試製・転生請負トラッカー日月抄~撥ね殺すのがお仕事DEATH~【一般版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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番外編:サロメの奸策・上(自粛版)

()ッ――ダメぇっ!」

 

 それは、深夜の豪奢(ごうしゃ)なるひと間だった。

 

 “紅いウサギ”にいくつか存在する、最上級お得意様用・応接の間。

 蝋燭を模した灯りが背の高い燭台にいくつも立ちならび、広間といっていいほどの大きさな室内を仄暗(ほのぐら)く浮かび上がらせている。

 

 王朝時代の家具。

 高価な磁器や名だたる陶器。

 あるいは大型の精密複製絵画やイコン。

 はては年代を経た精緻な金属工芸品や骨董品など。

 

 そんな中を(キラ)びやかな縁取りもてる大きな姿見がいくつも立ちならび、灯りを幾重にも反射させている。

 あるところでは空を映し、あるところでは合わせ鏡となったこれら古参の銀幕は、曰くありげな什器たちの複製をいくつも造りだし、果てがない。

 

 ()かる幽玄なひと間の中心には、天蓋(てんがい)つきの大型ベッドが重々しく据えられており、シルクの上掛けや天蓋周囲にめぐらす垂帳(とばり)が、くだんの灯りにひときわ華やかな照り映えを魅せている。

 

 と、その上掛けにキラキラと光の波が奔り、ふたたび悩ましげな声が薄暗がりに響いた。

 

「……あぁ……詩愛……」

 

 よく見れば――。

 

 光沢もてるベッドの大海で踊り子の姿をした者がひとり。

 飾り立てた(からだ)を仰け反らせるかたちで、うす闇のなか、密かに身(もだ)えていた。

 

 薄絹のハーレム・パンツにボレロな上着。コインベルト。

 全身にあまねく施されたリング・ピアスを介して錯綜する細ぐさり。

 強制的に何度もの手術をうけ、性的に、淫猥に改造された蠱惑的(こわくてき)な肢体。

 そんな己の身体を、幾重にも指輪や腕輪をはめた手が這いまわり、愛撫し、慰める。

 斯かる秘めやかな情景のなか、身をよじり、切なげに震えるそのたびに、乳首やラビア(小淫唇)に穿たれた鳴り物や、足輪、腕輪に付けられた小鈴どもが、がチリチリ・キリキリと(ささや)き交わし、決して鳴き()むことがない。

  

「……詩愛……」

 

 口もとをおおう面紗(ヴェール)ごしに、ふたたび吐息がもれた。

 男性に奉仕するため()()()()()()()口唇(くちびる)がペロリといちど、紅舌(した)に舐められて。

 

 片手は、大きからず小さからずの“美乳”を揉みしだき、もう片方は、中指と薬指をひろげたカタチで己の下腹部を撫でさする。

 

 ――そう。あのヒトの(なか)ときたら……。

 

 はげしく(あえ)ぐ女の口もとに、意味深な笑みがうかぶ。

 

「このアタシよりも締まりのキツい、ヒダもたっぷりの名器だったわ……嗚呼(ああ)!まるで煮えたぎる蜜壺に指を差し入れ、火傷(やけど)をしたかのようだった!」

 

 その時の情景を明瞭(ハッキリ)と思い出したためか。

 

 ――ウン……っ!

 

 踊り子の衣装をまとう女が身体をふるわせ、脚をピンッとのけぞらせる。

 足首に巻かれた小鈴つきのアンクレットが澄んだ音色で鳴りひびき、女が()()()()に達したことを、この幽玄なる薄闇の中で証《あか》した。

 

 しばしの間。

 

 ベッドに波立っていたのシルクの光沢は、落ち着きをとりもどす。

 

 ややあって全身を装飾されたこの女は、もの憂げに横ざまへと体位を変え、

 

「……あのヒトの暴れるカラダを(ぎょ)してカプセルを挿入し、中でツブして差し上げたときの、あの驚いた横顔ったら!」

 

 口もとに浮かぶ、思い出し笑い。

 

「……“女の匂い”がいっそう強くなり、クスリが即座に効きはじめたのが分かったわ!」

 

