった物が、ベルトを使って顔がゆがむほどの勢いでガッチリと装着されている。
オレは爪を犠牲にして先ずボールギャグを取った。
途端に少女は咳きこみながらゼイゼイと空気を求めて喘ぐ。
路面を引きずられたのか、土ぼこりだらけな制服のブレザー。
ビリビリに破かれた白いブラウス。
腕は、首輪から伸びるベルトでもって、後ろでまとめて拘束されているらしい。
口が自由になるやいなや、この少女は大声で叫び出した。
「ちょっとヘンタイ!ハヤくこれほどきなさいよ!」
「アタシをどうする気!?パパにいって刑務所にブチこんであげるからね!」
「はやく!中に入れたヘンなオモチャとって!いやっ!動かさないで!」
なんだ?と見れば、黒い淫らな革袋に相変わらず包まれ、拘束された下半身からは、秘密めいたヅィィィィィ……という、夜に聞くケラの啼き声のようなモーター音がいくつも響いている。
あまりにワメき叫ぶので、メンド臭くなったオレは上半身で暴れる彼女をおさえつけ、もう一度ボールギャグをピンク色のリップクリームを塗った口にハメこむ。
「んんんんnn~~~~!」
くぐもった少女の叫び声。
いい加減ウザくなったオレは手近にあった工具を彼女の首もとにおしつけた。
冷たい鋼の感触が、刃物を押し付けられたと勘違いしたものか、少女はとたんに静かになる。
オレがギッチリ包みこまれた少女の拘束を解いてゆくと、【SAI】が脱臭機能付きの空気清浄機を全開にした。そしていかにもメンドくさそうに、
『マイケル、これは人身売買の組織にでもカラんでしまったのでは?』
「うーん、ヤケに転生ポイントも高かったモンなぁ……」
『……ワタシのなか、汚さないでくださいヨ?』
すっかりオレをマイケルと呼ぶようになった【SAI】が、いかにもイヤそうに。
「オレだって、とっとと棄てたいのは山々だが……」
幾本ものベルトやハトメに編み込まれたヒモで、あまりにもキツく梱包された黒い革の繭から縛られた下半身を解き拡げて行ったとき、少女が暴れる原因が分かった。
少女の下半身には、何か仕掛けめいたものがチラチラ見えるステンレス製のT字型貞操帯が股間にギッチリと食い込み、それを固定する横棒は骨盤の上をグルリと、これもウェストを締め上げる勢いで、きつく巻き付いているのだ。
Tの字の交差部分は、小ぶりな南京錠でガッチリとロックされている。
――鍵は……。
見当たらない。
もしかしてヘクサスの車内か。
あるいは――素粒子レベルまで分解したヤクザのスーツにでも、入っていたか。
貞操帯の仕掛けを止めようにもスイッチが見当たらない。
バッテリーに繋がるコードらしきものも無かった。
完全に内臓電源らしい。
パッと見、玩具にしては造りが妙に上等なので、もしかしたら大容量なものを積んでいるのかもしれない――厄介だ。
少女がビュクビュクっ、と小さく痙攣して静かになった。
「【SAI】?」
『生理的興奮の負荷に脳が耐えられなくなって、ブレーカーが落ちたようです』
――なんだ、イッたってコトか。
くっそ、とオレは後席でグッタリする。
今月のポイントを満たしたはいいが、とんでもない荷物を背負いこんだような、そんな気配。
やはり世の中、そうウマくはいかないと実感するオレだった。
結局、“M”の抱える若い
高張力鋼も切れる強力なカッターで、どうにかMADE IN GERMANYとある貞操帯のシールド(硬度の高い鋼が使われていた)を切断し、少女の中の仕掛けを取り去ったのは、“M”に連絡してから都合2時間たっていた。
少女もすでに目覚めており、自分の下腹部にイヤらしく食い込む貞操帯を、誰かが非常な手段で外してくれようとしている気配に自分の味方であることを感じ取ったのか。あるいはオレが時おり髪を撫でてやることで落ち着きをとりもどしたのか、おとなしくされるがままになっていた。
叫び声を上げさせない用心のため、ふたたび咥えさせた赤いボール・ギャグの隙間から漏れる少女の甘い鼻声を聞きながら、ようやくオレは彼女にはまっていた最後のパーツをとりだす。
汗をながし、彼女がグッタリと脱力する気配。
ここまで来たら状況を説明し、言ってきかせてどこかで解放するしかない。
オレは腕とふともも、それに足首の拘束を少女に残したまま、ベルトで固定されていた彼女の耳をおおうヘッドフォンをはずした。
なにかのヒーリング・ミュージックとセリフが大音量で流されている。
さらに耳の穴には発泡ウレタンが詰め込まれ、この大音量から鼓膜を救っていた。
おそらく外の音を聞かせず、なおかつ何かの説明をする仕掛けとなっているんだろう。
ヘッドホンから女性の声で、秘めやかにささやいている。
――アナタは**……**……**……ご主人様の肉奴隷。
もうアナタは単なる〇〇〇ー・ドール……ご主人様の、可愛いマゾペット。
あなたは〇首を噛まれたい……アナタはお〇の穴に――。