彼方の時へ   作:くらうす

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いよいよ親世代もクライマックスとなります

一部のキャラクターは残したかったが、物語の進行的に難しいので断念

では、どうぞ


想いの果てに

「そうか」

 

ザクソン領主であり、女王ラーナの弟でもあったダッカー候は配下よりの報告にそれだけを返した

 

 

 

『グランベル王国軍が王都バーハラより出撃』

 

この報を受けたからであった

 

 

グランベル側は幾度にも渡って反逆者シグルド一派の引き渡しをシレジアに要求してきた

 

が、シレジア女王ラーナは一度として受け入れようとしなかった

 

 

既にシグルド一派をシレジアに匿って一年程経過しており、その間に大陸全土には変化が起きていた

 

 

グランベルの南方に位置するウェルダン王国は国王ジャムカが反乱で死亡し、その混乱に乗じたグランによって滅亡した

 

グランベル西方のアグストリア諸侯連合は既に統治機能をグランベルが掌握しつつあり、最早グランベルの領土と化していた

 

グランベル東方のトラキア半島では南部のトラキア王国と北部のレンスター王国が軍事的緊張にあると言われている

 

シレジア王国の唯一の友好関係にあるイザーク王国でもグランベル遠征軍に抵抗した指導者であるマリクル王子が亡くなり、イザークは統一的行動が取れなくなっているとの事らしい

 

 

この情勢でグランベル本国より大軍を動かしてまで討伐する可能性があるのは、トラキア王国とレンスター王国。そして、ダッカー達のシレジア王国であった

 

報告によると編成は弓騎士を中心としたものらしく、シレジア王国への軍勢とダッカーは判断している

 

おそらくはユングウィ公爵アンドレイ配下の騎士団であろう、ども

 

 

仮に、そう仮にだ。レンスター王国討伐ならば、槍騎士主体のレンスター軍相手にドズル公爵ランゴバルド配下の斧騎士団(グラオリッター)を出さない理由がない

 

槍に対しては斧が有効なのは自明の理なのだから

 

前衛職である槍騎士に対するには間接攻撃主体のアンドレイ公爵配下の弓騎士団(バイゲリッター)だけでは苦戦は免れない

加えてバイゲリッターは先代リング公爵がイザーク方面で死亡した際に一度壊滅している。現在は部隊としては再編したが、練度の面でも不安はあると見ている

 

では、トラキア王国かと問われるとそれも有り得ないだろう。トラキア征伐ならば一々バーハラに軍を集める必要などないからだ

グランベルの南東部、ミレトス地方から侵攻した方が無駄もないだろうし、トラキア本城の西にあるグルティアに近いからだ

が、やはりこの場合でもグラオリッターを動員しない理由はないだろう。相手は精強で有名なトラキア騎士団。生半可な戦力で勝てる相手とは思えない

 

 

逆にシレジア侵攻ならば甚だ不本意ではあるが、バイゲリッターのみでも事足りるだろう

 

グランベルが介入するならば、ダッカーはシレジア王家の血を護る為にグランベルへと協力せねばならない

 

そうなれば、前衛はダッカー配下のパメラ率いる天馬騎士団に任せ、後衛にバイゲリッターが展開するだろう

 

精鋭揃いのマーニャ配下のシレジア近衛天馬騎士団とてザクソン勢のみでも苦戦は免れないだろう。そこに天敵である弓を主兵装とするバイゲリッターまで加わるならば近衛側の壊滅は避けられまい

 

 

「シレジアを思いながらも、シレジアに弓を引くか

我ながら度しがたい無能っぷりよな」

 

ダッカーは独り呟く

 

だが、シグルド一派を引き渡さない以上はシレジア王国は反グランベルと見られても仕方ないのも事実。女王ラーナには幾度にも渡って進言するも退けられている現状でグランベルの支配を受けない為には、ラーナを女王とする現体制をどうにかする他ないのである

 

たとえ、それにより『売国奴』の謗りを受けようとも

 

 

 

 

 

 

ダッカーが苦悩していた頃、ダッカーの弟でトーヴェ領主のマイオスは反逆者シグルド一派を一掃すべく、セイレーン城へと兵を進めさせていた

 

 

「頼むぞ、ディートバよ。必ずや反逆者シグルドの首を取って参れ

でなくば、シレジアは終わる事になろう」

 

「はっ、必ずや!」

 

マイオスの激励を受けたディートバは先行させている地上部隊に追い付くべく、自身の天馬騎士団を率いてセイレーンへと急いだ

 

 

ディートバとてシレジア四天馬騎士の一人である

 

 

力量としてはマーニャ、パメラに次ぐシレジアNo.3だが、決して猪武者ではない

 

