彼方の時へ   作:くらうす

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奈落への

クベリウスが最初に取り掛かったのは、イードの友好都市ダーナへの調略だった。ダーナはイードとレンスター王国の間に位置し、レンスターやイザークよりもグランベル王国に近しい政策をとろうと以前からしていた。しかし、イザークからの流民も多くイザークへの帰属意識がある派閥も少なからずおり、今まではどっち付かずの政策しか取りようがなかった

 

無論、クベリウスは商人として、ダーナを経由してイザークのものをグランベル、レンスター等に流したり、逆にグランベル、レンスターの物をイザークに流したりしていた。利益もかなり得ており、表向きの商人としては決して切るべきルートでは無い

が、これから始めるべきモノより優先すべきものはなかった

 

小うるさい大司教と取り巻きどもは既に排除しており、最低限の生活水準を保っておけば、そうそう文句は出ない筈である

 

話が脱線したが、これからすべきはダーナの反グランベル派、つまりは親イザーク派への梃入れであり、叶うならばダーナにて親グランベル派の虐殺を起こす事であった。更に言えばダーナは嘗て竜族が降臨した地であり、ロプト教徒の自身としても些か成らずとも目障りでもあった

 

(嘗て貴様達の始まりの地を血で染め上げる。これ以上ない皮肉になろう)

 

そうすれば、必ずグランベルが遠征軍を派遣する。総指揮官は恐らくはクルト王子。となればシアルフィのバイロン、ユングウィのリング辺りが補佐に就くしか無いだろう。まさか反王子派のランゴバルド等を補佐に置くとも思えない。

となれば、シアルフィ騎士団のグリューンリッターやユングウィのバイゲリッターも動員される。

 

 

つまりは、グランベルの南西部の護りが薄くなるのだ。

 

 

既にウェルダンにはマンフロイ配下のジュダが国王側近として重用されており、国王は老齢。長男のガンドルフ、次男のキンボイスはグランベルとの同盟には反発している。三男のジャムカはウェルダン本国に居るためにいざというときに身動きが取りづらい

 

恐らくは、ガンドルフ辺りがユングウィの美姫エーディンを狙って攻め寄せるだろう

 

 

アグストリア諸侯連合はいよいよ賢王イムカの命数も尽きるだろう。マンフロイも上手くやって信を得ているとの話は既に受けている。ハイラインのエリオットの周囲にそれとなく、ノディオンへの反意を煽らせているので恐らくは上手く暴発するだろう。

 

 

シレジアは、女王の元で安定するかと思いきや、後継者争いに辟易したレヴィン王子が出奔したらしい。流石にシレジアまで手が廻りきらないと諦めていたが、これはある意味好機だ

王弟ダッカーとマイオスとやらが辺境にて兵を募っているらしい。こちらから大規模な支援は出来ぬが、兵糧の支援でもするべきだろう。

 

レンスターとトラキアは放置すべきか。先ずはダーナの件を片付けねば、先へは進まぬ

 

 

 

 

それにしても、シギュンめ何処に逃げおおせたのやら

 

 

 

 

 

 

 

 

グラン歴757

 

イードの友好都市ダーナが東の蛮族イザークにより攻撃を受け、族長以下多数の人間が虐殺される

 

イードより急報を受けたグランベル国王アズムールは王子クルトにイザークへの遠征軍の編成を指示

併せてイードには兵糧の支援を要請。アグストリア並びウェルダンへのイザークへの遠征軍派遣を意義を説明し、後背の護りを要請した

 

アグストリア国王イムカは病床の身ながらも此を了承

 

ウェルダンからの返答は無かったが、彼の国は交通網が整備されておらず返答が遅れがちだった事もあり、編成終了次第、遠征軍を派遣する運びとなった

 

なお、いつも政策に異を唱えていた宰相レプトールやドズル候ランゴバルドよりも異存がなかった事も速やかな遠征軍の派遣へと繋がったとされた

 

遠征軍のクルト王子補佐として、バイロン、リングの両名が従う事となり、両家の騎士団グリューンリッター、バイゲリッターか遠征軍に加わる事となった

 

グランベル本国には、国王アズムール、近衛のヴェルトマー公爵アルヴィス、宰相レプトール、ドズル候ランゴバルド、エッダ候クロードが残り、有事のさいにも対応出来る体制であった

 

 

暫くしてイザーク王国マナナン王死亡。の報がもたらされた

 

