New Japan Fleet   作:YUKANE

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Episode.15 政府の信用

「不味いことになりましたねぇ……」

 

鈴村含め内閣全員が重苦しい雰囲気に包まれていた。

 

理由は単純。シ連に小松基地を空襲され,使用不能にされたのだ。

 

この事によって日本海に対する戦闘機基地が完全に失われ,日本海でシ連が優勢の状況という日本にとって不利な状況になっていた。

 

だがそんな事より重大な問題が発生していた。

 

人々が日本とシ連と戦っている事を知ってしまったのである。

 

現在ネットは物凄い勢いで荒れていた。政府・自衛隊に対する批判,戦いという単語によって起きた混乱の情報,シ連に対する批判等人々が言いたい放題の荒れぷっりだった。

 

このままこの状態が続けばいつデモが起きても可笑しくなく,日本が自滅してしまう可能性もありうるのだ。

この事態にため息をつきながら大洋官房長官が呟きだした。

 

「公表しなかった事が裏目に出たか……にしてもここまでとは。」

「官房長官。国民は言ってしまえば火薬庫です。何も起こらなければ平穏ですが,もし誰かが政府への不満という火を放り込めば瞬く間に燃え上がり誰も消せなくなってしまうのですぞ!」

 

安川外務大臣の言葉はその通りだ。一度ついてしまった火は消すのに時間が非常にかかる。

そしてその火はいつ隣の火薬庫に引火して取り返しのつかない事態に陥る事もざらじゃない。

 

「しかしこの状況は非常に不味いです。現在日本各地で物質の買い占めが多数発生しているとの事です。

もしこの状況が続くとしたら暴動やクーデターが起きるのも時間の問題です。」

 

音次経済産業大臣が深刻そうな顔で訴えた。

 

音次の心配は的を得ていた。現在は日本各地では非常食・水・乾電池・トイレットペーパー等の消耗品が物凄い勢いで消えていた。

 

もしこの状況が続いた場合,国民同士が物質を巡って争い初め,その矛先が政府に向き国民による暴動や政府に対するクーデターが起きる事は確実と言っていいだろう。

 

国内が混乱してしまえばシ連と戦う事など不能になり,敗北は免れないだろう。

 

「間違いなく日本はシ連と戦争という火によって混乱するでしょう。そしてその火を消すには長い時間と外部からの強力な消火剤(・・・)がいるでしょう。」

「消火剤・・・・・・・交渉もしくは・・・・・勝利(・・)

「我々の選択は2択に絞られましたね。」

 

交渉と勝利の2択。もしここで敗北(・・)という最悪の爆薬が落とされてしまえば日本の崩壊(・・)は間違いないだろう。

 

つまり日本はどちらにしろシ連と戦わざるおえなくなったのだ。

 

「総理どういたしますか!?」

 

鈴村は閉じていた目を開く。その目は覚悟を決めた目であった。

 

「17時から記者会見を行います。準備をお願いします。」

 

鈴村の言葉に人々がどよめきだした。その中でも特に狼狽えたのが総理秘書官の本庄だった。

 

「良いのですか!? 国民に更なる混乱を招くかもしれませんよ!?」

 

本庄の意見はその通りだ。国民が混乱している時にシ連と戦ってますと発表すれば更に混乱するのは間違いなく,下手をすれば日本だけでなく世界中が混乱に陥る事も目に見えていた。

 

「確かに私の言葉で国民は更に混乱するでしょう。ですが例え私が話さなくても混乱は免れません。

それならば不確かな情報よりも正確な情報で混乱した方がマシかと私は思います。」

 

1mmもぶれることのなく的を得た正論に本庄は何も言うことは出来なかった。

 

「宜しいですか? では17:00から官邸の記者会見室で会見を行います。

官房長官宜しくお願いしますよ。」

 