故に今のシレジアを取り巻く情勢の危うさを痛感しており、グランベルの反逆者シグルドは何としても除かないとならないのは理解している

 

セイレーンにはレヴィン王子がいるとは知っている。王族に槍を向けるのはディートバとしても気が咎めるがシレジアを護る為には仕方ないと割り切る他ない。時間や立場が許すならば説得もしようが、グランベルが何時強行策に出るとも限らない以上は速やかに事態を収束させねばならないのも間違いではない

 

「レヴィン王子、御覚悟を」

 

ディートバの呟きは誰にも聞こえなかった

 

 

 

 

 

『トーヴェ軍、セイレーン方面へと侵攻』の報はセイレーンにいるシグルド達にもたらされた

 

シグルドとしては、一年以上も世話になっているシレジアで戦いはすべきでないと考えていた

 

しかし、戦争には相手がいる以上シグルドとしても応じない訳にはいかないのも事実

 

だが、既にシグルド達は多くの犠牲者を出しており、キュアン達レンスター勢は帰国している

 

出せる戦力にも限りがあるのも事実である以上、消耗は避けねばならない

かといって、籠城を選べば城下に被害が及ぶ可能性もあるので打って出るしかないのだが

 

 

シグルドの意思とは裏腹にトーヴェ軍と戦わねばならなかった

 

 

 

 

 

結果としてトーヴェ軍を激戦の末、辛くも撃破したシグルド達は敵の本拠であるトーヴェ城へと向かった

 

シグルド達にもたらされている情報ではトーヴェ側の機動戦力はほぼセイレーン攻撃に動員されており、拠点防御の為の魔道士が残存するのみとされている

 

シグルドやレヴィンは即座に鎮圧してシレジアの安定化を進めたいと思っていた

 

 

 

 

天馬騎士フュリーは悩んでいた

 

 

先のトーヴェ側との交戦の折、敵指揮官ディートバより気になる事を聞いていた為である

 

「フュリーかい。はっ、レヴィン王子と共にシレジアを滅ぼすつもりか!」

 

「そんな事はありませんし、させません!」

 

「相変わらずの甘ちゃんすぎてさ、反吐が出るよ!」

 

 

そして

 

「ガハッ!

マ、マイオス様、申し訳ありません

シレジアもこれで終わるのか」

 

と言い残し、ディートバは亡くなっていた

 

 

今回の戦いはトーヴェ側がレヴィン王子を除こうとしているとフュリーを始め、シグルド達は判断していたが何かがおかしい気がしてならない

 

シレジアが滅びるとディートバは言っていた。滅びるということは内乱だと思っていたが、違うのだろうか?

 

内乱でなければ、シグルド公子達の関係でグランベルによる侵攻だろうが、既にアグストリアの件から一年以上もたっている。シグルド公子達を討伐するならば、もっと早くに侵攻して然るべきではないか?

 

それに、フュリー達がシレジアに帰還して暫く後にトーヴェ、ザクソンの兵力が増強されたと聞くが何故、今のタイミングなのだろう?

 

シグルド軍の女性の多くがシレジアに逃れて直ぐに出産ラッシュだった時期があったのは、相手も把握していた筈である。しかも、その少し前にレンスターのキュアン王子達が帰国しているのだ

 

普通に考えれば動員する兵力が少ないあのタイミングこそ討伐する絶好の機会ではなかったのか?

 

フュリーの中に言い知れない不安が募っていった

 

 

 

 

 

 

 

丁度トーヴェのディートバ達がシグルド達に破れた頃、ザクソンにはグランベルのアンドレイ公爵と配下のバイゲリッターが到着していた

 

 

「どうやら、こちらの温情も無駄になった様ですな、ダッカー候」

 

「・・・返す言葉もない」

 

「なれば仕方ない。ラーナ女王達には消えて貰うとしよう。異論はありませんな?」

 

ユングウィ公爵アンドレイはダッカーに対してシレジア王家の排除を宣言した

 

「・・・・・・承知しました

では、我が配下のパメラと麾下の天馬騎士団をお使い下さい。アンドレイ卿ばかりに負担をかける訳には参りませぬ故」

 

「ふむ、それは有難い。シレジアで『No.2』の実力を持つパメラ殿達をお借りできるのは幸いだ」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

緑色の髪の女性パメラは無言であった

 

「では、早々に出撃する故、宜しく頼むとしましょう」

 

そう言い残し、アンドレイは手勢の元へと戻った

 

 

 

 

 

「パメラ、貴様にとっては不本意であろうが、耐えよ」

 

「・・・はっ」

 

ダッカーはパメラに言い含めたが、反応は芳しくなかった

 

 

 

 

 

パメラはシレジア四天馬騎士筆頭のマーニャと同期であり、常に腕を競いあったライバル同士であった

 