 

 

 

 

 

 

 

時はやや遡り、グランベルが遠征軍の編成をしていた頃、イードの街に一人の女性が幼い少年を連れて訪れていた。

クベリウスは『アリウス』と名乗り、商人として活動しており、一応魔道の心得もある。と言う身分であった

 

アリウスの活動範囲はイードからイザーク、レンスター、グランベルであるが、影響力はユグドラル大陸でトラキア、シレジア以外には及んでおり、割りと中堅の中では上位に位置していた

 

故に此の出会いは必然であったのかも知れない

 

 

 

「申し訳ないが、アリウス殿は居られるだろうか?」

商家にて働いていた丁稚は突然の来客に驚いた。此処のみならず、商家の様なものは事前連絡無くして来たとして対応出来ない事は、少しでも商いに携わるならば常識である。

此処は物の売り買いの場では無いのだ。交渉等の打ち合わせの為の建物であり、イードやダーナでは子供でも分かる話だ

ましてや、当主のアリウスに会いたい等と言う人間は言い方は悪くなるが、吐いて捨てる程居るのだ

 

(またか)

丁稚の仕事の大半はこの様な輩を丁寧に追い返す事だった。雑に追い払えば後の悪評に繋がる。『商人とは人を大切にするもの』彼はそう主人に教わった

もしかしたら、昨日まで唯の一般人だった者が来年には大きな影響力を持つ事も有る

だからこそ、人との繋がりは大切にしなくてはならない

 

 

兎に角話をして納得してお引き取り願おう。彼はそう思って表通りに出た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒髪の美人が其処にいた

 

たおやかな美しさでは無い

どちらかと言えば刀剣の様な美しさだと思ってしまった

 

だが、それでも決まり事を破る訳にはいかない。ルール有っての商人なのだ。主人に会わせるならば、害意の無いこと、身元を明らかにする必要があるのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

黒髪の剣士アイラは困っていた

 

 

元々、イザークとダーナの関係は良好とは言えなかった。だからといってダーナの領民を虐殺した等と言う事は無いと断言出来た

父、マナナンは聡明であり、感情的に成りがちな私や兄を常に諌めて来た。また、地方のソファラ、リボー、ガネーシャの族長も上手く纏め上げて来たのだ

 

だが、現状リボーの族長がダーナにて虐殺を起こした。グランベル も遠征軍を派遣するらしい。ならば私も戦うべきだ。そう、父や兄に主張したが受け入れられず、逆に兄の子を預けられた。

このまま南下すれば、レンスター王国の領地。レンスターもグランベルと事を構えはしない。下手を打てば、グランベルに引き渡される恐れもある

 

私一人ならまだ諦めも付く。が、甥のシャナンまで道連れに出来る筈も無い

 

かといって、シレジアは遠い。これからソファラ迄戻って、険しい山を幾つも越えるのは難しい

リューベック経由ならばある程度道は整備されているがリューベックがグランベル領。どうみても無理

となるとイードの商人に頼むしか無い。が、肝心の伝手が無い

が、一番望みが有るのも事実。嘗てイザークに来た、商人。確か、アリウス殿だったか

 

 

 

 

 

 

 

 

クベリウスは状況が上手く運んでいることに安堵していた

 

策は多く巡らせばよい。その方が成功率も上がる

だが、一方で綿密過ぎる計画は少しのズレで破綻するものだ。総てが己が上手く回せると思うほどクベリウスは自身を評価も信用もしていない

 

 

『ロプト狩り』

 

クベリウスの人生はこれにより全て狂った。両親は人が善い。いや、善すぎたのだ。ある日行き倒れたロプト教徒を助けた。そして暫く家に置いていた

嘗て何があったかは、両親も自分も知っていた

だからといって『今』の彼等に罪は無い筈。行き倒れた人物はそれを聞き、涙を流した。何度も「ありがとう。すまない」と繰り返していた

 

 

 

 

だが、世間は両親もロプト教徒と断じ、よりによってクベリウスとロプト教徒の二人が外出している最中に家を焼き払った。其れを見たロプト教徒はクベリウスに『フェンリル』を託し、放火した奴等へと報復したのだ。如何にダークマージと言えども多勢に無勢。最終的には殺されたらしい。

 

クベリウスはその『フェンリル』の魔道書を持ちイード神殿に訪れ、闇魔道を修めたのだ。

 

 

(もっと自分が注意していれば、両親は死ななかったのでは?もっと自分に力があればあの時のダークマージも生き残っていたのでは?)

