「あまぎ」の艦内食堂で長瀬は食事を食べていた。今日のメニューはチキンソテーだったが,軍隊唯一の楽しみだと言われている食事は楽しめなかった。
因みに言っておくが2024年の2月24日はマジで土曜日ですのでカレーは出せませんでした。
「副長。前よろしいですか?」
「北条先生か。いいぞ。」
長瀬の前に衛生士の北条樹が座る。彼は「あまぎ」の衛生士として艦内で出た負傷者や病人への対応を主に行っている裏方の柱の一角だ。
「北条先生。どうなんだ? 艦内の医療体制はモツか?」
「今日だけで約7名。全て軽症でしたが,もしこれが続けばそうはもたないことは確実です。
医療品にもベットにも限りがあります。本艦だけでなく,他の艦だって同じでしょう。」
北条先生は重苦しい顔でそう言った。そうなることは長瀬も承知だった。
戦闘が起きるということは負傷者が出る。戦闘が激化していくにつれて負傷者は増加していき,最終的に死者も出る。
そうなった場合医療品等は息を吸うように減っていく。
「舞鶴の港から「いなわしろ」が向かっている。明日の早朝位には合流して補給出来ると思うが,それでモツか?」
「どうでしょう········恐らくはもたないかと。医療品以外にも消えていくものも確実でしょうね。」
消耗品が消えていくのは時間の問題だった。
「副長!!」
突如として叫びと共に5名程の隊員が長瀬のテーブルの横に並んだ。並んだ隊員の真ん中の3等海尉が前に出て
「副長!! 何故攻撃を行わないのですか!!
日本への侵略するものを防ぐのが自衛隊ではないのですか!!」
と息を切らしながら訴えた。大声の訴えに周りの隊員達は目を向けてざわつき出した。その目は熱意に満ちていた。
長瀬は溜め息をつくと,静かで且つしっかりとした声で言った。
「お前達は血を見たいか?」
「えっ·········」
果敢に騒ぎ立てていた隊員が一瞬で静まった。
「見たくないだろ? 血を見たいだなんて殺人鬼の言うことだ。
お前達の言ったことは言ってしまえばそういう事だ。自衛隊は殺人鬼ではない。無駄な死などあってはいけないんだ。」
長瀬は冷酷にただ真実を述べた。長瀬だってこうなる事を分かっていた。
自衛隊の弱点の1つが即座に行動出来ない点だ。だがこれは他の軍にもあるかもしれない。
しかし僕が言いたいのは,“自己防衛以外の攻撃が出来ず,例え侵犯されても政府から許可が出ない限り攻撃は出来ない”という事だ。
もし仮に許可前に攻撃を行った場合,それは憲法違反になるに加えて野党や国民から厳しく追及される。
自衛隊というのは強いが,重大な欠陥を抱えているのだった。
先程熱意のある目と言ったが,正確に言えば熱意に満ちすぎている目だ。
今だけを考え,後の事を考えない。3等海尉は正にその典型的な例だった。
「確かに自衛隊は日本を守る組織だ。だが他国の軍のようにただ敵を倒せばいいんじゃない。
最低限の戦闘で勝利を手にする。それが自衛隊だ。」
そう言うと長瀬は食べ終わったステンレス製の食器を持って返却口へと向かった。
食器を返却口に返して立ち去ろうとしたが,3等海尉の前を通った際に,
「確かにお前の気持ちは分からないこともない。だがそれで多くの血が流れてしまえば元も子もない。
その為にも今最低の犠牲で且つ最大の効果を得られる作戦を司令部は立案している。その結果に期待しといてくれ。」
そう言って食堂を退室した。その姿が見えなくなると北条先生が独り言の様に呟き出した。
「あの顔は···········悩んでいるんだな·····」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
長瀬が部屋に入るとそこには桐島と渡島が話ながら待っていた。
「待たせてすまないな。少し食堂であってな。」
「いや大丈夫だ。恐らく若手の不満でも聞いていたのだろ?」
行動を当てられた事に内心驚愕しつつも,冷静に答えた。
「
今はまだ大丈夫だが,これがいつ暴発するかは分からないぞ。」
長瀬の言葉に分かっていたかのように桐島の表情は変わり,左腕をテーブルにおいて頬杖をついた。
「ストレスを分かりやすく言えば風船だな。ストレスという空気が注ぎ込まれ続けると,風船という器がいつか破裂する。
そうなってしまえばもう器が直らない限り誰にも止められない。
それを防ぐためにもこの作戦は必ず成功させなければいけない。」
桐島はホワイトボードに貼り付けられた朱雀列島の地図を指差しながら説明しだした。
「本艦隊の航空隊を使って朱雀列島上空及び多千穂・築館両島の地上戦力を破壊する。
その隙に飛鷹島に特戦群を降下させる。これが作戦の内容だ。」
「航空隊だけでか?」
「そうだ。少ない航空隊だけで制空権と地上攻撃を両方攻撃になんて司令部も無理難題を押し付けたもんだ。」
桐島は作戦に不満そうな表情をしていた。そこに渡島が朱雀列島上空の航空機について説明しだした。
「現在
作戦を確実に成功させるには
地図の上には占領軍司令部を意味する赤い磁石とSu-35の黒の磁石 4つとA-50とIl-38の黄色の磁石が置かれた。磁石の位置は朱雀列島を覆うように展開していた。
朱雀列島の左側には第2機動部隊の「あまぎ」「かつらぎ」に見立てた青と護衛艦の緑の磁石が置かれており,その前にE-2の黄色の磁石が置かれた。
そしてその前に黒の磁石が置かれた。
「航空隊はイーグルとストークを送る予定だ。「かつらぎ」のファルコンとスパローは万が一に備えて残しておく。」