ディートバとフュリーは二人より年下であり、ディートバはパメラの従姉妹、フュリーはマーニャの妹だった

 

 

当然、年下の二人には負けれなかったし、マーニャにも負けぬ様に鍛練に励んでいた

 

だが、それでも尚マーニャには及ばず、四天馬騎士次席の地位に甘んじる他なかった

 

 

たとえ、如何なる理由があろうとも、主君の命ならば肉親とて討ち果たすのがパメラの覚悟である。それがライバルのマーニャ相手でも変わる事はない

 

もしも、戦場で相まみえるならばマーニャを自身の手で討ち果たしたいと思っていた

 

 

しかしながら、今回与えられた命はグランベルとの共同作戦であり、寧ろ主攻はあちらであると言うのだ。パメラとしては内心、納得がいかないのも仕方なかった

 

 

 

 

 

 

 

その少し後にはザクソンよりパメラ麾下の天馬騎士団とアンドレイ公爵麾下のバイゲリッターがシレジア本城へと出撃していった

 

 

 

 

『ザクソン勢、シレジア本城へと侵攻』の報を受けた近衛騎士団のマーニャは直ちに女王ラーナに迎撃を進言、已む無く此れをラーナも是とした

 

 

既に時刻は夜に差し掛かっており、吹雪とまではいかないものの少しばかりの降雪があった

 

とはいっても、シレジアで生まれ、育った彼女達にとってはこの程度は無視できるレベルである

 

 

天馬騎士の定石でいえば敵よりも高高度に展開し、太陽や月を背後に降下、突撃が基本的な戦術である。となれば低高度にある雲より上昇して降下するのも一つの選択肢ではあるだろう

 

が、相手はパメラ麾下の天馬騎士団である以上、まさか雲に隠れた彼女達を降下して雲を抜けた一瞬で捕捉するのは困難であった

 

それは相手にとっても同じである以上、マーニャは雲よりも高高度で進軍していると予測していたが、パメラ達の姿は接敵予測の時間になっても見えなかった

 

 

「?おかしいわね、パメラ達の姿が見えない?」

 

マーニャは不審に思った

 

雲の下での戦いとなると、気象条件に左右される上に視界も良いとは言い難い

敢えて不利な条件で挑むとは考えがたいのだが

 

「隊長、仕方ありません。(雲の下に)降りる他無いかと」

 

「そうね、あちらを捕捉しない事にはどうにもならないわね

全騎、雲の下に降りる!続け!」

 

 

 

 

 

ここに双方の目的の違いが出ていた

 

ザクソン側はシレジア本城、ラーナ女王を殺害が主目的であるのに対し、マーニャ達シレジア側はザクソン側の機動戦力の排除である

 

つまり、パメラとアンドレイはマーニャ達を排除せずとも良いが、マーニャは彼女達を排除せねばならないのだ

 

すると、マーニャは自身で戦場を選択できなくなる

 

 

 

そうなれば

 

「マーニャ隊長、敵です!」

 

雲から抜けて直ぐに部下より報告があった

 

「くっ、この状況で!」

 

雲から抜けた先は吹雪となっていた。シレジアでは特に天候は変わりやすい為に然程に珍しくはない

 

だが、視界不良というものは空という立体的機動を行うにはかなりの障害となる。この上で敵との遭遇戦となれば個人にかかる負担は尋常ではない

 

「皆、周囲に気を付けながら戦闘に入る!

くれぐれも単騎にならないように!」

 

困難と解っていても、そう指示せねばならなかった

 

 

 

 

 

 

一方、地上では

 

「アンドレイ様!視界が閉ざされておりますが」

 

「(やはり、父上と共に失ったバイゲリッター本隊の損失は大きい、か。この程度で慌てるなど)

慌てるな、パメラ殿が言うにはこの吹雪とて長くは続かぬ。機を待て」

 

アンドレイは配下の弱気な発言に内心でため息をつきながら指揮をとっていた

 

「元より多少の不利は承知している

さて、お手並み拝見しようか『次席殿』?」

 

それでも、アンドレイは自身の勝ちを確信していた

 

 

 

 

「来たか!マーニャァァァァッ!」

 

パメラは雄叫びをあげながら、敵将マーニャへと肉薄する。周りの雑兵などどうでも良いかの如く

 

「ッ!パメラ!」

 

マーニャもすぐにパメラに気付き、迎撃する

 

「貴様らはマーニャ以外を抑えろ!逃がすな!」

 

「私がパメラを抑えます!皆は他のもの達を!」

 

言葉こそ違えどマーニャとパメラは一騎討ちを選ぶ。マーニャもパメラも並みの天馬騎士では抑えられない以上は双方が激突するのは必然といえた

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くたっても決着はつかなかった

 

伊達に四天馬騎士の筆頭と次席ではないのだ

 

 

だが、その均衡は突如として崩れる

 

「っ!吹雪が止む?」

 

「ちっ!手こずらせる!