その言葉を言い終えると鈴村は扉を開け,退室した。まもなく19:00の記者会見に向けて準備が始まったが,その中に不気味な笑顔を浮かべている人物がいることには誰も気がつけなかった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

16:55

首相官邸の記者会見室には多数の報道記者が詰めかけていた。

その事態について何が起きているのか・首相はいったい何を話すのか等の話題で記者達の話は持ちきりだった。

 

17:00丁度。

首相官邸の記者会見室に鈴村が現れると,記者達が一眼レフでフラッシュを焚く。

フラッシュの光を浴びながら,鈴村は会見台へと登った。フラッシュが止むと,鈴村は落ち着いた口調で話し出した。

 

「会見場にいる記者方。そしてこの会見を見ている国民の皆様。

今いったい何が起こっているのか分からないと思われます。今から日本が対面している事態についてお話ししましょう。」

 

鈴村は一息おいて,記者達に向かって話し出す。

 

「本日朱雀列島にシ連軍が上陸し,占領しました。」

 

総理の言葉に会見場は静まりかえる。まるでフィクションの様な事をいきなり言い出した鈴村に記者達は動揺し,戸惑い始める。

それは会見を見ている人々も同じだった。ビルに設置してある大型モニター等でも生中継されていた為に街を歩く人々・電車の中でスマホで会見を見る人々・家のテレビで家族と共に見ている人々等日本国民全てが鈴村の言葉に動揺を隠せなかった。

 

それを見透かした様に鈴村は再び話し出した。

 

「皆さんも信じられませんよね。ですが私の言ったことは事実です。

先程も言ったように本日01:00 朱雀列島 日北島のレーダーサイトをシ連艦隊の艦載機が攻撃を行い,その後に各島に上陸,占領しました。

取り敢えず話を切りましょう。記者の皆様も色々と聞きたい事があるでしょう。」

 

鈴村が話し終わるとほぼ同時に記者達は思うがままに鈴村を質問攻めした。

 

「朱雀列島に配備されている 朱雀警備隊の隊員は無事なのか! お答え頂きたい!」

「朱雀列島の島民は無事なのですか!」

「何故政府はこの事態を隠蔽していたのですか!!」

「シ連に交渉は行ったのですか!?」

「この事態に自衛隊は動いているのですか!?」

 

記者達が物凄い勢いで言葉を発し出した。言葉と言葉同士がぶつかって発言が途切れ途切れになるくらいになっていた。

 

「私は聖徳太子ではありませんので,いっぺんに言われても聞き取れませんよ。

それにそんなに騒がれては私の話等聞こえませんよ。記者にとって私の話が重要ではないのですか?」

 

鈴村の言葉に記者達は何も反論出来ずに静かになりだした。

 

「まず朱雀列島の現状ですが,蘭島・飛鷹島・多千穂島・築館島にシ連軍は上陸した模様で,各種装備品を揚陸し防衛を行っている思われます。

朱雀警備隊については詳しい状況が未だに不明な為,回答を差し控えさせてもらいます。」

 

鈴村が話し終わると,記者の1人が立ち上がり,大声で叫びだした。

 

「首相はさっきから“模様“や“思われます“と言っているが占領から16時間も立っているのに詳しい状況がまだ分かっていないのですか!?」

 

記者の怒号とも言える質問に周りにいるベテランの記者達ですら引いていたが,鈴村は落ち着いて答える。

 

「先程“占領から16時間も“と言いましたが,そもそもまだ占領から16時間しか(・・)たっていないのです。

それにシ連に関する正確な情報がまだ入っていないのです。

現在シ連に対して交渉を行うと共に各所から情報を集めています。

今はネット社会ですから様々な情報が直ぐに入ってきます。ですがネットに載っていない情報に関して調べるとしたらあなた達記者は根気強く調べると思われます。現在の我々も根気強くシ連軍を調べています。

自身が根気強く調べているのに早く調べろって言われるのは嫌ですよね?」

 

