ウェルダン本城でアンドレイ公子の不興を買ったシグルドは麾下の軍と共にエバンスへ帰還。エバンスに駐留していた
そこにエルトシャンの妹ラケシスよりの書状がもたらされた
「我が兄エルトシャンはシグルド公子との友誼の為にハイラインと戦いました
本来ならばグランベルとの戦争を回避した事で称賛されるべき行為にも関わらず、シャガール王子は兄を投獄しました
我がノディオンのみでは兄の解放は叶わず、他の諸侯は解放に否定的です
どうか、兄を助けるべく協力頂ける様、御願い申し上げます」
との内容であった
シグルドは直ちに主要な人間を、集めて軍議を行うこととした
「このエバンスをハイラインより守ってくれたエルトシャンがシャガール王子の独断により投獄されたという。ついては、ノディオンに対して何らかの支援を行いたいと思うが、皆はどう考える」
「エルトシャンの危機ならば力になりたいのは私も同意するが、迂闊に手をだすならばグランベルとアグストリアの全面衝突になりかねない。それは回避すべきだろうな」
「この際だから言っておくが、この場で話し合う前にウェルダンのアンドレイ公子かグランベル本国へ指示を仰ぐべきだ。シグルド公子は独断専行をまたする気か?」
消極的ながら協力すべきと発言するキュアン王子に対し、先ずはグランベル本国への確認を優先させるべきと主張するレックス公子
「でもレックス。シャガール王子がエルトシャン殿を投獄した以上は危険だと思うけど」
「アゼル。事情はどうあれ、ハイラインというアグストリアの諸侯に手を出したんだ。処罰しなければシャガール王子の立場がないだろう
それにシャガール王子がエルトシャン殿の提案を知っているかは知らんが、エルトシャン殿の行動はグランベルの利になった以上、グランベルへの内通を疑われても仕方ない事だ」
アゼル公子の発言にも即座に反論した
「感情論、倫理観。大いに結構だろう。だが、俺達は国家に仕えている以上、それを無視した行動は慎むべきだろう」
「シグルド様。ラケシス姫を始めとしたノディオンが危険ではありませんか?」
「どういう事だ?」
この中でシアルフィ騎士の代表として参加しているアーダンが発言する
「ラケシス姫は他の諸侯は当てにならないと判断しておられます。しかしながらそれがグランベルに属する我々に書状を送る理由にはなりません
寧ろエルトシャン殿のグランベルへの内通の疑いが信憑性を増すこととなります」
その後軍議は数日にわたる事になる
アーダンの懸念は不幸にも当たっていた
事実、ノディオン城付近に潜ませていたハイラインの兵がノディオンからエバンスへ向かう騎士を確認していた。それは直ちにハイラインのボルドー候の元に届けられる事になった
「何?ノディオンより騎士がエバンス方面に向かったというのか」
「はっ、ボルドー様」
「馬鹿な。父上やクレメント司祭へ使者を送るなら理解できるが、エバンス方面?間違いではないのか?」
ハイラインでは報告を受けたフィリップ将軍がボルドー候とエリオットに報告した
「間違いないのだな」
「はっ。騎士はノディオンよりグランベル領内へ入った事を確認しております」
「そうか」
念を押すボルドーに断言するフィリップ
よく勘違いされるが、ボルドーはノディオンを自領として取り込む気はなかった
元々海を挟んではいるが、ウェルダンとの国境にハイラインは位置する。国境付近を治めるのは神経を使うのだ。そこにグランベルとの国境を有するノディオンまで治める事はボルドーとて遠慮するものであった
だからエルトシャンには多少の擁護をしたのだが
「もはやどうにもならんか
フィリップ、エリオット。直ちにノディオン攻略の兵を出せ。たとえエルトシャン不在としてもアグストリアに不利益をもたらすことは看過出来ぬ
かくなるうえはノディオンを一時的に制圧しグランベルへの内通の芽を摘む」
「「はっ!」」
ボルドーの思いとは裏腹にハイライン軍はノディオンへと出撃した
ハイラインの軍勢が迫っている事を確認したノディオン側は即座に籠城の準備を整えた
それと共にエバンスのシグルド公子へ救援の要請を出すことになる
もっとも、これはアグストリアの他の諸侯を毛嫌いするラケシスや騎士の判断である。一方、エルトシャンの妻グラーニェはアグスティのシャガール王子へ調停を求めるべきと主張した。それが叶わぬならば一時的にでもノディオンを明け渡すべきとも