「なるほどな·······それで本心は?」
長瀬のその言葉に桐島は“ふっ”と笑うと手を組み直して,長瀬を向いて言い出した。
「葛城がこの作戦を認めるわけ無いだろ。葛城は言ってしまえば堅物だ。
昔の自衛隊の意志があいつの芯まで浸透している。戦わない軍隊·······名の通りの“堅物”それが葛城だ。」
自衛隊はNew Fieet計画で
だが方針を変えても人はついていけない。人の心を変えるのは外見を変えるよりも難しい。
葛城は正にそうだ。自衛隊当初の方針を今でも貫こうとしている。
故に午前中の様に考えの違う桐島と対立した。そして葛城はこの作戦を受け入れようとはしないというのも桐島は分かっていた。
「「かつらぎ」の航空隊には艦隊の防空を担当して貰う。それなら奴も納得するだろうしな。それに·····」
「それに?」
「万が一失敗したとしても反撃手段を残しておけるからな。」
桐島はそれを利用した。かつらぎの航空隊を艦隊防衛且つ反撃の手段としたのだ。
「いや,
EA-6Cとは米海軍が使用していたEA-6B プラウラーを日本独自に改造した物で,各空母に2機ずつ配備されていた。
2機ずつしかいないのは予算の関係上である·········悲しいね。
「話を戻すが,結論から言えば作戦は成功出来るのか?」
「·······計画ではイーグルで
「別の·······手段?」
桐島は多千穂島の近くに青の磁石を置いた。
「「たかちほ」を多千穂へと向かわせる。「たかちほ」は
空と地上両方に対応出来る万能艦だ。将棋で言うところの飛車だな。」
「確かに「たかちほ」と鏡石艦長はエリートだから問題ないと言いたいが,戦場ではエリートという肩書きは一切無い。
何が起きても可笑しくない。」
わざわざ護衛艦の1隻を送る。しかもイージス巡洋艦を。大胆ともいえる戦術だ。
艦隊の護衛艦を1隻減らすということはそれだけ危険は高まる。それがイージス艦なら尚更だ。
現代置けるイージス艦の立ち位置は戦艦と同格。言ってしまえばイージス艦を失うと言うのは戦艦を失うと同格,若しくはそれよりも大きい緊急事態だ。
「万能艦であるという事は,失った場合の損害も大きい。金銭面もだがそれ以上に艦隊のバランスが崩壊しかねない。
ここでもし失ったら
飛車は縦と横に何マスでも動かせ,裏返せば斜めにも動かせる万能な駒だが,使い道を間違えれば戦局を180°変えてしまういわば勝敗を分ける鍵という事だ。
「分かっているさ。俺は空自脳だがそれぐらいは分かる。危険な任務だが,その分成功した場合の効果は比べ物にはならない。
やる価値は非常に大きい。」
「だが戦いは何が起きるか分からない。失敗した場合はどうするんだ?」
「上によるとこの作戦が失敗した場合等に備えて八戸と鯖江と米子のミサイル連隊を万が一の為に展開するとの事だ。
及び三沢・八戸・築城・新田原の航空隊にも出撃準備をかけたそうだ。」
「八戸と鯖江に米子か········日本海何処でも対応出来るようにしているんだな。」
八戸の第4と鯖江の第8,米子の第7地対艦ミサイル連隊には12式地対艦誘導弾が配備されており,日本海全体をカバー出来るようになっていた。
三沢に関しては前話で説明したが,航空自衛隊築城基地の第8・第6航空隊のF-2A/B及び新田原基地の第305飛行隊のF-15J/DJが出撃準備を整えていた。
小松基地が使用不能になった今,朱雀列島に一番近い戦闘機が配置されている基地は三沢だが,三沢だけでは対応出来ないために他の基地にも支援する事になったのだが·······
松島は除くとしても,千歳はシ連対策で,百里は都心防衛,那覇は中国機へのスクランブル対策の為に支援が可能だったのは築城と新田原だけであった。
八戸航空基地は海自の基地だが,第2航空群のP-1とP-3Cに
「今第1機動部隊は米海軍第7艦隊と演習中 第3機動部隊は尖閣へ,第4・第5・第6艦隊は防衛中·······増援は無理だな。」
「せめて可能性があるのが第5護衛艦隊だが·····そうなると北海道の防衛が手薄になるから無理だろうな。」
第5護衛艦隊は大湊を母港とする艦隊で,イージス艦 3隻を有する強力な艦隊だが現在は津軽海峡付近に展開しており,この後北海道北西の海域に移動するために増援は見込めなかった。
「在日米軍は······いや決まっているな。」
「動かないだろうな。米軍が加わったら世界大戦になるってアメリカさんは分かっているさ。」
アメリカが動くという事はシ連との全面戦争を意味し,つまりそれは
勿論それはアメリカも分かっているし,シ連も分かっている。
だからアメリカは動かない。つまりは“日本だけで終わらせてくれ”という事にもなる。
そしてシ連も動かない。奴らの狙いはあくまで日本であってアメリカではないからだ。
「つまりこれは日本に課せられた試練という事だ。これを乗り越えなければ日本は新しいステージには進めないという事だ。」
桐島は立ち上がって冷静にそう言うと,薄く微笑んでこう言った。
「作戦は明日の02:00開始だ。天王山を制するのはどっちだろうな?」
今回朱雀列島の地図を載せました。目次の部分にも載せておくのでこれを見ながら今までやこれからの展開を予想してください。
しかしオリジナル作品は伸びないね·······更新前はオール赤バーを想像してたんですがね······
やっぱ更新ペースかな·········