彼方の時へ   作:くらうす

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次回は地獄だ(白目)

では、何時ものクオリティーですがどうぞ


騎士の国

アグストリアの動乱から早半年たった

 

 

その間に様々な事が大陸全土では起きていた

 

 

 

グランベルによって侵略され、最南端のリボーとその東にある首都イザークを落とされていたマリクル王子率いるイザーク王国軍だったが、グランベル側の一時的混乱を見事に突き、リボー方面まで押し戻す事に成功していた

 

これは事前の軍議によって辺境のソファラを先ずは攻略する事となっていた方針に対して、クルト王子直属の騎士達が異議を唱えた為にグランベル遠征軍はイザーク王国軍の潜む直ぐ傍で混乱した事による

 

幕僚として参加していたユングウィ公爵リング並びシアルフィ公爵バイロンはグランベル本国の宰相レプトールよりの「イザークにおける戦線を速やかに縮小すべし。この命が履行されない場合、補給等について再考する事となろう」との書状を受け取っていた

 

常ならば宰相の地位にあるレプトールの指示にも抗する事も出来ただろう

 

だが、書状の最後には「シアルフィ公子シグルド、アグストリアへの内通の疑い有り。またユングウィ残留騎士団に看過できぬ疑義有り」と記されており、加えてシグルドは『聖騎士』に任命された筈であったが、解任されていた

 

 

バイロン達が知らぬままに状況が目まぐるしく変化していた。だが遠征軍に属する両名に出来る事は限られていた

 

これは物理的距離が離れていた事によるものであった。ユングウィ、シアルフィ両家は伝令による情報通達を基本としており、魔道士を利用した伝達網を持つフリージ、ドズル、ヴェルトマーに比べるとどうしても情報は古くなる上に遅い

 

本音を言えばリングとバイロンは即座にグランベルへと帰国したかった。だが、幕僚として参陣している以上は責任を果たさなければならない

 

そもそも、山岳地帯や森林地帯が国土の三割を越えるイザーク王国において非正規戦闘を現地軍と行う等と言うことはクルト王子は勿論だが、リングとバイロンにも想定出来ていなかった

 

唯でさえ遠方の地方への遠征軍の派遣である

出来る限り足の早い編成とした事により、平地以外での活動に完全に適応仕切れなかったのだ

 

更にイザーク王国側の戦い方は確殺を基本としている事も問題になっていた

確殺、つまり相手の息の根を止めるまで攻撃してくる訳だがグランベルの戦い方は基本的には騎士道に則ったものである

 

一対一が主流なのである

 

無論、グランベルでも精鋭の一つに数えられるリングのバイゲリッター、バイロンのグリューンリッターは多少の混乱はあってもイザークの戦法に対応出来た

 

だが、クルト王子に従う騎士達は経験が浅かったり実戦経験が不足しているものが大半であった

そんな彼等がイザークの戦法に対応出来る筈もない

 

 

 

ドズル公爵ランゴバルドは「ふん、実戦に出ることもせず、首都バーハラ等に籠る腰抜けどもの意見など聞く価値もあるまい」

と言っていたとされるが、大多数の騎士達の意見でもあった

 

それに比べて、同じくバーハラに駐留している近衛騎士団『ヴァイスリッター』等は常に危機意識を以て研鑽に励んでいる

「近衛騎士団に一年在籍出来たなら真の騎士」と言われる程の苛烈なものである

過酷な訓練故に訓練中に死亡する事態も頻繁におきる

が、近衛隊長アルヴィスは「有事の際における最後の盾である近衛がグランベル最強足り得ずして、何の為の近衛か」と反対意見を一蹴している

 

現近衛騎士団副長が在籍二年であり、大半の騎士が二、三年在籍している事からも分かるかもしれない

 

 

無論、彼等とて『自分達なり』に訓練はしているのだろうが、鍛練の時間が殆んど取れない宰相レプトールをして「全く足りぬな」と言われるのだからその程度も知れている

 