だが、エルトシャンを投獄したシャガール王子への信頼などなかったラケシス達はこれを黙殺し、ハイラインとの戦闘を行う事とした
「そうか。ラケシス姫がな」
既にノディオン城付近に展開し降伏の使者を送ったエリオットは呟くしかなかった
再度、エバンス方面へと使者を走らせたのを確認した以上、ノディオンの存続は事実上不可能となった
如何に黒騎士ヘズルの直系であり『魔剣ミストルティン』を保有するノディオンであっても許される範囲を逸脱していた
ならばせめて降伏させる事で人的被害を無くそうと試みたが、丁重に現在のアグストリアを非難した上で交戦の意思をラケシス姫は示した
降伏を受け入れぬばかりか事もあろうに王家の非難までする以上は容赦は出来ない。エリオット達はハイラインの人間であるが、アグストリアの人間でもあるのだから
「ノディオンを包囲する。エバンス方面にも一部の部隊を展開させよ
後発のフィリップ将軍が到着次第総攻撃をかける
準備を行い、周辺の村落には注意を呼び掛けろ」
エリオット個人はラケシス姫が嫌いではなかった。が、事は家の存続に関わる事。私情は挟むべきではなかった
だが、もし仮に助命嘆願する機会があるならば、エルトシャン達の助命を申し入れようとエリオットは誓った
なおハイライン軍はアグストリアの中で王家を除き、最も兵力を保有する集団である
既に先の戦いで多数の重傷者を出しているノディオンのクロスナイツとでは文字通り倍以上の兵力を有していたのだ
このままならば、ノディオンの陥落は時間の問題といえた
再度のノディオンよりの使者を迎えたエバンスのシグルドは一刻の猶予もないとして、グランベル本国への使者が戻る前にノディオン救援の兵を挙げる事にした
尚も渋るレックス公子にはエバンスの守備をアーダンと共に任せてシグルドは速やかにノディオンへと出撃した
その頃、アグストリアの首都アグスティにはある来訪者が訪れていた
「お初に御目にかかれたこと、光栄に思います
この度は突然の来訪にも関わらず謁見の機会を与えて下さり感謝いたします
私はシレジアの天馬騎士の支隊を率いるフュリーと申します」
「おお。そなたがシレジアの「四天馬騎士」の一人、フュリー殿か。よくぞ参られた
して、何用かな。我がアグストリアは現在あまり状況がよくないものでな、ご用向きを伺おう」
王の間にてシャガールと謁見するのはシレジアの騎士フュリー。彼女はとある任務の為にアグスティへと来たのだ
「はっ。お恥ずかしながら、我がシレジアのレヴィン王子が現在行方不明となっておりまして、その手掛かりがないものかと思い参った次第です」
「ふむ。レヴィン王子か。直ぐに確認させよう
手間をかけるようで申し訳ないが、近衛のザインに特徴を教えてくれると助かる
勿論、肖像画か似顔絵があるとよかろうな」
「はっ、私の部下に似顔絵の上手い者がおりますので、その者に命じておきます」
「うむ。ならば、暫しはこのアグスティに滞在されよ
流石の天馬騎士とてシレジアからアグスティまでの強行軍は辛かろう
滞在先は直ぐに用意させるとしよう」
「突然の来訪にも関わらず、協力頂ける上にここまで配慮して頂ける事、感謝いたします」
「マンフロイよ、シレジアのレヴィンとは如何なる人物か」
フュリーとの謁見を終えたシャガールはマンフロイを呼び出し問いかけた
「レヴィン王子ですかな
私は直接見たことはありませぬが、シレジアの現在の女王ラーナの一人息子で風使いセティの聖痕を持つと聞いたことがありますな」
「ということは死蔵している『フォルセティ』の使い手と言うことになるか」
「左様ですな
ただ、ザクソンのダッカーとトーヴェのマイオスが後継者の座を狙っているのに嫌気がさして、国を出たという噂がございましたな」
「待て、ダッカーとマイオスは王弟であったはずだ。その二人が幾ら言おうともレヴィン王子が出奔する理由にはなるまい
むしろ出奔する方が混乱の元になるのではないか?」
「真、その通りですな。事実、両名はレヴィン王子の自覚の無さを痛烈に批判しております
民衆はレヴィン王子を支持している様ではありますが」
「馬鹿馬鹿しいにも程がある
つまり、何か?叔父二人が鬱陶しいから国を出たと?