 踊り子は、その時の匂いを思い出そうとするかのように己の中に差し入れていた指をひきぬき、鼻もとにもってゆく。

 

 ――ちがう……あのヒトのは、こんな臭いじゃなかった。

 

 つと、肉感的な美しい顔をゆがめ、

 

「そう――あのときのワタシの指は、まるで(かぐわ)しいハニーコーム・バターのような匂いがしていた!」

 

 秘薬の効果で否応なしに高められた女の感情。上気し、ほんのり色づいた肌。 

 淫靡な刺激にとまどい、思い悩む顔色を浮かべていた高貴な印象をたたえる面差し。

 まさに深窓の令嬢たる彼女が、外界(そと)下卑(げび)たる魔風(かぜ)にあてられ、怖じやすい駿馬のように震えた一幕……。

 

 ――繚乱(りょうらん)たる衝動に翻弄(ほんろう)され、(おそ)(おのの)いていた、あの詩愛の熱い気配といったら!

 

 舞姫の面差しがキリリ、と口惜しげに引きしまる。

 

「……ああ、あのヒトを――あの肢体(カラダ)を!ワタシだけのものにできたなら!」

 

 その悲鳴にも似た叫びは、高い天蓋つきのベッドに巡らされたシルクの輝きもてる垂帳(とばり)に柔らかく抱き留められ、彼女の秘めたる欲望を“接待部屋”の外に漏らすことはなかった。

 

 はげしい情念が。先日からこの舞姫の胸を去らず、高まる想いが彼女を責め(さいな)んでいた。

 

 彼女は枕元をさぐり、ぐうぜん指さきにふれたシュウマイ弁当のおしぼりをつかむと、封を切り、己の手をふき清める(フキフキ。

 

 そのまま全身の鳴り物をゆらし、彼女はキング・サイズのベッドからゆるゆると降り立つと、小卓に歩み寄り、かたわらなる象牙の床机台(しょうぎだい)に優美な仕草で腰を下ろした。

 

 ――さて……どうしたものかしら?

 

 人さし指を曲げて甘噛みし、柳眉をひそめて彼女は思い悩む。

 

 ――あのヒトを(ワタシ)の手中に納めるには……。

 

 次いで彼女は、卓の上にあった黄金(きん)林檎(りんご)(いさか)いの女神エリス※よろしく玩弄(もてあそ)びながら、その真鍮(しんちゅう)の重みと冷たさを味わいつつ、(くら)い策を脳裏に巡らせる。

 

「あのクスリ……どんな貞淑な婦人だろうと、己の欲望に忠実となるのに――」

 

 習慣性のある“紅いウサギ”特性ブレンド「奴婢(ぬひ)(なみだ)」。

 それを膣道の粘膜で直接吸収させてやったのに、あれから何の音沙汰もないとはどういうコトかしらと、この性悪な舞姫は薄闇の中で首をかしげた。

 

 ――すくなくとも“手淫(オナニー)中毒”ぐらいには、なっているハズだわ……。

 

 林檎を()っと眺めつつ、もし彼女が淫欲に負けてこの店の敷居をまたいだときが百年目。どうしてやろうかと、更に考えを巡らせる。

 それは大いなる巣の真中に居て獲物を待ち受ける女郎蜘蛛の如く、あるいは陥穽の奥底にひそみ、哀れな犠牲者がやってくるのを虎視眈々とねらう無慈悲なアリジゴクのようなものだった。

 

「ワタシはあのヒトを――()()()()()につくり変えたい!」

 

 とうとう彼女は大声で叫んだ。

 

「脳に手術(オペ)をほどこし!知性を引き下げ!単なる情欲の捌けぐち的な色ボケにするだけでは飽き足らない!」

 

 爛々とした(まなこ)が、高価な什器でそろえられた部屋をねめつけた。

 今の彼女には、それが単なる成金趣味であり、魂の精神性にはほど遠い、俗物根性の極みのようにすら思えたのである。

 

「もっとワタシ専用の、徹底的な愛玩人形(スレイブ・ドール)に仕立て直さずには、満足がいかないの!」

 

 ――そう!“藝術的な洗脳”をしなくては!

