「クロウ隊をか?・・・・・・・SM-2じゃあ駄目なのか?」
予想通りの反応だ。
確かにSM-2でも対処は出来るが,それじゃあ無理だ。分かっているかもしれないけれど教えるしかない。
「長距離からのミサイルは俺達パイロットからしたらチャフとフレアを巻いて,即逃げるのが鉄則だ。
SM-2を撃って追い払うことは出来るがそれでは306飛行隊を救う事は出来ない。」
「だからといってわざわざ航空隊を出すのか?」
「ならばチャフとフレアを出せない位の近距離から
撃墜と言った瞬間周りの空気が重くなった気がした。いやそうだろう俺の言ってることは
だがこれから我々が挑むのは戦いだ。死の無い戦いなんてこの世に存在しないのだから。
「クロウ隊の内4機程を出撃させ,2機がAWACSを撃墜。残りの2機が迎撃に来る機を迎え撃つ。」
クロウ隊とはあまぎに搭載されている航空隊の名称で,F-35JC15機で構成されている。
因みにF-35JCとはロッキード・マーティン F-35の艦上機仕様 F-35Cの自衛隊改良版だ。
改良内容としてはM61 バルカン 2基を搭載した程度だけどな。
あまぎにはこのJCが36機搭載されていて,それぞれ15機ずつの本隊と3機の予備隊に分けられる。
分けられた部隊にもそれぞれ“クロウ“・“イーグル“というコールサインが付けられている。
それに加えてF-35JB 12機で“ストーク“の計3つの航空隊がこの船には乗っている。
“クロウ“・“イーグル“・“ストーク“とはそれぞれ“
「全機では向かわないのですね。」
「この状況では全機を出撃させる必要性が無いからな。」
たった1機の機体に15機も出撃させるなんて非効率すぎる。それに下手すれば迎撃に急行したシ連の戦闘機隊と戦う羽目になるかもしれない。
そんな奴等に時間を割くわけにもいかないしな。
「残りの機は艦隊の防空にあたるという事で宜しいでしょうか?」
「いや艦隊の防空についてはかつらぎのクレインを使いたいんだが・・・」
「
「話して見れば分からないさ。」
あんな事を口走ってしまったが多分無理だろう。そもそもこの作戦にも反対しそうな奴が承諾する訳ない。
「とりあえず決まりで良いか?
クロウ隊4機で敵AWACSを撃墜するという事で。」
俺が顔を見上げると全員顔を横に振らなかった。
「飛行隊長。クロウ隊の赤羽にパイロットを選抜するように言って下さい。
10分後の13:45から会議を行いますので召集もお願いします。はい解散!!」
解散の言葉で渡島先輩はすぐさまクロウ隊隊長 赤羽正敏三佐を探しに行き,長瀬はCICを後にする。
俺は水上が定位置についたのを確認すると洗面所へと向かう。
運良く洗面所には誰もいなかった。
俺は手をボウルの様にして水を溜め,勢い良く顔へとぶつける。
俺は罪を犯した。
いくら後輩や仲間を守るとはいえ,人殺しを命令した。シ連のAWACSは恐らく
A-50は乗員16名。俺の一言で16もの
ボタン1つで幾つもの火が消える。
いくらE-767の21名が殺られたとはいえこれは許されるのだろうか。
多くの人を守る為・彼らが戦ったから死者が少なくなった・1人より大勢。そうやって世界は少ない犠牲で助かる多くの命に喜んでいた。
それは悪いことではなくむしろ良いことだ。
だが俺には何か引っ掛かる。
もしかしたらその犠牲になった人も何かの方法で救えたのでは無いのか。
少ない犠牲で多くの命を救うのが常識で良いのか。
俺の考えは正しいのか間違っているのか全く分からない。
そしてこの思想から俺は逃げることなんて不可能なんだ.....
「なんか悩んでいるのか? 桐島。」
名前を呼ばれ,振り返ると入り口に寄り掛かっている渡島先輩を見つけた。
「先輩・・・いつからそこに」
「赤羽にすんなり会えたんで,お前のあの表情からしてなんか苦しんでいる様な気がして探して見つけた訳さ。」
やはり先輩だ。俺以外で俺の事を一番詳しく知っている。
「やはり撃墜命令か?」
「・・・・・先輩に隠し事は効かないみたいですね。俺は撃墜という罪を命令しました。例え守る為とはいえ人が死にます。
そしてこの命令によってさらに消える命は増えると思います。俺はその重圧にいつまで耐えられるのか........」
俺の心境に先輩は優しく話しかける。
「お前が命令したとしてもそれがきっかけにはならないさ。日本だって囮ながらもAWACSを撃墜した。
自衛隊が敵機を撃墜したということは,
それにもしかしたら連絡が無いだけでもう奴等に死者が出ているかもしれない。
死者が存在しない戦いなんてない。
俺はお前のやりたい事を支えるだけだ。ただし・・・」
先輩は口調を変えて俺にたった1つの願いを言った。
「誰も死なずに帰らせろ。」
「・・・・・
あの悲劇とは,2017年の“松島F-2B墜落事故“の事だ。この事故の概要は訓練中だった第21飛行隊所属のF-2Bが海上に墜落し2名の殉職者を出した事故だった。
墜落の原因は機体のフラップの整備不良でパイロットは帰還すべく最後まで操縦桿を握っていたそうだ。
俺は墜落するのを空から眺めているしかなかった。
この後F-2Bは約3ヶ月の飛行停止になり,俺はF-2のパイロットにはなれなかった。
墜落する瞬間は今でも度々思い出す。意図も簡単に2人が死んだ。
そのパイロットの1人とは飛ぶ前に話していたがまさかこんなにも簡単に失うとは思ってもいなかった。
「先輩・・・・・・・・・・」
俺は先輩の方を向き,宣言する。
「必ず全員無事に帰らせます。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
やっぱり艦長は分からない.......
