『
「はい・・・・・それが一番妥当かと。」
E-767が落とされるという想定外の事態に二人は処理が追い付いていなかった。
「隊長どうしますか? AWACSを失ったということはいわばリーダーを失った状態です。
この状態で戦闘を行うのは多少・・いや相当不利です。」
『確かにそうだが,相手を目の前にして逃げるなんて相手さんが許してくれないだろう。
それと咲田。お前は自分の使命を果たすべきだ。お前が奴等のAWACSを落とせば同じ状況になって,撤退するかもしれない。』
咲田は少し間を置いて返答をした。
「・・・・・淡い期待ですが,やらないよりまだましかもしれませんね。」
『お前にかかっている頼むz!?』
大門の話を遮る位大きなブザー音が通信機越しにコックピットに鳴り響いた。
このブザー音は射撃管制レーダーに
『ロックオンされた!? すまん通信切るぞ!!』
「・・・・・・・奴等は我々に圧倒的優勢の位置にいる。それを見逃さない
ならその優勢を終わらせるだけだ!!」
咲田のDuck10は翼を翻し予定発射ポイントへと向かっていく。
それから5分もたたないうちにDuck10の機上レーダーは1つの小さな光点を写し出した。
その光点は今にも消えてしまいそうな小ささで,鳥と見間違えかける位だった。
(鳥か?・・・・・・・いや待て! レーダーに写る鳥なんかいるか!!)
急いで操縦桿を左にきり,それと共に乗機も左にバンクする。
それから30秒もたたないうちに1機の機体が高速で機体の右側を通過していった。
その機体は左に旋回し,Duck10の横に並走した。
その機体を見つめながら咲田は呟く。
「Su・・・・・・57」
Su-57
第5世代戦闘機に分類される戦闘機で,高いステルス性とマッハ2の最高時速を有し,
しかしながら実際はまだ不明な点が数多いのが事実だ。
(まさか彼奴が落としたというのか・・・・・)
その推測は正解だ。
このSu-57はE-767をIzdeliye810で撃墜したのだ。
Izdeliye 810とは,Mig-31Mの次期主武装としてR-33長距離空対空ミサイルを改造したR-37のSu-57搭載可能なタイプだ。
射程がブースター無しで200kmあるために爆撃機の迎撃やAWACSの撃墜が主な用途と思われる(作者調べ)
ともかくそのSu-57は現在F-15Jと並ぶという異様な光景を演出していたのだった。
(
この距離なら04式か20mmで落とせるかもな。だがもしもそれが狙いなら奴の思惑どおりだな。)
Duck10には
しかしそんな不安は一瞬で吹き飛んだ。
Su-57はDuck10の斜め上に移動し,機体を上下に微かに揺らしバンクしたのだ。
「・・・・・まさか俺を
1分位同じことをやった後,Su-57はコックピットの中のパイロットが見える位に近づき,機体の下に下がりそのまま遠ざかっていった。
「・・・・諦めたのか。諦めてくれて結構だ。だがいつかお前とは戦うかもしれないな。
だが奴に気をとられ過ぎた。急がないと。」
それから10分ぐらいでDuck10のレーダーに光点が写る。
「見えた!!」
Duck10のレーダーには悠然と空を舞う1機の
A-50 シュメーリ NATOコードネーム メインスティ。
Il-76をベースに開発された空中早期警戒管制機。胴体上部のレドームによって低空は200km,高空は300kmの捜索範囲を有すると言われている機体だ。
「FOX3!!」
F-15JのハードポイントからAIM-120が切り離され,ミサイル後部のロケットに点火し直進していく。
2基のAIM-120は寸分の狂いなく命中した。
A-50を写した光点はレーダーから消えていった。
「こちらDuck10 MissionComplete これからそちらに合流します。」
『良くやった咲田!! 早くこっちに合流してくれ! 数で押されている!!』
「分かりました! 直ぐに向かいます!」
Duck10は180°旋回して空戦ポイントへと向かっていく。通信では嗚呼言った咲田だったが,心では疑問を抱いていた。
(なんであの管制機はチャフとフレアを巻かなかったんだ・・・・・まるで
Duck10は2基のノズルに紅い火を宿して空を鳥のように舞っていた。
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「AWACSが落とされた・・・・・・・か。」
桐島は「あまぎ」CICに設置されている地図を見ながらE-767を表した将棋の王将の駒を“撃墜されました“と裏返しにする。
「よりにもよってE-767を先に狙うなんてな。これじゃあ上手く連携がとれずに苦戦するな。」
桐島の発言に渡島が付け加える。
現在CICにはあまぎ艦長兼臨時指揮官の桐島。あまぎ副長 長瀬・第47航空団司令 渡島・あまぎ船務長 水上の四人が集まっている。
集まっている理由は勿論“シ連機編隊をどうするか“である。
「ちょっと未熟者で悪いがAWACSってのは海でいうと旗艦を真っ先に撃沈されたという解釈でいいか?」
「まあそういう解釈でもいいですよ副長。もっと分かりやすくするとAWACSはオーケストラで例えると指揮者。
そしてそれに従う機体は指揮者の指揮棒に従って演奏する演奏者さ。」