 

 なにはさておき――と彼女は、妄想のうちに作戦を組み立てる。

 

 えぇ。まずは飲み物を提供しましょうか。

 もちろん、軽い“睡眠導入剤”入りのお紅茶を。アールグレイで。

 そしてウチの手術室に送り込み、無影灯の下にすべてをさらけ出してやるのよ……。

 

 そこまで考えて、ふと彼女は(つまづ)いたように思考の足どりを停める。

 

 いいえ!店のスタッフ任せにして、けっきょく帰ってこなかった“素材たち”が幾体もあったわ……!

 

「あぶない……あぶない……」

 

 思わず彼女はひとりごちた。

 

 ――やはり……。

 

 あのヒトは“横取り”などされぬよう、ワタシが直々に“馴致”しなくては。

 

 ――と、なると……。

 

 奴隷人形としての脳学習と、奉仕技術の刷りこみ。強制認識。

 これはやはり“ウラ”のちからをかりないと、どうしようも無いのかしらねぇ。

 

 彼女は思い悩みつ、薄暗い部屋を眺めわたした。

 純銀製のふくろうが姿見の上にとまり、水晶の目玉で彼女を凝っと監視している。

 誰かがあたらしく入れたらしい黒ネコの剥製が、女神像のよこで瞳に燈火を反射させ、黄金(きん)色の光を放っていた。

 

 

 ――“女性自身”の改造からいきましょうか……(いいえ)!まずは……。

 

 突然!

 

 相手の純潔をすすり、かわりに“有毒な愛情”を相手の血管に注ぎ入れんとするこの“女吸血鬼”の脳裏に、その時の情景が、まるで魔法のような鮮明さで脳裏に明瞭(ハッキリ)と浮かびあがった。

 

 

 

 暗く、暖かな深淵のなかに搖蕩(たゆた)い、浮かんでいた詩愛。

 奇妙なものが自分の中を出入りして、そのたびに何かを喪ってゆくような。

 痛み。快楽。それらが交互にやってきて、まるで自分が自分でなくなってしまう……。

 やがて……全身を鋼線で縛るような鈍痛にヒタヒタと取り囲まれ、彼女は嫌々ながら意識をとりもどした。

 

「あら……お目覚めになりまして?」

 

 声が頭上から降ってきた。

 聞き覚えのあるような声――だれだったかしら。

 ボンヤリとした視界のなか、彼女は目をしばたいて、口の中を占める薬液の味に眉をしかめる。

 

 

 ――頭が重い……考えがまとまらない……体中が痛い。

 

 

 詩愛は、ちからなく頭をうごかし、視線をわきに向けた。

 踊り子の容姿(すがた)をした女が、白衣の青年二人を従えてわきに立っていた。

 彼女は……そう、美香子がアルバイトをするお店でステージに立っている踊り子さんだ。たしか……。

 

「サロメ……さん?わたし、いったい……」

 

 身体をうごかそうとして、彼女は自分の両腕、両脚。それに胴体が動かないことに気づく。

 

 ――えっ……?

 

 改めて見れば、自分は何かの設備に一糸まとわぬ姿で拘束されているのだった。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 そう叫んだとき、詩愛は自身の声が、以前とは異なっていることに気づいた。

 

「はぃ、お静かに?」

 

 キャスター付きの古風な姿見がゴロゴロと運ばれ、拘束された彼女の正面に据えられる。

 すると、この(ふる)びた銀幕は、現在の彼女がおかれた状況を冷酷に映し出した。

 それを見た詩愛は、あまりの事に声をうしなってしまう。

 

 分娩台のような設備。

 そこにあられもないM字の開脚姿勢。

 両腕は、バンザイするように頭の上で固定されて。

 そして、

 

 【自粛】

 

「そう。貴女(あなた)は妹さんのショー・デヴィューと言うことで、彼女に連れられやって来たのよね?そこで彼女の舞台用意が調(ととの)うあいだ、わたしのプライベート・ルームで休憩がてら、お茶をしたこと――覚えてらっしゃる?」

「えぇ……あのときわたしは……アナタといっしょに……」

 

 ふふっ、とサロメの笑み。

 

「あの晩から、もうひと月は経っているんですよ?」

 

 そんな!と詩愛は目をみはる。

 まさか、ひと月だなんて!?