くっ!吹雪が止むか、全騎上昇!」

 

吹雪が小康状態になった事を驚くマーニャと即座に上昇を命令するパメラ

ほんの僅かな差であったが、それが全てを決めた

 

 

「キャアッ!」

 

「くっ!」

 

「な、何?キャアッ!」

 

 

あちらこちらで悲鳴が上がる

 

 

 

 

 

 

「手を休めるなよ、間断なく撃ち続けよ!」

 

「はっ!」

 

吹雪が弱まった事により、地上にいたバイゲリッターが上空のマーニャ達へと射撃を始めたのだ

 

 

良く勘違いされがちだが、弓により天馬騎士や竜騎士が直接殺生される事はあまりない

 

だが、彼女達は空を飛んでいる以上、地上に落ちる際に殆どが命を落とすのだ

 

人など狙う必要はない。乗り物たる天馬の脚、翼等を射抜くのみで良いのだ。そうなればバランスを崩して墜ちるのみ

 

「はっはっはっ、まるで鳥を落とす様なものだ」

 

アンドレイの嘲笑が響く

 

 

 

 

 

「そんな、グランベル軍?」

 

突然の奇襲にも何とか対応したマーニャは絶句した

夜間の吹雪により視界が閉ざされていたが、吹雪が収まってきた為に眼下の軍勢を視認出来たのだ。そこにはグランベルの六公爵家の一つ、ユングウィ公爵家の旗があった

つまり、よりにもよってシレジアの重鎮である筈のダッカー候がグランベルと手を組んだのだということ

 

しかし、彼女にはそんな事に思考を割く余裕すら与えられない

 

「マーニャ!覚悟!」

 

「くっ!」

 

射撃の雨の中を突撃してきたパメラに何とか対応するマーニャ

 

「パメラ、貴女どうして?」

 

「うるさい!黙れ!」

 

マーニャの疑問など聞く気もないパメラ

 

「貴女だって、シレジアの騎士でしょう!」

 

「貴様にわかるか!ラーナ様に気に入られ、レヴィン王子に慕われ、その上民からも慕われている貴様に!」

 

「うくっ!」

 

「常に貴様に敗れ、ダッカー候に信任されていたにも関わらず、この暴挙を止められず、挙げ句グランベルの手先とならざるをえなかった私の気持ちが!」

 

マーニャはパメラの猛攻に防戦一方となっていた

 

 

既にマーニャ以外は全て墜ち、パメラ側の損害は軽微である

射撃は止まっていた

 

「そう。でも、私にも天馬騎士団筆頭の立場と責任がある!せめて貴女の命だけは貰うわ、パメラァァッ!」

 

「こちらの台詞だ、覚悟しろマーニャァァァァッ!」

 

マーニャとパメラがぶつかり合うその瞬間

 

 

ドスッ!

 

「え?」

 

「な、何?」

 

降下していたマーニャの胸に矢が刺さっていた

 

「マ、マ、マーニャァァァァァァァァァッ!!!」

 

パメラの絶叫が響き渡った

 

 

 

 

 

 

「ふん、下らんな。実に下らん」

 

「ア、アンドレイ様」

 

一騎討ちに水を差したのはアンドレイであった。だが、マーニャを始末したアンドレイはパメラの取り乱し方を見て

 

「戻るぞ」

 

「は?」

 

「グランベルへと帰国する」

 

「し、しかし」

 

「用は済んだ、聞こえなかったか?」

 

「は、はっ!」

 

マーニャの命を奪ったアンドレイはこれ以上の価値はないとグランベルへと帰国していった

 

 

 

「ふん、実に下らん見世物だった」

 

アンドレイは泣きそうな声で呟いたが、誰にも聞こえなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

「マーニャが死んだ?」

 

トーヴェをおとしたレヴィンの元にシレジア近衛天馬騎士団全滅の報がもたらされた

 

「そ、そんなマーニャねえ様が」

 

フュリーも泣きそうであった

 

「レヴィンもフュリーも愚かよな

こうなる事は予測出来たであろうに」

 

二人を見て冷笑を浮かべるのは捕虜となったトーヴェ候マイオスである

 

「マイオス候、予測出来たとは?」

 

「想像力が足らんな、シグルド公子

貴様らを匿った時点で我がシレジアの破滅は避けられぬものとなっておったのだ」

 

シグルドの疑問にも冷笑と共に答えるマイオス

 

「で、ですがこの一年あまりグランベルは動けなかったではないですか」

 

「ふ、小僧よ。グランベルが動けなかったのではない。動かなかっただけよ

この一年程でグランベルはウェルダンとアグストリアを支配下においた

それ以外にもグランベル国内を固めたであろうよ

貴様達の存在が我がシレジアを滅ぼすのだ!」

 

オイフェの問いにも嘲笑混じりで答える

 

「ククククク、国の事を、民の事を思って国を出た?

