New Japan Fleet   作:YUKANE

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Episode.28 核の鯨

「状況を再確認する。」

 

「DDH-186 かつらぎ」から帰艦した長瀬を加えて,桐島による2度目の状況確認が始まった。

 

「本艦隊前方10kmの海域に971型(アクラ型)4隻が200m程の距離を開けて深度200で展開している明らかに艦隊包囲の陣形だ。」

「1隻ですら厄介なのに4隻もとは········」

 

水上が思わず愚痴をこぼした。それに長瀬も同感する。

 

「それはCIC(ここ)の誰もが思っていますよ。ただでさえ厄介なのに攻撃も出来ない(・・・・)んですから。」

「迂闊に攻撃してもし原子炉(・・・)が破損したら元も子もないからな。」

 

971型潜水艦。NATOコードネームアクラ型原子力潜水艦。

 

その文字通りアクラ型は動力に原子炉を使用している。

 

原子力潜水艦は燃料を気にせずに長時間潜航出来るという潜水艦乗りにとってはメリットしかない夢のシステムだ。

 

だが勿論夢のシステムにもデメリットが存在する。万が一沈没事故が起きた場合に原子炉内の放射性物質が漏れ出し,海洋汚染が発生するかもしれないからだ。

 

一度放射性物質による海洋汚染が起きればその海域が完全に元に戻るまでに10年はかかるのは容易に想像できよう。

 

そして現在の状況はそれを越える程に難解な状況だった。

 

「仮に撃沈してしまったら放射性物質が漏れ出すのは確実だろう。

そうなってしまっては例え勝ったとしても世界から向けられるのは非難だ。」

「撃沈は出来ない········いや不可能か。」

「撃沈せずに敵を撃破しなければいけない·······こんな難題を我々は解かなければいけなんだよ。」

 

敵潜は驚異である為に沈めるか,撤退させなければいけないのが常識だ。

 

だが原子力潜水艦はそれが上述の理由で不可能だ。つまり撃沈どころか原子炉を損傷させずに敵を撃破しなければいけないのだ。

 

「しかも最悪な事に我々は現在燃料給油中だ。今行っている艦は?」

「「DDG-203 たかちほ」と「DD-131 しらぬい」です。どちらも給油を取り止めて給油ホースを収用中です。

完了まであと5分はかかるかと。」

 

隊員の報告に長瀬は再び溜息をつき,額に手を当てた。

 

「よりによって「しらぬい」か·······「しらぬい」の方を優先させる様にしてくれないか。」

「勿論そうするつもりだが。現在のこの状況,副長ならどの状況にどう対処しますか?」

 

いきなり話を振られて長瀬は一瞬動作が止まったが,直ぐに台の上の地図を指差した。

 

「取り敢えず幾つかの案が浮かぶが,一番手っ取り早いのは「AOE-427 いなわしろ」を連れてこの海域を去ることだが,この状況から推測してシ連(奴ら)がなんなかの対策をしていない訳がないだろう。

かといってこの場で留まってもそれこそ格好の的だ。つまり我々に残された選択肢は迎撃のみって事だ。

今動ける船は?」

「現時点で対応可能な艦は本艦と「DDH-181 ひゅうが」・「DDG-204 あそ」・「DDG-175 みょうこう」・「DD-115 たかなみ」・「DD-117 ふじなみ」・「DD-124 はつづき」・「DD-125 しもつき」の8隻です。

この内敵潜に一番近いのは艦隊前方を警戒中の「みょうこう」・「はつづき」・「しもつき」です。」

「その3隻でまずは対応させるしかないか。まあまだ敵潜と真っ正面から向かい合っているのが幸いか。」

 

現時点の双方の艦の位置は艦首を向けている為に,自然に正対していた。

この状況はどちらも艦側面を向けていないために確実な攻撃が出来ず,戦線膠着に陥っており,どちらにとっても良くない状況だった。

 

「敵潜を撃沈出来ないとなると,自動的に対潜ミサイル(ASW)と短魚雷は選択肢から除外される。

そうなるの残るのは対潜爆弾と主砲等の火器のみ。決め手には欠けますが,敵潜()を追い払うには充分でしょう。」

「主砲で潜水艦に攻撃が出来るのか?」

 

桐島の疑問に長瀬が返答した。

 

「主砲で撃沈なんて夢物語だが,敵潜乗組員へのダメージは大きくなるだろう。」

「主砲と対潜爆弾を使用して,敵潜乗組員の神経を壊す·····確かに艦を傷つけずに迎撃出来るが,果たして上手くいくのか?」

「どうなるかはやってみなければ分かりません。それに主砲を使う場合は第2機動部隊(こちら)が動かなければ話になりませんので,トリガーを引く手は我々に委ねられています。」

「火蓋を切るのは我々の行動次第·········やはりここは動いた方が得策か?」

 

桐島のそんな愚問に長瀬は冷たい表情で答えた。

 

「どんなに装甲が固い船であっても,魚雷が命中したら,1発で海の底だ。

そんな物を何十本も有している敵潜()を目の前で放っておくか?

