外務大臣の
現在時刻は13時になろうという頃。彼らは5分程ソファーに座って駐日大使が来るのを今か今かと待っていた。
「まだなのか·········もう13時になるぞ。」
「大臣。現在大使館は非常に立て込んでいて,仕事が詰まりに詰まっている可能性もあるので,一旦落ち着きましょう。
·······まあ呼び出して待たせるあちらもあちらですが。」
嬉島は安川を落ち着かせようとして,本音が盛大に漏れていたが安川は敢えて流した。
と,会議室とドアが開かれ,1人のスーツを着た男性が入ってきた。
「長らく待たせてしまって申し訳ありません。本国から急の電話が入ったもんでして。」
流暢な日本語で挨拶してきた駐日中国大使
周が座ると安川が口を開いた。
「いえ,我々も5分前に来たばかりですから。それで私直々に話したい話とはなんでしょうか?」
いきなり斬り込んだ安川に嬉島は驚いたが,周は動じずに答えた。
「単刀直入に言わせて貰いましょう。
2人は瞳孔を見開いて驚愕した。
「申し訳ありませんが,もう一回言って貰って結構ですか?」
「えぇ,我々中国はシ連へと宣戦布告を行い,貴国の朱雀列島奪還を支援します。」
安川は自分の耳が狂っているのではないかと疑い,思わず左耳を左の小指でかいた。
中国が日本を支援する。日中の政治について知識を得ている者ならこの言葉を信じるなんてまず思わないだろう。
日本と中国は長らく尖閣諸島を巡って対立しており,いきなり手を組もうなんて言っても信じる事が出来ないのが当たり前だろう。
それは安川も同じだった。彼は外務大臣であったために,中国政府との会談に関する情報を逸早く正確に手に入れる事が出来ていた。
その為にこれまでに中国が取ってきた行動をほぼ把握しており,個人的には“武力攻撃以外解決は不可能”だと考えていた。
だからこそこんな発言が余計信じられなかった。チラッと横を見ても長らくアジア大洋洲局局長として会談を行ってきた嬉島ですら,驚きの顔をしていた。
安川はこうしていては埒が明かないと察し,口を開けた。
「つまり中国はシ連を裏切るという事ですか。」
「そう考えて貰って結構です。」
キッパリと言い切った周の言葉に安川は彼の言っている事が本気だと感じたが,未だに中国が手を組む代わりに何をしてくるかが分からず,ただ黙り込んだ。
「その顔は信じられないと語ってますね。まあ無理もありません。
証拠と言ってはなんですが,先程我が軍の駆逐艦がシ連の補給艦を撃沈したと連絡が入りました。
恐らく貴国でも情報収集衛星か何かでもう確認しているでしょう。」
シ連の補給艦·········そう第6潜水隊が炎上しているのを確認したシ連海軍補給艦「ボリス・ブトマ」の事だ。
この補給艦は護衛のタランタル型コルベット「R-11」・「R-297」と共に太平洋艦隊への補給へと向かった所を中国海軍派遣艦隊所属の「115
「確か貴国の補給艦も1隻殺られてましたな。これで双方同じ条件になりましたな。」
“日本に対して恩を売ったのだろうか?”と安川は考察した。
「補給艦撃沈に関しては感謝したい所ですが,数時間前に貴国の北海艦隊が母港の青島を出撃したのを確認しましたが,それに関してはどうするつもりで?」
「北海艦隊はシ連を欺くために出撃させただけであって,攻撃を行う意志はありませんよ。
もし信じられないのであれば貴国の艦艇か航空機で艦隊を監視すれば良いでしょう。」
再び斬り込んだ安川に難なく返した周に2人は返事を返せなかった。
自国の艦隊を他国の軍に監視させる。それが軍事同盟を結んでいる国家ならまだしも,今回はまさかの対立している国家の軍にやらせるという行為に
だが2人は未だに信じる事は出来なかった。
世の中には“昨日の敵は今日の友”という
2人は例え今2国が手を取り合っても,尖閣諸島の問題は解決する筈がなく,寧ろ悪化するのではないかと推測していた。
シ連を倒した対価として尖閣諸島を要求する。中国ならざらにあり得そうな要求だと安川は思っていた。
だが周は予想の斜め上を言っていた。
「言わせて頂きますが,今回の事態について我々は
安川は一瞬“聞き間違いか?”と思って右頬を軽く叩いたが,叩かれた感覚が顔に伝わったために,現在だと思い知らされた。
「今回の共同戦線による朱雀列島奪還が成功した場合,体制がボロボロなシ連はいとも簡単に崩壊するでしょう。
もし仮にシ連が崩壊した場合我々は多くの利益を得ることが出来ます。
貴国から無理矢理でも利益を得るより,充分に且つ多くの利益を得られるのです。」
周は一区切り打って,持ってきていたペットボトルの水を飲んで喉を潤すと,