阿呆が。その結果がグランベルとの無用な軋轢を生み、旧アグストリアとの連携を阻んだのだ!

そして、何食わぬ顔でシレジアへ戻ってきたのだから、私も兄上も驚いたわ

まさか、此処まで愚かとはな

まぁ、良かろうて。私はシレジアが滅ぶ、そんな未来を見る気はないのでな」

 

マイオスはレヴィンを嘲笑い、そして

 

 

「死んでる、だと?」

 

謎の死を遂げた

 

 

 

 

 

 

「レヴィン、兎に角シレジア本城へと向かおう」

 

シグルドはレヴィンに声をかける

 

「そう、だな」

 

だが、力のない答えしか返ってこない

 

「レヴィ「報告します!南より天馬騎士団が接近しております!旗印はザクソンかと!」」

 

シグルドの言葉を遮る様に見張りが駆け込んで来た

 

 

見張りが確認したのはマーニャ隊を埋葬した後に北進してきたパメラ率いる天馬騎士団だった

 

 

「騎士としての矜持を奪われ、名誉を失い、それでも私は戦うしかないのだ

このシレジアの明日の為に!

全軍、かかれ!」

 

騎士として主君に信用されず、好敵手との一騎討ちすらも汚されたパメラだが、それでもシレジアの未来の為にシグルド軍と敬愛するレヴィン王子と戦う決意を固めたパメラは号令をかけた

 

 

 

「ちっ、さっきのディートバとやらの隊より手強い!」

 

重量のある鋼の斧を振り回すレックスは悪態をつく

 

「此方も厳しいな」

 

言葉少なくレックスに同意するのはアイラ王女

彼女は亡き夫ホリンとの間に男子スカサハと女子ラクチェを出産して一月程にも関わらず、最前線へと赴いていた

 

「産後で無理するとは、な!」

 

レックスはアイラと背中合わせで戦っていた

 

「無理せぬ事だな、レックス殿」

 

「言ってくれるぜ!」

 

 

先手を打たれたシグルド達は何とか城の外にて防戦していた

 

本来ならば、トーヴェに籠城するのが好ましいがシグルドとレヴィンは民への被害を考えて籠城は避けた

 

 

もっとも、敵手であるパメラとてシレジアの民をいたずらに傷付けるつもりなど有りはしないし、彼女の配下の騎士たちもその様な蛮行は望むところではないため、無駄な話であったが

 

 

「民を気遣うか。その心意気は見事だ

だが、貴殿を討ち果たさねば我らがシレジアは滅亡するのだ!覚悟せよ!」

 

パメラとて野戦を挑む理由は察している為に、敢えてシグルド達の思惑にのった

 

 

アゼルとティルテュにブリギットが、シルヴィアとクロードが、レヴィンとフュリーがそれぞれ天馬騎士団を相手していた

 

 

シグルドとパメラは敢えて一騎討ちを行う事とした

 

皮肉な事に無用な犠牲を好まないのは両者に共通する想いであったから

 

 

「シアルフィ公子、シグルド殿とお見受けする

私はシレジア四天馬騎士次席、パメラだ。その命を頂戴する!」

 

「パメラ殿、貴殿とて解っているはずだ。このまま戦ったところで無意味だ」

 

名乗りをあげるパメラを止めようとするシグルド

シグルドとしては、トーヴェ候マイオスやその騎士ディートバ、目の前のパメラとて彼等なりにシレジアを愛しているのは分かる

 

 

ならば、話し合う必要があるとシグルドは考えていた。だが、

 

「無意味、か

意味はある。貴殿には分からぬやも知れんがな

剣を抜かれよ、さもなくば軍のトップである貴殿を丸腰のままに突き殺す事になる」

 

パメラは既に命を捨てる覚悟をしている。であるからこそ、説得など無意味だった

 

それでも尚、剣を抜かぬシグルドに

 

「抜かぬ、か。よかろう、ならばそのまま無抵抗で死ぬとよい!」

 

パメラは躍りかかった

 

 

 

 

「エル・ウィンド!」

 

そのパメラを横からの風が一閃した

 

 

 

 

 

「パメラ様、どうして?」

 

フュリーは泣きながらパメラに問いかけた

 

「つまらぬ、問いよ、な」

 

虫の息のパメラはとても小さな声で答える

 

「私はな、マーニャに、勝ち、たかった

浅ま、しい事、だがな」

 

