東京都千代田区の高層ビルの3階のオフィスにはネットニュース会社OREjournalの本社がある。
このオフィスの一番奥には30インチの薄型テレビが置かれている。
この中くらいの大きさのテレビの前に現在この場にいる社員のほぼ全てが集まっていた。
「そろそろだな·······」
OREジャーナル社長の荻窪大介は正面の壁掛け時計を見ながらそう言った。
壁掛け時計は既に13:58を指していた。
彼らが集まっている理由。それは1時間程前に突如として中国政府が14:00から会見を行うと発表したからだった。
突然発表されたこの知らせに社内はざわついた。用事や取材で出かけている者を除いたほぼ全員が会見を見ることを決断していた。
「始まったぞ!!」
社員の1人がそう叫んだ。
テレビの画面が今まで写っていた日本の報道番組のスタジオから会見場へと変わる。
会見場の最奥の高座に設置された会見台には既に1人の人物が上がっていて,マイクの確認を行っていた。
中華人民共和国初の女性主席
それは日本のテレビ局も理解しており,話に数秒遅れて翻訳の声が聞こえてくる。
『世界中の皆様もご存じであると思うが,昨日シ連軍が日本の朱雀列島を占領した。
シ連が建国されてから既に30年。あの国は自国の利益だけを求めて,戦争を幾度と行った。戦争の度に我が国含め同盟国が不利益を被ってきた。
皆もこう思っているのではないか“シ連は目の上の敵だと”
そして今回の朱雀列島占領。今回もシ連は我々に参戦を要請してきた。
日本の地理に詳しい者なら分かると思うが,朱雀列島は中国から見て飛び地だ。あんな所で戦えだなんて冗談も良い所だ。
よって我々は,え···········』
通訳の声が止まる。数秒のラグののち,再び声が聞こえてきた。
『失礼しました。我々中国はシ連に対して宣戦布告を行うことをここに宣言します。』
その瞬間椅子に座っていた荻窪がギャグマンガの様に転げ落ちた。
転げ落ちる音がオフィス中に反響する。
荻窪は床に当たって痛む体を起こしながら,
「·········一体どういうことだ。俺の耳が遂に狂ったのか?」
「いやそれなら俺や瀧川さんの耳も狂ったことになるんで正常だと思います。」
テレビからは『既に各所基地から離陸した我空軍の機体がシ連本土を攻撃しに向かっている』という通訳の声が聞こえていた。
「本当にこれは事実なんですか········」
「夢では無いという事はこれは事実という事なんだろうな。」
完全に起き上がって,転げた衝撃で傾いた椅子を直して再び座りながら荻窪は瀧川の問いに答えた。
「でもこれはとてつもなく大きな事だな。単純に軍だけで見ると,180万の陸軍兵士・空母2隻に原潜10隻・戦闘機700機・爆撃機150機が味方になるのだから日本としては素直に安堵したい所だろうな。」
そう一呼吸で言いきった荻窪に
「というか前から思ってましたけど社長ってそういう軍事知識に詳しいですよね。」
急な爆弾発言に荻窪は“え·······”と戸惑った。
「確かに·······前も別のニュース会社の軍事系記事を間違ってると言ったら,本当に違っていて炎上した事がありましたよね。」
瀧川以下無慈悲な追撃で荻窪は更に困惑した。周りの同乗する声が彼を更に追い詰めた。
前も言ったがこの男は筋金入りの軍事オタクだ。だが瀧川以下社員はこの事実を知らない。
正確には知るよしもないだろう。
彼は自分が軍事オタクであることを隠している。例え軍事系の批判記事を見ても“ふざけるなぁ!!”と叫びたい気持ちを我慢していたのだが,所々でボロを出していた様だ。
「」
荻窪が必死に誤魔化そうとするが,この時この場にいた全員が“絶対そうだ·····”と確信した。
荻窪の足掻きは裏目に出すぎた様だ。
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「どうやら奴らは本気でシ連に戦争を仕掛けるみたいですね。」
総理大臣官邸 総理執務室で
「こう宣言してもらったからにはそれ相応の戦果をあげて貰わないといけませんがね。」
同じく見ていた副総理の
「私には中国の事が信用できません。昨日までいがみ合っていたのにいきなりこんな事になるなんて,絶対裏がありますよ。