シレジアのラーナ女王はそれを連れ戻そうというのか?混乱どころか、争乱の元になるだろうに」
マンフロイとシャガールのいうことはほぼ正しい
レヴィン王子が出奔したこと。女王ラーナがレヴィン王子を連れ戻そうとしている
だが、ダッカーとマイオスの野心は少々異なる
確かにレヴィン王子が生まれていない頃には二人ともシレジアの次期国王の座を狙っていた
だが、レヴィン王子が生まれてからは王家が腐敗しないようにあたかも次期国王を狙っているかの様に振る舞っていただけなのだ
そもそも仮にダッカーやマイオスが王位を簒奪したところで民衆は認めないだろうし、息子のレヴィンがいる以上は他国からの支持もえられないだろう
王とは民衆や諸侯、それに他国に認められて初めて意味があるのだ
加えて内乱で国内が疲弊すれば他国の介入を招きかねないのだ
その程度が解らない二人ではなかった
ところが、当のレヴィン王子がそれを理解せずに出奔したのだから、民衆や騎士、女王ラーナ以上に彼等の受けた衝撃は大きなものであった
レヴィン王子が度々、城を抜け出して民衆との交流を深めていたのは知っていたが、まさかこの程度の事も解らないとは想像出来なかった
レヴィン王子が出奔した事を聞いた二人は直ちに相談した上で、レヴィン王子に王族足る資格なしとの評価をする事となった
もしも女王ラーナがレヴィン王子を連れ戻したとしても一度でも国を捨てた人間を主君と仰ぐのは抵抗があった
レヴィン王子が出奔した事で少なからぬ混乱が起きたのは事実。加えてレヴィン王子自身から戻るならばまだよいが、連れ戻されるなどあってはならない
それは自身を支持している者達への裏切りとなるからだ。ダッカーやマイオスならば臣下であり王族である以上は己の身を犠牲にする事もあるだろうし、シレジアの為ならば悪人になることも躊躇うつもりはない
だが、神輿である王が汚れてはならないのだ。無論、汚れを厭わない気概は必要だろうが
言い方は悪いが、臣下は替えがきいても王に替えはきかないのたから
そう常々思っている二人だけにこの暴挙には怒りを隠せなかったし、レヴィン王子の廃嫡を決めないラーナにも不満が募る事になる
「戻さぬ方がシレジアの為だと思うが」
「その通りでしょうな」
そこへ
「失礼します。シャガール殿下に至急の報告がございます」
慌てた様子で近衛兵の一人がやって来た
「何か?」
「はっ。ハイラインのボルドー候よりエバンスのグランベル軍がノディオン領内へ侵攻。現在、ハイライン軍との交戦中との事に」
「何!
ということは奴等の目的はノディオンの救援か」
「おそらくはそうではないかと、ボルドー候も予想されております」
「マッキリーのクレメント、アンフォニーのマクベスへ使者を出せ
ハイラインに合力しグランベル軍を退けよ、とな
ザインにも近衛の出撃準備をさせよ、急げ!」
「はっ!」
シャガールはエルトシャンを処刑するつもりは全くなかった。ただ、勝手に行動した事に対する処罰の為に謹慎を命じたに過ぎない
だが、エルトシャン不在とはいえどもグランベル軍を領内へ引き入れたのは最早疑いようがなかった
ノディオンには厳罰を以て当たるしかないのである
「念のためにマディノへの移転も考慮せねばならんか」
アグストリアでノディオンは首都アグスティの南、マッキリーの更に南にある。そこから西に行けばハイライン。東に行けばグランベルのエバンス。ハイラインの北でアグスティの西にあるのがアンフォニーである
マディノはアグスティの北に位置し、西にはシルベールが存在する
言ってしまえばノディオンがグランベルの勢力下に押さえられた場合はアグストリア国内の連携が困難になる
最悪を想定しなければならなかった
「マンフロイよ。そなたは優秀な魔道士であったな
すまぬが、傭兵を連れて村の巡回を頼めぬか?」
アグストリアの軍勢はグランベルとノディオンにあてる以上はシャガールの信頼できる兵力は傭兵しかいない
傭兵団の隊長ヴォルツは優秀な人物だが、目付役は必要である
それでマンフロイに声をかけたのだ
「本来ならばお断りすべきですが、致し方ありませぬな。承知しましたぞ」
その傭兵達はシャガール王子の命により集められていた
「どうした、ベオウルフ?」
「本当に受けるのか、ヴォルツ」
「俺達の雇用主はシャガール王子だ。従うのが当たり前だろうが」
「俺はエルトシャンを処罰したシャガール王子が気に入らん」
「貴様はエルトシャンと知り合いだったか
だが、関係ない。あくまで俺達は傭兵だ。個人的な感情論を語るならば傭兵など辞めてしまえ
そんな事で雇用主に不満を持つ部下など邪魔にしかならん」
シャガール王子への不満を持つベオウルフにヴォルツは言い放つ
「俺達傭兵は実力だけで生きていけると勘違いしている奴が多いがな、信用がなければただの肉壁として扱われるだけだ。それか捨て駒。どちらにせよ長生きは出来ん
確かに俺達が騎士ならば誇りや信念も通す事も出来るだろうが、傭兵には無理な話よ
辞めるならば、今すぐ辞めろ
後になってからグダグダ言われても不愉快なだけだ」
「分かった。ヴォルツ、あんたには世話になったが、ここまでだ」
「好きにしろ」
こうしてヴォルツ傭兵団を抜けたベオウルフはノディオンへと向かう事にした
ヴォルツ達はマンフロイに連れられて村の巡回を始めた
「全く、愚かよな
自ら死にに行くとは」
「誰だ、お前は」
ノディオンに急行していたベオウルフの前にフードを被った男が現れた
「教える必要があるのか?