「つまり指揮者がいないと空戦という演奏は成り立たないということだな。」
「副長それぐらいにしてください。話を早く始めましょう。」
「ああ,済まないせんp・船務長。」
ちょっと会議とはずれた話をした長瀬を水上がただす。
この二人は先輩・後輩の関係にあって,ついうっかりしていると先輩と言いかける事が度々ある。
「取り敢えず現在の状況を再確認します。
シ連軍は15機の戦闘機で佐渡分屯基地のレーダーサイト破壊を狙っていると思われます。
これに対抗するために小松所属の306飛行隊と浜松からE-767が急行します。
しかしながらE-767は撃墜され,それに対してDuck10がシ連の機体を撃墜し現在に至ります。」
「
「あいつ?」
「咲田のことか。桐島の後輩さ。」
「艦長。余談は止してください。話が進みません。」
長瀬に続き桐島も水上の注意を受ける。これではまるで似た者同士だ。
「現在の状態はどちらも指揮系統を失っています。その為に接近しての乱戦となっています。」
「確かにそうだが・・・・少し可笑しいな。」
「可笑しい?」
「やっぱり船に乗ってもパイロット時代の感覚は捨てられないか。
艦長の言う通りこの戦闘は少し可笑しいな。」
「艦長。解説してくれませんか?済まないが空についてはさっぱりなのでね。」
長瀬の頼みもあり,桐島は地図上の将棋の駒を指差しながら話し始める。
「さっきも船務長が言ったが,どちらも指揮系統を今は喪失して,どちらも自分の機体のレーダーと見える視界のみが頼りなはずだ。
なのに敵編隊はまるで指示通りに
「指揮者を失っても一瞬足りと乱れない演奏ってのは常識的にはあり得ない。
俺も曖昧だがあの音を失ったベートーベンは
「・・・・・・・2人で指揮?・・」
渡島の発言に長瀬が食いついた。
「副長? 何かありましたか?」
「もしかしてだが・・・・・AWACSがもう
長瀬が発言しているのにも関わらず,顔を向けずに桐島と渡島は地図を眼孔が開くかのような勢いで見つめている。
「そうか・・・・・・・・その手があったか!!」
まるで息を吹き替えしたかの様に2人は長瀬と水上を置いて話し出す。
「我々は敵のAWACSが1機しかいないという前提を作らされていた。
しかもその1機はもう撃墜されたから敵にAWACSはいないと完璧に信じこんでしまった。」
「だが本当はもう1機AWACSが存在して,どこか別の場所から指揮を執っていた・・・・・これなら全てが繋がる!!」
「なるほど・・・・・・これだったらあの機がチャフもフレアも巻かずに撃墜されたのも
2人のテンションに残りの2人はついていけなかった。
「つ,つまりは本当のAWACSが別の場所から指揮を執っているという事ですか?」
「正しくその通り!!」
桐島の答えを聞き,水上は即座にCIC内に表示されているレーダー画面を見つめた。
「ということはこの画面の中にいるという訳ですか?」
「ああ,そうだ。この中から見つけなければならない。骨が折れそうだな。」
4人は画面を見つめ,不審な機がいないか確かめ始めた。レーダー画面上では306飛行隊とシ連機の戦闘はシ連が優勢だった。
画面上ではシ連機3機撃墜対し306は3機喪失していた。
数では同じだが割合でいうと
シ連 3÷15=0.2
306飛行隊 3÷10=0.3
このように306の方が損失率が多いのであるのだ。
そしてその不審な機は直ぐに見つかった。
「これこそが本当の指揮者だ。」
桐島は戦闘空域から北西に60kmの地点に1つだけ佇む光点を指差した。
「この機ですか? この機は恐らくですが朱雀列島近海の哨戒を行っていると思われます。
現に飛行空域がほとんど動いていません。」
「シ連の哨戒機となると妥当なのは
「どういう事ですか? あとこういう場所では艦長とお呼び下さい。」
水上の注意も聞かずに渡島は説明しだす。
なおIl-38 NATOコードネーム メイはIl-18旅客機を改造した対潜哨戒機だ。
「普通哨戒ってのは一定の間隔を持って行うもので,奴等もやっているように見えるな。
だがさっき艦長が指差したポイントだけ他より間隔が狭い。
つまりこれはこの機体は哨戒機ではないという可能性が高い。哨戒機以外で長時間空中に留まる機体となれば・・・・・
「ええ,それに今調べましたが
ですので間違いありません。」
2人のパイロットの感というのかまでは分からないが,鋭すぎる判断に残された2人が少し引きぎみになっていた。
「艦長・・・・言ってはいけないのですがパイロットを続けられた方が良かったのでは?」
「空と海の両方を知れるというのなら断る理由はなかったさ。」
「艦長。それでこの推測を直ぐに横須賀に送りますか?」
「いや。横須賀に送っていては対応が遅くなる。ここは我々だけで何とかしないといけない。」
「ならどうしますか? この機に
長瀬の問いに桐島は一息ついて答える
「いや。こんな長距離からミサイルを撃てばチャフとフレアを巻かれて終わりだ。それ以外の方法で落とす。」
「それ以外の方法・・・・・・・まさか!?」
「?・・・・・・・・!?」
長瀬が桐島の考えを冊子,それに続いて水上も気づいたようだ。
「渡島飛行隊長。」
桐島は渡島に向き合って言った。
「クロウ隊の出撃準備を。」