彼方の時へ   作:くらうす

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シグルド編の補完となります


今回はグランベルとシグルド軍の生き残りの話となります


幕間
翻弄されし者達


ウェルダンによるグランベル侵攻に始まったユグドラル大陸全土を巻き込んだ大乱は終わった

 

 

グランベルにおいて強権を振るっていた宰相レプトールを首班とするドズル公爵ランゴバルド、ユングウィ公爵アンドレイを中心とした強硬派は中心人物の悉くが死亡した

 

一方強硬派に抵抗していた元シアルフィ公爵バイロン、先代のユングウィ公爵リングもまたこの戦乱の中で命を落とした

 

 

更に次期グランベル後継者と目されていたいたクルト王子もまた戦乱の中に消えていった

 

 

 

ウェルダン、アグストリア、シレジアでの窮地を乗り越えた騎士シグルドとそれに従う者達もまた、バーハラにおける虐殺にて大半が命を落とす事となった

 

 

 

後継者不在であり、現国王アズムールもまた体調の優れない状況下において、近衛隊長アルヴィスに権力が集まるのは不自然とは言えなかった

 

 

元より、アルヴィスに反発していた者達はシグルド達がシレジアにて束の間の休息を取っていた頃に当時宰相職にあったレプトールが粛清しており、ランゴバルドの長男ダナン、レプトールの長男ブルーム、アンドレイの長男スコピオがアルヴィス支持を表明した事により、その他の貴族達はアルヴィスに反発する大義を失ってしまう

 

 

アルヴィスの謀略により、父親を失った三公爵家がアルヴィス支持を示した以上、表だって反抗することも難しくなっていた

 

 

 

 

アルヴィスは国王アズムールよりグランベルの執権として任命される事になった

 

 

が、既に老齢のアズムール。しかも伴侶も何年も前に亡くしており、今更後継者作り等出来る筈もなかった

 

 

 

この執権は前宰相に対する反発に配慮したとされているが、詳細が明かされる事はなかった

 

 

 

 

 

 

「レプトール公やランゴバルド公、アンドレイ公には感謝しても足りまいな」

 

「は、お三方が閣下に対する懸念事項を廃したお陰で磐石な政治体制がひけます」

 

執権となったアルヴィスはヴェルトマーの自室で側近のヴァハと話していた

 

「しかし、今でも信じられませぬ

よもや彼の御仁等がグランベル王家に対して不審を抱いていたなど」

 

「貴様の驚きは仕方あるまい

私とてお二方から話を聞かねば理解できたとは思えぬ」

 

 

レプトールとランゴバルドは大国グランベルの行く末を案じていた

 

というのも、今までのクルト王子の乱行はアルヴィスの母親であるシギュンを求めての事であったからである

 

 

重臣の妻を奪っただけに留まらず、未だそれに固執した挙げ句、しなくても良い戦争や混乱を引き起こしたのだ。如何に臣下として支える主君であろうと、いや主君であるからこそ認められない行為であった

 

しかもグランベルは小国に非ず。この大陸の情勢に大きな影響力を持つ強国なのである

 

 

一時の情に任せて勝手な事を出来る程、グランベルの王族の地位は甘くないのだから

 

 

 

 

そしてそれを止める事も出来ぬ国王にも二人は失望したのだ

 

 

 

 

その結果として泥の殆んどを被ったままに黄泉路へと旅立ったのだ

 

 

グランベルの公爵家の当主として例え未来永劫謗られるとしても、アルヴィスは二人を尊敬せざるを得ない

 

自身の命と名誉を引き換えに仕えてきた国を変えようとする。アルヴィスは二人に比べてやはり若輩であると痛感した

 

 

 

 

「貴族はアイーダの事には不満はないのか?」

 

アルヴィスは切り出した

 

フィノーラにてシグルド達と合流したアイーダはアルヴィスの愛人であり、ヴァハの親友でもあった

 

 

それをアルヴィスは結果として切り捨てたのだから、ヴァハとして思う事もあるだろうと感じていた

 

 

「元より我等はアルヴィス閣下、そしてヴェルトマー公爵家に仕える家臣です

如何にアイーダが親友でも越えてはならぬ一線はあると考えます」

 

ヴァハは努めて無表情に発言した

 

 

アイーダとアルヴィスが過ちを犯したのは、クベリウスによりアルヴィスが忌まわしきロプトの血統であると判明した時である

 