鈴村の言葉に怒号を上げた記者は一言も反論出来ずに席に座った。

周りの記者からは微かな嘲笑いが漏れていた。

 

「話に戻りましょう。朱雀列島の島民に関しては詳細が未だに不明ですが,衛星写真によるとどうやら施設に集められていると思われています。

それは朱雀警備隊も同じで,負傷者や死者がいるのかも不明です。」

 

鈴村は一区切り置くと,再び話し出した。

 

「現在,シ連に対して交渉を行っていますが,ちゃんとした回答はまだ得られていません。その為,中国等にも交渉を行っていますが,同じ状況です。

自衛隊に関してですが,現在朱雀列島に向け,近海で演習を行っていた第2機動部隊を急行させています。また自衛隊各部隊についても,いざというときに備えて待機させています。」

 

第2機動部隊。この単語に記者達は大きく反応した。第2機動部隊の母港は舞鶴だ。そして第2機動部隊も目的は“日本海の防衛“つまり対シ連用の艦隊とも言って良いのだ。

 

「第2機動部隊に関しての詳しい情報をお答え願いますか?」

「今から8時間程前,第2機動部隊に対してシ連潜水艦から魚雷が発射されました。

第2機動部隊はこれに対し,艦隊防衛の反撃を行い敵潜水艦1隻を損傷させました。

そして今から約2時間程前にも敵航空機からミサイル攻撃を受けました。

こちらに関しても全発撃墜し,艦隊に被害は出ておりません。」

「そのミサイルを撃った機体についてはどうなったのですか?」

「敵機は6機編隊で接近し,上空に上がっていたF-35JCによって2機が撃墜されました。

パイロットに関してはどちらも無事です。」

 

鈴村のこの発言に記者達は反応した。

“自衛隊が初めて戦った“

創立から80年。遂に自衛隊が戦ったのだ。国を守る為の自衛隊が初めて本当の仕事 国家防衛をしたのだ。

記者達は次々に手に持っているメモやスマホに記録していった。新聞やニュースに載せる為だ。

 

果たしてどのような解釈で載るのか。それは誰にも分からない。

記者の1人が内容を書き終わると,立ち上がった。

 

「では石川県の小松基地が攻撃された事に関して一言お願いできますか?」

「小松基地はシ連軍の機体が低空で市内に侵入し,ミサイルによって滑走路を破壊しました。

この事による民間機への被害はないと確認されました。」

「情報によりますと実弾を装備した戦闘機が出撃したとありますが,それで迎撃はしなかったのですか?」

「それに関しては佐渡のレーダーサイトを攻撃しようとしていた別の航空隊に対応していました。」

 

別の航空隊・・・・・・この単語に記者達が反応しないわけなかった。

 

「その航空隊に関しては何かお答えする事は出来ますか?」

「出来ますが覚悟を決めて聞いてください。シ連軍は15機もの戦闘機によって佐渡に配備されているレーダーサイトを攻撃すべく日本領空に侵入しました。

これに対応すべく,小松基地から第306飛行隊所属のF-15J 10機と浜松基地の第602飛行隊のE-767 1機が急行し,その結果F-15J 3機とE-767が撃墜(・・)され,E-767の乗員21名が戦死(・・)したと確認されました。」

 

戦死。日本人がもう2度と聞きたくない言葉が総理から出た。会見場の記者は兎も角,会見を見ていた人々もざわつき出した。

会見場は今までにないぐらいに混乱しており,まるで先生のいなくなった教室のようだった。

そんななか1人の記者が立ち上がりながら叫んだ。

 

「先程死者はいないと言ったが出てるではないか!! 矛盾しています! 総理どういう事ですか!?」

 

彼の発言をきっかけとし,多数の記者が怒号を唱え出した。

 

「そうだ! 戦死者が出てるではないか!!」

「もしこの話が出なかったら隠蔽する気だったのですか!?」

「そもそも何故撃墜されたのですか!!」

 