 

だから自身の出世を求める彼等がイザークでの戦闘を終わらせるつもりはない

 

終わらせるとしたら、イザークを完全に屈服させてからであろう

救えない事にクルト王子も明言はしないがそれに同調している

 

 

 

実のところ、クルト王子はイザークを制圧した後にシギュンを見つけ次第、彼女を妻に迎えるつもりだった

 

シギュンが元ヴェルトマー公爵夫人だとか、年齢差等という雑多な問題は自分がグランベル国王になれば解決すると彼は考えていたのだ

 

現在はクルトの父親、アズムールが国王ではあるが、既に政務の大半は宰相のレプトールが代行している

 

そこまで体調が良くないのであれば、イザーク平定の功績を以て国王の座を譲って貰う

しかる後に専横をおこなっているレプトールの宰相職を解き、自身に忠誠を誓う者をあてがうつもりだ

 

 

 

なんのことはない。一番イザークでの戦いを望んでいるのがクルト王子なのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

イザークにてグランベル軍が一時的にリボー方面まで押し戻された話をランゴバルドはイードの街で知った

 

 

 

「これは、ドズル公爵様。よくぞお出で下さいましたな」

 

「ふん。相変わらずフードを被ったままか」

 

「平に御容赦を

以前御見せしましたが、あまり愉快なものではありませぬので

私は商人です。この様な容貌では相手方を不快にさせるだけと」

 

「そうだったな、とりあえず物資の件には感謝するぞ、アリウスよ」

 

ランゴバルドと話をしている男、アリウスはこのイードの物流を扱う商人である

 

彼は数年前からグランベルでの商売の為に色々とランゴバルドと話をしてきた

 

今回の遠征軍への後詰めにあたり、グランベル最北端のリューベックより東進するルートを選んだ為、途中にあるイードでの補給を要請していた

 

 

「しかし、イードか」

 

「ロプトゥス、でしたかな?

余り詳しくは存じませんが」

 

「儂とて良くは知らぬ

が、ロプトゥスを信仰する者共は滅んだのであろうか?

今でも納得出来ん」

 

「少なくとも、このイードでは寡聞にして聞きませぬが。ただ宗教と言うものは根が深いと思いますから根絶するのは困難かとは思いますな」

 

「そうであろうな

全く、根の深い問題よ」

 

 

ロプトゥスを信仰するロプト教団への弾圧は国家や正規軍よりも民間の方が酷い

 

彼等は『ロプト狩り』と称して自分達で勝手に行う事が多く、為政者達の悩みの種となっている

 

グランベル王国でもロプト教徒は処罰の対象ではあるが、処刑するとしてもその個人のみ

間違っても一族郎党を族滅させる事はあり得ない

 

例外としてはロプトゥスの血を継ぐ者であるが、既にロプトゥス直系の血は絶えているとされている

 

 

たとえ、直系の血が存続していようとも、ロプトゥスの『血の覚醒』には直系の血同士の結婚、言い方は悪いが『近親相姦』が必要となるとされている

 

その様な恐れは殆んどあり得ないとされていた

 

 

 

 

 

なお、グランベル王国の建国の祖、『聖者ヘイム』達に協力してロプト帝国を打倒したロプト帝国皇族マイラの一族の生存は闇に葬られている

 

この皇族マイラの生存こそが現代までロプトゥスの血統を残している理由である

 

ウェルダンの『精霊の森』に住んでいた者達やシギュンもこの末裔にあたる

 

 

 

 

 

「貴様に言っても仕方ないか」

 

「そうですな。しがない商人である手前にはロプト教団と言われましても何とも言えませぬ

とはいえ、何かありましたらご連絡はしますが」

 

「それでよい

さて、そろそろ行かねばならん

これ以上クルト王子に好き勝手はさせれぬからな

今回の請求はレプトール卿に回しておけ」

 

「わかりました

では、ご武運を」

 

 

 

イードにて小休止をとったランゴバルド率いるドズル公爵軍は足早にイードを去った

 