どうせ直ぐに屍になるものに」
「アンタが誰だろうと容赦しねぇ」
「威勢だけはよいな『混沌の闇に沈め、ミィル』」
「がはっ!」
ベオウルフが剣を構えた時には男が魔法を放っていた
「闇、魔法、だと?」
「ふん。貴様ごときには解るまいよ
さぁ、死ね『ヨツムンガンド』」
「がっ!エルトシャン、すま」
事切れたベオウルフの死体を調べていた男は
「まあまあのエーギルだな
さて、彼の『獅子王』ならば如何程のエーギルが取れるやら。愉しみよな」
男は転移の魔法で消え去った
ノディオン救援の為にエバンスから出撃したシグルド達はハイライン軍と交戦に入った
「ぐっ、手強い!」
「アレク!下がれ!」
「すまん、ノイッシュ」
「何て数だ。アグストリア屈指のハイラインとは知っていたが」
「愚痴っても仕方ない。行くぞ!」
シグルド軍も以前のクロスナイツと同様に分断されていた
ハイライン側は機動力のあるソシアルナイトのアレクとノイッシュ。ロードナイトのシグルド。ランスナイトのフィンとその上級職のデュークナイトのキュアンとトルバトールのエスリンの足を止めにかかった
アーチナイトのミデェールはエーディンの護衛の為に後発部隊である
ハイラインのソシアルナイトは槍を装備しており、エバンスに残してきたアクスナイトのレックスが一番効果的だった
「このままではラケシスが」
「とはいえ、突破するには数が多すぎる!」
「エスリン様、お下がりください!」
現在、シグルド軍はおおよそ二十。対するハイラインは五十は越えていた
しかもハイラインは複数のトルバトールやプリーストにより逐次回復させているが、シグルド側にはエスリンのみである
後発が合流してもエーディンと三人程しか回復役はいなかった
「将軍!グランベル軍の足が完全に止まりません!」
「慌てるな。焦ればそこから崩される
負傷兵は後方に下げて治療を受けさせよ。然る後に戦線に投入する。此方は足止めのみでよいのだ。焦る必要も慌てる必要もないのだ。落ち着いて戦え!」
ハイラインの将軍、フィリップは混戦の少し外れた所で指揮をとっていた
既にノディオンの兵力は底が見えている。エリオット率いる本隊が落とすのも時間の問題といえた
最悪、エリオットが合流してからの反撃でも遅くはないのだからフィリップが焦る理由は皆無であった
「グランベルの狗どもめ。ウェルダンを支配したようだが、アグストリアは貴様たちに渡さぬ」
一方ノディオン城では
「ハイラインの第八派来ます!」
「怯むな、城門を破られたら終わりだ。何としても死守せよ!」
「イーヴが負傷した!後方へ下げろ!」
正に阿鼻叫喚の地獄絵図であった
既にノディオンの誇るクロスナイツの三分の一が亡くなっており、現在は見習い騎士まで動員して辛うじて凌いでいる状態
ラケシスに付けられた騎士三人。イーヴ、アルヴァ、エヴァの内エヴァが戦死、アルヴァは重傷を負い意識不明、イーヴも今負傷してしまった
クロスナイツの指揮は次席指揮官のインデッハがとっているが、致命的な崩壊を防ぐのみで手一杯である
「シグルド公子の援軍はまだでしょうか?」
ラケシスも回復の杖を行使しながら戦線を支えていた
「どうにもなりませんね
騎士やラケシス達の意見を通した結果、ノディオンは滅びます。しかし、これ以上の犠牲は無意味でしょう
何としても、ハイラインのエリオット殿に降伏を伝えなければ」
エルトシャンの妻グラーニェは降伏の為に動き出した
ところが
「それは困るのですよ、グラーニェ殿
ノディオンには今少し、戦火の中心になって貰わねばならないのです」
「だ、誰ですか!」
ドシュッ!
グラーニェは自身の背後からの声に振り向こうとしたが、心臓を短剣で一突きされて即死した
「さてさて、悲劇の幕は上がった
この大地はどれだけの血を吸うのかな?」
声の主は姿を消した
悲劇は終わらない。終わらせようとする者達を除く者がいる限り
悪役とて自身の思いを持って行動している。そんな話
ノディオンは地獄と化します
エルトシャンは原作並みに後味の悪い事になりますが、御容赦願います
子供世代のオリキャラは?
-
あり
-
なし
-
どちらでも