怒涛の怒号でも鈴村は冷静に返答した。

 

「先程も言った通りシ連軍機は我が国の領空に侵入しました。

そもそも最初に撃墜されたのは自衛隊機です。警告を行う前に撃墜された為に航空隊は自己防衛とレーダーサイト防衛の為に戦闘を行い,敵戦闘機を4機と早期警戒機2機を撃墜しました。」

 

再び会見場がざわつき始める。自衛隊機よりシ連軍機の方が被害が大きかったからだ。

彼らは再び立ち上がって怒号を唱えようとしたが,別の記者が手を上げた。

 

「この事態にアメリカは動くのかお答え願いたい!」

「先程アメリカ大統領と電話会談を行いました。アメリカはこの事態に関しては日本に任せるとしたそうです。

ですがこの先の状況が変わればアメリカは動くこともあり得ると大統領は言ってました。」

「電話会談を行ったと言いましたが,アメリカ政府にはこの事態を伝えたのですか?」

「伝えました。シ連に対抗出来うる唯一の国家ですからね。」

 

この鈴村の発言に記者達は再び立ち上がって,次々に怒号を発した。

 

「政府は国民には伝えないのに,アメリカには伝えたのか!!」

「国民の信頼より国の関係を取ったのか!!」

「そもそも何故我々に情報を公開しなかったのですか!!」

「総理! 答えて貰いたい!!」

 

こんな怒号が飛び交う中でも鈴村は冷静に対応した

 

「簡単な話です。混乱を招く恐れがあったからです。そもそも公表しようにも正確な情報がまだ入っていませんでした。

正確な情報も無しに無闇に公表すれば日本は混乱し,最悪の場合自滅(・・)してしまう恐れがあったために公表を控えさせて貰ったのです。」

 

この鈴村の発言に記者達は納得できない様子で怒号を唱えた。

 

「国内が混乱って,政府が公表しなかったから今こうなっているのですよ!!」

「そうだ! もっと早く公表すれば混乱はもう少し収まったかもしれませんよ!!」

「この様な事態を招いたのは政府だ!!」

 

もう言いたい放題の記者達だったが,鈴村の次の言葉で更に爆発する事になった。

 

「情報というのは全てが正しい訳ではありませんが,人間というのはまず知った情報を全て鵜呑みにします。

例えその情報が間違っていたとしてもあんまり信じようとはせずに貫き通します。あなた方だってそうですよね? 最初に学んだ事を正しいと貫き通す。

この様な事態でその様な事が起こってしまっては人々は何もかもを信じられなくなります。あなた方はそれでも宜しいのですか?

さて,申し訳ございませんがもう時間が来てしまいました。最後に質問したい方は居られますか?」

 

唐突とも言える会見終了に記者達の半数以上が立ち上がって怒号を唱え始めた。

だがその中でも果敢に手を上げる人物がいた。

 

手を上げたのは,あのOREjournalの瀧川沙織だった。

 

「OREjournalの瀧川です。シ連が朱雀列島以外も占領する可能性はあるのですか?」

「無いとは言いきれません。ですのでこの会見を見ている皆さん。日本は太平洋戦争以来の危機が迫っています。今までの日常は一瞬で消えます。

もしかしたら明日この東京にシ連のICBMが降ってくるかもしれません。皆さんには今まで以上の政府への協力を要請する事になります。

最後に国民の皆様にこの様な事態を招いてしまい,申し訳ございません。」

 

その言葉を最後に鈴村は会見場を後にした。記者達からは「総理!!」「総理大臣!!」と言う声が起きていたが,この時瀧川は確信していた。

 

日本が再び戦争という荒波に呑まれ始める事に。




読んで下さってありがとうございます。

4月1日連載開始の小説の方に時間を取られてしまって更新が遅くなってしまいました。申し訳ございません。

恐らくですが4月1日以降は更に更新が遅くなるので読者は覚悟して下さいww

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