 

「…でも心配しないで。お(うち)(かた)には、アナタが「急な長期出張となった」と連絡を入れてあるし、お勤め先のほうには「急病で入院した」と言ってあるから」

 

 あまりのことに、詩愛のなかで思考(かんがえ)がまとまらない。

 ややあって、力なく頭をうごかし、

 

「髪が……」

 

 彼女は自分の髪が、まるで妹のカツラのように腰までのボリュームを持つ、波打てる金髪にされているのを観た。

 

 ――まさか……ひよっとして……。

 

 不吉な予感に包まれながら、さらに注意して姿見のなかの自分を観察すると、体中に何かのマーキングが。そして……。

 

「あぁっ!わたしのバストが――胸がないィィッ!」

 

 悲鳴まじりな彼女の叫び。

 

 無理もなかった。

 自分の胸に、丼鉢のように高々と隆起していたEカップの胸。

 “女の誇り”と“肩こり”と、なにより“他人からの好奇な視線”とで愛憎なかばしていた巨乳。

 それが、いまやサロメと同じサイズなくらいの、茶碗を伏せた程にも見えるCカップの“美乳”となって。

 

「そう。乳房縮小手術をして差し上げましたのよ?」

「なぜ!……なぜこんなヒドいことを!?」

 

 非道(ひど)いですって?とサロメは、その顔に婉然(えんぜん)たる笑みをうかべ、

 

「舞台ではげしく舞う踊り子に、下品な巨乳なんて邪魔なだけですもの。クーパー靭帯がいくつあっても足りませんわ」

「こんな……こんなことって」

「――ね?ブリーチングしてきれいなピンク色になったご自分の胸の“頂”をご覧になって?」

 

 あまりに自分勝手な相手の言い分に唖然として、詩愛は二の句がつげなかった。

 

 目のまえに佇立する、自分よりやや年若な美貌の舞姫。

 その容貌にうかぶ妖しげな面差しを精査するゆとりもなく、彼女はさらに出来るだけ身じろぎをして、ほかに改変された場所はないか、蹌踉とした目つきで自身の肢体を確認する。

 

 ――あぁ……。

 

 やや久しく彼女は目をとじた。

 

 それは、己の(からだ)に目の前の舞姫とおなじく、細鎖を通す幾つものリング・ピアスが穿たれていたからだった。

 

「ね?ステキな肢体になったでしょう?これから貴女はワタシと“対の存在”になって、このお店で生きてゆくの。そういう風にしたもの。貴女のカラダと――なにより()()()()

 

 そう言うや、サロメは詩愛の金髪を手に取ると、一気に引きむしった。

 

 とたんに現れる坊主頭。

 不吉な予感が、現実のものとなった。

 

「イヤぁッ!……そんなァっ!」

 

 そう叫んだ後、詩愛は(ぼう)として声も出ない。

 かすれたような息で、アウアウと自分の変わり果てた姿を眺めている。

 頭は何かの処理をされたのか、毛穴もなくツヤツヤとプラスチックの光沢めいて。

 そして、そこにサイコロの6を想わせる並びで、残酷にも強力な磁石が埋設されている。

 だが、次なるサロメの無慈悲ともいえる冷酷なセリフに、彼女は更なる驚きを受けることとなった。

 

「髪は女の命……それなのに全部剃られて。肌も、毛根と汗腺も除去され特殊な浸透処置をされて、もう生えてこないのよ?」

「……」

 

 ここでサロメはふふっと嗤い、

 

「――それなのに、貴女は悲嘆(なげき)も感じないし、(なみだ)も流れないでしょう?」

 

 んん?どぉお?と(なぶ)るようにサロメ。

 舞姫は彼女の坊主頭にやさしく口づけをすると、カチリ。ウィッグを元通りにセットする。

 

「じつを言うと貴女は数度、目覚めているの。そして精神的な“馴致”を受け、自分の身体の改変にあまりショックを受けないよう、心に暗示がかけられ、ロックされてふたたび記憶を消去され、睡りについているのよ?」

 

 詩愛は思い出した。

 