あの時のアルヴィスは全てに対して臆病であった。それを見かねたアイーダは自分を使ってアルヴィスを慰めたのだ

 

 

その甲斐あってアルヴィスは何とか持ち直し、暫く後にディアドラと出会った

 

 

 

これにより、アルヴィスが正妻を持つことにより、アイーダの扱いは難しい事となったのである

 

 

 

しかもアイーダは宮廷の医師によると妊娠の可能性が高かったとアイーダ死亡後にアルヴィスは知った

 

 

 

意図せずディアドラとの間に生まれるであろう子供を守ったとはいえ、アルヴィスは複雑であった

 

 

「閣下、アイーダの事はお忘れ下さい

アレの死が無駄にならぬ様に務められる事こそが最大の供養となりましょう」

 

ヴァハの発言を受けて

 

「そう、だな

私は最早戻れぬのだ

ただ突き進むのみか」

 

「はっ

非才の身でありますが、閣下の為に全力を尽くします」

 

 

 

 

 

 

執権アルヴィスは今までの税制や制度を見直し、貴族や一部の人間だけが富を独占する現状を打破するべく精力的に活動する様になる

 

 

この為、アルヴィスはバーハラの悲劇の主犯でありながらも民衆から一定の支持を集める様になる

 

 

 

 

 

 

 

 

今のうちは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルヴィスがグランベルを執権として掌握している頃、旧アグストリアにおいて一つの出会いがあった

 

 

「あれ?シグルド軍の人じゃなかったっけ?」

 

「・・・ああ、シグルド様を御守りしようとしたにも関わらず、シグルド様を、バイロン様を死なせてしまった馬鹿な男だ

貴殿はよもやウェルダンの者か」

 

少年デューは混乱の最中にある故郷を後にし、隣国の旧アグストリアへと来ていた

 

そしてマディノ付近の村で滞在していた時に興味深い話を聞いたのだ

 

 

曰く

「シグルド軍の生き残りがいる」

 

 

元々シグルド軍に良い感情を持っていなかったデューであったが、バーハラにて壊滅した筈のシグルド軍がよりにもよってアグストリアにいる事に興味を抱いた

 

その様な訳で見に来たのだが

 

 

「良く分かったね

つか、死にかけじゃん。おっさん」

 

ベッドに寝かされている男は全身に包帯を巻かれており、所々で血が滲んでいる

 

素人目に見ても重傷なのが判るレベルの怪我であった

 

 

「エーディン殿より聞いていた少年が貴殿の容貌とそっくりだったからな

俺は死ねぬさ

シグルド様の為にアグストリアに残ったが、シグルド様を御守り出来なかった

死ぬ訳にはいかんさ」

 

男のその瞳は死んでいなかった

 

「ふーん、まぁオイラには関係ないか」

 

デューはそう言い残してその家を後にした

 

 

 

 

「おい、坊主」

 

「ん?何さ」

 

騎士らしき人物のいた家から出たデューに村の男が話しかけた

 

「あの人大丈夫かね?」

 

「へぇ、あのおっさんシグルド軍にいたのに心配するんだ?」

 

デューにとって意外だった

 

デューの故郷ウェルダンではシグルド軍は蛇蝎のごとく嫌われており、今は亡きジャムカ王と並んでウェルダンの民衆の憎悪を集めていた

 

同じ様な境遇の筈のアグストリアの人間がシグルド軍だったであろう男を心配するなど、想像も出来なかった

 

「村の皆が知ってるさ

それでも、あんなにボロボロになった人を見捨てるのはどうかと云う事でな」

 

「ふーん」

 

「で、どうだったんだ?」

 

「多分近いうちに死ぬね、あのおっさん」

 

デューは断言した

 

男の出血部分の至るところが紫色に変色していたのをデューは見ている

 

 

 

デュー自身は盗賊であり、プリーストではないが、故郷のマーファでは良く盗みの罪で捕まっていた

 

その際に小うるさいトラフから傷の簡単な手当てや薬草と毒草の見分け方等を教え込まれていた

 

トラフが言うには

「貴様の様なこそ泥では早々治療等受けようと思うまい

が、貴様とてマーファの民。最低限生き残れる様にするのが俺の仕事だ」

 

と常に口喧しく言っていた為にデューも嫌々ながらに覚えたのだ

 

 

 