俺の出身地の長野県松本に海なんてない。
だから昔から海に憧れていた。小5の臨海学校で富山に行って,初めて海を見た。
その時の感情は今でも覚えている。まるでサファイアの様に輝いて,空の色をそのまま写しているかの様な美しさだった。
そして海に惚れた。そして海の闇も見た。
臨海学校2日目の12時頃だっただろう。その日は大雨で予定した行程が中止になり,部屋で待っていた。そして俺の目の前で海保船が激突した。
ぶつけられた方の船は転覆し,赤い艦底を海の上に突き出していた。
ぶつけた方の船は雨が叩きつける中海上に留まり,人を救助しているのを俺はじっと見つめていた。
その事故は“富山沖海保船衝突転覆事故“として約1ヶ月位ニュースや新聞で持ちっきりだった。
いつもは読まない新聞を熱心に読む俺に両親が“事故を見て可笑しくなってしまった“と言ってたのを覚えている。
ニュースでは“あんな悪天候の中出港した海保船が悪い“と言ってたがそれは違う。
彼らだって誰かを救うために・誰かを守るために・誰かを助けるために出港していた。
例え自分が死んでも守りたい物があるから。
俺はあの時海を守りたいと思った。
でもなんで今こんな戦場のど真ん中に俺はいるんだろう。
「一体俺はどこで道を間違えたのかな?」
「副長? 何か言いました?」
「いいや,独り言だ。」
航空甲板に目を向けると艦橋前の艦載機エレベーターに乗せられたF-35JCが格納庫から上がってくる。
エレベーターが甲板に着くと,牽引機によってカタパルトへと牽引されていく。
「遂に・・烏が飛び立つのか。」
「話によるとシ連の警戒機を撃墜するだとか。」
「おぉ,遂にやっちゃうのかよ! 自衛隊。」
「でもまだ確実な話じゃない。副長 その話ってどうなったんですか?」
やっぱりこういう話は副長の俺に来る。まあ,いいだろう。どうせ黙っても後々話が来るのだから。
「
「正しくその通りだな。」
俺の話に相槌をうったのは第47航空団司令の渡島音弥だ。恐らく出撃見送りに来たのだろう。
団司令はカタパルトから飛び立つクロウ隊を見ながら呟く。
「お前達に罪なんてない。誰かが罪を着せたとしたら俺はそれからお前らを守ってやる。」
「また艦長と話したんですか?」
「あぁちょっとな。」
艦長と団司令は所謂先輩と後輩の関係にあって,二人だけで話すことも多い。
下手すれば俺と艦長の話より多いかもしれない。
「団司令と艦長ってよく話してますよね?」
「ああ,艦長も恐らく俺とは話しやすいのだろう。」
「団司令曰く艦長ってどんな人なんですか?」
「? しってるんじゃないのか?」
「そうではなくて団司令がどう思ってるかですよ。」
俺はまだ
そしてその賭けは当たりだった。
「あいつは強くて脆い。」
「言ってることが矛盾してますよ。どっちが正しいのですか?」
「どっちもだ。あいつはガラスの様にとても硬い。しかしある一定の値を越えると割れて壊れる。
それがあいつだ。」
意外だった。俺は彼奴の硬い部分しか見ていなかった。
人には絶対に脆い部分があるが,彼奴にはないと思っていたがそれは違っていた。
あいつはある意味強い壁で囲われているだけで,それが崩れるのは容易い。
「つまり強さと脆さが紙一重という事ですか。」
「そうだ。今までの経験上こういう戦場こそ強さを発揮して壊れやすい場所だ。」
「ちょっと待ってください。それじゃあ艦長がいつ壊れても可笑しくないという事ですか?」
「言ってしまえばそうだ。だから副長が」
団司令の言葉はCICからの言葉で遮られた。
『
この作品を読んでくれている皆様に質問です。
この作品ってどうなんでしょうか?
ちゃんと良作なのか駄目な駄作なのか作者だけでは分かりません。
もし良かったら作品に対する評価を感想に書いて貰えませんか?
こんな頼みをするのは申し訳ございませんが宜しくお願いします。