外務大臣何でこんな提案をすんなり受け入れたんですか?」
大洋のぼやきに外務大臣の
「仕方ありませんよ。あの場ではそう言うしかなかったのですから。
ですが一時的でも中国の驚異を消せるのであれば,戦果はあったとは言えますがね。」
「そう簡単に行きますかねぇ。」
安川の話に鈴村が割り込んだ。
「中国というのはシ連よりも強敵です。ああ言ってもいつ裏切ってくるか分かりませんからね。
防衛大臣。北海艦隊への監視はどうですか?」
「現在築城基地の第6飛行隊と呉の第3潜水隊によって監視を続けています。
万が一の場合に備えて第8飛行隊と対馬の第8ミサイル連隊も出撃待機状態にしております。」
鈴村の問いに防衛大臣
栃木の言った通り対馬南東70kmの海上に展開している空母「山東」以下13隻で構成された北海艦隊の監視として築城基地第8航空団第6飛行隊所属のF-2A 6機が
更に築城基地に残っている第8飛行隊のF-2Aも
話を戻して,真剣な顔をして副総理らが考えている中経済産業大臣の
「経済産業大臣として言わせて頂くのであれば,“早く終わってほしい”の一言ですね。
分かりきっていると思いますが,日本全体で物価が上昇して一種のインフレ状態になっています。
このまま上昇し続ければジンバブエの様に崩壊する可能性だってあり得ます。」
世界最大のインフレを引き起こしたジンバブエを出された為に,残りの4人にも実感がわいた。
現に日本の物価は上昇が止まっておらず,ネット上で不安の声が嘆かれていた。
音次もこの状況を良くは思っておらず,早急に対処を行いたいが手がないという状況に陥っていた。
音次は付け加えるように,
「確かに中国と手を組むというのは納得できないのかもしれませんが,早急に事態を終わらせたのなら手をとる方が懸命です。
彼らは“日本から対価は取らない”と言ったのですから。」
「どうでしょうかね?」
鈴村は座っている回転椅子を180°回して大森らに背中を向けた。
「確かに彼らは“日本から対価は取らない”と言いましたが,正確には“
「この戦いが終わったら請求してくる······なんて汚い手を使うんですかね。」
大洋が鈴村の推測に嘆くが,鈴村は“まあ”と付け加えて,
「あちらがそういう手を使うのでしたら我々も利用させて貰いましょう。利用できるものは利用した方が特ですからね。」
そう言うと鈴村は外を見た。窓越しの
「一雨来そうですね。」
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「流石です主席,素晴らしい演説でした。」
「お世辞はよしなさい。あんな演説子供でも出来ますよ。」
会見を終え,自らの執務室へと戻る
「演説なんて事前に用意された原稿をただ読むだけです。それで特に個人差なんて生じない筈です。
本当に演説が優れているのは世界中を見てもヒトラー位です。」
そう李が言い切ったと同時に2人は執務室前に着いた。李がドアノブに手を掛けたと同時に振り返りながら,
「すまないが1人にしてくれないか? 少し落ち着きたい。」
李の言葉に張は“分かりました”と言って扉の前で立ち去った。
扉を開け,広い執務室に入った李。広く静寂が支配していた執務室に不気味な笑い声が響き始めた。最初はとても小さかったが,いつの間にか部屋中に響き渡る位まで大きくなっていた。
静寂に響き渡る不気味で不規則な笑い声。それを出していたのは李だった。
「計画通り········あとは日本がシ連と戦って勝つだけ!! もうシ連に希望なんて無い! そして日本も!!」
彼女は叫び上がる。中国最年少且つ初の女性主席
中華人民共和国設立以来またとない秀才の本性は世界支配という野望を抱えるただの魔女だった。
「
世界は
日本なんて私達がいなければ直ぐに崩れ去る様な脆い国家! 私達に従わざる終えない!!
いずれ尖閣諸島も手に入れましょう。彼処さえ手に入れば我々が世界を握れるのだから!!」
彼女の不気味な笑い声が北京の街の騒音に消えていった。
ふと思ったんですが,飛行船ってレーダーに写ったりするんですかね?
知っているかたがいたらコメントで教えてください。