「どうにかならないのか?」

 

「しようと思ったら、プリーストじゃなく、ハイプリーストじゃないと駄目だろうね

おっさんじゃなくても良いけどさ、そんなコネあんの?」

 

デューに訊ねる村人にデューは言い切った

 

アレは明らかに末期症状だろう。ライブや、リライブでは間に合わない

 

上級職、ハイプリーストが使えるであろう治癒の杖『リカバー』ならば或いは。というレベルであるとデューは見た

 

 

「いや、そりゃあ無理だ

シャガール様の時ならこんな村にもプリーストを置いて下さってたが、グランベルの支配下になってからは教会自体の数が減っちまった

それにそれなりの御布施もいるんだ」

 

元アグストリア王シャガールの政策の1つがプリーストの各集落への派遣であり、そのプリーストの給金も王家が負担していた為に民衆の負担は最低限だった

 

 

だが、グランベルが支配する様になるとその制度は取り止めとなり、幾つもの教会を廃止してしまった

 

更に治療にも依頼金が必要となったのだ

 

 

 

 

 

が、これはグランベルにとっても不本意の政策だった

 

 

アグストリア全土をグランベルが平定した時にはシグルド軍はシレジアに逃れており、シグルド達は反逆者として手配されていた

 

 

 

その中にブラギ教の最高責任者であったエッダ公爵クロードが居たのが問題であった

 

グランベル国内にいるプリーストやハイプリーストの殆んどはブラギ教の関係者であり、例外的にトルバトールやその上級職に当たるパラディン位しかブラギ教の影響を受けていなかった

 

 

つまり、エッダ公爵であり、ブラギ教の最高責任者であるクロードが反逆者となった以上、ブラギ教に対しても何らかのペナルティが必要となった

 

のみならず、ブラギ教側がクロードの無実を主張した事により、レプトール達もブラギ教に対して強く当たらなければならなくなった

 

 

でなければ、筋が通らないのである

 

 

 

結果的にグランベル国内でも治療出来る人口は減少し、貴重なトルバトールやトルバトールから昇格したパラディンを国外に出すことは出来なくなった

 

 

 

 

その影響をモロに受けたのが、アグストリアやウェルダンといったグランベルに併合された地域だった訳である

 

 

更に元々アグストリアにいたプリースト達はシャガール蜂起の際に参陣しており、これも旧アグストリア国内でのプリーストの不足に繋がったのである

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!坊主、起きてくれ!」

 

その日、デューはその村に泊まっていたが、夜遅くに扉を強く叩かれた

 

「今は夜だろ、何でこんな時間に」

 

常識はずれの時間での呼び出しにイライラしながらデューは部屋を出ると

 

「あの人が!」

 

 

 

 

 

「・・・来て、くれた、か」

 

顔色も青を通り越して土気色になった男がデューをベッドの上で出迎えた

 

「いやいや、おっさんもう死ぬんじゃないの?」

 

「だろう、な

死は、怖、くない

だが、セ、リスさ、まの為、にな、にか」

 

息も絶え絶えに男はデューに話す

 

「おっさん馬鹿なの?

俺はあんたらシグルド軍を憎んでいるウェルダンの人間だよ

何考えてんのさ」

 

「つ、ごうが、よい、こ、とだと、いうのは、わかっている

だが、きで、んしかたのめる、ものが、いない」

 

男はデューに震えながらも腕輪を差し出す

 

「腕輪?」

 

「つい、げき、リング

ディア、ドラ、様よ、りいただ、いたもの

セリ、ス様に、返して、ほしい」

 

「あのさぁ、タダ働きしろっての?

オイラみたいなこそ泥に?」

 

「ベッドの、したに、ふくろ、がある

そこ、におれの、ぜん、ざいさんが、ある

たの、む」

 

デューは顔をしかめた

 

そして、ベッドの下を見ると金貨の詰まった袋が確かにあった

 

「言っとくけど、そのセリス?だっけ、そいつの居場所なんて知らないから無駄だと思うけど、それでもいいの?」

 

「よろ、しくたの、む」

 

デューは深々とため息をつくと

 

「はぁ、しょうがない

必ずとはいえないけど、任されたよ。おっさん」

 

「かん、しゃする」

 

「で?おっさんの名前は

知らないと渡すときにも面倒になると思うけど?」

 

デューは男の名前を初めて聞いた

 