 頭の毛を剃られ、おまけに磁石まで埋められていても、ニコニコ平然としていた勝気な“妹”のことを。

 なんでこんなにも普段どおりでいられるのか、あの時は不思議に思ったものだった。

 そして、自分の母親が“育ての母”に過ぎず、父親とは血さえ繋がっていないことを暴露されても、思ったより騒ぎ乱れなかったことを。

 

 ――あれは……ひょっとして。このお店の洗脳処置が、効いていたんじゃないかしら……。

 

「どぉ?すばらしい肢体になったでしょ。でもまだまだ、これからよ?」

「これから?……いやだ……もとに戻してください……」

 

 サロメの言葉にわれに返った詩愛は、この悪魔の踊り子に言われたとおり、どこか自分の心にも鉛のような鈍さを感じつつ哀願する。

 

「お仕事に……お嫁に行けなくなっちゃう……」

 

 彼女の真剣な顔つきに、ケラケラと踊り子は笑って、

 

「……アキれた。まだ(はかな)現世(うつしよ)塵埃(ホコリ)にまみれようというの?貴女は!」

 

 そう言うや、自分の“永遠の戀人”へと手を加えはじめた女に、ところかまわずキスをする。

 すると、肉慾と精神を完全に支配された詩愛の股間(おまた)から、はやくも輝くものがにじみだして。

 

「ほら♪もうアナタのココに泉が涌いてきたわ?洗脳は、巧くいったようね……」

「イヤっ!触らないで下さい!けがら――」

 

 だがどうしたことだろうか。

 穢らわしい、と言いかけた詩愛のノドは、その言葉を封印してしまう。

 いくら彼女が頑張っても、その言葉を完成させることはできなかった。

 

「ふふっ♪ほぉら、心にかけた呪縛も、働いているようね……でも、この次はどうかしら」

 

 サロメは完全に蚊帳の外に置かれていた白衣の青年二人組に合図する。

 

 片方が床にあるペダルをふむと、分娩台は詩愛を拘束したまま、腰の部分だけが徐々にあがりはじめた。

 やがて分娩台のまわりに立つ三人に、お尻が丸見えとなる体位へと変化して。 

 

「ほうら……ご開帳……」

 

 白衣の青年たちが詩愛の尻たぶをつかみ、両方から思い切り左右にひろげた。

 

「――いやぁッ!」

 

 詩愛は目をむき、声をうしなった。

 なぜなら

 

    【略】

 

 そう?すばらしいでしょう、とサロメのウットリした声。

 

「これはタンパク質を染める技法じゃないわよ?ちゃんと一針一針、店の彫師(ほりし)が心をこめて刺青(いれずみ)をほどこしたのだから……」

「そんな……コレはあんまりです!」

「刺青のまえに「Oゾーン」をブリーチングもしてあげたのよ?……キレイなピンク色でしょう?」

 

 とうとう“囚われの女”にかけられた心の呪縛が破れ、彼女はさめざめと泣き出した。

 

 そんな緊張感を孕む空気の中。

 拘束されたままな彼女の足首に、腕に、手首に。

 舞姫と同じような鈴付きの装具が強引にハメられてゆく。

 そして全身に施されたリング・ピアスに細鎖が通され“もうひとりのサロメ”が着々と完成してゆくのだった。

 

「ん~♪だんだん仕上がってきたわネェ……でもまだ足りないがモノがあるの。まずその口唇(くちびる)ね。でもそれは“おしゃぶり”の訓練を済ませた後でないと、プックリとした『Bimbo・リップ』にはしてあげられないワ?足りないのは……」

 

 そういうや、舞姫は自分の乳首とヴァギナをゆらし、そこに取り付けられた鳴り物に涼やかな音を立てさせる。

 

「まさか……ひょっとして」

 

 即座に詩愛は悟った。

 そして自分の体を見やる。

 

「そぉう♪さすがはお嬢サマ――察しがイイのねぇ」

 

 サロメは己の肢体を撫でさすって更に鳴りものを響かせ、

 

「本当は、(ねむ)っているあいだに。あるいは麻酔をかけてから、ピアッシング処置してあげようかと思ったけど……でもダメ!」

 

 サロメは一転、苛烈な目つきとなり、乳首と股間から下がる鳴り棒をひときわ激しくわななかせたあと、

 