これは逃げることの出来ない戦いだ。逃げたらそれは負けだ。」

 

長瀬の言葉に桐島も意を決し,通信機を手に取った。

 

「全艦対潜戦闘用意!!」

 

その言葉で艦と航空機が動き出した。艦橋へと戻ろうとする長瀬を桐島は引き留めた。

 

「副長あなたに操艦を一任します。」

「了解しました。ではこちらも「DDH-181 ひゅうが」のSH-60K(艦載機)を全部離陸させる様に言ってください。」

「それやらお安いご用だ。」

 

桐島が「ひゅうが」艦長の九条霧矢一佐へと連絡している間に長瀬は艦橋へと向かった。

 

「艦隊に1本足りとも魚雷を当たらせはしない!!」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

先手を打ったのは自衛隊だった。

 

「DDH-181 ひゅうが」から発艦したSH-60K(シーホーク)の左側面から敵潜がいると推測される海域に何本ものソノブイが海中に投下される。

 

敵潜の想定海域に円を描くように投下し,敵潜の細部位置を特定する戦術 ジェリーによって正確に敵潜は捉えられた。

 

その情報に基づき,SH-60K(ホーク7)のウェポンパイロンから4発の航空爆雷が投下され,水中で爆発し,高い水飛沫が上がる。

 

航空爆雷は対潜ミサイル(ASW)の発達によって,世界中で衰退の道を歩いていたりするが,威嚇用としては非常に有効な為に今でも使用されているのだ。

 

爆発音が鳴り止むとSH-60K(ホーク1)が海中に下ろしていたHQS-104 ディッピングソナーが敵潜の推進音を捉えた。

 

『敵潜深度200 変わりません!!』

「敵は中々の芯を持っているようだな。」

 

「DDG-175 みょうこう」艦長の舘 黒太1等海佐が敵潜に感心の声をあげた。

 

現在「みょうこう」の周りにはあきづき型の2隻が並走して敵潜へと一直線に向かっていた。

敵潜にとってこれ程美味しい獲物などいない。

 

『敵潜魚雷発射!! 数4!!』

「「しもつき」増速!! 本艦進路を横切ります!!」

「機関後進!!」

 

「みょうこう」右舷にいた「DD-125 しもつき」が増速した。「みょうこう」の進路を遮るように取舵を切った為に,舘は急いで機関後進を命じた。

 

「しもつき」右舷から4本の自走式デコイ(MOD)が投下される。

取舵を切って「しもつき」が「みょうこう」左舷を通っている間にも4本のデコイは対魚雷防御(TCM)指揮管制装置によって管制され,敵魚雷へと直進した。

 

「食いついたか?」

「いえ,右の2本は食いつきましたが,残りの2本はそのまま向かってきます。」

「何? 1本ならまだしも2本も同時に故障なんてあり得ない·····まさか!」

 

舘は辿り着いた考えを信じて新たな指示を出した。

 

「主砲を左に回せ!!」

「主砲をですか!?」

「あの魚雷は無誘導(・・・)だ!! デコイは効かない!! 魚雷に撃て!!」

 

「みょうこう」前甲板に設置してあるオート・メラーラ54口径5inch単装砲が左へと旋回する。

 

旋回が終わると「みょうこう」の主砲が連続して火を吹いた。

 

砲弾が着水し,砲弾と魚雷双方が爆発し,高い水飛沫が上がる。

水飛沫を切り裂くように「DD-124 はつづき」が20ノット以上の速度で現れた。

 

「はつづき」艦長の天空 佑は両手で台をしっかりと掴んで自艦の速度に耐えていた。

 

「はつづき」(こいつ)は「しらぬい」と違って対潜向けじゃないが,やってやる!

主砲撃てぇ!!」

 

Mk.45 62口径5inch単装砲が右前へと向き,轟音と共に放たれた。

毎分16発の間隔で放たれた砲弾が8km程離れた海上に着弾し,水飛沫が上がる。

 

潜水艦というのは言ってしまえば大きな密室だ。窓は一切無く,伝わるのは音と振動だけだ。

ただでさえ精神が磨り減っている所に連続して爆発音と振動が伝われば,精神を更に痛め付けるだろう。

 

“撃沈せずに勝つ”。この方法は命中弾を出すことなく,敵潜に勝つ事が出来る効率的な方法だ。

 

天空はこれに僅かな期待を託していたが,敵潜は動じなかった。

SH-60K(ホーク2)から悲鳴の様な通信が入った。

 

『敵潜魚雷発射! 数16!!』

「16!?」

 

さっきと一桁も違う数に動揺したが,天空は冷静に対処した。

 

自走式デコイ(MOD)発射!」

 

右舷甲板の自走式デコイランチャーが右旋回し,4本のデコイが投下された。

投射型静止式ジャマー(FAJ)の妨害電波もあって,計5本の魚雷を誤爆させたが,それでも残りの本数は2桁のままだった。

 

自走式デコイ(MOD)だけじゃ全迎撃は不可能だ!! 後方の艦に伝えてくれ!!