 

 

故にクベリウスは慢心も油断もしない。表向きの商人も裏の司教としての仕事も可能な限りこなすのだ

 

 

 

 

 

 

そんな事を商家で思っていると、何やら下が騒がしい

 

今日は丁稚の中でも出来る奴だった。そう、記憶しているだけに、気になった

 

 

 

黒髪の美人、いや剣士が其処にいた。

 

クベリウスは此の人物と面識は無い。が見当は付いた

 

「ご苦労。此の御仁は私に用件が有るようだ。本来ならば後日。と言いたいが、些か以上に難儀しているご様子。用向きをお伺い出来るのかな?」

 

 

 

 

アイラは正直驚いた。如何に自分のしている事が無作法であり、相手の立場を無視したものであるかを理解しているから

にもかかわらずアリウス殿は話を聞いてくれるという。ましてや、此処まで歩き通しであり、シャナンの身だしなみには気を払ったが、自身までに及んでおらず、商家に入るには些か以上に問題のある格好である

 

(ありがたい)と思う。アリウス殿の評判はイザークにも届いており、交渉の場に着くまでは大変だが、ひと度着けば叶う限りの手を打ってくれる人物との事はアイラでも知っている

最悪でもシャナンは逃がしてくれるように頼まねばならない

しかし、自身に対価は無い。最悪、自分が奴隷になる位しか無いのである。手持ちの路銀はほぼ底をついており、闘技場で稼ぐにも、武器の修繕費すら無いのだ

 

アイラとしては不安要素しか無い。が、やるしか無いのだ。シャナンの為に、自身を信じて託してくれた家族の為にも

 

 

 

 

「先ずは自己紹介を。アリウスと申します。此のイードの街を中心に、それなりに商わせて頂いております」

 

「ご丁寧な挨拶ありがとうございます。イザーク王国王女アイラと申します。此方の子の事はご容赦願えませないでしょうか?」

 

「いえいえ、結構ですとも。過分なご挨拶痛み入ります

。とはいえ、あまりその口調は慣れておられぬご様子。普通の口調で構いませんよ」

 

「では、有り難くお言葉に甘えるとしよう。何分、交渉事などしたことが無いもので」

 

「王族ともなれば私共には分からぬ苦労もございましょう。その辺りはお気になさらず

して、如何なご用件ですかな?」

 

「単刀直入に言えばグランベル領を抜けて、この子を安全な所で育てたい」

 

「グランベル領を抜ける。ですか。確かにその方が『今』は良いかも知れませんな。して、抜けてどちらに?

それによって私も出来る事が変わります故」

 

「アリウス殿はどちらが良いとお考えでしょうか?何分国外の事には疎いもので」

 

(いや、それは此方に聞くべきではないだろう)

アリウス、いやクベリウスは内心突っ込んだ

確かに判断材料は少ないだろう。だが、相手にカードを-渡す場面では絶対ない。

そして、此方とて余り情報は出せないのだ。

 

はっきり言って過去最大の厄ネタだろう

まさか、目の前の男が自分の故郷を踏み潰している。等と想像すら出来ないだろう

 

(コラ其処!首傾げんな!)

 

「と、兎に角先ずは落ち着かれるべきでしょう。私の別宅があります故、今日だけでも宿泊なさっては?」

 

「しかし、恥ずかしながら路銀も殆ど無い。流石にそれは申し訳ないのだが」

 

「いえいえ態々イザークから此方まで御出になり、頼って下さっているのです。私にとっては末代までの名誉となりましょう」

 

「・・・これ以上拒むのは失礼、か。ありがとう。ご厚意に甘えさせていただく」

 

「ええ。後で湯浴み様の道具と服などをお持ちしましょう。お連れ様もお疲れのご様子。別宅には食材もあります。後になって申し訳なく思いますが食事も用意致します故」

 

「・・・・・・・・重ね重ね有り難く」

 

「ええ。ではごゆるりと」

 

(どうするの、これ?)

 

途方に暮れるクベリウスであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クベリウスの苦労など知る訳も無い厄ネタが更に迫っていようとは、知る由もなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グランベル遠征軍出撃まで残り一月




アイラ様が上手く表現仕切れない
反省します。
取り敢えず、アーダン育てます

子供世代のオリキャラは?

  • あり
  • なし
  • どちらでも
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