「目醒めた状態で!しかも麻酔なしで、女のいちばん敏感な場所を貫いてあげるわ」

「……なんで……なんでですの?」

「貴女に最大限の痛みを与え、それを心に刻ませて、わたしのモノに成ったことを自覚させるためよ!」

 

 分娩台の周りで、何かを準備する冷たい金属的な音がはじまった。

 さすがに不安げな顔を浮かべる詩愛。それを完爾(ニッコリ)と見おろしながらサロメは、

 

「安心して?苦痛の後には……快楽がやってくるの。貴女にも経験させてあげましょうねぇ」

 

 そう言うや、中に何やら仕掛けの透けて見える、大ぶりな玻璃(ガラス)製のディルドーを詩愛の視界外から取り出した。

 ダッチワイフ状のタラコくちびるが、その長いディルドーをくわえこむ。

 やがて、すす・スゥッ……とノド奥のさらに奥、食道のほうまで()()()ことなく楽々と飲みこみ、細首を亀頭のカタチにぷっくりとふくらませ、やがて引き出し、ケロリとして。

 

「ディープ・スロートよ?そのうち貴女にも出来るようになってもらうわ?そしたら、その口唇(くちびる)も、もっと魅力的に変えてあげる……どぎつい紅に染めて、永遠に色落ちしないようにしてあげるわ?」

「……もうやめて」

 

 泣きぬれた目で、ふたたび詩愛は哀願した。

 

「わたしのからだを……もとにもどして……」

本来(もと)に戻すったって。まだ貴女の肢体(カラダ)は改造途中なのよ?」

「改造って……なにをするの?」

「これからウェストをさらに細くして、お尻をタップリの女性ホルモンで太らせるの」

「……」

「ヴァギナも、オナホールが裸足で逃げ出すくらいの名器に仕上げて……何より性技もイッパイ覚えてもらわなきゃ……女のためのね♪」

「女のための?」

「そ。貴女の舌も二つに裂いて……長ァくして。女の大事なトコロを舐めるのに、都合がイイようにして差し上げるわ?」

 

 なんてこと、と詩愛はオゾ気をふるう。

 相手は、自分を女性用の“人形”にしようとしているのだ。

 

「おねがい……どうか……もとに!」

「ふぅ~ん。そぉねぇ」

 

 透明なディルドーをしゃぶり、舐め回しながら、ふと、この淫猥な舞姫は何を思いついたか。

 突然ほの暗い微笑を、その整った面差しにじんわりと浮かべると、

 

「じゃぁ、ワタシの責めにイカなかったら……」

「えっ……?」

 

「愛撫のコトよ!わたしの愛撫に無事に耐え切ったそのときは、せっかく美しくした肢体だけど、もとの下品な(からだ)にもどしたげる。ただし……」

「……ただし?」

「イッた場合は!()()()はアタシに従う“愛欲の玩具”として!従順な“お舐め犬”として!!」

 

 高まった調子は、つぎに一変。

 まるで恋人に(ささや)くような甘い声になり、

 

「そして何よりアタシの分身として、愛の片割れとして。永遠(とわ)に一緒にすごすのよ……」

「そんな……」

 

 いいこと?ワタシも鬼じゃありませんわ、と踊り子は己が鳴り物を鏗鏘(シャラシャラ)と涼やかに響かせ、

 

「5分!5分お保たせなさい!アタシの責めに5分耐えたら、貴女を解放したげる!」

 

 それを聞いた白衣の男ふたりは“ヤレヤレと思ってる田代まさ○”のような表情で顔をみあわせ、肩をすくめる。

 詩愛も、ことココにいたって覚悟を決めたようだった。

 

「いいですわ!5分ですね?約束ですよ!?」

「そのかわり、もしイッた時は……」

 

 白衣の片割れが、ニードル・ガンをサロメに渡した。

 

「イッた時は、その瞬間に!」

 

 舞姫は、手にしたガンを分娩台に拘束された詩愛の目先にかざし、

 

「その、お上品な身体の大事なところに!――大きなピアスをブッ刺して差しあげますわ!」

 




長い……。
思いの外サロメが出しゃばったので、ココで切ります。

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