「・・・・」

 

「レヴィン、王子。速やかにシレ、ジアへ」

 

「分かった」

 

パメラの遺言にレヴィンは言葉少なく答える

 

「は、は。どれだけ、私、が望も、うとガハッ、騎士の、本懐すらなしえなんだ、か

フュリー、貴様が、四天、馬騎士、最後の一人、だ

シ、レジアをレヴィ、ン様を、たの、む」

 

「はい、はい!」

 

フュリーは泣きながらも答える

 

「泣き、虫、め

ダッ、カー、様。申し訳、ありま」

 

シレジア四天馬騎士次席、パメラの命の灯は燃え尽きた

 

 

 

その後、パメラ率いる騎士団の生き残りの一部はシグルド軍へと協力する事となった

 

 

 

 

パメラ率いる騎士団とシグルド達が交戦している頃、シレジア本城にて、女王ラーナと王弟ダッカーが会談していた

 

「ダッカー、貴方は」

 

「最早言い逃れするきは有りませぬ、女王陛下

なれど一つだけお願い致したく」

 

『・・:何でしょうか」

 

「フォルセティの解禁をなされよ

私とマイオスの印は此処にありまする故」

 

「っ!それは」

 

『聖なる風フォルセティ』

これは風使いセティが使用したとされるシレジア王家に伝わる神器である

だが、その強大さ故にシレジア王家の直系以外の王族にも封印の一部を持たせ、フォルセティを共同管理していた

 

今代の封印は女王ラーナと王弟ダッカー、マイオスがそれぞれ有していた

 

神器を使える証である『聖痕』はラーナ達には表れず、ラーナの息子レヴィンに継承されていた

 

神器を有するという事はシレジアの後継者を意味する。つまりはダッカー、マイオスはレヴィンを次期後継者と認めた事になる

 

 

「これが最後の王族としての役目にございます

私はグランベルに国を売り渡そうとした反逆者。これを始末したレヴィン王子ならば、シレジアの後継者として相応しいかと」

 

「・・・・・・ダッカー、貴方は」

 

「・・・・・・・・・これにて用は済みました。長い間世話になりました、姉上。どうか、くれぐれもお身体には気を付け下さい」

 

「ダッカー!」

 

ラーナの呼び掛けにも応えず、ダッカーは玉座を後にした

 

『姉上』

これはラーナが女王に即位して以来、ついぞ呼ばなくなったダッカーとマイオスのラーナへの呼び方であった

 

つまりは、ダッカーはもうシレジアの臣下ではないと言うことである

 

 

 

 

 

 

 

 

ダッカーはワープの杖にてザクソンに戻るなり、城内の者や傭兵を集めた

 

 

「皆、集まったか

儂はこれよりシレジア王家に反旗を翻す

つまり、シレジアやシグルド軍と戦う訳だが、不満や不平が有るものは申し出よ

一度戦端を開けば生きては帰れぬ

たとえ生き残ったとしても、シレジアには居れまい。強制はせぬ、あまり時間は無いが選んでくれ」

 

ダッカーはそう言い残し、執務室へと戻った

 

 

傭兵達は残る者と去る者で半々であった

城内の者は不思議な事に全員残ると言い出した事にダッカーは思わず

 

「解っておるのか?シレジアの民としての全てを失うのだぞ?」

 

と言い募るも

 

「候には恩返し出来ておりませねば、この老骨も共に黄泉路へと参りたく」

 

と老執事が皆を代表して発言する

 

「・・・・・・馬鹿者ばかりか」

 

「使える主と同じならば本望かと」

 

「なれば、侍女どもは逃がせ

流石に女衆まで黄泉路には連れて行けぬわ」

 

「そうですな」

 

結局、執事等の男衆は皆残る選択をした

 

 

 

ザクソンでの選別が終わった頃、傭兵となったドノバンは敢えてザクソンに残る選択をした

 

彼はウェルダンにて上司だったキンボイス王子よりこの大陸の行く末を見届ける様に命じられて、いや頼まれていた

 

だが、一介のアクスファイターごときではこの先生き残れないと判断し、傭兵としてアグストリアやここシレジアに参戦している

 

彼にはキンボイス王子の様な器用さもガンドルフ王子の様な人を惹き付けるものもない

 

ならば死にもの狂いで経験を積むのみであると確信していた

 

アグストリアではグランベルの正規軍相手に敢えて挑むという愚行を行い、生死の境をさ迷う羽目になった

 

だからこそ、彼は力を欲した

自分の尊敬していた王子達の姿を伝え、王子達を追い詰めた影を追うために

 

 

此処で死ぬかもしれないが、それでも生き残る執念だけはあった

 