「ですが勘違いしないで頂きたい。我々はシ連を倒すために,あなた方と一時的な共同戦線を貼るだけであって尖閣諸島に関しては譲る気はありません。
シ連を倒したら共同戦線も即解散ですよ。」
「そうですか。あなた方の意見は充分に分かりました。
ですが私はあなた方が朱雀列島をどさくさに紛れて占領するのではないかと感じましたが,そこはどうなんですか?」
再び斬り込んだ安川は今回こそは手応えを得た。
だが周は一旦黙ったが,少し苦笑いすると,
「それについてですが,そもそも朱雀列島は我々にとって使い道はありません。仮に領土に組み込んでも飛び地になるので,占領に一苦労するのが素人でも目に見えています。
我々が尖閣諸島や南沙諸島へと進出しているのは,しっかりとした利益を得られるからであって,何の利益を得られない朱雀列島を占領するのはただ国に負担を与えるだけですから。
ですがもしかつての関東軍の様に軍部が従わないのであれば,国連に訴えて貰っても結構です。
今回だけは
安川と嬉島の2人はもう呆気にとられるしかなかった。
“ここまで日本に譲歩する中国があったか!?”それが2人の同じ思いだった。
“目の前の人物は中国人じゃなくて日本人じゃないのか!?”なんて安川が考えていたら周が口を開いた。
「驚かれるのも無理はありませんよ。我々中国にとってシ連からの解放は国民誰もが望む事です。」
周は続けた。
「シ連の建国に感銘を受けた当時のバカな政府は,シ連と軍事的な同盟を結びました。
恐らくソ連の技術を盗んで,国家繁栄に使おうと画策したのでしょうが,実際我々は使われるばかり。
あちらが
こんなバカな国家,絵本の中にだってありませんよ。」
周の右拳は強く握られており,シ連に対する強い憎しみを感じられた。
「ただの傀儡国家とかした中国を変えてくれたのは
シ連にすがり付いていた腐敗した幹部を一新し,政府内の空気を一新させてくれました。
私だってただの外交部の役員の1人だった所を,拾ってくださって今こうして話せるのですから。
主席はシ連を倒す事を望んでいます。主席はその為には“アメリカとでも手を組む”と言っておりました。
あなた方に受けられないのは最初から分かっておりますが,我々は本気です。どうかそこはご理解をお願い致します。」
そう言って周は頭を下げた。常に低姿勢だった周にもう2人は驚かなくなっていた。
最初から何も話していなかった嬉島が小声で,安川に話しかけた。
「大臣どういたしましょう? 私にはあまりに上手く出来すぎて信用できませんが,大臣としてはどうですか?」
「私もそこには納得だ。だがな·····」
嬉島は“だが?”と疑問系で安川に疑問の答えを聞いた。
「彼個人としては本気なのだろう。私個人としては国家としては信用出来ませんが,あの方自身は信用出来ると思っています。
そして何よりここで手を組むしか,突破口を開くことが出来ません。」
安川は外交官だ。彼はかつて駐米及び駐韓日本大使を勤めた事がある。
そして幾度もアメリカ・韓国政府と難航な交渉を行った経験を持っている。
外務大臣になった後も各国の駐日大使と幾度も会談を実施した。
その為に大使の言葉遣いや仕草で会談内容の本気度を察する事が出来るようになっていた。
今回の周の様子から彼は中国が共同戦線を本気で行おうとしているのだと察していた。
そして何より彼······いや日本政府は今回の事案の早期終結を望んでいる。
大陸国家のシ連と島国の日本。もし総力戦になった場合にどちらに軍配が上がるかは一目瞭然だった。
恐らく中国も同じ大陸国家のシ連との全面戦争を行わずに崩壊へと導こうと画策したのだろうと安川は睨んだ。
世界には“敵の敵は味方”という
共通の敵に対して敵同士ながら手を組む。所謂利害の一致だ。
そしてこの言葉は今使うべきだと彼は意志を固めた。
安川はソファーから立ち上がった。
「分かりました。その提案受け入れましょう。貴国には呉越同舟という,双方の危機に瀕した際には敵同士でも協力するといった
それは正に今の様な事を言います。アジアを脅かす強大な悪に我々は手を取り合って立ち向かいましょう。」
安川の言葉に周は立ち上がって,安川の手を掴んだ。安川は“ですが”と付け加えて,
「敢えて宣言させて頂きますが,あなた方がもし裏切った際には容赦は致しませんので,そこのところをどうか宜しく。」
「その言葉があなた方に返ってこないように,我々としても願っておきますよ。」
皮肉の言葉を双方にかけながら,安川と周は固い握手をするのだった。
右足の小指に何か出来物が出来てマジで痛かったから病院行ったら,水虫でした········かなりキツい
今話書いて痛感しました。やはり僕には語彙力が無いと··········