 

 

 

 

 

「残念、残念だよランゴバルド。貴様やレプトール、アルヴィスが幾ら足掻こうと既に大陸全土に火種は蒔いた

 

手遅れだよ」

 

アリウス、もといクベリウスは去ったランゴバルドを嘲笑した

 

 

 

イザークでは再度イザーク領へと侵攻しようとするクルト王子一派とリング、バイロンの対立が激化しつつあった

 

イザーク王国側との休戦をしようとしても、先代マナナンの死がそれを阻む

 

犯人をイザーク側はグランベルと思い込み、グランベルはイザークの自作自演と疑っている

 

 

まさか彼等が既に形骸化していると思っているロプト教団が下手人と思い至るとは到底思えない

 

 

 

アグストリアではノディオンとハイラインの決定的な開戦になった騎士はクベリウスとマンフロイが製作した『モルフ』である

 

結果、アグストリアの国力は疲弊しシャガール王はグランベルの実質的な従属勧告を受け入れざるをえなくなった

 

そのアグストリアでもグランベルへの反意が燻っている上に、結果としてグランベルの利益に協力した形となったエルトシャンはアグストリア内で孤立している

 

 

 

 

グランベルの実質的属国となったウェルダンでも、グランベルの言いなりになって民衆からの支持が高いガンドルフ王子を処刑したジャムカ王への非難が続いている

 

この混乱のせいで『精霊の森』にあった集落が壊滅した事の発覚が遅れているのはクベリウス達にとって有り難かった

 

 

アグスティに駐留するシグルドは何とかしてアグストリアとグランベルの決定的な対立を防ぐべく、エルトシャンと協力している

 

が、これもまたシグルド達がグランベル、アグストリア双方からの反発を受ける事になる

 

 

 

シレジアでは王弟マイオスが現女王ラーナへと公然と反発し始めた

現在はかろうじてマイオスの兄で王弟ダッカーが抑えているが、レヴィン王子が国に戻りでもしたらシレジアでも内乱が起きる事だろう

 

 

 

隣国レンスターの王子夫妻の不在を知ったトラキア王国の動きも最近になって活発になっていた

 

元々、食糧等の備蓄に問題を抱えていた為に軍事行動を自粛していたが、クベリウスはアリウスの立場を使い様々なルートからトラキア王国へと物資を納入した事で軍事行動が可能となった

 

クベリウスは時には商人として、時には山賊等をけしかけて。である

 

更にアグストリアのシャガール王もトラキアの傭兵を雇用する様であり、トラキア王国が軍事行動を起こすのもそう遠くない話となりそうである

 

 

 

一方でウェルダンでの仕掛けた罠にもシグルド公子は見事に嵌まってくれた

 

シギュンの娘であるディアドラと子をもうけたらしい

 

 

だが、それはシグルド軍内とその周辺にしか周知されておらず、まかり間違ってもグランベル本国まで届いていない

 

届かせようとしても、届かないようにするのもクベリウスの仕事である

 

 

 

 

これで悲劇の幕はあがる

 

このユグドラル大陸全土を焼き尽くす業火のシナリオの幕が

 

後はマンフロイに伝えた後で全ての仕込みを終わらせるとしよう

 

 

 

 

そうしてやっと『全てが終わる』のだ

 

 

 

クベリウスは一人で嗤っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クベリウスが全力で暗躍している頃、アグストリアの首都マディノでは国王シャガール、ボルドー、クレメント、エリオットと他に一名が集まっていた

 

「申し訳ありませぬ

グランベル側にこちら側の混乱をおさめた故に国土の一部返還を求めたのですが」

 

クレメントはシャガールに謝罪する

 

 

 

『アグストリアは国内の度重なる混乱により統治能力を著しく欠いている。グランベルはこれを一時的に保護占領する』

 

これがアグストリアの所領を割譲した際に取り交わした文面である

 

この約定ではアグストリアが統治能力を回復させ次第アグスティ、アンフォニーの順番で返還する事になっていた

 