彼に託されたモノは死んだからといって、容易に諦めたり手放せない程に重いのだから

 

 

 

 

 

 

 

ザクソンにてダッカーが準備を整えている頃、シグルド達はシレジア本城に到着していた

 

「ようこそ、シレジアへ。シグルド公子」

 

女王であるラーナが態々この吹雪の中、城門にて出迎えていた

 

「お久しぶりです、ラーナ女王様」

 

シグルドやレックスといった騎馬に乗っていた者達も下馬して頭を下げる

 

「今回の件は我々が居た為に起きた事と思います

申し訳なく思っております、ラーナ女王」

 

「いえ、マイオスもダッカーも彼等なりにこのシレジアを思っての事でしょう

シグルド公子が居らずとも、何れはこうなったでしょうからどうかお気になさらぬ様」

 

シグルドの謝罪を受けたラーナ女王は暗い表情のままシグルドを気遣う

 

「母上、お久しぶりです」

 

「・・・レヴィンですか、本来ならばシレジアに帰国して直ぐにでも報告があるものと思っていましたが、まさかマーニャに伝言を頼むだけとは思いませんでしたよ」

 

「申し訳ありません」

 

「ラーナ様、レヴィン王子を説得出来なかった私にも非はあります。どうかお許し下さい」

 

実はシレジア本城には来ていたにも関わらず、レヴィンはラーナと謁見しておらず、近衛であるマーニャに伝言を頼んでいただけであった

 

故にレヴィンがシレジアから出奔して以来の再会となった。フュリーはレヴィンをラーナ女王に会わせられなかった事を詫びる他なかった

 

 

「貴女が謝る事など一つもありません。フュリー、貴女は自分の職務を為しただけなのですから

・・・レヴィン、貴方に渡したいものがあります。ついて来なさい

他の方々は手狭な上に、余りもてなしも出来ませんが、少しばかり休息を取って下さい」

 

ラーナはシグルド達にはそう言ってレヴィンのみを連れて城の奥へと入っていった

 

 

 

 

「レヴィン、貴方は『フォルセティ』を知っていますね?」

 

「知ってはいますが、あれは今は亡きマイオス叔父上とザクソンのダッカー叔父上の印無しには封印を解けぬと聞いていますが?」

 

「いえ、既に封印は解いております

貴方にこれを預けます。意味は分かりますね?」

 

「いや、待ってください母上。封印を解いた?では、マイオス、ダッカー両叔父上方が印を寄越したと?」

 

「意味は貴方が考えなさい

貴方の理想とするシレジアと、その手にした『フォルセティ』を託された意味を」

 

レヴィンはラーナからの発言に疑問を呈するが、ラーナは答えを出さない

 

「良いですか、レヴィン

貴方の理想は素晴らしいのかも知れません

『民と歩む』素晴らしい考えではあるでしょう。しかし、それを成すには貴方に足りないモノが多くあります。それを見つけなさい

それが見つかった時、この混乱で犠牲になった者達も浮かばれるでしょう

良いですね?」

 

「・・・・・・はい、必ず」

 

 

 

 

 

 

 

レヴィンはフォルセティを手にした後、シグルド達と合流した

 

「レヴィン、どうしたんだ?」

 

レヴィンの様子がいつもと違うと感じたシグルドはレヴィンへと問いかけた

 

「いや、重いなと思ってな」

 

「重い?」

 

「俺は今まで、勝手ばかりする叔父上や民に対して優しいとは思えない政策を行う母上はおかしいと思っていた

 

だが、こうして後継者の証ともいえる『フォルセティ』を持っていると王子という立場が重いと思うようになった」

 

「ふん、重い?当たり前だろうに

王族は国民の為に政を行わねばならないが、民に甘いばかりではどうにもならんし、俺やあんたみたいに逃げ回るなんてもっての他だろうよ」

 

ドズル公子でありながら、強権的な父に嫌気が差してシグルド軍に同行していたレックスは語る

 

「そう、だな

俺は逃げていたんだろう。ダッカー叔父上とは俺が戦う。せめて今まで逃げ続けてきた俺のせめてもの」

 

「レヴィン様」

 

レヴィンの発言をフュリーが遮る

フュリーは元々レヴィンを立てているだけに珍しい光景だった

 

「独りで背負いこむな、か。悪いフュリー」

 

「いえ」

 

 

 

 

 

ザクソンでの戦闘は今までのシレジア国内での戦闘に比べるとシグルド達には楽に感じられた

 

だが、レヴィンにとっては『自国民』を手にかける事であり精神的消耗は激しかった

 

 

勝ち目が無いと悟った傭兵達は遁走し、残るはダッカー候に従う者達であった。彼等は騎士でも戦士ですら無いがそれでも命を捨ててシグルド達に挑みかかっていた

 