「アー、ダンだ

デュー、殿かんしゃ、す」

 

男アーダンはそれだけを遺して亡くなった

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ。全く、何なんだろうなぁ」

 

アーダンの最期を看取ったデューは村を後にした

 

 

 

 

 

「セリスねぇ

それだけを頼りに探せってあのおっさんも無茶言うよ、ほんと」

 

デューはアーダンから受け取ったお金の半分を村に置いて来た

 

40000。アーダンが遺した財産である

 

 

半分でも20000。大陸何処でも行けるだけの資金には充分であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、デューは二年をかけてセリス達の行方を追う事になるが、この話は後に語ろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デューがアーダンからの遺言を受けた頃、リューベックからイザークに逃れていたエーディン達は苦境に立たされていた

 

というのも、子供たちは勿論だが、エーディン、ラケシスは回復役。シルヴィアは自衛が何とかこなせる程度の戦闘力しか持っていない

 

シャナンは歳の割には強いが当然大人と比べれば見劣りするし、オイフェは軍学には精通していても武芸についてはまだ未熟であった

 

 

そして向かうべきイザークはグランベルの侵攻によって疲弊しており、山賊も活発に活動していた

 

 

そして、エーディン達の目の前に山賊の一団がいた

 

 

だが

 

 

「女子供をいたぶるとは趣味の悪い奴等だ」

 

「な、何?」

 

優れた美貌を持つエーディン、ラケシスに見とれていた山賊達は突然の奇襲に対応出来なかった

 

 

 

 

 

山賊は10人程いたが、割って入った男には山賊程度の実力ではどうにも出来ずに次々と倒れていった

 

 

 

「貴方は」

 

エーディンはその男に見覚えがあった為に声をかけようとしたが

 

「姫さん、余計は事は言わんで下さい

俺は王子達が助けようとしたアンタを殺したくはないんでね」

 

男はエーディンに斧を向けて話しかけた

 

「何処へ行くのかは知らねぇし、興味もねぇ

が、ここでなったのも王子達の導きと考えて付き合ってやるよ」

 

「信じられる訳ないじゃない!」

 

男の勝手な言い分にラケシスは反対した

 

「じゃあどうすんだ?

この山を越えるのに山賊と会わないと思ってんなら甘いぜお嬢ちゃん」

 

「やっぱり山賊いるの?」

 

「見る奴が見りゃ直ぐ判る

アンタ達は子供達を連れてるから痕跡も多いし、歩みもおせえ

狙って下さいって言っている様なもんだ」

 

シルヴィアの質問に答える男

 

「ラケシスさん、シルヴィアさん、シャナン、オイフェ。彼は信じられます」

 

エーディンは皆を説得した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから半日程して造りかけの集落にエーディン達と男は着いた

 

 

その集落で話を聞けば最近出来たばかりの所であり、イザーク王家すら知らないとの事であった

 

 

既に限界であった皆の体調を考慮してエーディン達はここに身を隠す事とした

 

 

 

 

 

 

ここはティルナノグ、イザーク語では「常緑の砦」という意味の集落であった

 

 

 

 

「んじゃ、姫さん。精々長生きしろや」

 

男はそう言ってティルナノグを去っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このティルナノグはイザーク北西部にある砂漠を越えた先にあり、シレジア側へ行くにも山脈を越える必要がある

南方のソファラに行くにも険しい山を越える必要があり、辺境と揶揄されるイザークの中でもとびきりの辺境であった

 

 

 

では何故この様な僻地に集落を作ろうとしたのかと言えば、元々はイードの商人アリウスが大枚をはたいてある程度の物資を集積させていた

 

その噂を聞き付けたグランベル侵攻により故郷から焼き出された者達が集まり、今の様な集落となりつつあった

 

 

尤も発起人のアリウスは最近全くティルナノグに姿を見せなくなっていたのだが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇と光の戦いはこのティルナノグより再び始まる

 

 

 





クベリウスの役目が終わったと思いました?

残念ながらクベリウスの妄執の影響はもうちっと続きます



クベリウスは世界の破滅を求めてなかったか?
と疑問に思われると思いますが、割りと商人アリウスと暗黒司祭クベリウスでは人間性からして異なります

今でいう所の多重人格の様な男がクベリウスだと認識していただけたなら、幸いです

子供世代のオリキャラは?

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  • なし
  • どちらでも
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