あれから半年経過しマディノ付近の統治は安定している

 

にも関わらずグランベルは返還に応じない

 

「グランベルめ。約定を反故にするつもりか」

 

「エリオット、落ち着け

とは言え陛下、シルベールのエルトシャンもシグルド公子へと働きかけている筈ですが、一向に進展せぬのは些か以上に不自然ですな」

 

「うむ。ボルドーのいう通りよな

約定を交わしたレプトール殿は約定を違える人物とは思えなかったが」

 

 

実のところはレプトールが裏で動いていた

アグストリアの要請を可能な限り引き延ばすべく

 

 

アグストリアの交渉が不首尾となれば、隔意を持つとはいえシャガール王はエルトシャンにも要請する

 

エルトシャンが動けばシグルドも動く

 

 

しかし、グランベルが動かないとなればアグストリア割譲の直接原因であるエルトシャンとシグルドへとアグストリアの敵意は向く

 

勿論、エルトシャンとシグルドは何とかしようと必死になるだろう

 

だが元よりシャガール達からの信用のないシグルドと信用を失ったエルトシャンである

 

 

そうなれば一年以内に何かしらの軍事行動に出る可能性は高い

 

先の戦いで主に被害を被ったのはシグルドやエルトシャン配下の旧ノディオン勢と元近衛隊長ザインに同調した親エルトシャン派だ

 

シャガール王の元にはボルドー配下のハイライン、クレメント配下のマッキリー勢が存在している

更にザインと袂を分かった近衛もいる以上、戦力は充分である

 

それに加えてヴォルツ率いる傭兵や剣士ジャコバン等の傭兵を多数新たに雇用した

だめ押しとばかりにトラキアの竜騎士すら雇っているのだからアグストリアが穏便な解決を諦める可能性は高いのである

 

しかも矢面に立つのはレプトールの中では既に不要としているシグルド公子達である

 

懸念材料であったヴェルトマー公子アゼル、ドズル公子レックス、ユングウィ公女エーディンについてもアルヴィス、ランゴバルド、アンドレイそれぞれよりやむを得ないとの許可を取り付けている

 

見捨てる事に何の不都合もない

 

 

生きていればリング、バイロンが抗議するだろうがシグルド公子達の処分が為った時には彼等が生きている可能性は相当低い

 

仮に生きていたとしてもその時には彼等に発言力等有りはしない

 

間違いなく『反逆者』となっている

 

 

 

シグルドが万に一つ、シャガール率いるアグストリア軍を撃退出来ても『反逆者』バイロンに同調したとして討伐軍を出すだけである

 

シグルドがアグストリアに内通しているか、バイロンが反逆者になるか。どちらにせよ、彼等に先はない

 

 

 

極小の可能性としてシグルド達をシレジアが受け入れる可能性も無くはない

 

その場合は『当初の予定』通りに動かす事で万事解決するだろうとレプトールは判断していた

 

 

 

 

「グランベルが動かぬならばやむを得ないだろう」

 

「既に我等は陛下の信を一度裏切っております

かくなる上は陛下に地獄の底まで着いていきます」

 

「このクレメント。司祭である前にアグストリアの人間にございます

我等が土地は取り戻さねば」

 

「元より私の不始末が全ての発端にございます

このエリオット、陛下の願いの為に如何様にでもお使いください」

 

「我等近衛、本来の職務を忘れて一時的とはいえど陛下へと剣を向けました

この上は陛下の道を拓くべくこの身全てを擲つ所存にございます」

 

シャガールの決意に各々が従う意思を見せる

 

「うむ

貴公等の忠心受け取った

シルベールのエルトシャンにも命を出せ!

最早容赦せぬ、グランベルに我々の力を示すのだ!」

 

「「「「はっ!」」」」

 

 

こうして後の世に『アグストリアの血戦』と呼ばれる戦いは始まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっと此処までこれた

では御一読ありがとうございました

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