 

「レヴィン!ダッカー候を早く!」

 

これ以上の戦いは殺戮にしかならないと判断したシグルドは敵の指導者であるダッカー候を探す様にレヴィンに頼んだ

 

 

 

 

階下にてダッカーに仕えていた執事達が抵抗しているのはダッカーにも分かっていたが、ダッカーは決して自分の執務室から動くことはなかった

 

彼は待っていた

 

 

 

「叔父上」

 

「来たか、レヴィンよ」

 

この次世代を、シレジアの明日を担う若者を

 

 

 

 

 

「フォルセティは受け取ったな?」

 

「ああ」

 

「結構。さて、儂は旧きシレジアの象徴とも言うべきモノよ

フォルセティがあるとて、この儂を倒せるか?」

 

「ああ」

 

ダッカーはレヴィンの目を見て確信した

未だ迷いはあれど、目の前の若者がシレジアに新しい風を運ぶと

 

そう、伝承に吟われている『風使いセティ』が荒廃したこのシレジアの地に新たな息吹を運んだ様に

 

 

ならば、容赦は出来ぬ。この若者が真にシレジアの明日を託すに値するかどうか、それを確かめるのみ

 

 

「言葉は最早無用。参るぞ!『トルネード』!」

 

「ぐっ!」

 

『トルネード』

それは風魔法における最大級の魔法であり、ユグドラル大陸全土を見渡したとしても使い手は殆んどいないであろう魔法

 

これを上回る同系統の魔法は『フォルセティ』のみという正しく『最強の風魔法』である

 

しかも、熟練のセイジであるダッカーの放つそれは対軍魔法とでもいう程に巨大にもなるが、それを敢えて小型の竜巻レベルにまで凝縮している

 

レヴィンとてバードでなくらセイジとなったが、フォルセティと合わせても互角かやや、分が悪い

 

それでも逃げ出す訳にはいかないのだ!

 

「フォルセティ!!」

 

竜巻と風の竜が激突した

 

しかし、風の竜が竜巻を突破出来る様子はない

 

「この程度かぁ!!

貴様の覚悟、思い、信念は!!」

 

ダッカーは口から血を流しながらも叫ぶ

彼は魔道士といえども、血筋的にはセティの血を僅かに引いているのみ

 

大魔法たるトルネードを使用するのは文字通り、命懸けなのである

 

「レヴィン様!」

 

其所へフュリーが入ってきた

 

「来るな!フュリー!!」

 

「手出しは無用!!

いや、手出し等出来よう筈もない!

どうする?レヴィンよ

このまま貴様が負ければそこの娘とて死ぬ!

それでも、いいと言うのかぁ!!!」

 

「お、俺はこの国を、民を、フュリーを

守る!!!!!!」

 

風の竜がレヴィンの絶叫に合わせて力を増す

 

 

 

そして、次の瞬間風の竜が竜巻を食い破ってダッカーに牙を剥く

 

「見事」

 

 

 

 

 

ダッカーは夢を見ていた

 

まだ、先代の王であったダッカー達の父が存命だった頃。そして、ダッカー達がまだ子供だった頃

 

「いい加減にしなさい!!

ダッカー、マイオスも!」

 

「ううっ、だってぇ」

 

「やれやれ、姉上には叶いませんな

しかし、そんな男勝りでは将来伴侶探して苦労しますぞ」

 

「やーい、男勝りぃ!」

 

「な、な、な、何ですってぇ!

待ちなさい!!マイオス、ダッカー」

 

「姉上が怒ったー!

ダッカー兄、逃げよう!」

 

「全く、何故私まで」

 

彼等がまだ子供だった頃、無邪気だった頃の話

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・負けたか、真に見事だった」

 

「叔父上」

 

「ダッカー様」

 

ダッカーは地に仰向けになっていた

 

「不思議なモノよな、貴様のアレをうけていながら、未だ意識があるとは」

 

 

「後は頼むぞ。さっきの言葉、努々忘れるでないぞ

我等が愛すべき大地よ、風よ。次代の子等に祝福、あらん、こと、を」

 

 

 

 

 

 

 

こうして、一連のシレジアにおける戦闘は終了した

 

トーヴェ候マイオス、その配下ディートバ

ザクソン候ダッカー、その配下パメラ

シレジア天馬騎士団筆頭マーニャ

彼等を始めとした多大な犠牲を出した内乱が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、この悲劇とて後の惨劇の前には序章に過ぎなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回辺りに遂に聖戦プレイヤーのトラウマイベントとなりそう

書ききれるか心配(白目)

と、取り敢えず完結させるから、セーフにして(懇願)


今月末には何とか投稿すると思う、多分

子供世代のオリキャラは?

  • あり
  • なし
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