それと曳航具は降ろしてあるか?」

「勿論です!!」

「じゃあ欺瞞信号発射!!」

 

艦尾から海中に投下された曳航具4型から欺瞞信号が発射される。

曳航具4型は艦尾から曳航しながら,欺瞞信号を発して自艦を敵のホーミング魚雷を防ぐ物であり,1種の対魚雷デコイだ。

 

だがそれに引き付けられた物はたった1本だけで魚雷の数は未だに2桁のままだった。

 

魚雷群は対魚雷装備が無いために何も出来ない「みょうこう」と自走式デコイ(MOD)再装填中の「しもつき」の脇を通過して艦隊後方へと向かっていった。

 

「やってくる魚雷(魚さん達)を全部網で水揚げしましょうかね? まあ「たかなみ」(この子)は曳航具以外対魚雷兵装はないんだけどね。」

 

魚雷群の前に「DD-115 たかなみ」艦長の金島佑月二佐はまるで魚を追い込んだ子供のように楽しそうに言っていた。

 

「マスカー展開!!」

『マスカー投下!!』

 

SH-60K(ホーク5・6)からパラシュートを開きながらマスカー弾が海中に投下された。

 

同じように「たかなみ」の艦底からマスカーが放出された。

 

マスカーは自艦の艦底等にある複数の穴から空気を出して,自艦が発生させる音を空気の泡で包み,魚雷等の攻撃をそらす装置で,「たかなみ」の周りと進路上の海面には白い泡が無数に出現していた。

 

魚雷群(あの子達)はもう5km以上も泳いで来ているのだから,神経なんてもうとっくに壊れているのでしょ?」

 

金島の言ったとおり,やってきていた魚雷群はマスカーによって「たかなみ」に命中する事なく脇を通過し,両舷に設置されたM61 バルカン(多銃身式20ミリ機関砲)と「DDG-204 あそ」の20mm機関砲(CIWS)によって処分されて行った。

 

魚雷全弾が命中しなかった事に「はつづき」CICは歓声が上がるが,直ぐにその声は消えることになった。

 

「敵潜なっ!? 敵潜発射物は魚雷じゃありません!!」

「魚雷じゃないという事はミサイルか!?」

 

天空の言葉の直後,海面に高い水飛沫と共に海中から何が現れた。

海上から姿を現したミサイル RK-55(サンプソン)は真っ直ぐ空へと舞い上がった。

敵ミサイルが向かっていった先に何があるかは彼ら全員が分かりきった事だった。

 

「ミサイルの標的は補給艦か!!」

 

ミサイルは「みょうこう」の隣を通って補給艦の方向へと向かっていった。

余りの近さに前方の3隻は対応が出来なかったが,後方の「たかなみ」が迎撃に成功した。

 

RIM-162(ESSM)発射!!」

 

Mk.41VLSから赤い炎を上げて1発のRIM-162(ESSM)が放たれた。

 

2本の矢は空中で衝突し,赤と黒の花を咲かせた。赤と黒の花弁が散ったあと,再び水飛沫が出現した。

 

「敵潜ミサイル発射!! 数3!!」

「「しらぬい」RIM-162(ESSM)発射! 数3!」

 

「DD-131 しらぬい」によってミサイルが撃墜されたと同じ頃,「AOE-427 いなわしろ」の補給を受けていた「DDG-203 たかちほ」艦長の鏡石博也一佐は苛立っていた。

 

理由は給油ホースの取り外しが遅れていたからだ。

 

「まだなのか·········とっくに「しらぬい」は終わったというのに·······」

 

組んだ手の指先を動かしながら,いまかいまかと待っていると,望んでいた連絡が入った。

 

『給油ホース取り外されました! いつでも行けます!!』

「機関始動!!」

 

4基のゼネラル・エレクトリック LM2500ガスタービンエンジンが始動し,排水量10030tの船体が動き出す。

 

本隊へと合流しようその時だった。SH-60K(ホーク11)から悲鳴の様な通信が入ったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『本艦9時方向に敵潜反応!? 数2!!』




潜水艦のミサイル発射方法が分かんなかったんで,魚雷発射管から撃つ感じにしましたけど,あっているんですかね?

間違ってたらコメント下さい。
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